1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

ロシアの「内なる外国」北カフカスの混迷
―― 終わりなきロシアの内戦

2010年10月号

チャールズ・キング ジョージタウン大学教授(国際関係論)
ラジャン・メノン リーハイ大学教授(国際関係論)

ロシアにおける政治暴力の震源地帯、北カフカス。この地域の混迷にどう対処していくべきか、モスクワは頭を悩ませている。攻撃と報復の連鎖が止まないのは、この地域に流れ込んでいるイスラム過激派のせいなのか、ナショナリズムの高揚が過激な行動を誘発しているのか、それとも、北カフカスの人々がロシアに対して抱く反発が原因なのか。だが、北カフカスをめぐる問題の中枢は、ロシア連邦内でのこの地域の共和国の位置づけられ方にある。北カフカスにおけるテロを一定レベルに抑え込もうとしつつも、モスクワは、この地域で治安と安定を確立できなくても、ロシア人の多くが惨劇に巻き込まれなければ、政治的ダメージは最低限に抑え込めると計算している。現地の展開は現地に委ね、ロシアの有権者がカフカス問題を忘れてくれることを願うこと。これが、モスクワの現在の戦略だ。ロシア政府が現地に代理人、総督を送り込み、力による秩序維持路線をとり続ける限り、この地域は、ツァーリ時代のような「厄介でエキゾチックな帝国の周辺地域」へと回帰していくことになる。

CFRミーティング
財政赤字へのリスク認識が変化しない限り、資金は動かない
――アラン・グリーンスパンとの対話

2010年10月号

スピーカー
アラン・グリーンスパン 前FRB議長
プレサイダー
モティマー・ザッカーマン U・S・ニュース&ワールドリポート理事長

雇用は伸びていないが、企業収益は大幅に改善している。これは生産性の上昇によって単位あたり生産コストが減少していることで説明できる。だが、それが、固定資産投資へとつながっていない。私の試算では4000億ドルの投資が手控えられている。・・・・中央銀行が大規模な資金を金融システムに注入するが、そこから資金が動こうとしない。ケインズは、1936年にこの現象を「流動性の罠」という言葉で表現した。この現象は、アメリカだけでなく、他の先進国にも共通してみられる。リスクに対する心理や姿勢が変化しない限り、資金は動かないだろう。・・・大規模な財政赤字が資本投資をクラウドアウトしている。財政赤字の規模が、資本投資のレベル、特に、固定投資、非流動性資産への投資を左右している(抑え込んでいる)。・・・・日本問題も考えなければならない。いずれ、経常黒字は赤字へと転じ、日本は国際市場から資金を調達しなければならなくなる。・・・

GDPは万能ではない
だが、代替経済指標はあるのか?

2010年10月号

ロヤ・ウォルバーソン
CFR.org Staff Writer

政府は予算を決めるために、中央銀行は金融政策の決定に、金融機関は経済活動を判断するために、そして企業は今後の経済を予測して、生産、投資、雇用の概要を決めるために国内総生産(GDP)を主要な指標として用いてきた。第二次世界大戦後に銀行の取り付け騒ぎ、金融パニック、恐慌が起きる頻度が減少したのは、包括的で正確な経済データがタイミングよくGDPとして提供されるようになったことが一つの理由だ。しかし、GDPでは、経済活動が環境の持続可能性に与える影響などの長期的要因は考慮されないし、所得格差もカウントされない。したがって、GDP成長ばかりを追い求めれば、環境悪化、所得格差の問題が深刻化する可能性があるし、GDPが増大するだけでは、必ずしも人々の幸福感は高まらないとする理論も登場している。GDPは万能ではない。だがGDPをいかに改善すべきか、あるいは、他のアプローチに置き換えるかについて、エコノミストの間にコンセンサスはない。

