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2015年12月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2015年12月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2015年12月号 目次

イスラム国と中東の現実

  • <CFR Events>
    次のターゲットは欧米かサウジか
    ―― パリ同時多発テロとイスラム国

    スティーブン・クック、フリップ・ゴードン、ファラ・パンディッシュ、グレアム・ウッド

    雑誌掲載論文

    今回のテロは、イスラム国をうまく特定地域内に封じ込めたことによって起きたと考えることもできる。われわれは領土を取り戻しつつあり、もはやイスラム国が支配地域を拡大する余地は残されていない。彼らは、テロを起こすことで「われわれが終わったわけではなく、別のやり方もできる」と言いたいのだと思う。(P・ゴードン)

    考えるべきは、メッカとメジナを支配地域に組み込まずに、彼らが「イスラム国家」を自称できるかどうかだ。この意味で、私は、イスラム国は、(欧米世界ではなく)サウジを主要なテロのターゲットだとみなしていると思う。サウジもそのリスクを警戒している。(宗派対立の構図を作り出そうとするイスラム国系集団によって)、サウジのシーア派モスクは連日攻撃されている。(S・クック)

    イスラム国による軍事的侵略と征服による領土拡大路線がうまくいっていない。・・・、この現実を前にイスラム国は路線を見直し、外国でのテロを(新規リクルートを通じた)勢力拡大のツールと位置づけたのかもしれない。(G・ウッド)

  • イスラム国の大きな過ち
    ―― グローバルテロ戦略の弊害

    ダニエル・バイマン

    雑誌掲載論文

    パリの同時多発テロから、厄介なシナリオがみえてくる。それは、イスラム国がこれまでの地域重視戦略を見直し、グローバルテロ戦略へとシフトしつつあるかもしれないことだ。グローバルテロ戦略をとれば、戦士のリクルートもうまく進む。数多くの外国人メンバーを抱えているだけに、イスラム国はグローバルテロ戦略をとる資産をもっているともみなせる。だがその副作用も大きい。世界的にテロを展開するには組織の指揮統制を緩め、ローカルなテロ分子に行動の自由を与えるしかない。司令塔をもたないテロの場合、ターゲットを間違え、残忍な殺戮を行うようになることも多い。実際、こうした関連組織の暴走ゆえに、世界のイスラム教徒がアルカイダに背を向けるようになったことは広く知られている。世界はさらに忌まわしいテロが起きることを警戒すべきだが、イスラム国がグローバルテロ戦略へシフトしているとすれば、最終的に大きなコストを支払わされることになるだろう。

  • 忌まわしきイラク紛争の現実
    ―― もはや分権化か分割しか道はない

    アリ・ケデリー

    雑誌掲載論文

    イラク治安部隊の崩壊とシーア派武装勢力の台頭は、バグダッドの影響力をさらに弱め、イラク国内におけるイランの影響力を高めた。イランの影響下にあるシーア派武装集団は、スンニ派地域に攻め入っては残虐行為を繰り返し、結局は、スンニ派住民たちをイスラム国支持へと向かわせている。一方で、イスラム国が罪のないシーア派住民を爆弾テロで殺害すると、シーア派武装勢力への人々の支持が高まり、イラク政府はますます弱体化する。スンニ派とシーア派、アラブ人とクルド人、それぞれの宗派・民族集団の内部抗争という構図での地域的な代理戦争と紛争が同時多発的に起きており、イラク近代史におけるもっとも危険に満ちた時代が今まさに始まろうとしている。イラクが第2のシリア、つまり、市民を脅かし、大規模な難民を発生させ、ジハード主義を育む空間へと転落していくのを阻止するには大胆な措置が必要だ。おそらく各派の民族自決を認める必要がある。・・・

