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経済・金融に関する論文

デジタル企業の市場独占と消費者の利益
―― 市場の多様性とレジリエンスをともに高めるには

2018年10月号

ビクター・メイヤー=ションバーガー  オックスフォード大学教授 (インターネット・ガバナンス・規制)
トーマス・ランゲ  独ブランドアインズ誌テクノロジー担当記者

グーグル、フェイスブック、アマゾンなどの「デジタルスーパースター企業」は、企業であるとともに、膨大な顧客データを占有する市場でもある。消費者の好みや取引について、運営会社がすべての情報を管理し、そのデータを使って独自の意思決定アシスタントに機械学習をさせている。買い手は「おすすめ」と選択肢の示され方に大きな影響を受ける。こうした市場は、レジリエントで分散化された伝統的市場よりも、計画経済に近い。しかも、状況を放置すれば、このデジタル市場は、外からの意図的な攻撃や偶発的な障害によってシステムダウンを起こしやすくなる。だが、必要なのは企業分割ではない。むしろ、スーパースター企業が集めたデータを匿名化した上で、他社と共有するように義務づけるべきだろう。データが共有されれば、複数のデジタル企業が同一データから最善の洞察(インサイト)を得ようと競い合うようになり、デジタル市場は分散化され、イノベーションも刺激されるはずだ。

色あせた対米投資の魅力
―― 流れはポストアメリカのグローバル経済へ

2018年9月号

アダム・S・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所 所長

対米投資が大きく減少している。米企業を含む多国籍企業による2018年の対米純投資はほぼゼロに落ち込んでいる。これは、長期におよぶビジネスコミットメントをする対象としてのアメリカの魅力が全般的に低下していること、つまり、すでに流れがポストアメリカのグローバル経済へ向かっていることを意味する。さらに、法人減税、他の地域よりも力強い経済成長という投資を促す環境が存在し、しかもワシントンが、米企業が外国へ投資するのを抑える公式・非公式のハードルを作り出しているにもかかわらず、今後、米多国籍企業による外国への投資が増えていくとすれば、これも世界がアメリカ抜きのグローバルシステムに向かいつつあることを示す明確なシグナルとみなせるはずだ。グローバル化を嫌悪するトランプのアプローチによって、多くの人々が考える以上の早いペースで世界経済はポストアメリカの時代に向かいつつある。

カーボンプライシングという幻想
―― より直接的な二酸化炭素削減策との組み合わせを

2018年9月号

ジェフリー・ボール スタンフォード大学 レジデントスカラー

炭素税や二酸化炭素排出権取引の前提として二酸化炭素排出に価格をつけるカーボンプライシングを導入することで、政策決定者や市民が、自分たちは地球温暖化対策に有意義な貢献をしていると幻想を抱いている限り、このシステムは無力なだけでなく、非生産的だ。このソリューションだけでは問題解決には至らないという現実を認識する必要がある。地球が摂氏2度の気温上昇という臨界点を超えるのはもはや避けられないが、それでも温暖化を最小限に食い止める方法はある。石炭の段階的利用停止、二酸化炭素回収貯留(CCS)技術開発のスピードアップ、原子力発電の継続、再生可能エネルギーコストの削減、化石燃料価格の値上げは効果がある。「カーボンプライシングは地球温暖化防止のために社会が用いる主要ツールであるべきだ」という考えには、ほとんど根拠がないことをまず認識する必要がある。

外国人労働者政策と日本の信頼性
―― 労働力確保と移民国家の間

2018年9月号

ユンチェン・ティアン ジョンズ・ホプキンス大学  博士候補生(政治学)
エリン・アイラン・チャング ジョンズ・ホプキンス大学  准教授(東アジア政治)

人口の高齢化ゆえに日本社会は外国人労働力を必要としている。いまや有効求人倍率は1・6と非常に高く、建設、鉱業、介護、外食、サービス、小売などの部門における人材が特に不足している。こうして、政府は閉鎖的な移民政策を見直すことなく、外国人労働力受け入れのために二つの法的な抜け穴を作った。第1の抜け穴は日系人向けの「定住者」在留資格、もう一つは技能実習制度(TITP)だった。問題は、労働者不足が深刻化しているために、外国人労働者割当を増やさざるを得ないが、彼らに対する法的制約が見直されていないことだ。この状況が続けば、外国人労働者に社会や法律へのアクセスを閉ざした湾岸諸国のような状況に陥り、世界のリベラルな民主国家の一つとしての日本の名声が脅かされることになる。

米中貿易戦争の安全保障リスク
―― 対立は中国をどこへ向かわせるか

2018年9月号

アリ・ワイン ランド・コーポレション  政策アナリスト

ごく最近まで米中の経済的つながりは、戦略的な不信感がエスカレートしていくのを抑える効果的なブレーキの役目を果たしてきたが、いまや専門家の多くが、世界経済を不安定化させるような全面的な貿易戦争になるリスクを警戒するほどに状況は悪化している。経済・貿易領域の対立が、安全保障領域に与える長期的な意味合いも考える必要がある。北京がアメリカとの経済関係に見切りをつければ、国際システムに背を向け、明確にイラン、ロシア、北朝鮮との関係を強化し、アメリカと同盟諸国の関係に楔を打ち込もうとすると考えられるからだ。相互依存関係の管理にトランプ政権が苛立ち、(現在の路線を続けて)経済・貿易領域で中国を遠ざけていけば、安全保障領域でより厄介な問題を抱え込む恐れがあることを認識する必要がある。

