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経済・金融に関する論文

トランプが日本に突きつけた課題
―― トランプ制御策を超えて

2017年10月号

彦谷貴子 コロンビア大学准教授(日本政治・外交)

これまで日本政府は「ドナルド・トランプを制御すること」に努め、市民もそうした政府のやり方を現実主義的な視点から支持してきた。だが、そのアプローチにも限界がみえ始めている。トランプが日本に突きつけているもっとも根本的な課題は、日本のこれまでの成長に大きな役割を果たしてきた「リベラルな民主的秩序がどうなっていくか」という側面にある。当然、日本は自由貿易体制を含む、リベラルな民主的秩序を維持していくための試みを強化していく必要がある。今後の日本は、アメリカが主導するリベラルな秩序の受益者としてではなく、むしろ、秩序を守るために全力を尽くし、アメリカをこの秩序につなぎとめる必要がある。

メルケルのトランプジレンマ
―― 自立への道をいかに切り開くか

2017年10月号

ステファン・ティール ハンデルスブラット・グローバルマガジン エグゼクティブ・エディター

ユーロゾーンの救済策だけでなく、難民の流入ペースの緩和に向けたトルコとの合意をまとめるなど、ここにきて、より積極的な行動をとるようになったものの、ドイツは基本的に世界でリーダーシップをとるのを嫌がってきた。しかしいまや、繁栄の基盤であるリベラルな秩序の維持を望むのなら、行動を起こす以外に道はない。ドイツは、自由貿易体制を支えるためにより多くを試み、自国の安全保障へのより大きな責任を引き受け、ヨーロッパがより踏み込んだ経済改革を行うようにリーダーシップを発揮しなければならない。メルケルは、反トランプ感情が支配的なドイツで、アメリカとの実務的関係を維持しつつ、この難題をこなしていかなければならない。

自由なデータフローを守るには
――国際的データフロールールの確立を

2017年9月号

スーザン・ランド マッキンゼー パートナー
ジェームズ・マニュイカ マッキンゼー シニア・パートナー

世界が(第二次世界大戦後に)財とサービスに関する世界貿易の条件に関する合意をまとめてきたように、いまや各国は、トランスナショナルな電子商取引とデータフローを管理するための詳細な枠組みを定め、デジタル保護主義に対抗していく必要がある。データの自由な移動を保証する国際的な規範とプロトコル、そして紛争が発生した場合にその紛争を解決するフォーラムが必要とされている。すでに、デジタル部門でもオンライン検閲、デジタルコンテンツ・プロバイダーに対する規制、プライバシーとデータ保護に関する(各国間の)重複し、矛盾したルールなど、数多くの障壁と保護主義的措置が出現している。

縁故資本主義と中国の政治腐敗
――共産党は危機を克服できるか

2017年9月号

楊大利(ヤン・ダリ) シカゴ大学教授(政治学)

90年代以降、中国共産党が行政の分権化を進めた結果、地方政府のトップはかなりの自己裁定権をもつようになった。こうして地方官僚が個人的利得のために、国の資産と資源を用いる政治腐敗の無限大の機会が誕生した。安月給の役人が上司に賄賂を渡して、「おいしい」ポジションにつけてもらう巨大な売官市場も存在する。これには賄賂の「元手」が必要になるために、その影響は多岐に及び、しかもスキームに関わる誰もが、最終的に、自分の投資に対する見返りを期待する。この政治腐敗のネットワークが軍、司法、さらには中央の規制当局にまで及んでいる。共産党時代を超えて縁故資本主義が続き、中国の未来を不安定化させることになるのか。それとも、共産党はいつもの柔軟性と復元力を発揮するのか。見方は分かれている。・・・

資本主義と縁故主義
――縁故主義が先進国の制度を脅かす

2017年9月号

サミ・J・カラム Populyst.netエディター

資本主義と社会主義の間で変性したシステムと定義できる縁故主義が世界に蔓延している。冷戦後に勝利を収めた経済システムがあるとすれば、それは欧米が世界へと広げようとした資本主義ではない。縁故主義だ。世界的な広がりをみせた縁故主義は、途上国、新興国だけでなく、アメリカやヨーロッパにも根を下ろした。(1)政治家への政治献金、(2)議会や規制を設定する当局へのロビイング、そして(3)政府でのポジションと民間での仕事を何度も繰り返すリボルビングドアシステムという、縁故主義を助長するメカニズムによってアメリカの民主的制度が損なわれている。一見すると開放的なアメリカの経済システムも、長期にわたって維持されてきたレッセフェールの原則からますます離れ、純然たる縁故主義へと近づきつつある。

