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論文データベース(最新論文順)

Foreign Affairs Update
誰がエジプト経済を救うのか
―― 湾岸諸国と変化する援助構図

2013年8月号

マリナ・オッタウェイ/ウッドロー・ウイルソンセンター シニアスカラー

2011年にホスニ・ムバラクが権力を失って以降、エジプトの歳入レベルは大きく低下した。ビジネスは停滞し、混乱する政治状況ゆえに投資も干上がり、一方で、歳出は増大の一途をたどった。外部からの資金援助が必要だったが、エジプトはIMFに背を向けてしまった。「国家としてのプライド」。これが、IMFの条件(コンディショナリティ)の受け入れをエジプトが拒んだ大きな理由だった。一方で、湾岸諸国がこのアラブ世界の中枢国に進んで援助と融資を提供した。だが、いくら援助を確保しても、経済改革をしないことには根底の問題は解決されない。こうして、エジプト社会はいまも不満を抱く材料には事欠かない状況にある。対応が必要なシステミックな問題に直面した諸国にとって、改革を先送りできる援助を友好国から確保できても、必ずしも助けになるわけではない。エジプトはIMFと世界銀行ならうまく提供できるが、湾岸諸国にはできない支援とテクニカルなアドバイスを依然として必要としている。

E・スノーデン問題を法的に検証する
―― 彼の行動は内部告発とはみなせない

2013年8月号

スティーブン・I・ブラデック アメリカン大学教授

ロシアへの一時亡命が認められたエドワード・スノーデンが、アメリカに送還されるかどうか。現在、彼が(アメリカが犯罪人引き渡し条約を結んでいない)ロシアにいるだけに、これは、法的プロセスというよりも、高度な政治プロセスになる。仮に告発の意図があったとしても、スノーデンは政府が所有する情報を盗んだだけでなく、告発手続きの相手であるNSA(国家安全保障局)の監察官ではなく、その情報を漏らすべきではない外国メディアに提供することで、手続きを踏み外している。したがって、彼が公開した情報で存在が確認された監視プログラム(プリズム)に仮に違法性があるとしても、スノーデンはアメリカの内部告発者保護法の適用対象にはならない。だが、アメリカで裁判にかけるとなると陪審制度という非常に大きな変数が絡んでくる。陪審制度の大きな機能の一つは、政府と検察の権力をチェックすることにある。仮に送還が実現して、裁判になるとして、スノーデンの運命を左右する12人の陪審員の一部は彼に同情しているかもしれない。・・・外国情報監視法(FISA)によって、政府による情報活動は適切な監督下におかれ、説明責任も果たされているという米政府の認識には問題がある。どのような結果になるにせよ、法律がテクノロジーの進化についていけていないのは間違いない。デジタル時代のプライバシーが何であるかについて、われわれはもう一度考える必要がある。

CFR Interview
紛争後のシリア
―― 宗派間の和解を模索せよ

2013年8月号

ダニエル・フィルポット
ノートルダム大学政治学教授

アサド政権はアラウィ派とキリスト教徒を保護しつつも、他の中東の独裁者たち同様に、むしろ、アラブ・ナショナリズムを基盤とする世俗主義を重視してきた。そのアサド政権が倒れれば、シリアはスンニ派のイスラム国家になると考えられる。ここに宗派間紛争のルーツがある。イラクでは、独裁者が社会に強制した世俗主義の重しが、サダム・フセイン政権の崩壊で外れると、宗教や宗派に根ざす熱い感情が一気に噴出した。同じことがシリアでも起きるかもしれない。アサドが倒れた後に、(宗派間紛争だけでなく)世俗派勢力とイスラム主義勢力が抗争を展開するようになる危険もある。外交交渉で紛争を解決できる見込みは乏しく、犠牲者の数が増えるにつれて、人々の心の傷はますます深くなり、憎しみや復讐心も大きくなっていく。こうした敵意にみちた感情を落ち着かせ、人々の心の傷を癒すために、宗教各派の指導者を和解に向けて接触させない限り、シリアにおける安定した平和は望めないだろう。

金融政策とその限界

2013年8月号

アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長

金融政策のことを、大きな権限を持つものだけが操れる、何かミステリアスで不可知なものと恐れる必要はないし、その政策を万能薬と考えるのも間違っている。・・・その背後には常に政治が介在し、ときに金融政策の決定プロセスを混乱させ、戦術的な変化を強要されることもある。しかし、政治が金融政策に決定的な影響を与えるのは、金融政策委員会の委員長(総裁・議長)がそれを望んだ場合だけだ。・・・中央銀行のバンカーたちの役割は、結局のところ、薬剤師のそれとさほど変わらない。棚にある薬の量は限られており、法律によって一定量を超える薬を使うのは禁止されている。この条件で異なる専門家が書いた走り書きの処方箋に一貫性をもたせ、適切な調剤薬品を患者に提供する。その人物が薬品を摂取すること以外、何かを知ることも管理することもない。望み得る最善は、副作用を最小限に抑えつつ、患者が時とともに着実に回復していくことだ。

シリアの崩壊を食い止めるには
―― 交渉実現のための部分的軍事介入を

2013年8月号

アンドリュー・タブラー
ワシントン近東政策研究所シニアフェロー

もはやシリア情勢に傍観を決め込むのは許されず、いつ、どのように、どのくらいのコストを用いてシリア紛争の解決を試みるかが問われている。大規模な難民危機が起きたり、危険な兵器がジハーディストやクルド人分離勢力などテロ集団の手に落ちたりすれば、ワシントンの同盟勢力であるイラク、イスラエル、ヨルダン、トルコの安全保障が直接的に脅かされる。さらに、崩壊によってテロリストが、自由に活動できる破綻国家へとシリアが姿を変えていく危険もある。シリアの崩壊を食い止め、肥大化する脅威を封じ込めるには、すべての勢力を交渉テーブルに着かせることを目的とする部分的な軍事介入を試みる必要があるだろう。飛行禁止空域を設定し、イラク国内にいる反体制派と直接的に協力し、国家再建の道を模索する必要がある。

