フォーリン・アフェアーズ・リポート2026年2月号 目次
流動化する同盟と米中関係
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米同盟諸国の苦悩
アメリカ後の選択肢を求めて雑誌掲載論文
安全保障と防衛をアメリカに依存する同盟民主諸国を中心に形成された戦後世界は、トランプによってすでに破壊されている。国内に分断を抱え、国防より社会保障の支出を優先する傾向のある同盟諸国は、トランプのやり方が永続化しないことを願い、時間稼ぎをして、様子見をしている。だが、それは賢明ではない。同盟を不必要な重荷とみなすトランプの立場を、アメリカ人も共有し、グローバルリーダーの重荷を背負うことにはいまや消極的だからだ。同盟諸国は、早急にアメリカ後に備えるべきだ。核開発を含めて、国防領域の自立を試みる国も出てくるかもしれない。同盟諸国がアメリカに代わる選択肢をもたないことは、危険であるばかりか、無責任と言えるだろう。
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米中の大いなる取引を
関係リセットの条件雑誌掲載論文
世界には、米中がともに繁栄する余地が十分に残されている。トランプ大統領と習近平国家主席の相性は悪くなく、生産的なつながりを形作れるかもしれない。トランプは、中国、ロシア、アメリカという主要国が互いの国益を尊重し、紛争を回避する世界秩序を広く模索しており、これは中国の立場とも重なり合う。つまり、北京とワシントンの指導者は、現在の世界では、米中間の勢力均衡だけでなく、大国間協調(米中間の積極的な連携)が必要であることに同意している。米中の経済問題、台湾、朝鮮半島、日本、南シナ海問題をいかに管理し、国際システムをいかに改革していくか。これらで、米中関係の今後は左右されるだろう。
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同盟関係の崩壊と米国の孤立
同盟破壊という愚行Subscribers Only 公開論文
現在のアメリカは、イギリスが帝国の全盛期に経験した状況に直面している。世界最大の軍事大国であることは重い負担であり、それもあって、債務が驚くべき水準に膨らんでいる。中国をはじめとする野心的大国は、ますます高額化する軍備競争に資源を投入している。そして、歴史的に繰り返されてきた通り、他の諸国は古い大国を見捨てて、新興大国に乗り換え、その衰退を機に団結して対抗する誘惑に駆られている。トランプ政権が同盟国への敵対的な姿勢を継続し、長年のパートナーを侮辱し、経済的に損害を与えるような行動を続けるなら、アメリカの前にあるのは、ますます敵対的な世界になるはずだ。
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相互主義と同盟関係
帝国から共和国へSubscribers Only 公開論文
冷戦後には、世界各国がワシントンの気前のよさにつけ込む世界経済秩序が出現した。しかし、グローバル化と市場経済が政治経済の境界をなくすという賭けは失敗に終わり、いまは新たな賭けが必要とされている。持続可能な貿易・安全保障ブロックを構築する最善の方法は相互主義の大戦略だろう。これは、同等の条件で互いに関与することを約束する諸国との同盟で、同じ義務を果たそうとしない国は排除される。例えば、貿易不均衡の是正に取り組むことを拒否する国は、共通市場から追放し、高関税策の対象とされる。安全保障領域では、アメリカの同盟関係とパートナーシップをゆっくりと蝕んできた「ただ乗り」を制限する。覇権も世界秩序も必要ではなく、アメリカは世界から後退することもできる。
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ドナルド・トランプと権力政治の時代
同盟諸国はどう動くべきかSubscribers Only 公開論文
トランプは19世紀のパワーポリティックが規定する国際関係への回帰を明らかに思い描いている。同盟関係のことを、アメリカから雇用を奪う国々を保護するコストをアメリカに負わせる悪い投資だと考えている。関税引き上げなどの、経済的威嚇をパワーツールとして利用する彼のやり方は、強圧的秩序の幕開けを意味する。アメリカに譲歩しても、トランプがそれを評価することはない。アメリカの同盟国は強さを示さなければならない。トランプが理解するのは力であり、米同盟諸国が協力すれば、十分な力で立ち向かい、トランプ外交の最悪の衝動をけん制できるかもしれない。
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形骸化するアメリカの拡大抑止?
