本誌一覧

2015年11月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2015年11月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2015年11月号 目次

  • 革命国家の歴史とイスラム国
    ―― さらなる拡大と膨張はあり得ない

    スティーブン・ウォルト

    雑誌掲載論文

    極端な暴力路線をとり、性奴隷を正当化しているとはいえ、革命運動としてみればイスラム国(ISIS)に目新しい要素はほとんどない。宗教的側面をもっているとはいえ、イスラム国は多くの側面においてフランス、ロシア、中国、キューバ、カンボジア、イランで革命期に出現した体制、国家建設を目指した革命運動に驚くほどよく似ている。そして、歴史が示すところによれば、革命国家を外から倒そうとする試みは、逆に強硬派を勢いづけ、さらなる拡大の機会を与え、逆効果となることが多い。よりすぐれた政策は、イスラム国に対する辛抱強い「封じ込め戦略」を地域アクターに委ね、アメリカは遠くから見守ることだ。無謀な行動はコストを伴い、逆効果であることを誰かが教えるまで、革命国家がその行動を穏健化させることはない。その革命的な目的を穏健化させるか、完全に放棄するまで、イスラム国を辛抱強く封じ込める必要がある。

  • 引き籠もるイギリスと欧州連合
    ―― EUもイギリスも衰退する

    アナンド・メノン

    雑誌掲載論文

    1962年、ディーン・アチソン米国務長官は、「帝国を失ったイギリスは、まだ新しい役割を見つけていない」と指摘したが、現在のイギリスは、国際問題への関与にさらに消極的になっている。イギリスはヨーロッパだけでなく世界全般から手を引きつつあり、一方で、経済的な利益のためなら、中国の立場に配慮して地政学的な原則さえ犠牲にしていると一部では考えられている。おそらくは2016年に実施されるEU脱退の是非を問う国民投票は、イギリスの「引きこもり」が今後も続くのかどうかを判断する重要な材料になるはずだ。投票では、イギリスのパワーを強化するのは、EUメンバーのイギリスかEUを離れたイギリスかが問われることになる。問題は現在のようにイギリスがEUにおけるリーダーシップをとることを躊躇し続ければ、EUはますます非効率的になり、イギリスではEU脱退論がますます強くなり、悪循環に陥ってしまうことだ。

プーチンのシリア戦略

  • ロシアのシリア介入戦略の全貌
    ―― そのリスクとベネフィットを検証する

    デミトリ・アダムスキー

    雑誌掲載論文

    シリアを安定化させて、ロシアの地域的プレゼンスを維持できるようにすることを、モスクワはおそらく介入の最終目的に据えている。初期段階ではシリアの沿海部の安全を確保し、この地域での影響力の強化を試みるはずだ。この地域には、ラタキヤやタルトゥースなど、ロシアがこれまでも影響力をもってきた施設がある。とはいえ、モスクワはシリアにおける地上戦の殆どを同盟勢力に委ねるだろう。作戦計画に参加し、情報を共有し、ターゲットを選定するとしても、ロシアの大隊をダマスカスで日常的に見かけるようなことにはならない。・・・地上戦を担うのは、残されたアサドの部隊、イランの革命防衛隊と民兵部隊バスィージ、そしてレバノンのヒズボラだろう。問題は、イスラム国に対する作戦を開始した当初は、この同盟勢力間の連帯を維持できても、作戦が長期化し、特にアサドが支配する地域の安定化が実現すれば、同盟勢力の利益認識が次第に分裂し始めると考えられることだ。・・・

  • シリア紛争と米ロ関係
    ―― 米ロ協調を左右するアサドファクター

    エオドワード・デレジアン

    雑誌掲載論文

    ロシアが唐突にシリアに軍事介入した理由はいくつかある。一つはイスラム過激主義がロシアの南部国境地帯に広がっていくことを懸念したからだ。プーチンはシリアがロシアのイスラム過激主義拡大の拠点になることを警戒している。さらにモスクワはシリアのタルタスにある海軍施設、つまり、ロシアが確保している地中海に面した唯一の不凍港へのアクセスを何としても維持したいと考えている。ここは、ロシア海軍が領海を越えてパワーを展開するための重要な港だ。もっとも、ロシアのシリアへの介入によって、イスラム過激派がロシアを主要な敵に据え、報復のターゲットにする可能性もある。・・・一方、シリア紛争をめぐる米ロ関係の最大の試金石は、バッシャール・アサドの処遇だ。これまでワシントンは、「アサドは解決策ではなく、問題の一部であり、彼が退陣することが前提だ」という立場をとってきた。だが、アサドの退陣を交渉の前提に据えてきたアメリカの態度も次第に軟化してきている。政治体制移行期の「初期段階にはアサドが権力者だとしても、いずれ退陣する」という妥協案が出てくるかもしれない。この意味で、シリア紛争をめぐる地域諸国、イラン、ロシアを含む大国間の外交交渉に向けた国際環境が生まれつつある。