  • パックス・アメリカーナの終わり
    ―― 中東からの建設的後退を

    スティーブン・サイモン、ジョナサン・スティブンソン

    雑誌掲載論文

    湾岸戦争以降のアメリカの中東介入路線は、アメリカの歴史的規範からの逸脱だった。それまでアメリカとペルシャ湾岸諸国は、安定した石油の価格と供給を維持し、中東の政治的安定を維持していく必要があるという認識だけでなく、1979年以降はイラン封じ込めという戦略目的も共有していた。この環境において中東への軍事介入路線は規範ではなかった。いまやシェール資源の開発を可能にした水圧破砕法の登場によってアメリカの湾岸石油への直接的依存度も、その戦略的価値も低下し、サウジや湾岸の小国を外交的に重視するワシントンの路線も形骸化した。一方、アメリカがジハード主義の粉砕を重視しているのに対して、湾岸のアラブ諸国はシリアのバッシャール・アサドとそのパトロンであるイランを倒すことを優先している。こうして中東の地域パートナーたちは、ワシントンの要請を次第に受け入れなくなり、ワシントンも、アメリカの利益と価値から離れつつあるパートナーたちの利益を守ることにかつてほど力を入れなくなった。・・・

  • 難民の自立を助けよ
    ―― 難民危機への経済開発アプローチを

    アレクサンダー・ベッツ、ポール・コリアー

    雑誌掲載論文

    長期的な難民生活を強いられている人々は、永続性のある解決策、つまり、母国あるいはその他の国が「平和的な社会に自分たちを統合してくれること」を願っている。昨今のシリア難民への対応をめぐるヨーロッパの混乱からみても、難民危機への新しいアプローチが必要なことは明らかだ。難民の生活レベルを改善する一方で、難民受け入れ国の経済、安全保障利益を高める政策が必要とされている。現在の古色蒼然たる政策を、特別経済区を作って、難民に雇用を提供することで自立の道を与え、社会に統合していく政策へと見直していく必要がある。最終的に紛争が終わった時に備えてシリア難民はビジネスの下地を作っておく必要がある。このプロセスを難民受け入れ国経済の発展にも寄与するものにしなければならない。こうしたアプローチなら、難民の必要性と受け入れ国の利益を重ねあわせられるし、他の難民危機への対応にも適用できるだろう。

  • イスラム国の全貌
    ―― なぜ対テロ戦略は通用しないか

    オードリー・クルト・クローニン

    Subscribers Only 公開論文

    イスラム国はテロ集団の定義では説明できない存在だ。3万の兵士を擁し、イラクとシリアの双方で占領地域を手に入れ、かなりの軍事能力をもっている。コミュニケーションラインを管理し、インフラを建設し、資金調達源をもち、洗練された軍事活動を遂行できる。したがって、これまでの対テロ、対武装集団戦略はイスラム国には通用しない。イスラム国は伝統的な軍隊が主導する純然たる準軍事国家で、20世紀に欧米諸国が考案した中東の政治的国境を消し去り、イスラム世界における唯一の政治、宗教、軍事的権限をもつ主体として自らを位置づけようとしている。必要なのは対テロ戦略でも対武装集団戦略でもない。限定的軍事戦略と広範な外交戦略を組み合わせた「攻撃的な封じ込め戦略」をとる必要がある。

  • トルコとクルド人のジレンマ
    ―― イスラム国と軍とクルド人問題

    ハリル・カラベリ

    Subscribers Only 公開論文

    イスラム国が作り出すトルコ・シリア国境地帯の混乱を前に、トルコ国内の政治バランスは崩れ、いまや軍部が大きな力をもちつつある。一方で、政府と国内のクルド人勢力との和平プロセスはいまや破綻しかねない状況にある。「シリアのクルド人に対するイスラム国の攻撃にトルコ政府は水面下で加担している」とみなす国内のクルド人若者の怒りはピークに達している。一方、国境地帯の混乱を前に、エルドアンは国内のクルド人の動きを警戒するトルコ軍の見方と提言に配慮せざるを得ない状況にある。トルコ軍は軍のレッドラインが「トルコ国家の統合と領土保全を守ること」であることを改めて強調している。これはシリアとの国境線だけでなく、「クルド人に自治権を与えることを軍は認めない」というメッセージに他ならない。トルコは一体どこへ向かうか。その多くはクルド人が「政治的連帯」のパートナーをどこに求めるかで左右される。

