1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

― 欧米におけるポピュリズムの台頭に関する論文

トライバリズムを克服するには
―― 寸断されたアメリカのパワー

2021年4月号

ルーベン・E・ブリガティー サウス大学副総長

先の米大統領選は、アメリカ社会の深い亀裂を露わにし、警戒すべきレベルのトライバリズム(政治とアイデンティティをベースとする集団主義)政治が存在することを明らかにした。それは、まるで異なる集団間の抗争のようだった。有権者は政策への関心ではなく、アイデンティティに基づく党派主義の立場をとった。民族的・イデオロギー的アイデンティティが政党を蝕んでいる。アメリカの外交官や専門家たちが、現在のアメリカのような現象を外国に見出した場合、問題を解決するための外交的介入を訴えるかもしれない。重要なのは、違いを取り除くことではない。違いを管理する方法を学ぶことだ。

プーチン主義というイデオロギー
―― 侮れない思想の力と米ロ関係の未来

2021年3月号

マイケル・マクフォール 元駐ロシア米大使

ロシアに関するアメリカの考えはミスパーセプションによって歪んでいる。専門家の多くは、例えば、ロシアは衰退途上国家だと誤解している。現実には、ほとんどの米市民が考えるよりもはるかに強大な軍事、サイバー、経済、イデオロギー領域のパワーをもつ、世界有数の強国の一つとしてロシアは再浮上している。事実、プーチン主義はヨーロッパだけでなく、アメリカでも新たな支持者を獲得しつつある。ワシントンは、あまりにも長い間、米ロ間競争のこのようなイデオロギー的側面を軽視してきた。ワシントンは、ロシア社会全体との結びつきを深めながらも、プーチンのイデオロギー・プロジェクトに対抗していく必要がある。

米外交再創造のとき
―― 路線修復では新環境に対応できない

2021年3月号

ジェシカ・T・マシューズ  カーネギー国際平和財団前会長

世界もアメリカもあまりにも大きく変わってしまった以上、トランプ前の時代に戻るのはもはや不可能だ。長年の同盟関係に疑問を投げかけ、権威主義的な支配者にエンゲージし、国際組織や条約から離脱するに及び、アメリカ外交の基盤は大きく切り裂かれてしまった。しかも、社会が二極化し、上下院ともほぼ政治的に二分されている。ほとんどの政策変更が政治論争化するのは避けられない。そして、グローバル世界のパワーは分散し、アメリカの国際的名声は失墜している。バイデンが直面するのはとかく慎重で、ときにはアメリカに懐疑的な姿勢を示す外国のパートナーたちだ。ワシントンが自らの目標を達成したければ、米社会の傷を癒すとともに、世界を説得する力を取り戻さなければならない。

カルト集団とポスト真実の政治
―― アメリカの政治的衰退

2021年3月号

フランシス・フクヤマ スタンフォード大学 「民主主義・開発・法の支配」センター所長

ソーシャルメディアは民主的議論の前提となる共通の事実認識さえ消滅させてしまった。実際、共和党員の77%が2020年の米大統領選挙で大きな不正があったと考え、4分の1近くが、Qアノンが主張する異様な陰謀論を信じている。しかも、民主党、共和党の政策の違いをめぐる対立が、文化的アイデンティティをめぐる分断線として硬直化している。そして、共和党はもはやアイデアや政策に基づく政党ではなく、カルト集団のような存在と化してしまった。大きな不確実性は、今後、共和党内で何が起きるかにある。共和党の主流派が権限を再確立するのか、それともトランプが基盤を維持するのか。

分裂と相互不信をいかに修復するか
―― 寸断されたアメリカの政治と社会

2021年2月号

イザベル・ソーヒル ブルッキングス研究所シニアフェロー

「すべてのアメリカ人の大統領になる」。現状からみて、これほど難しい課題もない。支持政党を分ける大きな要因はもはや政策ではなく、心の奥底にある価値観やアイデンティティだ。このために(自分の支持政党ではない)「もう一つの政党」は反対政党であるだけでなく、敵とみなされている。そして政治とは、共通の問題に対処していくための妥協点をみつけることではなく、自分の側が相手に勝利を収めるための闘いとみなされている。バイデンはブルーカラーの労働者、高齢の文化的伝統主義者、急進的な変化を恐れる女性たちに寄り添っていくつもりだ。警察の予算を打ち切ることはなく、中産階級の増税もしない。彼は社会を統一したいと考えている。取り残された人々に手を差し伸べ、すべてのアメリカ人が意見の違う人々をより尊重するように求めることから始めるべきだろう。それが、アメリカの魂を取り戻すことになる。