  • ウクライナの混迷とシリア介入
    ―― プーチンの策謀に欧米はどう対処すべきか

    ミッチェル・オレンシュタイン

    雑誌掲載論文

    なぜプーチンはシリア紛争に軍事介入したのか。第1の目的は、ウクライナという言葉を新聞のヘッドラインから消すことだ。モスクワの外交担当者たちは、ウクライナ問題が国際社会のアジェンダの後方に位置づけられるようになれば、欧米の問題意識も薄れ、最終的に対ロシア制裁も緩和されるのではないかと期待している。第2に、シリアに関与することで、「欧米が取引しなければならない世界の指導者としての地位を再確立できる」とプーチンは考えたようだ。欧米は安易にプーチンの策謀に調子を合わせるのではなく、この「プーチンのあがき」をうまく利用して、ウクライナ問題をめぐってロシアから譲歩を引き出すべきだろう。

  • シリアを擁護するロシアの立場
    ――宗派間抗争と中東の地政学

    ドミトリ・トレーニン

    Subscribers Only 公開論文

    ロシア政府の高官や政府に近い専門家の多くは、昨今における欧米の行動を非常にシニカルにみている。「ワシントンは、エジプトでの影響力を確保しようと古くからの同盟パートナーであるムバラクを見限り、石油契約を維持するためにリビアとの戦争に関与し、アメリカの第五艦隊の基地が存在するという理由でバーレーンへのサウジ介入に見て見ぬふりをした。そしていまや、イランからアラブ世界における唯一の同盟国をとりあげようと、シリアのアサド政権を倒そうとしている」。ロシアはこれらの戦争に直接的な利害は持っていない。だが少なくとも、危険で根拠を失いつつあるかにみえるアメリカの地域戦略の尻馬に乗りたいとは考えていない。・・・モスクワのシリアへの態度は、最近におけるリビアの運命、シリアの反体制派に対する不信、そして、アメリカの意図に対する懸念によって規定されている。

  • ロシアの「内なる外国」北カフカスの混迷
    ―― 終わりなきロシアの内戦

    チャールズ・キング他

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアにおける政治暴力の震源地帯、北カフカス。この地域の混迷にどう対処していくべきか、モスクワは頭を悩ませている。攻撃と報復の連鎖が止まないのは、この地域に流れ込んでいるイスラム過激派のせいなのか、ナショナリズムの高揚が過激な行動を誘発しているのか、それとも、北カフカスの人々がロシアに対して抱く反発が原因なのか。だが、北カフカスをめぐる問題の中枢は、ロシア連邦内でのこの地域の共和国の位置づけられ方にある。北カフカスにおけるテロを一定レベルに抑え込もうとしつつも、モスクワは、この地域で治安と安定を確立できなくても、ロシア人の多くが惨劇に巻き込まれなければ、政治的ダメージは最低限に抑え込めると計算している。現地の展開は現地に委ね、ロシアの有権者がカフカス問題を忘れてくれることを願うこと。これが、モスクワの現在の戦略だ。ロシア政府が現地に代理人、総督を送り込み、力による秩序維持路線をとり続ける限り、この地域は、ツァーリ時代のような「厄介でエキゾチックな帝国の周辺地域」へと回帰していくことになる。

  • なぜ国は分裂するのか
    ―― 国境線と民族分布の不均衡

    ベンジャミン・ミラー

    Subscribers Only 公開論文

    「戦争か平和か」が問われる事態となると、民族集団は、国内のライバル集団よりも、他国における宗教・民族的な同胞と共闘しようとする。ウクライナ市民の多くは、自分たちにとって「異質なロシア」の支配から独立することを望んでいるが、一方でクリミアやウクライナ東部に暮らす人々は、(欧米志向の)「異質なウクライナ」による支配からの解放を望み、ロシアの一部となるか、ロシアと深く結びついた国を作る必要があると考えている。中東でも同じストーリーが展開している。すべてのレバント諸国は、シリアの内戦をめぐって内に分裂を抱えている。スンニ派国家はスンニ派率いる武装勢力に戦士、武器、資金を供給し、シーア派国家は、(シーア派の分派とみなせる)アラウィ派のアサド政権に同様の支援を提供している。こうした国と民族の間の不均衡を解決するには、さまざまな方法があるものの、厄介なのはそのすべてが問題を伴うことだ。

