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政治・文化・社会に関する論文

北京の反独占禁止策?
―― 中国のビッグテックと産業政策

2021年3月号

ジョシュ・フリードマン  ハーバード大学博士候補生(政治学)

専門家の多くは、アリババやテンセントなど、中国のビッグテックによる市場独占を阻もうとする北京の熱意を、フェイスブックやアップルを何とか抑え込もうとする欧米の試みと重ね合わせて捉えている。だがそれは、間違いだ。北京が警戒しているのは市場独占による圧倒的なパワーそのものではない。北京は、イノベーションの方向性への統制を強化し、民間大企業のパワーを共産党の産業政策の目的実現へと向かわせたいと考えている。北京が望んでいるのは党が望むイノベーションの方向に民間企業を従わせ、巨大企業が収益拡大のために党の方向から外れないようにすることにある。

カルト集団とポスト真実の政治
―― アメリカの政治的衰退

2021年3月号

フランシス・フクヤマ スタンフォード大学 「民主主義・開発・法の支配」センター所長

ソーシャルメディアは民主的議論の前提となる共通の事実認識さえ消滅させてしまった。実際、共和党員の77%が2020年の米大統領選挙で大きな不正があったと考え、4分の1近くが、Qアノンが主張する異様な陰謀論を信じている。しかも、民主党、共和党の政策の違いをめぐる対立が、文化的アイデンティティをめぐる分断線として硬直化している。そして、共和党はもはやアイデアや政策に基づく政党ではなく、カルト集団のような存在と化してしまった。大きな不確実性は、今後、共和党内で何が起きるかにある。共和党の主流派が権限を再確立するのか、それともトランプが基盤を維持するのか。

CFR in Brief
民主主義とポピュリズム
―― トランプ後のアメリカ

2021年2月号

ヤシャ・モンク  ジョンズ・ホプキンス大学高等国際研究大学院 准教授

トランプが(選挙は盗まれたという)大統領選挙に関する自分の嘘を多くのアメリカ人に真実だと思い込ませ、対立候補の当選が認定されることに抗議して何万人もの支持者を動員できたという事実は、かなり多くの人がこの種のポピュリズムのアピールを受け入れていることを意味する。「大統領か憲法か」の選択に直面して、彼らはトランプを選んだ。しかし、米議会を襲撃した暴徒をアメリカの真の姿とみなしてはならない。バイデンは、トランプの反民主的な過激主義を非難する上で明確かつ率直でなければならない。しかし一方で、トランプに投票した人々のことを、救いようのない嘆かわしい人々と描写することなく、危険なデマゴーグへの忠誠を放棄するようにアプローチし、「すべてのアメリカ人の大統領になれること」を立証しなければならない。

「自由世界」の連帯と組織化を
―― 権威主義の脅威に対処するには

2021年2月号

アレクサンダー・ビンドマン  前国家安全保障会議 ディレクター(欧州担当)

長く、民主主義(と民主国家)のことを、自国を脅かす実存的脅威とみなしてきた中国、ロシアなどの権威主義国家がいまや攻勢に出ている。国際ルールや欧米のリベラルな価値を形骸化させ、民主主義を追い込むことで、権威主義的体制の台頭を可能にし、思うままに権力を行使できる国際環境を形作ることを彼らは望んでいる。国内の傷を癒やし、民主主義が世界で直面する脅威を緩和するには、ワシントンは民主的政府を特徴付ける強さを動員し、組織化しなければならない。米新政権は権威主義に対抗するために、民主国家による民主主義のための協調を組織すべきだろう。

次のパンデミックに備えよ
―― グローバルな対応をいかに整備するか

2021年2月号

ジェニファー・ナッゾ  ジョンズ・ホプキンス大学  ヘルスセキュリティセンターシニアスカラー

パンデミックの経済的、社会的余波は、今後数十年は続き、おそらく、今回の危機が21世紀最後のパンデミックになるわけでもないだろう。現在の公衆衛生構造は「感染症の(局地的な)アウトブレイク」を前提としている。だが「世界のほぼすべての国が同じようにリスクにさらされるパンデミック」には別のアプローチが必要になる。事実、パンデミックを前に、限られたリソースしかもっていない世界保健機関(WHO)、世界銀行などの国際機関が大きな圧力にさらされた結果、各国は独力で感染症対策を実施せざるを得ない状況に追い込まれた。パンデミックに対する真のグローバルな対応を実現するには、各国はデータ共有を含めて、共同の試みをすることに合意しなければならない。そうしない限り、次の危機でも、対応が小さすぎて、遅すぎることが立証されることになる。

なぜリベラルな国際主義は破綻したか
―― ウィルソン主義の終わり

2021年2月号

ウォルター・ラッセル・ミード  バード大学教授(外交・人文学)

