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国防と安全保障に関する論文

サウジはなぜカタールに強硬策をとったか
―― カタールの独自外交とアルジャジーラ

2017年7月号

デビッド・B・ロバーツ キングスカレッジ・ロンドン 助教授

国営のカタール・ニュースエージェンシー(QNA)は、タミル首長の一連の挑発的な発言を紹介した後、「カタールを陥れるバーレーン、エジプト、クウェート、サウジ、アラブ首長国連邦による陰謀を突き止めた」とするツイートを流している。その後ドーハは「カタールのニュースエージェンシーは、周到に計画されたハッキング被害に遭った」と主張し、米FBIもこの事実を事後的に確認したが、断交という抜いた刀をサウジが鞘に収める気配はない。サウジを含む湾岸の君主諸国が今回なぜカタールに圧力をかけているのか、その理由ははっきりしない。だが、アルジャジーラでアラブの独裁体制を揺るがし、ムスリム同胞団を支援してエジプト政府と敵対し、イランとも接触してきたカタールにサウジがこれまで同様に手を焼いているのは事実だろう。米軍基地を受け入れ、天然ガス資源を世界に供給しているとしても、時間が経過するにつれてカタールはさらに追い込まれていく。・・・

シリア東部をめぐる米ロ・イランの攻防
―― シリアにおける政治ゲームの始まり

2017年7月号

アンドリュー・タブラー ワシントン近東政策研究所  シニアフェロー

イラクと国境を接するシリア東部をめぐる攻防戦が始まっている。すでにアメリカは4月にアサド政権をミサイル攻撃しただけでなく、5月には親アサド勢力を空爆し、シリアのクルド人勢力への軍事援助の強化を発表している。ロシアとイランも、シリア東部におけるイスラム国勢力の崩壊によってシリア政府が失地を回復するチャンスがもたらされると考え、アサド軍支援を強化している。特にテヘランはイランからイラク、シリア、そしてヒズボラが支配するレバノンをつなぐシーア派の回廊を形成することを狙っている。当然、米ロの安全に関する覚書が、今後シリアにおいて試されることになるし、控えめにみても偶発事故が起きる危険は高まっている。いまやアメリカとその同盟国諸国の部隊が、アサドの部隊だけでなく、アサドを支えるロシアやイランの部隊と直接的軍事衝突に巻き込まれる恐れが出てきている。

情報機関と米大統領
―― 相互信頼の再確立を

2017年7月号

ジャミ・ミシック 前CIA副長官

進行中の作戦や外交交渉がどのような状態にあるかを知らなければ、情報コミュニティが提供する情報が高官たちの必要性を満たすことはなく、無意味だと切り捨てられる。しかも、高官たちが情報を必要とするタイミングも限られている。何かに対する警告を発しても、時期尚早なら相手にされず、タイミングを逃せば情報機関の失態として批判される。もっとも大切なのは、危機に直面する前から、大統領を含む政府高官と情報コミュニティ間のスムーズに機能する実務的関係を築き、信頼を育んでおくことだ。政策決定者が情報プロフェッショナルを誤解していれば、国家安全保障が脅かされる。一つの真実を追い求める情報プロフェッショナルたちの仕事へのより奥深い理解と評価をもつことで、大統領と政府高官たちはその関係の絶妙のバランスを取り戻す必要がある。

軍隊と経済的技術革新
―― なぜイスラエル軍は経済に貢献できるのか

2017年6月号

エリザベス・ブラー アトランティック・カウンシル 非常勤シニアフェロー

「徴兵された若者たちにとって、イスラエル国防軍・技術諜報部門での経験はハーバード大学で学んでいるようなものだ」。(国防軍でスキルを学び)ネットワークを形作り、いずれ、ともにビジネスをするようになる。徴兵した兵士たちにイスラエル国防軍が与える訓練はイスラエル経済に大きな恩恵をもたらしている。実際、ブームに沸き返るイスラエルのハイテク部門の多くを軍出身者たちが支えている。兵役を経験しているイスラエル人が成人人口の60%なのに対して、ハイテク部門人材に占める兵役経験者の比率は90%に達している。例えば、若年労働者の失業率が高く、持続可能な雇用を創出する方法を模索しているヨーロッパは、イスラエルのやり方に学ぶことができる。イスラエルの実例から適切な教訓を引き出して応用すれば、世界の多くの国が、近い将来に、兵役を終えた若者たちが軍隊で身に付けた人的資本、社会資本、文化資本を生かして、民間部門との絆を形作っていくだろう。

エルドアンとトルコ社会の分裂
―― 今も続くクーデター未遂事件の余波

2017年6月号

マイケル・J・コプロー イスラエル政策フォーラム 政策ディレクター

大統領権限の強化の是非を問う国民投票でエルドアンは勝利を収めたが、イスタンブール、アンカラ、イズミールという3大都市は、いずれも憲法改正にノーという答を出した。反憲法改正派は「(国民投票は)エルドアンにとって僅差での勝利だったのだから、彼もこれまでの立場を譲るのではないか」と期待していたが、そうなるはずはなかった。むしろ、エルドアンは分裂をさらに深刻にするために、あらゆることを試みていくはずだ。「クーデターを画策するギュレン運動の関係者やクルド労働者党(PKK)との戦いに勝利を収めるには、憲法を改正して、大統領の権限を強化する必要があり、憲法改正に反対するのはテロリストを支持するようなものだ」と彼は主張してきた。ジャーナリスト、アカデミックな研究者、忠誠が十分でない政府役人に対する弾圧は、今後ますます熾烈を極めるだろう。エルドアンはトルコ市民が国民投票で決めた新しい大統領制を支持しない者は、反逆的な主人(ギュレン)に仕える反乱者と決めつけている。・・・

