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2016年6月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2016年6月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2016年6月号 目次

低成長時代の経済対策を考える

  • 非伝統的金融政策の悪夢
    ―― なぜ危険が待ち構えているか

    マーチン・フェルドシュタイン

    雑誌掲載論文

    伝統的な金融政策や財政政策では経済を刺激できなかったために、連邦準備制度は量的緩和とゼロ金利を組み合わせた非伝統的金融政策を実施し、米経済は再生へ向けたリバウンドをみせ始めた。しかし、この政策が経済にダメージを与えかねない大きな金融リスクを作り出していることはいまや明らかだろう。量的緩和と低金利政策の組み合わせによって、株式、格付けの低い債券、民間不動産の価格が過剰評価され、結局、資産バブルとその崩壊に向けた伏線が創り出されつつある。今後の景気後退局面でカウンターシクリカルな財政政策を実施する必要が生じた場合には、長期的な債務レベルを安定させるために、短期的な景気刺激策の実施と社会保障政策の見直しをセットにする必要がある。もちろん、社会保障プログラムを見直すのは政治的にほぼ不可能かもしれないが、経済を刺激し、公的債務を膨らませないような経済対策を設計することはできる。特に、税収を変化させない経済対策を設計すべきで、それには二つのタイプがある。・・・

  • 連邦準備制度はなぜ判断を間違えたか
    ―― グレートリセッションと金融政策

    スコット・サムナー

    雑誌掲載論文

    一般に考えられるのとは違って、住宅市場の崩壊、壊滅的な自然災害、株式市場のクラッシュなどのショックによって、リセッションに陥る訳ではない。むしろ、深刻なリセッションを引き起こすのは金融政策の判断ミスであることが多い。実際、グレートリセッションを引き起こしたのは、住宅市場の崩壊と混乱ではなく、連邦準備制度(Fed)の金融政策上の判断ミスだった。住宅市場が崩壊への道をたどり始めて2年後の2008年半ばには、さらに深刻な問題が表面化していた。失業率が上昇し、住宅部門だけでなく、経済の全てのセクターへと失業が広がっていた。だが、Fedは、おそらくは原油価格の上昇に派生するインフレを警戒して、問題を相殺するのに必要な迅速な利下げを実施せず、その結果、名目国内総生産(NGDP)は急速に低下し、失業率が急速に上昇した。・・・

  • アベノミクス、最後の賭
    ―― 消費増税の先送りと財政出動

    トバイアス・ハリス

    Subscribers Only 公開論文

    世論調査で市民が増税時期の先送りを支持していることに加えて、先行き不透明なグローバル経済、円高、そして最近の熊本での地震災害は、安倍首相が(増税の先送りと財政出動に向けて)財政タカ派の反対を克服する助けになるだろう。これらの環境からみれば、首相が増税を先送りし、新たに財政出動を実施することへの支持を期待できるだろう。だがそれは、実際に経済を長期的に助け、短期的にも景気を刺激する効果のある公共事業投資を増やす、正しい財政出動でなければならない。そうできなければ債務を増やすだけに終わる。専門家のなかには、すでに安倍政権の経済プログラムは失敗していると指摘する者もいる。実際、アベノミクスにさらにてこ入れして、それでも日本経済を再生できなければ、この3年にわたって比較的安定していた安倍首相への支持は次第に低下していくことになるだろう。

  • 金融政策と財政政策の間
    ―― イギリスの失策から何を学ぶ

    アダム・ポーゼン、J・ブラッドフォード・デロング

    Subscribers Only 公開論文

    「バーナンキは金融緩和に向けてこれまですぐれた措置をとってきた。だがいまでは、われわれは非伝統的な金融政策からは可能な限り、手を引いていくという立場を示唆している。これは、(われわれ金融当局は十分に手を尽くしたのだから)依然として経済が停滞しているのは議会と大統領のせいだと言っているようなものだ。経済の停滞という現状は、財政当局(政府)に責任があり、いまや金融当局としては、長期的な金融の安定に配慮しなければならない。これがバーナンキの本音だろう」。(B・デロング)