現代の世界政治でもっとも重要な事実とは、ウィルソン主義の崇高な試みが失敗に終わったことだろう。法に基づく普遍的な秩序が国家間の平和と国内における民主主義を保証するという夢はもはや重視されなくなり、今後、現実味を失っていくだろう。もっとも、ウィルソン主義とはヨーロッパ特有の問題に対するヨーロッパ特有の解決策だったわけで、それがグローバルな規範だったわけではない。いずれにせよ、米大統領が自由主義的な国際主義の理念に基づいて外交政策を策定できる時代が近い将来に再現されることはおそらくないだろう。

産業政策と自由貿易の両立を
―― トランプ後の貿易政策と新産業政策

2021年2月号

シャノン・K・オニール 米外交問題評議会副会長(研究担当)

米企業が特恵的な市場アクセスをもっているのは、世界の消費者の10%未満に過ぎない。対照的に、(TPP11その他に参加している)メキシコとカナダは世界市場の50%以上へのアクセスをもっている。アメリカの競争力を高めるには、自由貿易協定を産業政策の主要な要因と位置づけ、米企業が外国で直面する貿易障壁を引き下げる必要がある。TPP11などのすでに存在する自由貿易合意に参加するとともに、休眠状態にあるヨーロッパとの貿易交渉を再開しなければならない。グローバルな協力と競争、国際市場へのアクセス強化、国内の公共投資を前提に組み立てられた産業政策なら、ワシントンコンセンサスの欠点を緩和し、保護主義に陥ることも回避できるはずだ。

ビッグテックが民主主義を脅かす
―― 情報の独占と操作を阻止するには

2021年2月号

フランシス・フクヤマ スタンフォード大学 フリーマン・スポグリ国際研究所シニアフェロー
バラク・リッチマン デューク大学法科大学院教授 経営学教授
アシシュ・ゴエル スタンフォード大学教授(経営科学)

ビッグテックを抑え込むべきか。その経済的根拠は複雑だが、政治的にはそうすべき説得力に満ちた理由がある。強大な経済パワーを持っているだけでなく、政治的コミュニケーションの多くを管理する力をもっているからだ。つまり、ビッグテックが引き起こす真の危険は、市場を歪めることではなく、民主政治を脅かすことだ。すでにアメリカとヨーロッパの双方で、政府はビッグテックに対する独占禁止法違反の訴訟を開始しており、裁判は今後何年にもわたって続くだろう。だがこのアプローチは最善の方法とは必ずしも言えない。むしろ、この問題に対処できるのはミドルウェアだろう。現在、プラットフォームが提供するコンテンツは、人工知能プログラムによって生成された不透明なアルゴリズムによって決定されているが、ミドルウェアを使えば、ユーザーが管理を取り戻せるようになる。

アジア秩序をいかに支えるか
―― 勢力均衡と秩序の正統性

2021年2月号

カート・M・キャンベル  アジアグループ 議長  ラッシュ・ドーシ  ブルッキングス研究所 中国戦略イニシアティブ ディレクター

ウィーン体制によって1815年から第一次世界大戦までの1世紀に及んだ長い平和の礎が築かれた。大国間政治が激化し、地域秩序が緊張している現在のインド太平洋はウィーン体制の歴史的教訓から多くを学べるだろう。当時も今もいかに勢力均衡を形作り、秩序の正統性を保つかが問われている。北京の行動が、アメリカやアジア諸国の「インド太平洋秩序」のビジョンと衝突するのが避けられない以上、ワシントンはシステムを強化するために他国と協力し、北京が生産的に秩序にエンゲージするインセンティブを与え、一方で中国が秩序を脅かす行動をとった場合のペナルティを他の諸国とともに考案しておく必要がある。秩序のパワーバランスと正統性をともに維持するには、同盟国やパートナーとの力強い連帯、そして中国の黙認と一定の応諾を取り付けておく必要がある。

未来に備える能力の強化を
―― 軍の近代化と産業基盤の再生

2021年1月号

ヒラリー・クリントン 元米国務長官

アメリカはさまざまな脅威に直面しつつも、危険なまでに備えを欠いている。この国の産業や技術上の優位は崩れ、その生命線であるサプライチェーンは危機にさらされ、同盟関係はほころび、政府は空洞化している。必要なのは防衛力の近代化と国内産業基盤の強化で、この二つを組み合わせる必要がある。軍の近代化は、莫大なコスト削減につながり、その余剰資金を、国内における先進製造と研究開発に投じることができる。そうすることで、アメリカがライバル諸国と競争し、気候変動や未来のパンデミックなど非伝統的な脅威に備える助けになる。このように外交政策と国内政策を統合すれば、その双方をより効率化できる。それは、不透明な世界でこの国が再び足場を築いていく助けになるはずだ。

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