  • CFR Meeting
    ヨーロッパのイスラム教徒
    ―― アイデンティティ危機とイスラム原理主義

    ファラ・パンディッシュ、ジョナサン・マスターズ

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパで暮らすイスラム教徒の若者たち、特にミレニアム世代の若者たちは、アイデンティティ危機に直面している。自分が誰なのかを自問し、両親もその答をもっていない自画像の問題に思い悩んでいる。こうして、インターネットで情報を探したり、答を示してくれる人物がいそうな場所に出入りしたりするようになる。パリのテロ事件にも、明らかにこのメカニズムが作用している。次の段階に進もうとアイデンティティを模索するヨーロッパのイスラム教徒の若者たちが、イスラム過激派・原理主義勢力が示すストーリーに魅了されるのは不思議ではない。問題は、イスラム過激派がイスラム教徒はどのようにあるべきか、どのように暮らすべきかだけでなく、彼らを取り巻く環境がどのようなものでなければならないかについて、極端に厳格でイデオロギー的で、教条主義的な立場をとっていることだ。彼らは他者への寛容という概念を明確に拒絶し、「われわれ対彼ら」という精神構造をもっている。これを解体しなければならない。・・・だが、イスラム過激派のイデオロギーに対抗できるのは、同じイスラム社会内部の信頼できる人物によるメッセージだけだろう。

  • イラクと中東の宗派間紛争
    ―― イラク分裂の意味合い

    スティーブン・ビドル他

    Subscribers Only 公開論文

    イラクの混乱は中東におけるより大きな危機の一部であり、最終的にはこれによって中東の地図が書き換えられることになるかもしれない。(R・ハース)
    (イラクにおける)過酷な民族・宗派間紛争は数週間、数カ月という単位ではなく、数年という長期的なスパンで続くだろう。その途上で人道危機も起きるだろうし、この環境のなかでテロが起きる危険もある。だがもっとも厄介なのは、イラクの長期的な内戦が地域的に拡散していく危険が非常に高いことだ。(S・ビドル)

    イラクの統一を保つことがわれわれの目的だと言い続けるだけで、その一方でイラクの分裂をいかに管理するかを考えないとすれば、政策決定者としての責任を放棄することになる。(M・オサリバン)

    すでに事実上の分裂は始まっている。イランの革命防衛隊(IRGC)がその傘下組織を使って南部のシーア派地域を支配し、ISISと旧バース党メンバーがスンニ派地域を支配している。・・・クルド地域はうまく統治されるとしても、他のイラク地域は紛争に覆われつくすことになりかねない。(M・ブート)

  • 米軍部隊の投入は避けられない?
    ――シリア・イラクにイスラム国に対抗できる集団は存在しない

    フレデリック・ホフ

    Subscribers Only 公開論文

    イラクには一定の戦闘能力をもつ軍事アセットは存在するが、イスラム国に対抗していく力はもつ集団は存在しない。シリアの自由シリア軍もアサドのシリア軍とイスラム国勢力の双方から攻撃を受け、大きな圧力にさらされている。最優先課題はイスラム国とシリア軍の双方を相手に戦いを続けている自由シリア軍を中心とするナショナリスト勢力を支援することだ。彼らが力を失えば、われわれは非常に深刻なジレンマに直面する。シリアの主要な部隊は(ともに欧米が敵視する)シリア軍とイスラム国の部隊だけになってしまうからだ。・・・トルコ政府はクルド労働者党(PKK)とシリアの「民主統一党」(PYD)をともにテロ集団とみなしているために、有志連合への参加に二の足を踏み、イスラム国に包囲されたコバニ情勢を静観している。これが国内のクルド人の反発を買っている・・・今後、イラクとシリアのいずれにおいても力強い地上戦力が存在しないことが大きな問題として浮上してくる。オバマ政権は「地上軍は送り込まない」と主張してきたが、いずれこの立場を再検討せざるを得なくなるだろう。

