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日本に関する論文

人口の高齢化と生産性

2016年6月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行ユーロ圏エコノミスト

高齢社会は若年層が多い社会に比べて生産性が低くなる。この問題に正面から対峙しなければ、人口が減少し、高齢化が進むだけではなく、豊かさを失うことになる。生産性は45歳から50歳のときにピークに達するが、その後、下降線を辿る。つまり、高齢者がうまく利用できない高度な技術を導入してもその生産性を向上させることはできない。むしろ、人口動態の変化と生産性のダイナミクスとの関連を断ち切ることを目指した政策を併用すべきだ。例えば、ロボティクスやIoT(インタネット・オブ・シングズ)のような技術への投資を増やし、高齢者に関連する生産性の低い労働をこれらの技術で代替していくべきだろう。すでに日本の安倍晋三首相は、この視点から高齢者のための介護ロボットや自律走行車の開発技術を日本再生戦略の中核に位置づけている。・・・

オバマ広島訪問後の日米関係
―― 安倍首相はパールハーバー訪問を

2016年6月号

ザック・プリスタップ/タフト大学フレッチャースクール アシスタント・ディレクター

オバマの広島訪問を日米関係の新しいチャプターの幕開けとして位置づけなければならない。安倍首相は、誠意の返礼として、2016年の真珠湾攻撃75周年記念式典に参加すべきだろう。真珠湾を訪問すれば、広島と長崎への原爆投下を(パールハーバーに始まる)歴史の流れのなかに位置づけ、その認識を高めることができる。さらに、日本が過去の歴史を見直すのではなく、平和の促進にコミットしていることを世界に示すことにもなる。両国が共有する痛ましい過去に正面から向き合うことで、日米は、歴史論争によってとかく外交的に紛糾し、機能不全に陥ることの多い東アジアに優れた先例を示すこともできる。歴史を刻む相手国の都市への相互訪問は、両国の指導者がとるべき正しい行動だろう。

アベノミクス、最後の賭
―― 消費増税の先送りと財政出動

web

トバイアス・ハリス / 米笹川平和財団フェロー(経済、貿易、ビジネス担当)

世論調査で市民が増税時期の先送りを支持していることに加えて、先行き不透明なグローバル経済、円高、そして最近の熊本での地震災害は、安倍首相が(増税の先送りと財政出動に向けて)財政タカ派の反対を克服する助けになるだろう。これらの環境からみれば、首相が増税を先送りし、新たに財政出動を実施することへの支持を期待できるだろう。だがそれは、実際に経済を長期的に助け、短期的にも景気を刺激する効果のある公共事業投資を増やす、正しい財政出動でなければならない。そうできなければ債務を増やすだけに終わる。専門家のなかには、すでに安倍政権の経済プログラムは失敗していると指摘する者もいる。実際、アベノミクスにさらにてこ入れして、それでも日本経済を再生できなければ、この3年にわたって比較的安定していた安倍首相への支持は次第に低下していくことになるだろう。

オバマは広島を訪問すべきなのか
―― 感情と理念と政治

2016年5月号

ジェニファー・リンド ダートマス・カレッジ准教授

日本人の多くは、米大統領が被爆地を訪問することで、アメリカが原爆使用という過去と正面から向き合う機会が作り出されることを願っている。すでにホワイトハウスは、日本の市民グループ、軍縮運動家、子供たちなどから、オバマ大統領の広島訪問を希望する手紙を何千通も受けとっている。大統領の広島訪問を待望する人の多くは、「重要なのは謝罪ではない」と考えている。だが、米大統領が広島を訪問すれば、結局は東アジア地域の厄介な歴史問題がさらに複雑になる恐れがある。アメリカ大統領が「被害者としての日本」という考えの中枢である被爆地を訪問すれば、韓国など、日本の近隣諸国の多くはそれを快く思わないからだ。しかもアメリカでは大統領選挙が控えている。大統領が、献花された石碑の前に立ち、黙祷を捧げるにはあまりにも騒々しい環境にあるのは間違いない。・・・・

日本の新しいビジネス文化
―― 日本の起業家世代と社会貢献

2016年4月号

デヴィン・スチュワート カーネギー国際関係倫理委員会シニアフェロー

日本政府の高官たちも、経済再生の柱としての量的緩和と財政出動によってかろうじて成長が支えられていることに気づき始め、新戦略では「スタートアップ企業」が重視されている。ベンチャー企業と新技術への投資を奨励し、大学におけるアントレプレナーシップ(起業精神)の訓練と教育を支援し、シリコンバレーのアントレプレナー(起業家)と日本のアントレプレナーたちをセミナーやメンターシップ・プログラムを通じて結びつけようとしている。もちろん、日本の新企業に投資されたベンチャーキャピタル資金はわずか約10億ドルで、同年のアメリカのスタートアップに投資された590億ドルと比べると依然として大きく見劣りする。しかし、日本の企業文化のなかで次第にスタートアップ企業が受け入れられ始め、起業家の社会的な地位も高まっている。「いまや優秀な学生たちはグーグル、マッキンゼー、そしてスタートアップ企業に就職したいと考えている」

