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論文データベース(最新論文順)

「だましの時代」のプレイヤーたち
―― 政府とソーシャルメディアの責任

2021年12月号

ジャミール・ジャファー  コロンビア大学 ナイト・ファースト・アメンドメント研究所 エグゼクティブディレクター

アメリカ人は「だましの時代」、嘘がいたるところにあふれる時代に生きている。しかし、言論の自由を認める米憲法修正第一条によって、偽情報を流した本人がその責任を問われることはあまりない。虚偽の主張は言論市場で修正されるほうが好ましいと考えられているからだ。一方で修正第一条は、一定の限界を定めつつも、事実に反する誹謗中傷についての名誉毀損訴訟を許しており、実際には、さまざまな局面で、有力者や政府が嘘を罰することを許している。もちろん、ソーシャルメディアで偽情報を流す人々にも問題はある。だが、政府も偽情報を流しているし、ソーシャルメディア企業も是正すべき問題を抱えている。

米中対立とアジアの軍事化
―― 軍事ファースト路線の弊害

2021年12月号

ヴァン・ジャクソン  在カナダ・アジア太平洋財団特別フェロー

アジアへ米軍部隊を増派して軍備を強化し、同盟諸国に軍備増強を促すことで、ワシントンは地域的緊張を高め、回避可能な紛争リスクを高めてしまっている。しかも、このプロセスゆえに格差や気候変動その他の地域的不安定化要因に非軍事的に対処していく機会を生かすのを実質的に放棄してしまっている。過剰な軍事的アプローチは、戦争や軍拡競争のリスクを高めるだけでなく、アジアの安定と繁栄の見通しを遠ざけてしまう。この地域のゲームでもっとも重要なのは陸軍や海軍ではない。それは経済開発であり、貿易や投資だ。ギアを入れ替えない限り、バイデン政権はアジアにおける次の悲劇の主犯とみなされることになる。

残存する国内ワクチン格差
―― 周辺化されたコミュニティへの国際的対応を

2021年12月号

ダーレン・ウォーカー  フォード財団会長

グローバルな供給量を増やすだけでは、国家間あるいは国内におけるワクチンへの平等なアクセスを提供することはできない。政府や国際機関は、ドナー、市民社会グループ、地域のリーダーたちと協力して、社会から取り残され、周辺化されたコミュニティにワクチンが行き渡るように試みる必要がある。そうしない限り、弱者の多くがワクチンを受けられないままになり、世界全体が再び危険にさらされる。グローバルパンデミックを防ぐには、途上国、特に長く無視され、抑圧されてきた地域の公衆衛生インフラを強化するしかない。このワクチン格差に正面から取り組まなければならないのは、道徳的に問題があるからだけではない。そうすることが公衆衛生や安全のために必要だからだ。


より公平な新経済システムへ
―― 増税と政府による経済管理

2021年12月号

フェリシア・ウォン  ルーズベルト研究所会長

パンデミックはフリードマノミクスをたたきのめす最後の一撃だったのかもしれない。しかし、サミュエルソンがおそらくは認識し、受け入れていたかもしれない「増税と政府による経済管理」という世界もまだ完全には出現していない。この新しいパラダイムが、1940年代のケインズ主義や1980年代のフリードマン的市場経済原理主義のように定着するかどうかは、依然として多くの要因に左右される。新たに形成されつつあるこの枠組みでは、経済と社会の健全性を促進するために、政府にさまざまな役割を担わせることが前提にされている。グリーンエネルギーに投資し、医療、育児、教育などの公共財にもっと多くのコストをかけ、賃金、富、住宅、教育、健康などの分野における人種間の格差を是正していくことが期待されている。

地政学パワーとしてのビッグテック
―― 米中対立と世界秩序を左右するプレイヤー

2021年12月号

イアン・ブレマー ユーラシアグループ社長

ほぼ400年にわたって国家は国際政治の主要なアクターとして活動してきたが、それも変化し始めている。いまやビッグテックは政府に匹敵する地政学的影響力をもち始めている。ビッグテックの地政学的な姿勢や世界観を規定しているのはグローバリズム(アップル、グーグル、フェイスブック)、ナショナリズム(マイクロソフト、Amazon)、テクノユートピアニズム(テスラ)という三つの大きな思想・立場で、国家の立場ではない。国家的な優先事項を追求するために、大国の政治家が巨大テクノロジー企業をたんなる地政学的なチェスの駒として自由に動かせる時代は終わりつつある。テクノロジー企業は名実ともに独立した地政学アクターになり、米中対立だけでなく、今後の秩序を左右する大きな影響力をもち始めている。