  • イスラム国のサウジ攻略戦略
    ―― テロと宗派間紛争

    ビラル・Y・サーブ

    Subscribers Only 公開論文

    アルカイダは、2003―2006年にサウド家を倒そうと、テロでサウジ国内を混乱に陥れようとした。これはサウジの近代史におけるもっともせい惨で長期化した紛争だった。そしていまやイスラム国がサウジ国内でテロ攻撃を繰り返している。イスラム国の戦略は、アルカイダのそれ以上に巧妙かつ悪魔的で危険に満ちている。バグダディはサウジのシーア派コミュニティを攻撃して挑発し、その怒りをサウジ政府へと向かわせることで、宗派間戦争の構図を作り出そうとし、すでにサウジのことをイスラム国・ナジュド州と呼んでいる。一方、サウジの新聞とツイッターはシーア派に批判的な発言で溢れかえっている。政府は(反シーア派的な)メディアの主張と宗教指導者の活動をもっと厳格に監視し、抑え込む必要がある。そうしない限り、宗派間紛争が煽られ、サウジ政府とイスラム国の戦いが長期化するのは避けられないだろう。

  • イスラム国の戦略
    ―― ハイジャックされたアルカイダのイスラム国家構想

    ウィリアム・マッカンツ

    Subscribers Only 公開論文

    イスラム国家の樹立構想を考案したのは、現実にイラク・イスラム国の樹立を表明した「イラクのアルカイダ(AQI)」ではなく、アルカイダのアイマン・ザワヒリだった。ザルカウィが死亡した後にAQIの指導者となったアブ・アイユーブ・マスリはAQIを解体し、現在のイスラム国の指導者とされるアブ・オマル・バグダディを「信仰指導者(アミール・ウル・モミニン)」として仰ぎ、その忠誠を誓った。・・・2013年、イスラム国はシリアとイラクの双方で権力を確立したと表明する。ザワヒリはイスラム国に対して、「主張を取り下げて、シリアを去り、イラクに帰るように」と求めたが、イスラム国の指導者はこれを相手にしなかった。・・・イスラム国家を樹立するというザワヒリの強烈なアイディアは彼の手を離れて自律的な流れを作り出し、アルカイダを解体へと向かわせ、いまやイスラム国がグローバルなジハード主義の指導組織の地位を奪いつつある。

  • イスラム国のエジプトへの拡大

    カリル・アルアナニ

    Subscribers Only 公開論文

    2014年11月、シナイ半島北部を拠点に活動するエジプトのイスラム過激派組織アンサル・ベイト・アル・マクディス(エルサレムの支援者)は、イスラム国(ISIS)とその指導者であるアブ・バクル・アル・バグダディへの忠誠を誓うと表明し、イスラム国との事実上の同盟関係に入った。これによってエジプトに足場を確保したイスラム国は、今後さらに大きな影響力を手にするかもしれない。アラブ世界における主導国として政治・文化的地位を確立しているだけでなく、イスラエルと国境を接しているだけに、エジプトはイスラム国が目指すカリフ制イスラム国家建設に向けたきわめて重要なアセットになる。ユダヤ国家を攻撃すれば、アラブ世界におけるイスラム国の活動はさらに正当化される。・・・

  • イスラム国のアジアへの拡大

    ジョセフ・リョー・チンヨン

    Subscribers Only 公開論文

    東南アジア諸国がもっとも警戒しているのは、国内のイスラム教徒がイスラム国のイデオロギーに感化されて中東に渡り、イスラム国の一員として戦い、最終的にその過激思想をアジアに持ち帰ることだ。すでに、世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシア政府は、50人以上がシリアとイラクで戦闘に参加していることを確認している。マレーシアからは30―40人がイスラム国に参加しているとみられる。しかも実際の数はこれよりもはるかに多い可能性がある。なぜイスラム国に魅了されるのか。一つには、イスラム国の活動に「終末のカリフの国」が誕生するというコーランの予言とのつながりを彼らが見いだしているからだ。「イマーム・マフディ(黒い旗を掲げて戦うとされるイスラムの救世主)の勢力と、ダッジャール(偽預言者)の間で終末戦争」が起きるという予言に彼らは現実味を感じている。・・・・