中ロによる切り崩し策Subscribers Only 公開論文
中国の指導者たちにとって、アメリカの核の傘による拡大抑止は防衛戦略ではない。北京は「中国の台頭を封じ込め、後退させようと、ワシントンは、オーストラリア、日本、韓国など、北京からみれば、中国の勢力圏にある国に拡大抑止を押しつけている」とみている。概念面から拡大抑止を批判するだけではない。北京は、アメリカの軍事的役割を低下させ、米同盟国に対して軍事的・経済的威嚇策をとり、対米抑止力を強化し、ロシアとの協調を模索している。アメリカと地域同盟諸国が安全保障協力を強化しない限り、米拡大抑止戦略は今後、致命的に損なわれていくだろう。
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同盟の流動化と核拡散潮流
次の核時代に備えよSubscribers Only 公開論文
最近の展開からも、ウクライナやその他の国々への防衛支援をめぐるアメリカのコミットメントが完全には信用できないことは明らかだろう。ワシントンが安全保障コミットメントを果たすとは信用しなかったフランスのドゴール大統領は正しかった。拡大抑止(核の傘)はまやかしであり、それを信じた人々はお人好しのカモだった。なぜフランスに倣って、核戦力を獲得して、国の安全を確保しないのかと多くの国がいまや考えているはずだ。このまま秩序が解体し続ければ、韓国は、おそらく、この拡散潮流に乗って最初に核を保有する国になるだろう。ソウルが核武装すれば、東京もそれに続き、最終的にはオーストラリアもこれに加わるかもしれない。ヨーロッパでも同じ流れが生じつつある。
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新勢力圏の形成へ
大国間競争から大国間共謀へSubscribers Only 公開論文
中国やロシアと競争するのではなく、トランプ政権は中ロと協力することを望んでいる。トランプの世界観が大国間競争ではなく、「大国間共謀(great power collusion) 」、つまり、19世紀の「ヨーロッパ協調」に似ていることは、いまや明らかだろう。こうして、アメリカの外交路線は、ライバルとの競争から、温厚な同盟諸国をいたぶる路線へ変化した。他の大国から有利な譲歩を引き出すために、トランプがビスマルクのような外交の名手になる可能性もある。しかし、ナポレオン3世のように、よりしたたかなライバルに出し抜かれてしまうかもしれない。
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トランプの強硬路線とアジア
アジアを強制するか、見捨てるかSubscribers Only 公開論文
アジア諸国が「中国かアメリカか」の二者択一を迫られれば、どう対応するだろうか。中国が常に利益を得るとは限らないが、地理的に近く、この地域と広範な経済的つながりをもち、経済的関与を戦略的優位に転化させるスキルをもつ中国は、もっとも利益を確保しやすい環境にある。アジアに選択を迫っても、その答えはワシントンの気に入るものにはならないかもしれない。一方でトランプ政権が、選択を迫るのではなく、同盟国やパートナーを見捨てることで、習近平と世界を勢力圏に切り分ける「グランド・バーゲン」をまとめようとする恐れもある。ワシントンが今後も圧力と無視という路線を組み合わせれば、北京を警戒する政府を中国の懐に送り込んでしまう危険がある。
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大陸国家と海洋国家
アメリカの混乱と世界秩序Subscribers Only 公開論文
中国やロシアのような大陸覇権国は、国際システムを巨大な勢力圏に分割すべきだと考える。一方、海洋で守られ、侵略される危険が小さい海洋国家は、争うのではなく、富を蓄積することに専念する。領土ではなく富にパワーは根ざすとみているからだ。だが、現在のアメリカは、まるで大陸国家のように振る舞っている。あまりにも多くのアメリカ人が、海洋国家秩序の恩恵を当然視し、その欠点ばかりを指摘し、その過程で、地理的・歴史的な優位を無駄に浪費している。貿易障壁を築き、近隣諸国を脅し、国際機関を弱体化させるといった大陸国家のパラダイムに回帰すれば、アメリカは再起不能に陥るかもしれない。
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勢力圏の復活
停戦交渉は第2のヤルタなのかSubscribers Only 公開論文
パワーポリティクスの復活をけん引する米中ロが、いずれも「わが国を再び偉大な国に」というストーリーを掲げる指導者に率いられているのは偶然ではないだろう。かつての偉大さを取り戻すには、中国にとっては、台湾だけでは十分ではなく、ロシアにとっても、ウクライナだけでは、プーチンのビジョンを満たすことはできない。アメリカもカナダ併合を視野に入れ始めている。現在の諸大国は、1945年のヤルタ会談で連合国首脳が世界地図を書き換えたように、新しい世界秩序を形作ろうとしている。中ロが手を組むのか、米ロが手を組んで中国と対抗する一方で、ヨーロッパ、日本、韓国は自立路線を強めていくのか。