金融政策と財政政策の間
―― イギリスの失策から何を学ぶ

2013年8月号

◎スピーカー
アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長
J・ブラッドフォード・デロング カリフォルニア大学教授
◎プレサイダー
ギデオン・ローズ フォーリン・アフェアーズ誌編集長

「バーナンキは金融緩和に向けてこれまですぐれた措置をとってきた。だがいまでは、われわれは非伝統的な金融政策からは可能な限り、手を引いていくという立場を示唆している。これは、(われわれ金融当局は十分に手を尽くしたのだから)依然として経済が停滞しているのは議会と大統領のせいだと言っているようなものだ。経済の停滞という現状は、財政当局(政府)に責任があり、いまや金融当局としては、長期的な金融の安定に配慮しなければならない。これがバーナンキの本音だろう」。(B・デロング)

「スペイン同様に、イギリスが自国の経済を袋小路に追い込んでしまったのは、中途半端な金融緩和をとり、一方で財政緊縮策をとってしまったからだ。現在、日本は、当時のイギリスとは全く逆のことをしている。日本銀行はついに、われわれが求めてきたような、大胆な量的緩和策をとり、経済は回復しつつある」。(A・ポーゼン)

イギリスがEUから脱退すれば
―― ヨーロッパもイギリスも敗者となる

2013年8月号

◎スピーカー
チャールズ・クプチャン 米外交問題評議会シニア・フェロー
アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長
◎プレサイダー
マイケル・モセティッグ PBSニュースアワー

「外交的なメタファーで言えば、現在のイギリスは、米ソが対立していた冷戦期のドイツ、米中対立のなかの日本のような存在だ。ヨーロッパで起きていること(銀行同盟・財政同盟)に引き込まれてもかまわないと思うほどに近い関係にあるわけではないが、流れから取り残されてもかまわないと思えるほどに遠い存在でもない」。(A・ポーゼン)

「現状では、ユーロを導入しているのは17カ国、導入していないEUメンバー国が11カ国だ。ある意味では、一定のバランスがある。だが、ユーロを導入していない第2集団がますます小さくなり、残されるのがイギリスとブルガリアだけになった場合にどうなるか。・・・イギリスは、最終的にEUからの脱退へとつながる道を歩みつつある。・・・イギリスがEUから脱退すれば、政治史における自己孤立のもっとも顕著な事例として記憶されることになるだろう」。(C・クプチャン)

急速に悪化する米ロ関係

2013年08月

スティーブン・セスタノビッッチ 米外交問題評議会シニア・フェロー(ロシア担当)

いまや米ロ関係のリセット路線は過去の話だ。この6-9ヶ月間に、両国が協議してきた重要な案件、シリア、イランにはじまり、ヨーロッパへのミサイル防衛の強化、新START条約の目標を拡大する戦略核削減の提案、プーチンが重視する貿易と投資など、どれ一つをとっても進展はない。これに加えて、現在の米ロ関係には、人権問題、スノーデン事件など、ネガティブな要素が数多く存在する。これまでリセットを機能させてきた要因が消失してしまっている。スノーデンを受け入れると表明している国への渡航を、ロシアがアレンジする方法は数多くあった。これらのやり方をとれば、ロシアは問題を解決できていたかもしれない。そうしなかったことにオバマ政権は憤慨し、その結果、オバマが面目を保つ形でモスクワを訪問するのは難しくなった。

流動化する中東政治
―― エジプト、シリア、イラン

2013年8月号

エドワード・P・ジェレジャン
ライス大学 ベーカー公共政策研究所所長

エジプトのシシ国防相は、ムスリム同胞団の暫定政権への参加を閉ざさないと表明しているが、同胞団が今回の政変劇を覆すような動きに出れば、エジプト、そして中東地域にとって最悪の事態になりかねない。シリアはすでに破綻国家へと転落しつつあり、政府と反体制派を交渉させない限り、停戦への道は閉ざされたままとなる。だが、依然として国際交渉に向けたアメリカとロシアの立場の違いは埋まっていない。近く穏健派の新大統領が誕生するイランは核開発問題を抱え、シリアを軍事的に支援し、イラク南部への影響力を拡大させている。一方、スンニ派湾岸諸国はイランの覇権が広がる可能性に危機感を募らせている。(エジプト、シリア、イランの)問題や危機のすべては関連している。ワシントンは、中東地域全域への一貫性のある戦略を考案し、この戦略枠組みのもとで、各国への政策を調整し、相互に関連性をもたせる必要がある。

ムスリム同胞団の終わりなき戦い

2013年8月号

エリック・トラガー 近東政策ワシントン研究所 次世代フェロー

「モルシは選挙で選ばれた大統領であり、まだ任期を3年残している。モルシに任期を全うさせた上で、彼が良い大統領だったか、悪い大統領だったか、次の選挙で審判を仰げば良い」。モルシの復権、これがムスリム同胞団の立場だ。一方、エジプト軍にとって、権力の座から一度引きずり降ろした人物を復権させるのは、明らかに自滅的な行動だ。ジハード主義を内包する同胞団は、軍が分裂することを期待しつつ、今後も戦いを挑んでいくだろう。互いに相容れぬ利益をもつエジプト軍とムスリム同胞団は、おそらく、終わりなき抗争を繰り広げることになるだろう。エジプトが先に崩壊するのでない限り、どちらかが倒れるまで紛争は続くだろう。

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