    「スペイン同様に、イギリスが自国の経済を袋小路に追い込んでしまったのは、中途半端な金融緩和をとり、一方で財政緊縮策をとってしまったからだ。現在、日本は、当時のイギリスとは全く逆のことをしている。日本銀行はついに、われわれが求めてきたような、大胆な量的緩和策をとり、経済は回復しつつある」。(A・ポーゼン)

  • 金融政策とその限界

    アダム・ポーゼン

    Subscribers Only 公開論文

    金融政策のことを、大きな権限を持つものだけが操れる、何かミステリアスで不可知なものと恐れる必要はないし、その政策を万能薬と考えるのも間違っている。・・・その背後には常に政治が介在し、ときに金融政策の決定プロセスを混乱させ、戦術的な変化を強要されることもある。しかし、政治が金融政策に決定的な影響を与えるのは、金融政策委員会の委員長(総裁・議長)がそれを望んだ場合だけだ。・・・中央銀行のバンカーたちの役割は、結局のところ、薬剤師のそれとさほど変わらない。棚にある薬の量は限られており、法律によって一定量を超える薬を使うのは禁止されている。この条件で異なる専門家が書いた走り書きの処方箋に一貫性をもたせ、適切な調剤薬品を患者に提供する。その人物が薬品を摂取すること以外、何かを知ることも管理することもない。望み得る最善は、副作用を最小限に抑えつつ、患者が時とともに着実に回復していくことだ。

  • 米金融政策の国際的衝撃
    ―― 量的緩和縮小と新興国経済

    ベン・ステイル

    Subscribers Only 公開論文

    ユーロ圏以外の世界の貿易決済の大部分、そして外貨準備の60%には依然として米ドルが利用されており、当然、FRBの金融政策の変更は、グローバル市場に瞬時に大きな影響を与え、途上国へのキャピタルフローを極端に変化させ、途上国通貨の米ドルに対する価値は激しく変動する。この意味において、途上国の金融政策上の主権は事実上形骸化している。実際、連邦準備制度が資産の買い入れを縮小していくと示唆しただけで、投資家が資金を途上国から引き揚げて米国内の安全な投資先へと移動させたために、途上国の債券・通貨市場は大きな混乱に陥った。問題は、連邦準備制度が政策の判断にその国際的余波を考慮することは法的に想定されていないこと。そして、IMFを別にすれば、その余波を防ぐためのチェンマイ・イニシアティブやBRICS開発銀行構想が依然として実体を伴っていないことだ。・・・

  • 衰退する日米欧経済

    ロバート・マッドセン

    Subscribers Only 公開論文

    かつては圧倒的なパフォーマンスを誇った日本経済も、バブル経済の崩壊とともに失速し、いまや成長のために、そして再び金融危機に直面するのを避けるために必要な、経済改革に向けた政治的コンセンサスを構築できるかどうかも分からない状態にある。そして、金融危機後のさまざまな対策を通じて「自分たちは日本の二の舞にはならない」というメッセージを市場に送った欧米諸国も、結局、日本の後追いをしている。欧米経済がこの5年間で経験してきたことは、1990年代の日本の経験と非常に似ている。今後の日米欧にとって、社会契約をいかに再定義するかが最大の政治課題になる。予算を均衡させ、再び金融危機に直面するのを回避するには、税率を引き上げ、社会保障支出を削減するしか方法はないからだ。アメリカ、日本、そしてヨーロッパ諸国は、この困難なプロセスとそれが引き起こす社会的緊張への対応に長期的に追われることになるだろう。地政学バランスはすでに東アジアへと傾斜しつつあるが、主役は日本ではない。うまくいけば傍観者として、最悪の場合にはその犠牲者として、日本は東の台頭を見つめることになるだろう。

  • 先進民主国家体制の危機
    ―― 改革と投資を阻む硬直化した政治

    ファリード・ザカリア

    Subscribers Only 公開論文

    先進民主世界を悲観主義が覆い尽くしている。ヨーロッパでは、ユーロ圏だけでなく、欧州連合(EU)そのものが解体するのではないかという声も聞かれる。日本の経済も停滞したままだ。だが、もっとも危機的な状況にあるのはアメリカだろう。停滞する先進国が本当に必要としているのは、競争力を高めるための構造改革、そして、将来の成長のための投資に他ならない。問題は政治領域にある。政治が、効率的な改革と投資を阻んでいる。その結果、われわれが直面しているのが民主主義体制の危機だ。予算圧力、政治的膠着、そして人口動態が作り出す圧力という、気の萎えるほどに大きな課題が指し示す未来は低成長と停滞に他ならない。相対的な豊かさは維持できるかもしれないが、先進国はゆっくりとそして着実に世界の周辺へと追いやられていくだろう。今回ばかりは、民主主義の危機を唱える悲観論者が未来を言い当てることになるのかもしれない。