ワシントンが中東和平プロセスを前進させたいのなら、まず、いかようにも交渉を混乱させる手立てをもつハマスの問題に取り組む必要がある。イスラエルの安全保障を脅かし、パレスチナの政治を左右するという点では、ハマスは実に数多くの選択肢を持っている。したがって、ガザ包囲網を緩和させ、ハマスとの停戦合意の制度化を交渉しない限り、中東和平プロセスはいずれ破綻し、再び戦争が起きて、イスラエルはガザを占領せざるを得なくなる。このジレンマを解く上で注目すべきは、いまやハマスはガザをうまく統治しなければならず、ガザ住民の生活に対して責任を負っていることだ。つまり、ハマスはもう単なる抵抗組織として活動するわけにはいかないのだ。ハマスがイスラエルとの停戦合意の制度化交渉に応じれば、今後、ファタハによるイスラエル交渉路線にも反対できなくなる。ハマスとの交渉は、この意味において、イスラエルとの交渉を成功させることで得られる政治的正統性を必要としているファタハにとっても政治的追い風を作りだす。

レバノン情勢を左右する キープレイヤーたちの思惑はどこに

2010年9月号

モハマド・バッジ 米外交問題評議会非常勤シニア・フェロー

レバノン国際特別法廷で2005年のハリリ(レバノン首相)暗殺事件の判断が近く示されるとの報道を前に、レバノンでは緊張が高まっている。スンニ派の指導者だったハリリ暗殺事件へのシーア派ヒズボラの関与が明らかになれば、国内で宗派間抗争が起き、再びレバノンは内戦へと陥っていくのではないかと懸念されている。ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララは、「特別法廷はハリリ暗殺の実行犯としてヒズボラのメンバー数名を間違って特定しようとしている」と牽制し、逆に、「暗殺の責任はイスラエルにある」と主張している。一方、シリアのバッシャール・アサド大統領は「(第3次レバノン)戦争の可能性が高まっている」と示唆し、その警告がまやかしではないことを示すかのように、8月上旬には、イスラエル軍とレバノン軍は国境地帯で衝突事件を起こしている。今後の展開の鍵を握るレバノン、ヒズボラ、イスラエル、シリア、イラン、サウジというプレイヤーの思惑を軸に、一触即発の情勢にある中東をCFRのモハマド・バッジが分析する。

多文化国家レバノンにおける 軍隊の複雑な歴史
―レバノン軍の南部掌握で国の一体性が生まれるか?

2010年9月号

マイケル・モラン  エグゼクティブ・エディター (www.cfr.org)

1943年の独立以降、レバノン軍・士官部隊の主流派はマロン派キリスト教徒だったが、各部隊は民族・宗派ラインに沿って組織され、シーア派、スンニ派、ドルーズ派、マロン派キリスト教徒がそれぞれの部隊を持っていた。こうした民族・宗派ラインに沿った部隊編成がレバノン内戦を誘発し、助長した。国家の軍隊としてレバノン軍を再編する試みが始められたのは、1989年のタイフ合意によって長い内戦にピリオドが打たれた後になってからだった。タイフ合意以降、レバノンがごく最近まで安定を維持してきたことを国軍の貢献として評価することもできる。しかし、レバノン軍の最大の失敗は、ヒズボラが幅を利かすレバノン南部を掌握できなかったことだ。

平壌という北朝鮮民衆の悪夢

2010年9月号

マーカス・ノーランド ピーターソン国際経済研究所シニア・フェロー

北朝鮮の経済は今後も停滞を続け、人々は食糧不足に苦しみ、2004~2005年以降の反改革路線もおそらくは継続されるだろう。憂鬱な停滞が続くはずだ。平壌は、人々を奈落の底に突き落とすような政策をとりつつも、それでも権力を維持していくだろう。これは北朝鮮の悲劇だ。現在の北朝鮮の体制はとにかく秘密主義だし、民衆を悲惨な目に遭わせるという点では無限大の能力を持っている。・・・だが、北朝鮮に対する金融制裁はそれなりの効果を期待できる。各国の金融機関が自行のイメージが傷つくことを恐れて、北朝鮮との取引を自主的に制限し始めることは過去のケースからも明らかだし、中国政府も金融制裁については、中国の銀行がアメリカ市場へのアクセスを失うことを恐れて、積極的に協力するからだ。今後の鍵を握るのは、制裁とともに、大きな変化をもたらすポテンシャルを秘めている北朝鮮の非公式経済がどうなるかだ。もちろん、北朝鮮政府は、今後も、この国における経済活動の多くを直接的な管理下に置こうと試みるだろう。だが問題は、経済を運営する能力を政府が持っていないこと、人々が食卓に食事を並べるための食糧を提供できないことだ。