ヨーロッパに忍び寄る権威主義の脅威

  • ヨーロッパのハンガリー問題
    ―― ビクトル・オルバンという腐ったリンゴ

    ダニエル・ケレメン

    雑誌掲載論文

    中国やロシア、あるいはトルコに準じた非自由主義的な国家をハンガリーに建設する」と発言するなど、ハンガリーのビクトル・オルバン首相はこれまでも欧州連合(EU)にとって困惑を禁じ得ない存在だった。彼はハンガリーの司法権の独立やメディアの多様性を攻撃し、選挙制度を操作し、一党独裁の強化を試みてきた。だが現在の難民危機におけるオルバンの冷淡で短絡的な対応からみて、もはや彼は「困惑を禁じ得ない」どころか人権と人間の尊厳を重視するEUの「名折れ」的な存在だ。疲れ果てた難民を路上に放置し、残りは汚い収容施設へ送り込んでいる。セルビアとの国境沿いに有刺鉄線のフェンスを設置し、これを不満として集まってきた難民たちには放水銃や催涙ガスさえ浴びせかけた。ヨーロッパの指導者たちは、一丸となってオルバンのレトリックと政策を糾弾しなければならない。そうできなければ、ヨーロッパの腐ったリンゴがますます増えていくことになる。

  • プーチンを支えるイワン・イリインの思想
    ―― 反西洋の立場とロシア的価値の再生

    アントン・バーバシン他

    雑誌掲載論文

    イワン・イリインは歴史上の偉大な人物ではない。彼は古典的な意味での研究者や哲学者ではなく、扇動主義と陰謀理論を振りかざし、ファシズム志向をもつ国家主義者にすぎなかった。「ロシアのような巨大な国では民主主義ではなく、(権威主義的な)『国家独裁』だけが唯一可能な権力の在り方だ。地理的・民族的・文化的多様性を抱えるロシアは、強力な中央集権体制でなければ一つにまとめられない」。かつて、このような見方を示したイリインの著作が近年クレムリン内部で広く読まれている。2006年以降、プーチン自ら、国民向け演説でイリインの考えについて言及するようになった。その目的は明らかだ。権威主義的統治を正当化し、外からの脅威を煽り、ロシア正教の伝統的価値を重視することで、ロシア社会をまとめ、ロシアの精神の再生を試みることにある。・・・

  • ハンガリーの独裁者
    ―― ヴィクトル・オルバンの意図は何か

    ミッチェル・A・オレンシュタイン他

    Subscribers Only 公開論文

    ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、国内で民主的制度を傷つける政策をとり、対外的にも第一次世界大戦後に喪失した領土の回復を模索するかのような路線をとっている。「外国で暮らすハンガリー系住民にパスポートを発行し、投票権を与えること」を目的に一連の法律を成立させた彼は、周辺国の同胞たちに自治権を模索するように呼びかけている。モスクワがウクライナやアブハジアのロシア系住民にロシアの市民権を与えたことが、その後の侵略の布石だったことを思えば、オルバンの言動に専門家が戦慄を覚えたとしても不思議はない。だが、彼の意図は、ウラジーミル・プーチンのそれとは違うようだ。民族主義の視点から失われた領土を取り戻すことよりも、オルバンはむしろ選挙での政治的優位を確保することを重視している。問題は、これまでのところ彼の戦略が機能しているとはいえ、いずれそのデリケートなバランスが崩れるかもしれないことだ。