Current Issues

  • ドナルド・トランプの台頭
    ―― ラテンアメリカ化するアメリカ政治

    オマー・G・エンカーナシオン

    雑誌掲載論文

    それがどこであれ、格差が社会に怒りを充満させる環境のなかでは、デマゴーグたちは、感情と偏見を煽ることで、非現実的で危険な政策の支持へと民衆を向かわせる。そうでなくとも、アメリカの有権者の多くが政治に裏切られ、無視され、取り残されていると感じている。これはラテンアメリカの政治環境と似ている。この地域の独裁的指導者(カウディーリョ)たちは、ヒトラーやムッソリーニ、あるいは、イタリアのベルルスコーニ以上に、トランプ現象を考える上での適切な比較の対象になる。実際、トランプは、かつてのカウディーリョたちと同様に、自分が政治的アウトサイダーであるがゆえに、現在の政治システムを破壊し、それを、取り残された人々を含む、すべての人々に恩恵をもたらすシステムへと置き換えることができると主張している。・・・

  • オバマ広島訪問後の日米関係
    ―― 安倍首相はパールハーバー訪問を

    ザック・プリスタップ

    雑誌掲載論文

    オバマの広島訪問を日米関係の新しいチャプターの幕開けとして位置づけなければならない。安倍首相は、誠意の返礼として、2016年の真珠湾攻撃75周年記念式典に参加すべきだろう。真珠湾を訪問すれば、広島と長崎への原爆投下を(パールハーバーに始まる)歴史の流れのなかに位置づけ、日本の痛ましい過去を歴史の流れに位置づけ、その認識を高めることができる。さらに、日本が過去の歴史を見直すのではなく、平和の促進にコミットしていることを世界に示すことにもなる。両国が共有する痛ましい過去に正面から向き合うことで、日米は、歴史論争によってとかく外交的に紛糾し、機能不全に陥ることの多い東アジアに優れた先例を示すこともできる。歴史を刻む相手国の都市への相互訪問は、両国の指導者がとるべき正しい行動だろう。

  • パナマ文書とトマ・ピケティ
    ―― 格差の全貌を把握する最初のステップ

    ヘンリー・ファレル

    雑誌掲載論文

    一見するとパナマ文書の漏洩は、米陸軍兵士のチェルシー・マニングがウィキリークスに機密文書を渡したケース、元NSA(アメリカ国家安全保障局)の契約局員だったエドワード・スノーデンが暴いた国際監視プログラムなど、一連の漏洩(リーク)事件と同じように思える。著名な政治家や政府関係者の偽善的行為を暴き出した点では、こうした先例とパナマ文書には共通点がある。とはいえ、パナマ文書がもつ本当の意味の比較対象としてふさわしく、しかも今後の展開を知る上で有益なのは、スノーデンでもジュリアン・アサンジでもない。それは、著名なフランスのエコノミスト、トマ・ピケティだ。「人々はまだ経済格差の全貌をわかっていないが、それを多くの人が理解すれば、政治は大きな変化を余儀なくされる」と今後を見通している。パナマ文書はその全貌を知るための第一歩とみなせる。

  • 21世紀の資本主義を考える
    ―― 富に対するグローバルな課税?