イラン、ベネズエラと歴史の教訓
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体制変革と歴史の教訓
イラン、ベネズエラ、ガザ雑誌掲載論文
アフガニスタン、イラク、リビアでの惨憺たる失敗から考えれば、ベネズエラやイランなど、ここにきて体制変革論が突然、復活していることには驚かされる。少なくとも、政権打倒後の計画がなければ、壊滅的な事態に直面することは、歴史の教訓としてわかっている。だが、おそらくもっとも重要なのは、「対応を必要とする現象としての体制変革」と「特定の結末を得るための意図的な政策としての体制変革」をワシントンが区別することだ。ベネズエラ、ガザ、そしておそらくはキューバへのアプローチを考える上で重要なのは、他国におけるトランスフォーマティブな変化を作り出すのではなく、出現した機会を前にそれに対応し、支援することに焦点を合わせることだ。
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スタンリー・マクリスタルが語るイラク、アフガニスタンの教訓
Subscribers Only 公開論文
イラクという戦場は複雑だった。テロだけでなく、社会問題にもわれわれは直面していた。武装勢力がいただけでなく、宗派間抗争も起きていた。ネットワーク化された敵に対して、われわれもネットワーク化する必要があった。・・・「敵はどこにいるか」、「誰が敵なのか」、「敵は何をし、何をしようとしているか」を考えた挙げ句、結局「なぜ彼らはわれわれの敵なのか」を考えた。・・・アメリカにとっては、ドローン攻撃はリスクも痛みも少ないかもしれないが、攻撃される側にとっては、戦争であることに変わりはない。アメリカ人はこの点を理解する必要がある。現状で、そうした軍事技術をわれわれが無節操に用いているとは思わないが、そうなる危険は常に存在する。・・・武装勢力との戦争の重要なポイントは、たんに敵勢力を殺害することではなく、現地の民衆の面倒をみることだ。現地の民衆を守る積極的な理由があるし、そうしないのは間違っている」。(S・マクリスタル)
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クラシック・セレクション
アフガニスタンという帝国の墓場Subscribers Only 公開論文
パキスタンの荒野の西端、曲がりくねったカイバル峠の最後の前哨地点であるミシュニ・ポイントは、トーカムゲートを見下ろす軍事的要所だ。ここは一見(パキスタンと)アフガニスタンとの秩序だった国境のようにも見えるが、じつはそうではない。この地域を警備するのは、灰色のサルワール・カミーズ(伝統的な緩めのチュニックズボン)をはき黒色のベレー帽をかぶった伝説的な「カイバル・ライフルズ」たち。十九世紀以降、当初は英領インドのために、後にはパキスタンのために、民兵組織「カイバル・ライフルズ」の少佐が人影もまばらなこのアフガニスタン国境の警備の指揮に当たってきた。ミシュニ・ポイントは、南・中央アジアの支配、あるいは、南・中央アジアからの侵略のルートとしてもっとも頻繁に利用された要所である。だが、ここを通過してアフガニスタンへと兵を進めた勢力のすべては、手に負えないアフガニスタン部族との問題に遭遇することになった。
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CFR Interview
なぜアメリカはイラク戦争の判断を間違えたかSubscribers Only 公開論文
(イラクとの戦争判断をめぐっては)憶測がワシントンを支配していた。・・・憶測も情報も間違っていた。戦争は迅速かつ簡単に終わると考えられていた。イラク人はアメリカ人を解放者として歓迎する。解放されたイラクを、アラブ語に翻訳された『ザ・フェデラリスト』を読み込んだ現地の民主主義勢力に委ね、米軍が安全にイラクを離れるまで、そう長い時間はかからない、と考えられていた。・・・イラク戦争は戦う価値があったのか、戦争をめぐって一連の優れた決定が下されたとみなせるか、うまく遂行されたか。これらの問いに対する答は完全にノーだ。イラク戦争はアメリカ政府が(必要に駆られて遂行した戦争ではなく)自ら選んだ戦争だった。だが、それは間違った選択だったし、うまく遂行されることもなかった。・・・イラク戦争の教訓とは、憶測を基に政策を組み立てることがいかに危険かという点にある。疑問や厄介な問題を憶測だけで片付けてしまえば、いかなるものでも説得力があるように思え、自分で納得してしまう。それが、現実に起きてしまった。