  • プーチンの思想的メンター
    ―― A・ドゥーギンとロシアの新ユーラシア主義

    アントン・バーバシン他

    Subscribers Only 公開論文

    2000年代初頭以降、ロシアではアレクサンドル・ドゥーギンのユーラシア主義思想が注目されるようになり、2011年にプーチン大統領が「ユーラシア連合構想」を表明したことで、ドゥーギンの思想と発言はますます多くの関心を集めるようになった。プーチンの思想的保守化は、ドゥーギンが「政府の政策を歴史的、地政学的、そして文化的に説明する理論」を提供する完璧なチャンスを作りだした。ドゥーギンはリベラルな秩序や商業文化の破壊を唱え、むしろ、国家統制型経済や宗教を基盤とする世界観を前提とする伝統的な価値を標榜している。ユーラシア国家(ロシア)は、すべての旧ソビエト諸国、社会主義圏を統合するだけでなく、EU加盟国のすべてを保護国にする必要があると彼は考えている。プーチンの保守路線を社会的に擁護し、政策を理論的に支えるドゥーギンの新ユーラシア主義思想は、いまやロシアの主要なイデオロギーとして位置づけられつつある。・・・・

  • ロシア・ユーラシアニズムと「反西欧」の構図

    チャールス・クローバー

    Subscribers Only 公開論文

    ユーラシアニズムとは、「西欧とは異なるロシアのユニークなアイデンティティを確立させようとする試みのことで、ユーラシア中枢に位置するロシアを起点に南や東へと目を向け、この巨大大陸の東方正教会系の民族と、イスラム人口を地政学的観点から一つにまとめあげる」ことを構想している。具体的には、「国内の経済政策面では左派よりで、対外政策面でアラブ諸国を助け、東方世界に傾斜し、旧ソビエト地域の統合を強化する政策である」。すでにロシア共産党のジュガーノフ委員長や、プリマコフ首相は、ユーラシアニズムという理念を政治外交の世界で具体化させ、少なくとも、国内政治そして一部外交面でも勝利を収めつつある。伝統主義と集団主義をつうじて、ユーラシアにおける民族集団を一手に取りまとめ、反リベラル・反欧米のスタンスで大同団結させようとするこのロシアの試みは、「西欧(WEST)」、そして世界にとってなにを意味するのだろうか。

  • ユーラシアで進行する露欧中の戦略地政学
    ―― 突き崩されたヨーロッパモデルの優位

    アイバン・クラステフ他

    Subscribers Only 公開論文

    ベルリンの壁崩壊以降、ヨーロッパはEUの拡大を通じて、軍事力よりも経済相互依存を、国境よりも人の自由な移動を重視する「ヨーロッパモデル」を重視するようになり、ロシアを含む域外の近隣国も最終的にはヨーロッパモデルを受け入れると考えるようになった。だが、2014年に起きたロシアのクリミア侵攻によってその前提は根底から覆された。しかも、ウクライナへの軍事援助をめぐって欧米はいまも合意できずにいる。一方でプーチンは、ハンガリーを含む一部のヨーロッパ諸国への影響力を強化し、ユーラシア経済連合構想でEUに対抗しようとしている。だが、ウクライナをめぐるロシアとの対立にばかり気をとられていると、思わぬ伏兵・中国に足をすくわれることになる。海と陸のシルクロード構想を通じて、ユーラシアを影響圏に組み込もうと試みる中国は、ウクライナ危機が進行するなか、すでに東ヨーロッパでのプレゼンスを高めることに成功している。

  • 対ロ新冷戦とヨーロッパの漂流
    ―― オバマはなぜロシアの侵略を予見できなかったか

    アン・アップルボーム

    Subscribers Only 公開論文

    「欧米はロシアに嘘をついてきた。NATOは今もロシアにとって脅威だ。・・・たとえ欧米がロシアの天然ガスに背を向けても、ロシアには東アジアに多くの潜在的顧客がいる」。すでに2009年の段階で、ロシアのラブロフ外相はこう語っていた。しかしオバマ政権は、「ヨーロッパは安全で退屈な場所で、真剣に議論すべき対象というより、記念写真に収まるサイト」としか考えていなかった。そしてウクライナ危機が起きた。それでも、オバマは危機を一貫してヨーロッパの地域問題と表現し、距離を置いた。いまやロシアの影響力が高まっているのは旧ソビエト地域だけではない。ロシアはヨーロッパの反EU・反NATO政党を資金面で支援し、ヨーロッパを内側から切り崩そうとしている。しかも、ヨーロッパはギリシャの債務問題とイギリスのEU離脱を問う国民投票、そして大規模な地中海難民の問題に翻弄されている。・・・