膨大な中国の債務問題
―― 恒大集団は氷山の一角にすぎない

2021年12月号

ベン・ステイル  外交問題評議会 国際経済担当ディレクター、 ベンジャミン・デラ・ロッカ   外交問題評議会アナリスト

本来、住宅価格と企業への貸し出しは連動している。景気が良ければ、銀行は企業への融資を増やし、所得が増えた消費者は不動産を購入し、このサイクルのなかで不動産価格は上昇していく。景気が冷え込むと、所得も減り、デフォルト(債務不履行)が増大し、これらのトレンドは逆転する。実際、アメリカでは何十年にもわたってこのような状況が続いてきた。しかし、中国では事情がまったく違う。2012年に習近平が権力を掌握して以降、中国の住宅価格と銀行の企業向け融資は連動していない。一方が上がればもう一方は下がり、逆もまた真だ。これは習近平期の中国における融資総額が、結局、政府のGDP成長率目標(今年は6%)に左右されるためだ。成長率が目標を下回りそうになると、貸し出しと融資を増やして数字が底上げされる。現状で2022年10月に3期目の政権を担うことを習近平がもっとも重視している以上、成長を実現することが最優先とされ、このやり方が続けられるだろう。


ベネズエラのカオス
―― マフィア国家からアナーキーへ

2021年11月号

モイセス・ナイーム  カーネギー国際平和財団 特別フェロー フランシスコ・トロ  グループ・オブ・フィフティ チーフコンテンツオフィサー

絶望が大がかりな人口流出を後押ししている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の推計によると、ベネズエラの国外流出者の数は約540万と、人口の5分の1近くに達する。かつては拡大を続けていた大規模な中間層も事実上消滅し、いまや市民の96%が貧困ライン以下の暮らしをしている。経済は崩壊し、1人当たりGDPは2013年の危機前の4分の1程度に落ち込んだ。ある試算によれば、2012年以降のベネズエラ経済の凋落は、平時の現象として世界的にも先例がない。マドゥロ率いる犯罪集団がどうにかまとまりを維持して内輪もめを回避できるか、それとも、武装犯罪組織の縄張り争いが、国全体をアナーキーな暴力の連鎖に巻き込んでしまうのか。ベネズエラはその瀬戸際にある。・・・

バイデン外交の本質
―― アメリカは信頼できるか

2021年11月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

戦後に形作られた外交パラダイムでは、米国家安全保障は国益を超えたアジェンダを前提にしているとされ、この意味でも、長期的にアメリカの安全保障と繁栄を支えてくれるような国際システムを維持していく必要があると考えられていた。だが、現在の新しいパラダイムではそうした外交アプローチの核心部分が拒絶されている。「より平和で繁栄した未来に向かって、あらゆる人々のために世界を導くのを助ける」というバイデンの公約にもかかわらず、現実には「新秩序の構築と維持という骨の折れる仕事なしで、国際秩序の恩恵を確保したいと望んでいる」。バイデンとトランプの外交政策の間には、一般に認識されている以上に多くの継続性があるし、こうした継続性の重要な要素は、トランプ政権に先立つ、オバマ政権時代から始まっている。・・・

パンデミック対策組織がなぜ必要か
―― パンデミックファンドの創設を

2021年11月号

アンドリュー・C・ハインリッヒ  米上院外交委員会 特別プロジェクト担当ディレクター サード・B・オマー  イェール大学 グローバルヘルス研究所ディレクター

パンデミックは今後ますます頻繁に起きるようになるかもしれない。国際的な旅行や商取引がパンデミック以前の水準に戻れば、感染が拡大するリスクは高くなる。さらに、気候変動を引き起こしている主要な要因である森林破壊が、いわゆる人獣共通感染症の多くと密接に関係していることはすでに明らかにされている。次のアウトブレイクに備え、それに対抗していくことを明確な目的とする恒久的制度・機構を考案し、維持していくべきだ。途上国に支援を迅速に提供し、最先端の研究を促し、人命を救える医薬品生産を加速できるようにしなければならない。そうしない限り、国際社会はさらに壊滅的な被害をもたらす危険のある次のパンデミックに無防備なまま直面することになる。

戦狼外交の正体
―― 中国外交官たちの強硬路線と不安

2021年11月号

ピーター・マーティン  ブルームバーグ・ニュース 防衛・情報担当記者

2008―09年の世界金融危機以降、中国モデルの正しさが立証されたという思い込みから、北京は自己主張の強い外交戦略をとり始めた。2012年に習近平が中国共産党総書記に就任すると、変化は一気に加速した。北京の政府高官たちが習の指示に従ったのは、出世のためだけではなく、恐怖のせいでもあった。実際、政治的背信行為も一種の汚職とみなされた。外交官たちは、外務省での「自己批判」の会だけでなく、党に対する忠誠と命令に従う意志が試される「確認合宿」に参加しなければならなかった。こうして現在の北京は、「世界は北京の方針に適応しなければならない」と決めてかかっているかのような言動をみせるようになった。

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