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忌まわしきイラク紛争の現実
もはや分権化か分割しか道はないSubscribers Only 公開論文
イラク治安部隊の崩壊とシーア派武装勢力の台頭は、バグダッドの影響力をさらに弱め、イラク国内におけるイランの影響力を高めた。イランの影響下にあるシーア派武装集団は、スンニ派地域に攻め入っては残虐行為を繰り返し、結局は、スンニ派住民たちをイスラム国支持へと向かわせている。一方で、イスラム国が罪のないシーア派住民を爆弾テロで殺害すると、シーア派武装勢力への人々の支持が高まり、イラク政府はますます弱体化する。スンニ派とシーア派、アラブ人とクルド人、それぞれの宗派・民族集団の内部抗争という構図での地域的な代理戦争と紛争が同時多発的に起きており、イラク近代史におけるもっとも危険に満ちた時代が今まさに始まろうとしている。イラクが第2のシリア、つまり、市民を脅かし、大規模な難民を発生させ、ジハード主義を育む空間へと転落していくのを阻止するには大胆な措置が必要だ。おそらく各派の民族自決を認める必要がある。・・・
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人道的介入で破綻国家と化したリビア
なぜアメリカは判断を間違えたのかSubscribers Only 公開論文
NATOが軍事介入するまでには、リビア内戦はすでに終わりに近づいていた。しかし、軍事介入で流れは大きく変化した。カダフィ政権が倒れた後も紛争が続き、少なくとも1万人近くが犠牲になった。今から考えれば、オバマ政権のリビア介入は惨めな失敗だった。民主化が進展しなかっただけでなく、リビアは破綻国家と化してしまった。暴力による犠牲者数、人権侵害の件数は数倍に増えた。テロとの戦いを容易にするのではなく、いまやリビアは、アルカイダやイスラム国(ISIS)関連組織の聖域と化している。「もっと全面的に介入すべきだった。社会を再建するためにもっと踏み込んだ関与をすべきだった」とオバマ大統領は語っている。だが、実際には、軍事介入の決定そのものが間違っていた、リビアには軍事介入すべきでなかった。
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マドゥロ後のベネズエラ
今後の展開を検証するSubscribers Only 公開論文
「ワシントンが国(ベネズエラ)を運営する」というトランプの発言は、おそらく、米企業を現地で活動させ、ベネズエラ石油の管理権を掌握することを意図していると考えられる。石油産業の支配権を掌握できなければ、大統領が後退するとは考えにくい。いずれにせよ、米企業がベネズエラの石油産業を、そこがアメリカの保護領であるかのように運営するというシナリオにたどり着くだろう。トランプは今回の攻撃を民主主義ではなく、石油をめぐる問題として位置付けているようだが、これは重大な誤りだ。石油資源をアメリカに譲渡するように求めれば、ベネズエラ社会は(アメリカに)大きな敵意を抱くようになる。
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経済停滞が引きずり出した民衆の怒り
暴走するラテンアメリカSubscribers Only 公開論文
ベネズエラやキューバの介入がラテンアメリカで多発するデモや暴動のきっかけをつくりだしたかどうかはともかく、この地域の民衆の怒りが暴走しかねない状態にあったのは事実だ。21世紀初頭の原材料バブルがはじけて以降、ラテンアメリカは長期に及ぶ停滞のなかにある。賃金が停滞し、生活コストが高騰するなか、格差や政治腐敗が作り出す問題に民衆が耐えるのはもはや限界に達していた。アジェンダを絞り込んで積極的対策をとる必要がある。消極的姿勢では、低成長、民主主義への信頼の失墜、ポピュリストの台頭という悪循環をさらに大きくするだけだ。
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体制変革を求めるイラン民衆
社会的連帯を助けるにはSubscribers Only 公開論文
これまでのイランの民衆蜂起には社会的まとまりがなかったが、今回は違う。民衆は広く連帯している。農民たちは水不足に、学生たちは自由の欠如に、教員たちは報酬の不足に、そして退職者たちは社会保障の乏しさに不満を抱いてきた。蓄積されてきた人々の怒りと苛立ちを発散する抗議運動に火をつけたのが、ヒジャブの着用方法が不適切だという理由で警察に連行されたマフサ・アムニの死だった。最高指導者ハメネイが創刊した日刊紙でさえ、「インフレ、失業、少雨、環境破壊などの問題が、退職者から教育者、学生に至るまでの人々を抗議に駆り立てている」と指摘している。バイデン政権は、変革を起こすために命を危険にさらしているイランの人々が国を取り戻せるように、できる限りの手を尽くすべきだ。・・・