  • 欧州連合を崩壊から救うには
    ―― 緊縮財政から欧州版三本の矢へ

    マティアス・マティス他

    Subscribers Only 公開論文

    いまやヨーロッパ市民はヨーロッパ統合プロジェクトの成果を忘れ去り、EUのことを無能な指導者が率い、経済的痛みを市民に強いる組織だと考えている。かろうじて持ち堪えてはいるが、EUは勢いとソフトパワーを失っている。いまや大胆で奥深いアジェンダを掲げるときだ。先ず経済政策の焦点を緊縮財政から投資と成長へと見直していくべきだ。EUの指導者たちは日本の安倍晋三首相が試みている「3本の矢」に目を向け、量的緩和、景気刺激策、構造改革を組み合わせて実施する必要がある。安全保障と自由主義的価値の領域では、外にロシア、内にハンガリーという脅威を抱え、イギリスのEU脱退という問題にも直面している。だが危機を連帯の機会とみなすべきだ。EUの指導者たちは、経済、安全保障、民主主義をめぐって連帯すればヨーロッパはより強くなれるという自信を取り戻す必要がある。

  • 移民問題とヨーロッパの統合
    ―― 通貨危機から難民危機へ

    セバスチャン・マラビー

    Subscribers Only 公開論文

    現状では、難民受け入れをドイツが主導し、一方で、東ヨーロッパ、中央ヨーロッパ諸国はこれに否定的だ。いずれにせよ、ヨーロッパの難民危機は、今後当面続く。シリアだけでも、すでに400万人が国を後にし、700万人が国内避難民と化している。これまでのところ、シリア難民のごく一部がヨーロッパの海岸に押し寄せているに過ぎない。欧州連合(EU)がこの課題への集団的対応策を見いだせなければ、非常に無様な疑問が浮上することになる。ヨーロッパの国境線が抜け穴だらけになった場合、EUメンバー国は「域内の自由な人の移動」へのコミットメントを維持できるだろうか。移民の流れをうまく管理できなければ、ヨーロッパの有権者のヨーロッパ統合への熱意がさらに揺るがされることになりかねない。

  • 気候変動と次の難民危機
    ―― 沈みゆく島嶼国の運命

    パトリック・サイクス

    雑誌掲載論文

    科学者たちは、ツバルは今後50年で完全に水没し、モルジブが水没するまでの猶予はあと30年と予測している。これらの島に住めなくなるとすれば、その近隣の島も同じ運命を辿る。太平洋の22の島国で暮らす920万人、そしてモルジブ諸島の34万5000人が住む場所を失う。ヨーロッパの海岸に押し寄せる大規模な難民ほど、海面水位の上昇がメディアの関心を引くことはないが、国家と領土が海面下に姿を消し、消失するというかつてない事態の帰結は、ヨーロッパの難民危機同様に深刻なものになる。最大の問題は、気候変動難民の場合、国と主権を完全に失ってしまうことだ。難民の受け入れ国は、入国を認めようとしている人物が誰なのか、その母国が消失しているとすれば、一体誰が彼らに責任を負うのかを考え込むことになるだろう。気候変動がすすむなか、国の存続と海洋境界線の安定した存続を想定する国際法は過去の遺物と化しつつある。・・・

TPPとインド太平洋のグレートゲーム

  • TPP批准に向けた最後のハードル
    ―― 米議会と産業界の曖昧な立場

    リチャード・カッツ

    雑誌掲載論文

    現状では、TPPが米議会で批准されるかどうか、仮に批准されるとしても、それがいつになるのかさえ分からない。ビジネス・コミュニティのTPPへの立場は分裂しているし、圧力団体の巻き返し策も軽くみてはならない。共和党指導者が沈黙を守る同僚議員たちに熱心に働きかけなければ、TPPは批准されないかもしれない。反対派の一部は、オバマ政権であれ次期政権であれ、米政府は再交渉を相手国に強要できると確信している。自由貿易の支持派の多くも、かつてのように「自由貿易は貿易相手国を繁栄させることで、アメリカも恩恵を引き出せる」とは考えていない。彼らは米企業に都合がよいように外国市場を開放させることしか考えていない。すでに十分に市場開放されているアメリカにとって、できることはほとんど残されていないと考えている。このような自己中心的な幻想に貿易相手国は強い反発を示すことになるだろう。

