1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

経済・金融に関する論文

権威主義国家の中国的特質
―― 中国流政治改革の教訓は何か

2018年6月号

ユェン・ユェン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

欧米の専門家が期待するようなものではなかったにせよ、1978年に鄧小平が市場開放路線を導入して以降、中国ではかなりの政治改革が進められてきた。一党支配を放棄することなく、官僚組織に説明責任のルールや競争原理を導入し、権力の一部を抑制してきた。この民主的特質をもつ独裁体制のなかで、「政治を不安定化させずに、急速な経済成長を実現すること」が地方指導層に課せられた任務とされた。しかし官僚機構改革を、永遠に政治改革の代わりにはできない。いまや、より先へと進むためにはイノベーションが必要とされ、そのためには市民社会の巨大な創造性を解き放ち、それを活用しなければならない。しかし、持続的な成長のために政治的自由が必要とされているタイミングで、習政権は全く逆のことをしている。・・・

習近平革命の本質と衝撃
―― 外交と内政の垣根を取り払った権威主義国家

2018年6月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国担当)

1940年代以降、毛沢東は共産革命を主導し、1970年代末以降は鄧小平が経済改革路線と低姿勢外交という第2の革命を通じて「中国経済の奇跡」の基盤を築いた。そしていまや、習近平は「第3の革命」に着手している。鄧小平が開始した「改革と開放プロセス」のペースを鈍化させるか覆し、新中国の原則をグローバルレベルで促進することに習は努めている。対外政策と国内政策の垣根を取り払い、その政治的モデルを輸出し、権威主義志向をもつ外国の指導者たちを支える一方で、国際法の基盤を損なう行動、他の諸国の主権を脅かす行動をとっている。いまや、中国は、非自由主義国家としては初めてリベラルな世界秩序におけるリーダーシップを模索している。

中国の不公正貿易慣行にどう対処する
―― 関税ではなく、国際ルールの確立と国内投資を

2018年5月号

マシュー・グッドマン 戦略国際問題研究所 シニアアドバイザー(アジア経済)
イーライ・ラトナー 外交問題評議会 シニアフェロー(中国担当)

中国の重商主義に対抗していくことを望むトランプの立場は、アメリカの政治家の間では広く共有されているし、民間部門でも同じ立場をとる人々が増えている。しかし、(相手を問わない、普遍的な)関税引き上げ策で、ワシントンが自国を孤立させ、同盟諸国を不当に扱い、中国の責任を問う集団的な取り組みを損なうことに合理性はない。トランプ政権がこれまでにとった措置の大半は、甘めにみても逆効果だ。むしろ、今後もアジア太平洋を中心とする世界の開放的な貿易・投資環境から恩恵を引き出したければ、ルールに即して行動するように中国に求めるべきだ。そのためには、21世紀に即した新たな貿易・投資ルールをまとめ、前向きなビジョンで国際社会をリードしていく必要がある。

対中幻想に決別した新アプローチを
―― 中国の変化に期待するのは止めよ

2018年4月号

カート・キャンベル 前米国務次官補(東アジア・太平洋担当)
イーライ・ラトナー 前米副大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)

中国を孤立させ、弱体化させようと試みるべきではないし、よりよい方向へと変化させようとすべきでもない。これをアジア戦略の道標とすべきだ。外交や通商面でのエンゲージメントも、軍事力もアジアリバランシング戦略も効果はなかった。リベラルな国際秩序も、期待されたように中国を惹きつけることも、つなぎ止めることもできなかった。中国はむしろ独自の道を歩むことで、アメリカの多方面での期待が間違っていることを示した。さまざまな働きかけで中国が好ましい方向へ進化していくという期待に基づく政策をとるのはもう止めるべきだ。中国を変化させるアメリカの力をもっと謙虚に見据える必要がある。

プーチノミクスの驚くべき成功
―― 成長よりも安定を重視する狙いは何か

2018年4月号

クリス・ミラー フレッチャー法律外交大学院准教授

原油価格の暴落と欧米による経済制裁という大きな圧力にさらされているために、ロシア人を含む、内外の専門家の多くは、経済危機がウラジミール・プーチンの権力を脅かすのではないかと考えてきた。しかし、これまでのところ、そのような兆しはない。ロシア経済は安定しているし、インフレも歴史的な低水準で、予算もほぼ均衡している。プーチノミクスの大きな特徴は、高賃金と経済成長を目指すのではなく、むしろ、失業率を低く保ち、年金を着実に支払うことを重視することで、社会不満の高まりを抑え込んでいることにある。債務とインフレを低く保つことで、マクロ経済の安定を心がける「プーチノミクス」は、ロシアを豊かにすることではなく、国内を安定させ、エリートの権力を維持することを目的にしている。