    タイラー・コーエン

    Subscribers Only 公開論文

    西ヨーロッパが19世紀後半に享受した平和と相対的安定は、膨大な資本蓄積を可能にし、先例のない富の集中が生じ、格差が拡大した。しかし、二つの世界大戦と大恐慌が資本を破壊し、富の集中トレンドを遮った。戦後には平等な時代が出現したが、1950年から1980年までの30年間は例外的な時代だった。1980年以降、拡大し続ける格差を前に、トマ・ピケティのように、19世紀後半のような世界へと現状が回帰しつつあると考え、格差をなくすために、世界規模で富裕層の富に対する課税強化を提言する専門家もいる。しかし、大規模な富裕税は、資本主義民主体制が成功し繁栄するために必要な規律や慣習とうまくフィットしない。もっとも成功している市民への法的、政治的、制度的な敬意と支援がなければ、社会がうまく機能するはずはない。

  • イスラム国の黄昏
    ―― 離脱したシリア人元戦闘員たちへのインタビュー

    マラ・レブキン、アハマド・ムヒディ

    雑誌掲載論文

    イスラム国を後にするシリア人戦闘員が増えている。2016年3月だけでも、数百人のイスラム国戦闘員がラッカやアレッポを離れて、戦線離脱したと考えられており、その多くがシリア人だ。離脱後、穏健派の自由シリア軍(FSA)に参加する者もいれば、紛争から離れようと、国境を越えてトルコやヨルダンに向かう者もいる。シリアのイスラム国は、現地社会や地勢などをめぐるインサイダー情報をめぐってシリア人メンバーに多くを依存してきた。逆に言えば、シリア人戦士の戦線離脱の増大は、シリアにおけるイスラム国の統治と軍事活動を大きく脅かすことになるだろう。現在トルコにいる8人の元イスラム国戦闘員たちへのインタビューから浮かび上がるのは、もはや勢いを失い、自暴自棄となったイスラム国の姿だ。

  • 人口の高齢化と生産性

    エドアルド・カンパネーラ

    雑誌掲載論文

    高齢社会は若年層が多い社会に比べて生産性が低くなる。この問題に正面から対峙しなければ、人口が減少し、高齢化が進むだけではなく、豊かさを失うことになる。生産性は45歳から50歳のときにピークに達するが、その後、下降線を辿る。つまり、高齢者がうまく利用できない高度な技術を導入してもその生産性を向上させることはできない。むしろ、人口動態の変化と生産性のダイナミクスとの関連を断ち切ることを目指した政策を併用すべきだ。例えば、ロボティクスやIoT(インタネット・オブ・シングズ)のような技術への投資を増やし、高齢者に関連する生産性の低い労働をこれらの技術で代替していくべきだろう。すでに日本の安倍晋三首相は、この視点から高齢者のための介護ロボットや自律走行車の開発技術を日本再生戦略の中核に位置づけている。・・・・

  • 生産年齢人口の減少と経済の停滞
    ―― グローバル経済の低成長化は避けられない

    ルチール・シャルマ

    Subscribers Only 公開論文

    労働人口、特に15?64歳の生産年齢人口の増加ペースが世界的に鈍化していることは否定しようのない事実だ。生産年齢人口の伸びが年2%を下回ると、その国で10年以上にわたって高度成長が起きる可能性は低くなる。生産年齢人口の減少というトレンドで、なぜ金融危機後の景気回復がスムーズに進まないか、そのかなりの部分を説明できる。出生率を上げたり、労働人口に加わる成人を増やしたりするため、各国政府はさまざまな優遇策をとれるし、実際多くの国がそうしている。しかしそれらが中途半端な施策であるために、労働人口の増大を抑え込む大きなトレンドを、ごく部分的にしか相殺できていない。結局世界は、経済成長が鈍化し、高度成長を遂げる国が少ない未来の到来を覚悟する必要がある。

プーチン外交のルーツ

  • ロシア外交にみる悲しみと怒り
    ―― 外交的勝利と経済的衰退の間

    フョードル・ルキャノフ

    雑誌掲載論文

    1991年後に出現した「新世界秩序」は、ミハイル・ゴルバチョフなどの改革主義のソビエトの指導者たちが、冷戦終結の最悪のシナリオを回避するために、思い描いた世界とはまったく違うものになった。クリミア編入とウクライナ危機は、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大だけでなく、冷戦終結以降、欧米の行動パターンが変化したことに対するロシアの答えでもあった。冷戦の終結とポスト冷戦世界に関する米ロの解釈の違いも、ロシアの行動を後押しした。実際、冷戦後の「新世界秩序」は平等な国同士のアレンジメントではなくなり、冷戦は欧米の原則と影響力(ソフトパワー)の明確な勝利とワシントンではみなされるようになった。・・・こうして「ロシアの指導層は欧米の拡大主義を覆すには、軍事力を行使してでも、その意図を明確にするしかない」と考えるようになった。・・・