  • 難民の対応コストを誰に負担させるか
    ―― 難民を発生させた国の責任を問う

    ガイ・S・グッドウィン=ジル他

    Subscribers Only 公開論文

    大規模な難民が発生しても、国際社会は難民を受け入れた当時国に主な責任を負わせ、近隣諸国が難民たちを暖かく受け入れることを期待する。難民受け入れ国を他国が支援することを定めた国際法が存在しないために、現実には、その対応コストは当事国が負担せざるを得ない状況にある。こうして、難民の滞在期間が長期化するにつれて、受け入れ国の出費は膨らんでいく。基本的に、難民が外国で人間的な生活をするために必要なコストは、人々が家を後にせざるを得ない状況を作り出した国に支払わせるべきだ。国際社会が大量の難民を発生させた政策や行動に関わった特定の指導者の資産を標的とする制裁を適用することもできるだろう。危機を作り出した国の資産を凍結して、その資金を難民の人道支援に充てることは物質的な貢献になるだけでなく、紛争に対する抑止力にもなる。・・・

世界経済・エネルギーアップデート

  • 中国経済と新興市場危機
    ――世界経済アップデート

    ルイス・アレキサンダー他

    雑誌掲載論文

    立ち直りつつあるとはいえ、中国の不動産市場には大きなインバランスがある。不動産市場の問題には地方政府の債務問題も関わってくる。さらに、急成長期の設備投資によって、いまやさまざまな産業が大規模な過剰生産能力を抱え込んでいる。これらの問題は銀行部門の不良債権としていずれ先鋭化する。(L・アレクサンダー)

    中国は膨大な投資をしながらも、それを経済成長に結びつけられずにいる。最大の問題は非効率だ。資本を無駄に浪費している。・・・彼らはどこに向かうべきかを理解しているし、どうすれば、そこにたどり着けるかの計画ももっている。しかし、誰もがそこに向かうことが自分の利益になると考えているわけではなく、改革路線への抵抗がある。(J・リプスキー)

    現在、地球の歴史のなかで最大規模の農村から都市への人口移動が起きていることに注目すべきだ。都市部での労働生産性は高く、所得は大きくなる。その半分を貯蓄にまわせば、これを中国全土での投資として利用できる。もちろん、間違いを積み重ねていけば、10年毎に、不良債権の山と建設すべきではなかった工場が残される。だが、政府がこれを清算して、同じことを繰り返すこともできる。・・・(V・ラインハルト)

  • 北欧モデルの教訓とは
    ―― テクノクラシーとポピュリズムの間

    ファブリッツィオ・タッシナーリ

    雑誌掲載論文

    北欧諸国は民主社会主義を通じて市場経済と普遍的社会保障間の均衡を見いだし、大きな成功を収めてきたと考えられている。男女平等、国民皆保険、持続可能なエネルギーといった北欧発の進歩的社会政策はいまや広く世界に浸透し、これまで北欧(スカンジナビア)モデルは大きな称賛の対象とされてきた。さらに北欧諸国は他に先駆けて効率的で公正なテクノクラシーを確立してきた。だが近年では、移民規制や緊縮財政といった論争の対象とされる政策を実施し、反EU、反移民をスローガンに掲げる急進的なポピュリズム政党も台頭している。いまや北欧モデルも、自由民主主義とポピュリズムの政治運動との均衡を見いだす必要に新たに迫られている。

  • 解禁へ向かうアメリカの原油輸出
    ―― クリーンエネルギーと石油企業の利益

    ジェフ・コルガン

    雑誌掲載論文

    原油輸出の解禁を求める米石油企業と輸出禁止の継続を求める石油精製企業の利益が対立するなか、米議会は原油輸出禁止の解除へと明確に舵を取っている。共和党の大統領候補たちが解禁を支持する一方で、クリーンエネルギーへシフトしていくことを重視するオバマ政権とヒラリー・クリントンは輸出禁止の継続を求めている。石油企業は水圧破砕産業、石油精製企業は環境保護団体とそれぞれ政治的連帯を組織している。ここで必要なのは政治的妥協だろう。輸出解禁に歩み寄りつつも、石油企業から「環境汚染の低いグリーン経済に向けたシフト」へのコミットメントを引き出す必要がある。