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イランとアメリカ
対立の歴史を終わらせるにはSubscribers Only 公開論文
12日間戦争は明らかにイランを弱体化させ、これまでのテヘランの戦略は、持続不可能な状態に陥った。この現状なら、ワシントンはイランを封じ込めたままにし、イスラエルに時折「草刈り」をさせることもできる。だが、テヘランに外交を試みることもできるはずだ。テヘランとの関係を新たな軌道に乗せ、イランの外交・核政策と政治指導層内のパワーバランスの双方を変えるような新たな外交取引を模索すべきだろう。たとえ両国の歴史が失われた機会に満ちていようと、過去が必ずしも今後のプレリュードである必要はない。両国はイランの核能力に関する緊急の合意をまとめるためだけでなく、信頼を築き、両国関係の新たな道筋を示すためにも、外交を受け入れる必要がある。
台頭する権威主義
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トランプ政治の恐るべき現実
米民主主義の復活はあり得るか雑誌掲載論文
政治的敵を標的にして、ルールや規制が選択的に利用されれば、法律は兵器と化す。いまや、トランプ政権の報復を恐れて、全米の大学、メディア、弁護士事務所、財団を含む多くの組織や個人が行動を見直し、自己規制することも多くなった。だが、勝負はまだついていない。今後のアメリカでの選挙は政策対立だけでなく、民主主義対権威主義という、より根本的な選択を伴うものになるはずだ。民主主義を守るために裁判所にだけ頼るわけにもいかない。「王様はいらない」集会だけでは民主主義は復活しない。市民は(投票、法廷、社会という)三つの領域におけるすべての手段を通じて行動しなければならない。もはや流れは止められないと考え、権威主義の衝撃を過大評価して、宿命論に陥るべきではない。
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追い込まれた民主主義
非自由主義インターナショナルの台頭雑誌掲載論文
非自由主義の権威主義国家が台頭を続ける一方で、民主主義国家は衰退している。2025年には45カ国が民主主義から離れて、独裁体制に移行し始めた。いまや完全な民主国家とみなせるのは、世界にわずか29カ国しか残されていないという見方もある。非自由主義の指導者たちの共通項は、権力を個人に集中させ、抑制と均衡を弱体化させ、政治的操作のために偽情報を利用することだ。さらに、多元主義を空洞化させ、反対勢力を非合法化することで、政治的権利と市民的自由を後退させる。しかも、国境を越えた非自由主義のネットワークを形作っている。すでに、世界のパワーバランスは独裁体制にとって有利な方向へ傾きつつある。民主国家連合に流れを覆す方法はあるのか。
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トランプと競争的権威主義の台頭
米民主主義は崩壊するのかSubscribers Only 公開論文
アメリカの司法省、連邦捜査局、内国歳入庁(IRS)などの主要政府機関や規制当局をトランプの忠誠派が率いるようになれば、政府はこれらの政府組織を政治的な兵器として利用できるようになる。ライバルを捜査と起訴の対象にし、市民社会を取り込み、同盟勢力を訴追から守れるからだ。こうして競争的権威主義が台頭する。政党は選挙で競い合うが、政府の権力乱用によって野党に不利なシステムが形作られていく。政治家、ビジネス、メディア、大学、市民団体も権威主義政権の大きな権限と圧力を恐れて、立場を見直して声を潜める。競争的権威主義の台頭は、アメリカだけでなく、世界の民主主義にとって重大で永続的な帰結をもたらすことになるだろう。
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アメリカ政治の分裂と民主体制の危機
ドナルド・トランプと競争的権威主義Subscribers Only 公開論文
トランプのアメリカがファシズムに陥っていくと考えるのは行き過ぎだが、彼が大統領になったことで、この国が「競争的権威主義」、つまり、有意義な民主的制度は存在するが、政府が反対派の不利になるように国家権力を乱用する政治システムへ変化していく恐れがある。政府機関を政治化すれば、大統領は調査、告訴、刑事責任の対象から逃れられるようになる。政党間の分裂が激しければ、議会の監視委員会が、行政府に対して超党派の集団的な立場をまとめるのも難しい。しかも、政党だけでなく、アメリカの社会、そしてメディアさえもが分裂している。いまや民主党員と共和党員は全く異なるソースのニュースを利用し、その結果、有権者はフェイクニュースを真に受け、政党のスポークスパーソンの言葉をより信じるようになった。現在の環境では、仮に深刻な権力乱用が暴かれても、それを深刻に受け止めるのは民主党支持者だけで、トランプの支持者たちはこれを党派的攻撃として相手にしないだろう。・・・