  • ギャンブラーとしてのプーチン
    ―― ロシアのクリミア編入プロセスを検証する

    ダニエル・トレイスマン

    雑誌掲載論文

    ロシアによる一連の衝動的な対応から考えれば、クリミア編入は領土拡張計画の一環でもなければ、NATO拡大への対応でもなかった。むしろ、予期せぬ危機に対する衝動的な反応だった。そしてウクライナ危機をめぐるプーチンの最大の関心は、クリミアのセバストポリ軍港を確保することにあった。つまり、ウクライナ政府が軍港のリース権を2040年代まで延長する合意を尊重すると約束していたら、この2年間のロシアと欧米の関係悪化は、避けられたかもしれないし、ロシアがクリミアの編入というリスクの高い戦略をとる必要もなかったかもしれない。現実に起きたことは、管理可能な脅威に対して、プーチンが過大な戦略リスクを引き受けるようになったことを意味する。大きな賭けを好むプーチンの衝動的行動は、領土拡張主義以上に扱いにくい。プーチンは危機に大胆かつ衝動的に対応することで、ロシアと世界に新たな危機を作り出している。

  • 欧米の偽善とロシアの立場
    ―― ユーラシア連合と思想の衝突

    アレクサンドル・ルーキン

    Subscribers Only 公開論文

    冷戦が終わると、欧米の指導者たちは「ロシアは欧米と内政・外交上の目的を共有している」と考えるようになり、何度対立局面に陥っても「ロシアが欧米の影響下にある期間がまだ短いせいだ」と状況を楽観してきた。だが、ウクライナ危機がこの幻想を打ち砕いた。クリミアをロシアに編入することでモスクワは欧米のルールをはっきりと拒絶した、しかし、現状を招き入れたのは欧米の指導者たちだ。北大西洋条約機構(NATO)を東方に拡大しないと約束していながら、欧米はNATOそして欧州連合を東方へと拡大した。ロシアが、欧米の囲い込み戦略に対する対抗策をとるのは時間の問題だった。もはやウクライナを「フィンランド化」する以外、問題を解決する方法はないだろう。ウクライナに中立の立場を認め、親ロシア派の保護に関して国際的な保証を提供しない限り、ウクライナは分裂し、ロシアと欧米は長期的な対立の時代を迎えることになるだろう。

  • 欧米はロシアへの約束を破ったのか
    ―― NATO東方不拡大の約束は存在した

    ジョシュア・R・I・シフリンソン

    Subscribers Only 公開論文

    「NATOゾーンの拡大は受け入れられない」と主張するゴルバチョフ大統領に、ベーカー米国務長官は「われわれも同じ立場だ」と応えた。公開された国務省の会議録によれば、ベーカーはソビエトに対して「NATOの管轄地域、あるいは戦力が東方へと拡大することはない」と明確な保証を与えている。この意味ではNATOを東方に拡大させないという約束は明らかに存在した。約束は文書化されなかったが、東西ドイツは統合し、ソビエトは戦力を引き揚げ、NATOは現状を維持する。これが当時の了解だった。ドイツ統一に合意すれば欧米は(NATOの東方拡大を)自制するとモスクワが考えたとしても無理はなかった。しかし、「ワシントンは二枚舌を使ったという点で有罪であり、したがって、モスクワのウクライナにおける最近の行動も正当化される」と考えるのは論理の飛躍がある。・・・・

  • NATOの東方拡大に反発したロシア

    F・スティーブン・ララビー

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアはかねて旧ソビエト地域における影響力の低下に頭を悩ませてきた。今回のロシアのグルジア侵略は、近隣地域での民主化潮流の台頭に対するロシアの回答だったとみなすこともできる。今回のロシアの動きは、旧ソビエト地域に欧米の影響力、とりわけNATOの影響力が入り込んでくるのを押し返そうとする試みだった。とはいえ、NATOの一部メンバーは、(NATOへの加盟を望んでいる)グルジアやウクライナがヨーロッパの一部なのかどうかについて確信が持てずにおり、われわれは防衛上の確約を旧ソビエト諸国に与えることには慎重でなければならない。現在われわれにできることは、ロシアに対してグルジアからロシア軍を撤退させるように求め、それに応じるまでは、ロシアのWTO加盟を支持しないという路線をとることだ。また、今回のグルジアに対するロシアの行動は、グルジアよりも、むしろウクライナを意識した行動だったことも見落としてはならない。聞き手は、バーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