  • 水素エネルギーへの大きな期待
    ―― 水素型燃料電池とエネルギーの未来

    マシュー・M・メンチ

    雑誌掲載論文

    水素型燃料電池が魅力ある選択肢であることはかねて明らかだった。水素と酸素の化学反応を利用して電気をつくるため、その過程で排出されるのは熱と水だけだ。そしていまや水素を用いた燃料電池技術は競争力のある選択肢となりつつある。世界における燃料電池の売り上げは年々伸びており、容量も2009年からの4年間で2倍以上に増えている。韓国の現代自動車は、多目的スポーツ車(SUV)「ツーソン」の燃料電池モデルを発売し、トヨタ自動車も水素型燃料電池車「ミライ」を5万7500ドルで発売している。燃料電池が進化すれば、貯蔵能力がないという配電網の最大の問題の一つも解決できるし、再生可能エネルギーの利用も促進される。水素型燃料電池の市場化は、もはや未来のものではなくなっている。但し、幅広い応用にはまだ長い道のりが待ち受けている。

  • コペンハーゲン・コンセンサス
     ――デンマークでアダム・スミスを読む

    ロバート・カットナー

    Subscribers Only 公開論文

    現在のデンマークモデルの中核は、労働市場の柔軟性(フレキシビリティー)と雇用保障(ジョブ・セキュリティー)のバランスをうまく組み合わせた「フレキシキュリティー」という概念、つまり、労働市場の柔軟性と雇用保障を両立させていることにある。労使協調路線がとられ、極端に高い課税率も結局は、社会サービスとして市民に還元されている。世界でもっとも平等で社会格差が小さく、それでもきわめてリバタリアンな思想を持つこの国は、どのようにして平等と効率、社会的正義と自由貿易を両立させているのか。グローバル化がつくりだす問題に対処するために、資本主義国がデンマークモデルを取り入れる余地はあるのか。

  • 米原油輸出の自由化を

    ブレイク・クレイトン

    Subscribers Only 公開論文

    過去5年間を見ると、アメリカ国内の石油消費量は大きく減少し、一方でアメリカの石油産出量は世界のいかなる産油国と比べても大きく増大している。IEA(国際エネルギー機関)は2015年までに、アメリカはサウジを抜いて世界最大の産油国になるとさえ予測している。さらに(ガソリンやディーゼルなどの)石油製品という側面では、すでにアメリカは世界有数の輸出国の一つになっている。問題は、1970年代に米議会が、ライセンスを得ることなく国内で産出された原油を輸出することを違法とする法律を成立させ、現行の連邦法のもとでは、例外的な状況に陥ったときを除けば、企業が原油を輸出することが認められていないことだ。この輸出規制の目的は国内の石油資源を温存し、外国からの輸入を少なくすることにあった。しかし実際には、原油輸出規制は、この二つの目的の実現には寄与しなかったし、いまでは寄与するどころか邪魔な存在となっている。原油輸出を自由化すれば、米経済が刺激されるだけでなく、アメリカの外交政策を促進することもできる。アメリカから原油を輸入したいと考えている同盟国との関係が紛糾するのを回避できるし、貿易パートナーとしてのアメリカの存在感をさらに高めることもできる。

  • 蓄電技術の進化が電力供給と経済を変える

    ジェームズ・マニュイカ他

    Subscribers Only 公開論文

    風力発電とソーラー発電にとって、電力生産に断続が生じることが大きな弱点だ。だがバッテリーストレージ(蓄電装置)があれば、これら再生可能エネルギーを蓄電し、必要に応じて使うことができるし、蓄電技術はエネルギー産業全体を揺るがすような、急速な技術革新を経験している。バッテリーストレージは、風力やソーラーファームからの電力だけでなく、家庭やオフィスビルに設置されているソーラーパネルからの電力も蓄電できる。さらに、送配電網に蓄電池を設置して、電気を貯蔵するグリッドストレージがあれば供給の信頼性と質を高め、電力価格を引き下げることにもつながる。エネルギー貯蔵技術がもたらす経済価値は2025年にはサウジアラビアのGDPにほぼ匹敵する規模に達すると試算される。18世紀以降この世に存在する電池(蓄電技術)が21世紀の経済の姿を大きく変貌させることになるかもしれない。