食糧・穀物供給危機の再来か
― 異常気象と穀物市場の行方

2010年9月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニア・フェロー

記録破りの猛暑の日差しが、世界の穀倉地帯を焦がしている。異常気象による収穫減を前に、ウクライナやウズベキスタンがロシアと同様に穀物の輸出禁止措置に踏み切れば、すでに先細り気味の世界の穀物収穫量はさらに下方修正を余儀なくされる。インド、スイス、フランスその他のヨーロッパ諸国が大量の穀物備蓄を開始しているという噂もある。サウジアラビアや中国などの諸国は、すでに今後の食糧危機に備えて、アフリカやアジアの貧困諸国で耕作可能な土地を確保しつつあるようだ。現在の穀物市場をめぐる世界の不安を抑えようと賢明に試みている世界農業・食糧機関も、最近の価格高騰が始まる前の2010年6月に憂鬱な予測を示している。それによれば、農産品の供給が十分ではなく、エネルギーコストが増大し、拡大する世界の中産階級層の食の多様化が重なり合うことで、今後10年の穀類、穀物、石油、乳製品価格は、2007年の水準と比べて40%上昇する可能性がある。厄介なことに、小麦その他の穀物の取引トレンドは、食糧危機が起きた2007~2008年のそれに似てきている。穀物の先物取引が急増し、いまや価格は2008年以降、最高水準に達している。

「アフガンにおける成功」の定義は何か
―― このままではアフガン国家は分裂する

2010年9月号

スティーブン・ビドル 米外交問題評議会シニア・フェロー
フォティニ・クリスティア マサチューセッツ工科大学助教授
J・アレクサンダー・サイアー 米平和研究所ディレクター

中央集権体制型の民主主義はアフガンではうまく機能しなかった。このままでいくと、アフガンは分裂し、タリバーンが一部地域を支配し、他の地域は強権者たちがそれぞれ不安定な支配権を確立していくことになるだろう。この流れを覆すことはできるが、もはや中央集権的統治モデルの導入に固執するのは賢明ではない。アフガンの権力構造、地方における正統性への認識からみても、中央集権的統治モデルはアフガンでは機能しない。この国の主要な民族、宗派集団だけでなく、武装勢力の一部も取り込んだ、永続的な平和の枠組みを作るには、より多くのプレイヤーが参加する、柔軟で分権化された政治枠組みが必要だ。アフガンでの成功とは、「理想的な国家」と「受け入れられない国家」の中間に位置する状況へとアフガンの現状を改善していくことであり、そのためには、中央集権モデルではなく分権化モデルへと国家建設のギアを入れ替える必要がある。

民族と腐敗で引き裂かれた国家
―― ケニアの国家統合への長い道のり

2010年9月号

ジョン・ジソンゴ 元ケニア政府統治・道徳(反政治腐敗) 担当事務次官

2003年に発足したケニアのキバキ政権は、学校、道路など経済開発のハードウエアを提供することに成功したが、利権を独占し、国としての一体感や連帯というソフトウェアを育めなかった。指導者が政治腐敗にまみれているケニアは、世界的にみても、もっとも大きな経済格差に苦しみ、民族ラインで社会が分裂し、人口構成がいびつなまでに若年層に偏っている。こうした不幸な現実に対する怒りで煮えたぎっていた大釜が、2007年の大統領選挙の混迷に刺激されて、吹きこぼれ、大規模な社会暴力に国が覆われてしまった。その結果、ケニアはかつて経験したことのない国家的な危機に直面した。この事態を前に国連が介入し、いまは連立政権が曲がりなりにも存在する。だが、この連立政権は、民主主義が機能した結果ではなく、それが失敗した結果を象徴している。必要なのは、人々に国家の構成員としての一体感を植え付けることだ。「犯罪がまん延し、日常化しても、国が現在の問題に飲み込まれて内側から崩壊するようなことはない」と人々が確信できるような力強いビジョンをケニアは必要としている。

Page Top