社会科学を覆した2人のイスラエル人学者
―― トベルスキーとカーネマン

2017年6月号

ユエンフーン・コン シンガポール国立大学教授(政治学)

カーネマンとトベルスキーという2人の偉大な心理学者は、人間の思考プロセスに欠陥があることを発見した。その一つが、自分の先入観に適合するかどうかによって物事を判断する「認識の近道」だ。2人の研究にノーベル賞の価値があるのは、合理的なアクターという経済学の大前提に疑問を投げかけ、人間の思考プロセスについてもっと現実的な説明をしたことにある。2人は、人間が確率を考えるときに抱く体系的なバイアスを発見し、経済学、医学、法学、公共政策の研究と実践に革命を起こした。政治家の外交的判断も例外ではない。なぜジョンソン大統領はベトナムへの介入強化の決定をしたのか。朝鮮戦争やミュンヘンの宥和のような、間違った先例に介入の根拠を見出したのは、人間が出来事や人を、自分の先入観に適合するかどうかによって評価する「認識の近道」が引き起こした弊害だった。・・・

北朝鮮に対する強硬策を
―― 外交やエンゲージメントでは問題を解決できない

2017年6月号

ジョシュア・スタントン 弁護士
サン=ヨン・リー タフツ大学フレッチャースクール 教授
ブルース・クリングナー ヘリテージ財団 シニアリサーチフェロー

金正恩は「父親と祖父が数十億の資金と数多くの人命をつぎ込んできた核の兵器庫を完成させることで、自分の政治的正統性が確立される」と考えている。仮に核の解体に応じるとすれば、体制の存続そのものを脅かすような極端な圧力のもとで、それに応じざるを得ないと考えた場合だけだろう。外交やエンゲージメントがことごとく失敗してきたのは、平壌が核の兵器庫を拡大していくことを決意しているからに他ならない。あと少しで核戦力をうまく完成できるタイミングにあるだけに、平壌が核・ミサイル開発プログラムを断念するはずはなく、交渉を再開しても何も得られない。北朝鮮の非核化を平和的に実現する上で残された唯一の道筋は「核を解体し、改革を実施しない限り、滅亡が待っている」と平壌に認識させることだ。ワシントンは「平壌が核兵器以上に重視していること」を脅かす必要がある。それは北朝鮮体制の存続に他ならない・・・

対北朝鮮政策における韓国ファクター
―― 韓国政治の流動化と対北朝鮮戦略

2017年6月号

サン=ヨン・リー タフト大学フレッチャースクール教授(朝鮮半島研究)

北朝鮮が好戦性を高める一方で、国内政治の流動化によって韓国の危機対応能力が損なわれている。この現状が続けば、金正恩の攻撃性に対処し、北朝鮮の抑圧状況を緩和するように圧力をかける主な役割をアメリカが担わなければならなくなる。ワシントンが強制的な措置と外交・抑止政策、さらには、北朝鮮社会に外の世界の情報を拡散するキャンペーンを組み合わせれば、韓国の新大統領が対北朝鮮圧力を緩和するのを牽制することにもなる。韓国政府が北朝鮮宥和策に傾斜した場合に生じる「空白」をワシントンが埋めなければ、平壌の抑圧政権はさらに基盤を固め、すでに長く困難な状況におかれている北朝鮮民衆をさらに苦しめることになる。

トランプとサウジアラビア
―― リヤドとの関係を見直すには

2017年5月号

マダウィ・アル=ラシード ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス  客員教授

イランに対してどのような路線をとるにせよ、トランプ米大統領は、「サウジとの特別な関係」の重要な側面の一部を見直す必要がある。依然としてサウジは国内で抑圧を続け、女性の権利も十分に認めていない。イエメン、シリアその他への対外軍事介入は、すべてライバルであるイランを意識したものだ。実際、ワシントンはサウジへの無条件の支援は控えるべきだろう。そうした路線は、リヤドの行き過ぎた行動の正当化に力を貸し、「ワシントンは独裁体制を支援している」という批判を招き入れることになる。無論、リヤドとの関係を断ち切るべきではない。それでも、アメリカの利益を守る形で関係の再定義を試みる必要がある。

トランプ時代のアジア
―― アジアを犠牲にした米中合意はあり得ない

2017年5月号

ビラハリ・コーシカン シンガポール外務省無任所大使

北京の高官の一部は、中国を頂点とする地域的ヒエラルヒーを再建して伝統的な中華秩序を再現することを望んでいるようだ。そのためには、アジアからワシントンの影響力を取り除き、その空白を中国自身が埋めなくてはならない。だがこの場合、アメリカとの同盟関係が頼りにならないと判断した日本が核武装する可能性は十分にある。日本が核兵器を獲得すれば、韓国、そして台湾もそれに続く強いインセンティブをもつようになる。中国はそのような事態は何としても避けたいはずだ。こう考えると、アジア秩序が中華秩序に置き換えられていくことも、アジアを互いの影響圏に二分するような大掛かりな米中合意が結ばれる可能性も低い。最終的に、アジアはかつて変化に直面したのと同じように「適応」を通じてトランプ政権に対応していくことになるだろう。

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