  • 迫り来る湾岸経済の危機
    ―― 経済の多角化を阻む障害をいかに克服するか

    アディール・マリク

    Subscribers Only 公開論文

    湾岸の産油国の経常収支は今後急速に悪化していく。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、5年後の2020年までに、湾岸諸国の経常赤字合計額は7000億ドルに達する。原油安が続けばこの数字がさらに膨らむ恐れもある。原油価格の変動に翻弄されないように経済の多角化を進める必要があることはかねて理解されてきたが、改革は進んでいない。問題は、そうした改革によって支配エリートの権力基盤が損なわれてしまうことだ。構造改革によってビジネス界の収益が拡大して、影響力が大きくなれば、支配者の権力基盤が揺るがされる。つまり、経済の多角化を進めるには、改革によって資源輸出の収益に依存するエリートが何かを失うとしても、それを埋め合わせる恩恵があることを指導者たちが納得する必要がある。先ず手を付けるべきは金融部門の改革と整備。市場の自由化、そして地域的経済協調の確立だろう。

  • 誰がミャンマーを統治するのか
    ―― アウンサンスーチーと軍は歩み寄れるか

    アーロン・L・コネリー

    雑誌掲載論文

    ミャンマーの選挙で改選されるのは上院・下院とも議席の75%だけで、残る25%は軍の指定席だ。憲法改正には議会の75%以上の賛成が必要とされるため、軍はみずからの権限縮小につながる改正を必ず阻止できる。さらに、軍最高司令官は国防相、内務相、国境相の任命権を持っている。アウンサンスーチーの選挙での勝利は、新生ミャンマーにおける今後5年あまりの権力分担をめぐる熾烈な争いの始まりにすぎない。この争いの過程で、スーチーと軍との関係も調整を迫られる。現憲法の改正を広く民衆に訴えようとすれば、彼女は再び自宅に軟禁され、ミャンマーは軍事政権に戻ってしまうだろう。今後5カ月でアウンサンスーチーと軍がどのように歩み寄るのか、そして新生ミャンマーにおける権力分担に合意できるかが、今後のミャンマーの進路を決定することになる。

  • 新米ロ冷戦の現実
    ―― 冷戦期よりも高い米ロ関係の緊張

    ディミトリ・サイメス

    雑誌掲載論文

    ロシアにペナルティを科すことが経済制裁の目的だとすれば、われわれは一定の成功を収めている。一方、その目的がロシアをもっと穏健かつ協調的にし、好ましい方向へと向かわせることが目的なら、われわれは意図とは逆の現実に直面している。ロシアは経済制裁が緩和されないまま、アメリカがウクライナに武器を供与し、ウクライナ政府がウクライナ東部(ドンバス)の問題を力で解決しようとすれば、ロシアは歴史的な決定、つまり、ウクライナ全域の占領に踏み切らざるを得ないと考える高官もいる。この場合、300―500万の難民がヨーロッパへと向かうことになる。私の知る限り、モスクワが、これを現実の計画としてまとめているわけではない。しかし、そうした議論があるのは事実だし、この議論を魅力的だと考える人もいる。さらに、包囲網を築かれていると危機感を強めるロシア高官の一部は、バルト諸国の1カ国か2カ国に懲罰を与えることでNATOの安全保障システムが空洞化していることを立証したいと考えている。・・・

  • エボラ危機対策の教訓(下)
    ―― なぜWHOは危機対策を間違えたか

    ローリー・ギャレット

    雑誌掲載論文

    西アフリカで何が起きているかを世界が認識し始めたのは2014年9月半ばになってからだった。国連安保理はエボラ出血熱を「国際的な脅威である」と宣言し、国連総会もこの流れに続いた。米疾病管理センター(CDC)は大規模な国際的介入がなければ、2月までに感染者は100万を超えるだろうという予測を発表した。だがエボラ危機への国際社会の対応は時期を失していた。WHOの指導者たちは、進行する危機を前にしてもひどく緩慢な対応に終始した。すでに2014年5月末までに感染はギニア、リベリア、シエラレオネ全域へと広がっていた。このとき、WHOのアウトブレイクに対する警報は最低レベルへと引き下げられていた。WHOはグローバルヘルス領域の中枢権限を維持していけるのかとその存続を疑問視する声が上がったのも無理はない。この疑問への答えは「依然としてWHOは必要だ」ということになるが、そのためには組織改革が不可欠だ。・・・

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