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民主国家で台頭する二つの権威主義
選挙権威主義と非自由主義的民主主義の脅威Subscribers Only 公開論文
民主主義が劣化していくにつれて、権威主義化していく。特に、選挙で勝利を手にするためなら何でもする「選挙権威主義」体制、そして選挙後に支配者が法を無視して思うままの行動をとるようになる「非自由主義的民主主義」が主流になっていくだろう。例えば、超法規的殺人を特徴とする麻薬戦争を展開しているフィリピンのドゥテルテは、選挙で選ばれたが、権力を乱用している。(権力を思うままに行使して)非自由主義的民主主義を実践しているトランプも同様だ。より厄介なのは、選挙で有利になるように、ゲリマンダー、議員定数の不均衡などのあらゆる政治制度上のトリックを利用しているマレーシアの統一マレー国民組織(UMNO)と米共和党が似てきていることだ。選挙に破れても首相を送り込んだUNMO同様に、米共和党も、一般投票では敗れつつも、最近の2人の共和党大統領候補をホワイトハウスに送り込むことに成功している。・・・
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漂流する先進民主国家
なぜ日米欧は危機と問題に対応できなくなったかSubscribers Only 公開論文
グローバル化が「有権者が政府に対して望むもの」と「政府が提供できるもの」の間のギャップをますます広げ、政府は人々の要望に応えられなくなっている。これこそ、アメリカ、日本、ヨーロッパという先進民主世界が現在直面しているもっとも深刻な問題だ。先進民主諸国が統治危機に直面する一方で、台頭する「その他」の諸国が新たな政治力を発揮しているのは偶然ではない。グローバル化した世界への統合を進めていくにつれて、先進民主国家が問題への対応・管理手段の喪失という事態に直面しているのに対して、中国のような非自由主義国家の政府は、一元化された中央の政策決定、メディアに対する検閲、国家管理型の経済を通じて、社会の掌握度を高めている。必要とされているのは、民主主義、資本主義、グローバル化の相互作用が作り出している大きな緊張をいかに解決するかという設問に対する21世紀型の力強い答えを示すことだ。政府の行動を、グローバル市場の現実、恩恵をより公平に分配することを求める大衆社会の要望に適合させるとともに、痛みと犠牲を分かち合えるものへと変化させていく必要がある。
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ヨーロッパにおけるポピュリズムの台頭
主流派政党はなぜ力を失ったかSubscribers Only 公開論文
ヨーロッパでなぜポピュリズムが台頭しているのか。既存政党が政策面で明らかに失敗していることに対する有権者の幻滅もあるし、「自分たちの立場が無視されていると感じていること」への反動もある。難民危機といまも続くユーロ危機がポピュリズムを台頭させる上で大きな役割を果たしたのも事実だ。いまやフィンランド、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スイスを含む、多くのヨーロッパ諸国で右派政党がすでに政権をとっている。「イギリス独立党」、フランスの「国民戦線」、「ドイツのための選択肢」など、まだ政権を手に入れていない右派政党もかなりの躍進を遂げている。中道右派と中道左派がともにより中道寄りの政策へと立場を見直したために、伝統的な右派勢力と左派勢力を党から離叛させ、いまやポピュリストがこれらの勢力を取り込んでいる。厄介なのは、ヨーロッパが直面する問題はEUの統合と協調を深化させることでしか解決できないにも関わらず、ヨーロッパの有権者たちがこれ以上ブリュッセルに主権を移譲するのを拒絶していることだ。・・・
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強大化する反欧米枢軸
中露・イラン・北朝鮮の目的は何かSubscribers Only 公開論文
ウクライナ戦争をきっかけに、中国・ロシア・イラン・北朝鮮は、経済、軍事、政治、技術的な結びつきを強め、共有する利益を特定し、軍事・外交活動を連携させつつある。すでに、地政学状況は変化している。実際、中国の台湾侵攻を前にアメリカが軍事介入を決断すれば、ロシアはヨーロッパの別の国に対して軍事行動を起こし、イランや北朝鮮はそれぞれの地域で脅威をエスカレートさせるかもしれない。たとえ新枢軸が直接的に侵略を連動させなくても、同時多発的な衝突が欧米を圧倒する恐れがある。さらなる連携がもたらす破壊的影響を管理し、中露・北朝鮮・イランの枢軸がグローバル・システムを動揺させないようにすることを、米外交の中核目的に据える必要がある。