中国モデルとは何か
―― 権威主義による繁栄という幻想

2018年8月号

ユエン・ユエン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

途上国は「リベラルな民主主義」よりも「中国モデル」に魅力を感じ始め、習近平自ら、「他の諸国は人類が直面する問題への対策として、中国のやり方に学ぶべきだろう」と発言している。当然、中国モデルが注目を集めているが、それがどのようなものかという質問への答は出ていない。その経済的成功が何によって実現したかも定かではない。現実には、鄧小平期の北京が、官僚制度の改革を通じて、地方の下級官僚たちが、現地の資源を用いて経済開発を急速に進めるのに適した環境を提供したことが、中国モデルの基盤を提供している。だが、こうした特質は民主国家にとっては、おなじみのものだ。懸念すべきは、中国モデルが欧米や途上世界で広く誤解されていること、そして中国のエリートたちでさえ、中国モデルを誤解していることだろう。

マルキスト・ワールド
―― 資本主義を制御できる政治形態の模索

2018年8月号

ロビン・バーギーズ オープンソサエティ財団・経済促進プログラム アソシエートディレクター

共産主義モデルを取り入れた国が倒れ、マルクスの政治的予測が間違っていたことがすでに明らかであるにも関わらず、その理論が、依然として鋭い資本主義批判の基盤とされているのは、「資本主義が大きな繁栄をもたらしつつも、格差と不安定化をもたらすメカニズムを内包していること」を彼が的確に予見していたからだ。欧米が20世紀半ばに社会民主的な再分配政策を通じて、資本主義を特徴づけたこれらの問題を一時的に制御することに成功して以降の展開、特に、70年代末以降の新自由主義が招き入れた現状は、まさにマルクスの予測を裏付けている。今日における最大の課題は、「人類が考案したもっともダイナミックな社会システムである」資本主義の弊害を制御できる新たな政治システムを特定することにある。しかし、そのためには先ず、社会民主的政策を含めて、過去に答が存在しないことを認識しなければならない。・・・

変化する貿易と経済地図
―― デジタルグローバル化にどう備えるか

2018年7月

スーザン・ルンド マッキンゼー・アンド・カンパニー  パートナー
ローラ・タイソン カリフォルニア大学 バークレー校経営大学院教授(経済学)

グローバル化は反グローバル化に道を譲ったのではなく、新しい段階に入ったにすぎない。モノのグローバル化から最大の恩恵を引き出した政治・経済エリートと、最大の余波にさらされた労働者コミュニティーが激しい論争を展開している間にも、デジタルテクノロジーが支える新しいグローバル化が急速に進展している。デジタルグローバル化は、イノベーションと生産性を高め、かつてない情報アクセスを提供することで、世界中の消費者とサプライヤーを直接結びつけることができる。だが、これも破壊的プロセスを伴う。特定の経済部門や雇用が消滅する一方で、新たな勝者が生まれるだろう。企業と政府は、新しいグローバル化に派生する迫り来る破壊に備える必要がある。

一帯一路戦略の挫折
―― 拡大する融資と影響力の不均衡

2018年7月号

ブッシュラ・バタイネ スタンフォード大学博士候補生
マイケル・ベノン 同大学グローバルプロジェクトセンター マネージング・ディレクター
フランシス・フクヤマ 同大学シニアフェロー

中国はグローバルな開発金融部門で支配的な地位をすでに確立している。だがこれは、欧米の開発融資機関が、融資を基に進められるプロジェクトが経済・社会・環境に与えるダメージについての厳格な安全基準の受け入れを相手国に求める一方で、中国が外交的影響力を拡大しようと、その間隙を縫って開発融資を増大させた結果に過ぎない。しかも、中国が融資したプロジェクトの多くは、まともな結果を残せてない。すでに一帯一路構想に基づく最大規模の融資の受け手であるアジア諸国の多くは、戦略的にインド、日本、アメリカと再び手を組む路線へシフトしつつある。・・・

リアリスト・ワールド
―― 米中の覇権競争が左右する世界

2018年7月号

スティーブン・コトキン プリンストン大学教授(歴史学)

この1世紀で非常に深遠な変化が起きたとはいえ、現在の地政学構造は、一つの重要な例外を別にすれば、1970年代、あるいは1920年代のそれと比べて、それほど変わらない。それは、アジアのパワーバランスの鍵を握るプレイヤーとして、中国が日本に取って代わったことだ。中国が力をつけているのに対して、アメリカとその他の先進民主国家は政治が機能不全に陥り、将来に向けてパワーを維持できるかどうか、はっきりしなくなっている。もちろん、現状から直線を引いて今後を予測するのは危険だが、中国の台頭を予見した19世紀初頭の予測は、間違っていたのではなく、時期尚早なだけだったのかもしれない。すでに中国の勢力圏は拡大を続けており、現在問われているのは、中国が他国を手荒く扱ってでもルールを設定・強制しようするか、あるいはアメリカがグローバルなリーダーシップを中国と共有していくかどうかだろう。

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