  • 新グレートゲーム
    ―― インド太平洋をめぐる中印のせめぎ合い

    ラニ・D・ミューレン他

    雑誌掲載論文

    中国が「マラッカ・ジレンマ」への対策を取り始めたことがインド太平洋の海洋秩序を揺り動かしている。中国のインド太平洋へのアクセスはマラッカ海峡を経由するルートに限られ、そこにたどり着く途上でも近隣諸国との領有権論争をあちこちに抱えた南シナ海を航行しなければならない。これがマラッカ・ジレンマだ。中国が南シナ海に滑走路付きの人工島を造成したのも、国連海洋法条約が認める以上のこれまでよりも広範囲の排他的経済水域を宣言したのも、そして南アジア諸国との関係を強化しているのも、このジレンマを克服しようとしたからだ。一方、中国がパキスタンとの同盟関係を軸に陸海の双方から対インド包囲網を築くつもりではないかと懸念するインドも、アクトイースト戦略を通じて、インド洋沿岸諸国との関係を拡大し、中国がインド洋での永続的なプレゼンスを確立するのを阻止しようと試みている。いまや、インド太平洋では新しいグレートゲームが展開されている。

  • 遠大な対外経済構想の真意は何か
    ―― 中国が新秩序を模索する理由

    ロバート・ホーマッツ他

    Subscribers Only 公開論文

    「グローバルなルールは中国にとって好ましいものであるべきだし、少なくとも中国の利益やモデルにとって敵対的なものであってはならない」と北京は考えている。こうして、北京は、もっと自国の利益に合致するものへとシステムを変化させることに同意してくれる同盟国作りを(一連の構想を通じて)試みるようになった。もちろん、中国のモデルが、市場重視型のアメリカモデルとは違って、国を中心に据えたものであることを忘れてはならない。(R・ホーマッツ)

    アジアの経済領域におけるアメリカの力は、その融資能力よりも、われわれの統治モデルとその価値に根ざしている。「良き統治」に向けた改革をめぐってわれわれは大きな役割を果たすべきで、これに大きな予算は必要ない。(法の支配を含む)相手国の統治能力が強化されれば、長期的な投資をする民間資本が流れ込むようになる。統治環境、政治・規制環境を整備しない限り、(いくら資金を注ぎ込んでも)中国のやり方はうまく機能しないだろう。(O・ウェシングトン)

  • 中国の新シルクロード構想
    ―― 現実的な構想か見果てぬ夢か

    ジェイコブ・ストークス

    Subscribers Only 公開論文

    シルクロード構想は、アメリカのアジア・リバランシング戦略への対抗策として考案された。陸と海の新シルクロードに沿って巨大な経済圏を形成しようとする、一帯一路とも呼ばれるこの構想は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)による資金的裏付けをもち、中国の政治・経済エリートにも支持されている。相手国のインフラ整備を助けるだけでなく、中国(の国有企業)が抱え込んでいる過剰生産能力のはけ口としての外国市場を切り開き、人民元の国際的役割を強化できる可能性もある。いずれ、中国が主要な役割を担う非欧米型国際ネットワークの構築という北京の野望を実現する助けになるかもしれない。しかし、この構想は、ロシアのユーラシア経済連合、インドの対外構想と直接的に衝突するし、結局は、アフリカや中東での紛争に引きずり込まれ、中国のパワーを時期尚早に広く薄く拡散させることになるだろう。・・・

  • 中央アジアで衝突する米中のシルクロード構想

    ジェームズ・マックブライド

    Subscribers Only 公開論文

    古代シルクロードによって中央アジアは世界最古のグローバル化の中枢地域となった。西と東の市場がつながったことで膨大な富が生み出されただけでなく、文化的・宗教的な規範と伝統が双方向へ拡散した。・・・しかし、16世紀までには、アジアとヨーロッパの陸上貿易は、より安価で時間もかからない海洋貿易ルートへとほぼ移行していた。現在の中央アジアは世界的にみても地域統合の遅れている地域の一つで、それだけに中央アジア地域を経済的に統合していけば、大きなポテンシャルを開花させられる可能性がある。この地域を重視しているのは新シルクロード構想を表明した中国だけではない。アメリカも新シルクロード構想を通じて、中央アジア地域への関与を深めている。インドもロシアも独自の中央アジア構想をもっている。それぞれの構想がどのように交わり、衝突するかによって、今後の中央アジア秩序が描かれることになるだろう。