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プーチンが思い描く「極右インターナショナル」とは
世界の極右を連帯させて、欧米を揺るがすSubscribers Only 公開論文
プーチンの立場が欧米の右派のそれと似ているのは偶然ではない。実際、プーチンのアドバイザーたちは、フォックス・ニュースのキャスターなど、米保守の扇動者たちの立場やレトリックを採用している。特に、文化戦争路線を取り入れることで、ワシントンなどのポピュリスト政治家の支持を確保し、欧米社会を内部から切り崩せると考えているようだ。欧米保守派のレトリックを受け入れることで、彼らの支持を確保し、それを基盤にロシアの国際的地位を向上させたいとプーチンは考えている。要するに、20世紀前半にソビエト革命を推進した共産主義インターナショナルに似た、「極右インターナショナル」を形成しつつある。
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トランプと欧州右派の連携
アメリカはヨーロッパを失う?Subscribers Only 公開論文
トランプ政権がヨーロッパの極右勢力を評価して連携したことは、危険な賭けだ。政治的分極化を煽ることは、トランプに同調するヨーロッパではなく、分断されたヨーロッパを生み出す危険がある。さらに、(右派の)政党や指導者だけを支援することで、ヨーロッパの重要地域で伝統的にワシントンを支持してきた親米派を失いつつあるかもしれない。結局のところ、トランプの欧州右派に対するアプローチがヨーロッパに与える影響は、多くの点で1980年代にミハイル・ゴルバチョフが東欧諸国に与えた影響に似たものになるだろう。ゴルビー・マニアは東欧の共産主義体制を劇的に変容させ、その過程でモスクワは勢力圏を失うことになった。
Current Issues
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中国のニューフロンティア戦略
米中競争の核心雑誌掲載論文
北京は中国の経済・政治・安全保障利益を反映できるように国際システムを改革したいと考えているだけでなく、海底や北極圏の開発、宇宙探査やインターネットを主導することをイメージし、米ドル支配ではない国際金融システムを構築することを望んでいる。こうした目標を達成するために、北京はこれらの領域にすでに長期にわたって莫大な資源を投入している。もっとも重要なのは、北京がこうした努力を粘り強く続けていることかもしれない。ワシントンは、世界の主要領域で中国がパワーを構築していることの全体像に、ようやく気づき始めたばかりだ。
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ロシアのオーウェル的監視社会
戦争と『1984』雑誌掲載論文
ロシアでは何が禁止され何が許されているのか、誰も正確に把握していない。それでも、この4年間であらゆる規制が拡大された。モスクワは、恐怖と不安を蔓延させることで、多くのロシア人を沈黙させるだけでなく、互いを黙らせるように仕向けている。そして、「伝統的な価値の保存」を命じる大統領によって、実質的に西洋文明を構成するすべての要素が拒絶されている。政府の批判派は外国のエージェントとみなされ、弾圧される。この状況のなかで、政治家も市民も、集団的狂気に駆られたかのように抑圧的な規則を次々と生み出している。
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トルコ帝国の幻想
大いなる野望、ぜい弱なパワー雑誌掲載論文
エルドアンは、オスマン帝国のような歴史的役割をトルコは回復できると考えているのかもしれない。だが、彼が思い描く「トルコ主導の地域秩序」という野望は現在のトルコには実現できない。シリアの復興を含めて、そのような秩序構想を支える経済力はないし、イスラエルとの対立も抱え込んでいる。トランプの支持もあてにはできず、湾岸諸国もトルコの野心を警戒している。エルドアンはオスマン帝国のスルタンになる夢を抱いているのかもしれないが、中東全域をカバーする唯一の支配勢力であった時代へと時計の針を戻す試みは、幻想に終わるだろう。
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中国が望む世界
そのパワーと野心を検証するSubscribers Only 公開論文
世界第2位の経済大国である中国が、ライバルが規定した条件で世界秩序に参加するはずはない。特に、2008年のグローバル金融危機以降、中国指導部は、自国の権威主義的統治システムは、自由主義国家に至るプロセスにおける一つの形態ではなく、それ自体が目的地であると明言するようになった。明らかに国際秩序を作り替えることを望んでいる。中国は間違いなく、国際社会の「舞台中央に近づきつつある」と習はすでに宣言している。今後の展開にとっての重要な鍵は、中国が世界における自らの野心を、他国にとってある程度許容できるものにできるかどうかだ。現実には、もっともらしい新世界秩序を作る中国の能力を脅かしているのは、その権威主義体質に他ならない。