  • 悪いのはロシアではなく欧米だ
    ―― プーチンを挑発した欧米のリベラルな幻想

    ジョン・ミアシャイマー

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアの高官たちはワシントンに対してこれまで何度も、グルジアやウクライナを反ロシアの国に作り替えることも、NATOを東方へと拡大させるのも受け入れられないと伝えてきたし、ロシアが本気であることは2008年にロシア・グルジア戦争で立証されていた。結局のところ、米ロは異なるプレーブックを用いている。プーチンと彼の同胞たちがリアリストの分析に即して考え、行動しているのに対して、欧米の指導者たちは、国際政治に関するリベラルなビジョンを前提に考え、行動している。その結果、アメリカとその同盟諸国は無意識のうちに相手を挑発し、ウクライナにおける大きな危機を招き入れてしまった。状況を打開するには、アメリカと同盟諸国は先ず「グルジアとウクライナをNATO拡大策から除外する」と明言する必要がある。

  • 情報収集技術の進化が外交と政治を変える
    ―― 秘密なき外交の時代へ

    シィーン・P・ラーキン

    雑誌掲載論文

    インターネットやソーシャルメディアだけではない。誰もが、衛星画像やドローンがもたらす高度な情報を利用できる時代になった。ジャーナリストやNGO、ブロガーたちは、今後、クラウドソースのデータを使って、これまで以上に戦争犯罪を発見し、政府の欺瞞を暴くようになり、生体認証システムで秘密工作員の正体さえも特定できるようになる。政府は情報漏洩や内部告発にますます苦慮することになるだろう。もちろん、今後も、機密が守られる情報もある。しかしユビキタスな監視活動によって、政府の活動の多くが白日の下にさらされるはずだし、その活動は内外の監視や批判を受けやすくなる。指導者はその決断について、これまで以上に説明責任を問われるようになるだろう。

  • クリーンエネルギー投資の強化を
    ―― 温室効果ガスの削減では惨劇を回避できない

    バルン・シバラム、テリン・ノリス

    雑誌掲載論文

    クリーンエネルギー技術が大きく進化しない限り、各国が現在の温室効果ガス排出量削減の約束を実行しても、おそらく地球の温度は2・7―3・5度、上昇する。この場合、(異常気象の激化や海面水位の上昇による水没など)グローバルレベルで惨劇に直面するリスクがある。一方、新しい原子炉の設計によって、核燃料のメルトダウンリスクを物理的になくせる可能性もあるし、ナノテクノロジーによる膜を利用すれば、化石燃料発電所からの二酸化炭素排出を防げるかもしれない。壁紙と同価格で太陽光発電できるコーティング素材ができれば、消費する以上に電力を生産できるビルが立ち並ぶことになるかもしれない。問題はこうした夢のようなクリーンエネルギーテクノロジーへの投資が十分でないことだ。投資を促すには、政府が投資を主導するとともに、その枠組みを国際的に広げていく必要がある。

  • 風力・ソーラーエネルギーのポテンシャルを引き出すには
    ――悪い補助金からスマートな促進策への転換を

    ジェフリー・ボール

    Subscribers Only 公開論文

    風力やソーラーエネルギーが、近い将来に化石燃料にとって代わることはあり得ない。当面、再生可能エネルギーは、化石燃料による電力生産に取って代わるのではなく、それを補完する程度に終わる。だからといって、その開発をいま断念するのは間違っている。風力タービンとソーラーパネルの効率は高まり、価格も低下している。重要なのは、これまでのように補助金で再生可能エネルギーのポテンシャルを摘み取ってしまわないように、よりスマートな促進策をとり、市場の競争を最大化することだ。目的は風力タービンやソーラーパネルを多く設置することではない。電力を安価に便利に安全に、しかも持続的に供給することだ。この目的を実現する包括的なエネルギー政策の一部に風力・ソーラーエネルギー促進策を戦略的に位置づける必要がある。

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