1965年の独立以降、リー・クアンユーが中心となって組織した人民行動党政権は中央集権的な国家運営を行ってきた。その権力に対する監視体制も厳格ではなく、野党、市民社会、メディアは概しておとなしい。実際、この中央集権体制が効率的な統治を実現していると考える者は多く、シンガポール市民の大半は、「経済成長と引き換えに市民的・政治的自由が制限される」という暗黙の社会契約を長く受け入れてきた。だが、それも変化しつつある。すでに、シンガポールのさらなる発展にはさまざまな制約を緩和する必要があると考える改革派の要求とこれまでの中央集権型の枠組みを両立させるのは難しくなっている。近代国家シンガポールの原点を象徴するリー・クアンユーのオクスリー・ロードにある家の扱いをめぐるお家騒動は、まさに、この国の未来に関する二つのコースを描き出している。

グローバリズムとナショナリズム
―― トランプが間違っている理由

2017年8月号

Or・ローゼンボイム 英クィーンズカレッジ リサーチフェロー(政治学)

「グローバリズムは国家主権とはなじまない」と考えるのは間違っている。戦後における国際的な「つながり」の高まりによって、国家という政治単位やコミュニティが否定されたわけではない。現実には、国家、帝国、ヨーロッパ連邦、非国家コミュニティ、国際機関などのあらゆる政体が、戦後の「つながりを深めた新世界」への適応を迫られた。世界がつながり、一つに向かっているとしても、政治的・文化的な同質化が不可避だったわけでも、望ましかったわけでもない。政治単位としての国家を廃止し、愛国主義的イデオロギーを禁止することを求めたグローバリストは殆どいなかった。むしろ、有力なグローバリズムの思想家たちは、安定し、繁栄する平和な世界秩序を形作るには、統合と多様性のバランスをとる必要があると考えていた。

低成長と生産性成長の鈍化
―― 政府にできることは限られている

2017年8月号

マーク・レヴィンソン 元米外交問題評議会シニアフェロー

世界経済の短期予測には楽観ムードがあふれているが、長期的にみれば、生活レベルを左右する生産性の向上には多くを期待できない状況にある。先進諸国における生産性は40年以上にわたって停滞し続けているし、この状況に対して政府ができることはいまやほとんどない。かつては教育やインフラの投資によって、生産性の成長に政府が一定の役割を果たすことができた。しかし、生産性を高める上で大きなインパクトをもつ、これらの措置は繰り返せない。渋滞する2車線の道路を高速道路に置き換えることに比べると、新しい高速への入り口を作ることの経済効果は限られている。人工知能、仮想現実、ナノテクノロジーなどのイノベーションが今後、生産性の向上をもたらすかもしれない。だが、そうならなければ、世界は低成長と低い生産性成長を特徴とする現状を抜け出せないままだろう。

テロ組織はどのように資金を調達しているか
―― なぜ銀行システムの監視は無意味なのか

2017年8月号

ピーター・ノイマン ロンドン大学キングズ・カレッジ教授(安全保障研究)

各国は長年、テロには金がかかるという思い込みゆえに、テロ組織が国際金融システムにアクセスするのを阻止しようと試みてきたが、このアプローチでテロを抑止できた証拠はない。ほとんどのテロは、数百ドル単位のごくわずかなコストでも決行でき、テロ組織の多くは国際金融システムを使うことはない。骨董品や石油、タバコ、模倣品、ダイヤモンド、象牙などの密輸から資金を得ることもあれば、イスラム国(ISIS)のように支配地域の天然資源を食い物にして資金を確保することもある。あるいはヨーロッパのジハーディストのように、社会保障給付や個人的な借入れでテロを決行する人物たちもいる。国際金融システムに焦点を合わせるのは、時間と資金を浪費するだけで、テロの抑止にはつながらない。

中国債務危機のグローバルな衝撃
―― 「政治的」サプライサイド改革の限界

2017年8月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト  ユーロゾーン・エコノミスト

中国企業の債務レベルは、対国内総生産(GDP)比170%と、歴史的そして世界的にみても、危険水域に突入しつつある。危機を回避しようと北京は中国流サプライサイド改革、つまり、生産制限と(極端に安い融資を通じた)需要管理策を組み合わせたポリシーミックスをとっている。たしかに、このやり方で債務に苦しむ企業も一時的な収益増を期待できるが、工場渡し価格の上昇によっていずれ消費者はインフレに直面する。同時に、衰退する国有企業を対象とする救済策は、必要とされる産業システムの再編を先送りし、しかも最終的にはより深刻度を増した債務問題に直面することになり、その余波は世界に及ぶだろう。北京が危機の先送り策をとっているのは、国有企業が倒産すれば、金融も政治も社会も不安定化することを恐れているからだが、債務の肥大化を放置すれば、共産党の支配体制だけでなく、世界経済を大きな危険にさらすことになる。

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