アメリカのLNG輸出が市場をより柔軟なものへ変化させている。これが、天然ガスの価格、(仕向地制限条項を含む)契約にいたるまでのさまざまな領域で大きな意味合いをもつことになる。今後天然ガスを石油のように取引できる方向に流れは向かっている。多くの国が浮体式の再ガス化設備を作っている。

ガソリンの消費は間違いなく低下していくだろう。電気自動車が普及するだけでなく、車の燃費もさらによくなっていく。しかし一方で、トラック産業、ジェット航空機産業、そして石油化学産業が石油需要を引き上げていく。これら三つの産業の燃料や原材料を石油以外の何かで代替していくのは非常に難しい。

中国は、重工業、石炭型経済から、ゆっくりとだが、それでも着実に、クリーンエネルギーの先進国へと姿を変えつつある。ソーラー、風力、水力、原子力発電、エネルギーの利用効率、電気自動車などの領域で中国はすでに世界の最先端を走っている。

同盟諸国のリスクヘッジ策
―― トランプリスクと同盟諸国の対応

2018年3月号

スチュワート・パトリック 米外交問題評議会シニアフェロー

ナショナリスト的外交政策を展開しようと、トランプ政権が、戦後アメリカが構築してきたシステムに背を向けたために、リベラルな国際秩序はきしみ音をたてている。予想された通り、新政権の路線を前に同盟国やパートナー国はリスクヘッジ策をとっている。現状がアメリカ外交の一時的な逸脱であることを願いつつも、同盟諸国はすでに事態の変化に対応できる計画をまとめつつあるし、アジア諸国のなかには、中国にすり寄ってバランスをとろうとする国もある。経済、軍事領域で各国は自立性を高め、貿易政策や温暖化対策をめぐっても、アメリカ抜きで対策を進めつつある。トランプの大統領就任からたった1年でアメリカのリーダーシップへの国際社会の信頼は劇的に低下している。

ポストアメリカの世界経済
―― リーダーなき秩序の混乱は何を引き起こすか

2018年3月号

アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所 所長

ドナルド・トランプは、アメリカが築き上げたグローバルな経済秩序に背を向け、経済と国家安全保障の垣根を取り払い、国際的ルールの順守と履行ではなく、二国間で相手を締め付ける路線への明確なコミットメントを示している。世界貿易機関(WTO)の権威を貶め、いまや、主要同盟諸国でさえ、アメリカ抜きの自由貿易合意や投資協定を模索している。すでに各国は貿易やサプライチェーンの流れ、ビジネス関係を変化させつつある。経済政策の政治化が進み、経済領域の対立が軍事対立にエスカレートする危険も高まっている。アメリカが経済秩序から今後も遠ざかったままであれば、世界経済の成長は鈍化し、その先行きは不透明化する。その結果生じる混乱によって、世界の人々の経済的繁栄は、これまでと比べ、政治略奪や紛争に翻弄されることになるだろう。

女性を経済活動に参加させよ
―― 女性が経済成長を支える

2018年2月号

レイチェル・ボーゲルシュタイン 米外交問題評議会シニアフェロー

女性の権利向上を目指す活動家たちは、長年にわたって、男女平等を道徳的な問題として訴えてきた。しかし現在のグローバル経済において、女性の経済参加を妨げる障壁を取り除くことは、経済戦略からみても合理性がある。実際、女性の労働力への参加と経済成長の間に相関関係があると指摘する研究の数は増えている。2013年に経済協力開発機構(OECD)は、少なくとも先進諸国で労働力人口上の男女間バランスが形成されれば、国内総生産(GDP)は12%上昇するとの予測を示した。しかし、世界銀行によると、世界155カ国で女性の経済活動は依然として何らかの形で制限されている。例えば、財産権の制限、就業への同意を配偶者から得る義務、契約や融資契約の締結禁止などだ。この現状を変えていくことが、社会と経済を変える大きなきっかけとなる。

最低賃金の真実
―― 雇用破壊効果も格差是正効果も小さい

2018年2月号

アラン・マニング ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 経済学教授

かつて最低賃金の導入に批判的だった国際通貨基金(IMF)と経済協力開発機構(OECD)も、いまやそれが適正なレベルの引き上げなら、最低賃金をうまく考案された労働政策の一部として位置づけるべきだと提言している。だが妥当なレベルをどのように決められるだろうか。穏当なレベルの引き上げなら、最低賃金レベルの就労者の所得は増える。だが、過度に最低賃金を引き上げれば、雇用は少なくなっていく。仮にシングルマザーがまともな生活を送るには20ドルの時給が必要だとされ、それが実現しても、かなりの確率で失業率は上昇する。さらに、最低賃金を引き上げても、その効果は平均的労働者に近づいていくにつれてほとんどなくなっていく。最低賃金の引き上げでは、格差を是正し、世界で政治を覆している経済の流れを覆すことにはならない。

Page Top