  • エボラ危機対策の教訓(上)
    ―― なぜWHOは危機対策を間違えたか

    ローリー・ギャレット

    雑誌掲載論文

    人類が初めてエボラ出血熱に遭遇したのは1976年。ザイール(現コンゴ)のヤンブク村とその周辺地域においてだった。未知の忌まわしい疾患に感染した人は内出血を起こし、高熱を出して幻覚に襲われ、なかには気が触れたような行動をとる人もいた。その多くが死亡した。19年後、2度目の深刻なエボラ危機が再びザイールで起きた時も、依然として、ワクチンも治療法も、現地で利用できる診断キットもなかった。防護服は不足していたし、現地には医療システムも、訓練された医療関係者もいなかった。そして、2014年に再びアウトブレイクが起きた。3月半ばにエボラウイルスの感染が急拡大した後、4月上旬までに感染は下火になっていた。この段階で、世界保健機構(WHO)も米疾病管理センター(CDC)もアウトブレイクは収束しつつあると状況を誤認してしまった。だがそれは、小康状態に過ぎなかった。ウイルスは公衆衛生当局の監視の目の届かないところに潜伏し、歴史上、最悪のエボラ危機を引き起こすチャンスを窺っていた。・・・

  • エボラ・アウトブレイク
    ――感染の封じ込めを阻むアフリカの政治と文化

    ジョン・キャンベル他

    Subscribers Only 公開論文

    感染者が大量に出血しているときには、内部だけでなく、体外にも出血する。目、鼻、口、肛門、性器などのあらゆる部分から出血し、体液が出てくる。これらにウイルスが含まれている。この意味で、感染者の隔離、遺族たちが死体と接触しないようにすること、土葬ではなく火葬にすること、そして土葬せざるを得ない場合も地中深くに死体を埋めて、いかなる人物もウイルスに感染しないようにすることが重要だ。・・・だが現地の文化的伝統、風習がこれを阻んでいる。・・・医療関係者たちは、社会的に孤立し、現地の人々から軽蔑され、嫌われていると感じている。(L・ギャレット)

    ギニア、シエラレオネ、リベリアは非常に弱い国家であることを認識する必要がある。いずれも長く続いた内戦を経験している。これらの地域の一部は、政府の指令を徹底できない状態にある。これら3カ国が急速な都市化を経験していることにも目を向ける必要がある。ますます多くの人が・・・都市部のスラムでひしめき合うように暮らしている。この環境では、エボラ出血熱に限らず、あらゆる病気が蔓延しやすい。(J・キャンベル)

  • 価値なき同盟国は見捨てよ
    ―― パキスタンへの強硬策を

    C・クリスティーン・フェア他

    雑誌掲載論文

    パキスタンはアフガンでもインドでも、武装集団を使って長く策謀を巡らしてきた。これらの武装集団のおかげで、パキスタンは正規兵を配備するリスクを回避するとともに、もっともらしい理由を付けて紛争やテロへの自らの関与を否定することもできた。また核兵器を保有しているおかげで、武装集団を利用して近隣国(とりわけインド)を攻撃しても、報復を恐れる必要もなかった。一方で、その実態がパキスタン政府や軍の代理組織、傀儡組織であるにも関わらず、これら「その行動を制御できない」武装集団の脅威を理由に、外国に援助をたかってきた。もうこの事実に目を背けるのは止めるべきだ。パキスタンは同盟国でもパートナーでもなく、敵対国だという認識を前提にした関係への仕切り直しが必要だ。ワシントンは民生部門への援助は続けても、パキスタンの偉ぶった軍事エリートたちへの援助に終止符を打つ必要がある。

  • クルド人の政治的連帯とトルコの未来

    ソーナー・カギャプタイ

    雑誌掲載論文

    これまで長期にわたって、トルコのクルド人コミュニティは、政治的に分裂し、全国レベルの運動としてまとまりをもっていなかった。だがエルドアンが、イスラム国の攻勢にさらされるシリアのクルド人の窮状に「様子見」を決め込んだことが、トルコのクルド人の怒りを買い、政治的に連帯させた。いまやクルド人は政治的立場の違いよりも、民族を軸にまとまるようになり、その大多数が人民民主主義党(HDP)という一つの政党に投票するようになった。こうしてHDPはトルコ議会で3番目に大きな勢力に浮上し、クルド人はすでに政治的影響力を手に入れている。もはやトルコ政府も包括的な権利と政治への参加を求めるクルド人の要求を無視できなくなっている。問題は、エルドアンが自分のやり方を強要するという姿勢を崩していないことだ。

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