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海底インフラの安全を守るには
脅かされる海底ケーブルと資源掘削施設Subscribers Only 公開論文
電子メール、電話、送金、金融決済など国境を越えた通信や取引の95%は空や宇宙ではなく、海底を走る約300本、全長96万キロ超の光ファイバーケーブルを経由している。問題は、この重要な通信ケーブルが海底でも地上との接続部分でもほぼ無防備な状態におかれていることだ。ケーブルの位置を示した地図はインターネットでも入手可能で、これを見れば各国の弱点が簡単にわかる。敵国が、高解像度ソナーと爆弾を積んだ無人自律型無人潜水機を遠隔操作して相手国にとって重要なケーブルを簡単に破壊できる状態にある。・・・・消費者は海底ケーブルを空気のような存在とみなし、その重要性を実感することがない。だが、それが失われれば、空気が失われたときと同様に苦しい思いをする。最悪のシナリオが現実になる危険を最小限に抑える対策をとる価値は十分にあるはずだ。・・・・
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北極圏のグレートゲーム
米中ロの大国間競争Subscribers Only 公開論文
トランプは大統領就任後、北極圏における領土獲得の可能性に照準を合わせ、カナダを「51番目の州」と呼び、デンマーク領のグリーンランドについては「いずれにせよ」アメリカが「獲得する」と宣言した。今後の展開がどうなろうと、北極圏の重要鉱物、海上航路、漁業、天然資源、海底採掘、衛星通信をめぐる大国間の争いが発生するのは避けられない。ロシアと中国に比べて、アメリカは大きく出遅れている。北極圏戦略の欠陥と矛盾を早急に解決する必要がある。
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デジタル人民元とドル
脅かされる米ドルの覇権Subscribers Only 公開論文
一帯一路を通じて世界のインフラプロジェクトに資金を提供している北京が、途上国の金融インフラに投資すれば、この構想を補完する「デジタル一帯一路」を構築できるし、中国と大規模な輸出入関係にある企業に、アリペイを使って「デジタル人民元」で取引するように促すこともできる。実際、中国のデジタル通貨を利用できるようになれば、(経済制裁の対象にされても)テヘランはドル建ての取引と決済、そして米金融機関を迂回できるようになる。迫りくる「デジタル通貨の時代」における経済的優位を守るには、ワシントンは直ちに行動を起こす必要がある。競争力のあるデジタル通貨をワシントンが開発できなければ、情報化時代におけるアメリカのグローバルな影響力は大きく損なわれることになるかもしれない。
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プーチンと一体化したロシア社会
反欧米路線が促したロシアの統合Subscribers Only 公開論文
プーチンは、ウクライナ戦争へのコミットメントと反欧米の敵対路線については驚くほど均質な政治環境をロシアで作り上げることに成功している。エリートたちも、戦争を支持し、プーチン信奉者の仲間入りを果たすしかない環境にある。「欧米に対抗し、米主導の国際秩序を突き崩す必要がある」というモスクワの主張はロシア社会で広く受け入れられている。財政基盤、ウクライナでの軍事的優位、そして完全な国内統制が維持される限り、ロシア社会が揺らぐことはないだろう。欧米は、「より自信を高め、大胆で過激になったロシア」にどのように関わっていくかという厄介な課題に直面している。
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イスラム世界におけるトルコのソフトパワー
宗教・文化外交の目的は何かSubscribers Only 公開論文
トルコの政府機関と市民組織は、スンニ派イスラムとトルコのナショナリズムを融合させた宗教教育プログラムを外国で実施し、トルコの言語と文化も教えている。こうした宗教・文化活動が実施される場所にはトルコの国旗が掲げられている。活動に関わる人々は、「オスマン帝国の後継国家であるトルコは、イスラムに残された最後の要塞であり、イスラム文明復活を主導する指導国である」と自負している。このソフトパワー戦略はスーダンなどのアフリカ諸国では成功している。しかし、中東では「トルコは帝国的野望をもっている」と猜疑心で捉えられ、ヨーロッパ諸国政府は、「トルコの宗教外交は社会を分断し、トルコ系移民の社会的同化を妨げる」と怒りを露わにして反発している。・・・