豪潜水艦調達と日独仏の競争
―― アメリカは誠実な仲介者を

2016年4月号

ジョナサン・D・キャバリー ウッドロー・ウィルソン・センター フェロー

同盟諸国に「中国の拡大主義に抵抗する試みを強化するように」と働きかけてきたアメリカにとって、オーストラリアが新型の潜水艦を導入するのは歓迎できるニュースだろう。フランスやドイツにとって、共同開発・生産契約を受注できれば、重要で魅力的なディールになる。日本にとっては、契約を受注することはさらに大きな意義がある。契約を受注すれば、日豪のインフォーマルな同盟関係が強化され、中国を封じ込める上で大きな価値をもつからだ。アメリカ政府もこの見方を受け入れ、水面下では日本が契約を受注するのが好ましいと考えているようだ。しかし、前回の潜水艦調達をめぐって大きな失敗を犯したオーストラリアが今回求めている基準はかなり高く、日独仏のいずれにとっても、これを満たすのは容易ではない。重要なのは、軍事予算を押し潰すことなく、必要とする潜水艦をオーストラリアが調達できるかどうかであり、アメリカはその調達をめぐる「誠実な仲介者」の役割を心がけるべきだろう。

日本の新しいリアリズム
―― 安倍首相の戦略ビジョンを検証する

2016年4月号

マイケル・オースリン アメリカン・エンタープライズ研究所 レジデントスカラー、日本研究ディレクター

日本の地域的役割の強化を目指し、民主国家との連携強化を試みるために、安全保障行動の制約の一部を取り払おうとする安倍首相の現実主義的な外交・安全保障路線は、北朝鮮と中国の脅威という地域環境からみても、正しい路線だ。たしかに論争は存在する。市民の多くが平和主義を求める一方で、識者たちは日本の安全保障に対する脅威を憂慮している。しかし、そうした社会的緊張には、孤立主義や介入主義といった極端な方向に日本が進むことを防ぐ効果がある。超国家主義が日本を近隣諸国に対する侵略と戦争へと向かわせた1930年代と違って、現在の日本は、アジアを豊かさと安定へと導く「リベラルなシステム」を強化し、擁護していくために、古い制約を解体しつつある。再出現した権威主義国家がグローバルな平和を脅かすような世界では、日本の新しいリアリズムが太平洋地域の今後10年を形作るのに貢献し、アジアを特定の一国が支配するような事態にならないことを保証する助けになるはずだ。

長期停滞を恐れるな
―― 重要なのはGDPではなく、
生活レベルだ

2016年3月号

ザチャリー・カラベル エンベスネット グローバル戦略統括者

先進国は依然としてデフレから抜け出せずにいる。中国は(投資主導型経済から)消費主導型経済への先の見えない不安定な移行プロセスのさなかにある。しかも、所得格差の危険を警告する声がますます大きくなり、経済の先行きが各国で悲観されている。だが、この見立ては基本的に間違っている。GDP(国内総生産)はデジタルの時代の経済を判断する適切な指標ではないからだ。GDPに議論を依存するあまり、世界的に生活コストが低下していることが無視されている。生活に不可欠な財やサービスの価格が低下すれば、賃金レベルが停滞しても、生活レベルを維持するか、向上させることができる。デフレと低需要は成長を抑え込むかもしれないが、それが必ずしも繁栄を損なうとは限らない。これを、身をもって理解しているのが日本だ。世界は「成長の限界」に達しつつあるかもしれないが、依然として繁栄の限界は視野に入ってきていない。

日本の新しいエネルギーミックス
―― 原子力とソーラーを組み合わせよ

2015年6月号

バラン・シバラム  米外交問題評議会フェロー

ソーラーパワーの電力網へのアクセス制限や固定価格買取制度の見直しなど、日本ではソーラーパワー拡大を阻む逆風が吹いている。しかし、「原子力かソーラーか」ではなく、この二つを組み合わせれば、2020年までに日本は化石燃料輸入を3分の1減らすことができるし、電力需要の3分の1を満たせるようになる。日本の電力会社は、ソーラー電力を買い取って電力網に組み込むよりも、安定した資本収益を期待できる一元的な原発施設のほうが好ましいと考えているのかもしれない。しかし、原子力とソーラーを組み合わせてともに推進すれば、エネルギー安全保障を強化し、経済を拡大し、地球温暖化対策上のゴールに近づき、他の諸国が踏襲できるモデルを示すことができる。日本は、安全性に配慮しながら原子力による電力生産を強化するとともに、ソーラーエネルギーを育んでいく長期的なエネルギービジョンを示すべきだろう。

日中軍事衝突のリアリティ
―― 日中危機管理システムの確立を急げ

2015年5月号

アダム・P・リッフ インディアナ大学助教(国際関係論)
アンドリュー・S・エリクソン 米海軍大学准教授(戦略研究)

東シナ海をめぐる日中関係は、一般に考えられている以上に緊張している。中国軍の高官が言うように、「わずかな不注意でさえも」、世界で2番目と3番目の経済国家間の「予期せぬ紛争に繋がっていく恐れがある」。もちろん、日中はともに紛争は望んでいない。だが、東シナ海の海上と上空の環境が極端に不安定である以上、誤算や偶発事件が大規模な危機へとエスカレートしていく危険は十分にある。世論調査結果をみても、日中間の敵意はこれまでになく高まっている。しかも、偶発的衝突を制御していく力強い危機管理メカニズムが存在しない。中国軍と自衛隊の高官たちでさえも、危機エスカレーションリスクが存在することを懸念している。危機管理メカニズムが必要なことは自明だが、日中両国にそれを導入する政治的意思があるかどうか、依然として不透明な状況にある。・・・

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