ビッグテックが民主主義を脅かす
―― 情報の独占と操作を阻止するには

2021年2月号

フランシス・フクヤマ スタンフォード大学 フリーマン・スポグリ国際研究所シニアフェロー
バラク・リッチマン デューク大学法科大学院教授 経営学教授
アシシュ・ゴエル スタンフォード大学教授(経営科学)

ビッグテックを抑え込むべきか。その経済的根拠は複雑だが、政治的にはそうすべき説得力に満ちた理由がある。強大な経済パワーを持っているだけでなく、政治的コミュニケーションの多くを管理する力をもっているからだ。つまり、ビッグテックが引き起こす真の危険は、市場を歪めることではなく、民主政治を脅かすことだ。すでにアメリカとヨーロッパの双方で、政府はビッグテックに対する独占禁止法違反の訴訟を開始しており、裁判は今後何年にもわたって続くだろう。だがこのアプローチは最善の方法とは必ずしも言えない。むしろ、この問題に対処できるのはミドルウェアだろう。現在、プラットフォームが提供するコンテンツは、人工知能プログラムによって生成された不透明なアルゴリズムによって決定されているが、ミドルウェアを使えば、ユーザーが管理を取り戻せるようになる。

世界を修復し、建設する
―― ポストトランプ外交の前提

2020年12月号

リチャード・ハース 外交問題評議会会長

深刻な混乱を引き起こしたこの4年間の米外交は、パンデミックとともに、アメリカと世界に大きなダメージを与えてきた。アメリカの名声そして戦後75年にわたって構築されてきた貴重な同盟関係や国際的制度が深く傷つけられた。トランプ路線を覆すのは歓迎されるとしても、それだけでは問題は解決しない。修復と建設が必要だ。修復とは、存在するが壊れているものを再び機能させることで、建設とは、新しく何かを創造することだ。最初の6―9カ月のバイデン外交は修復に徹すべきで、建設の機会や特定領域の必要性に対処していくのはその後でなければならない。真っ先に取り組むべきはパンデミック対策であることは、はっきりしている。その後にも、地球環境問題、中国、北朝鮮と問題は山積している。

トランプ後もポピュリズムは続く
―― 民主主義はなぜ衰退したのか

2020年12月号

ダロン・アセモグル   マサチューセッツ工科大学(MIT)教授

ポピュリスト運動は、不平等とエリートに対する怒りを背景に台頭した。しかし、なぜアメリカの有権者は不平等が拡大し、超富裕層が普通の人々を踏み台にして恩恵を得ていた2016年に、左ではなく右を向いたのだろうか。実際には、右派ポピュリズムは、トランプが共和党を乗っ取る20年以上前から強力な政治トレンドとして再浮上していた。政治を二極化させ、政治秩序を解体したのは、グローバル化、デジタル技術、オートメーション技術の拡大が伴う社会経済問題に民主制度がうまく対応できなかったからだ。再び似たような権威主義のポピュリストが登場して、権力を握ることを阻止したいのなら、この流れを理解し、対策をとらなければならない。トランピズムのルーツは、トランプで始まり、終わるものではない。

世界はより平等になりつつある
―― グローバル化が先進国の中間層を傷つけても

2020年10月号

ブランコ・ミラノビッチ  ニューヨーク市立大学大学院 ストーンセンター シニアスカラー

グローバル化は先進国における国内格差を拡大しつつも、世界レベルでみた(国家間)格差を低下させるという別の重要な作用を伴っていた。こうした世界の平等化は中国市民の収入が大幅に増加したことで促されてきた。つまり、アジアの成長は欧米中間層の衰退の背後で起きていたと言い換えることもできる。このトレンドが続けば、今後10年以内に中国の中間層の多くは欧米の中間層よりも豊かになる。これは、この2世紀で初めて、欧米の中間層が、世界レベルでみた所得のトップ20%に入るグローバルエリートの一部ではなくなることを意味する。そして中国の成長は、世界を平等にするのではなく、むしろ国家間格差を広げる作用をするようになる。一方で、依然として比較的貧しい人口大国・インドの成長が、世界をより平等にする上で重要な役割を果たすようになるはずだ。

アメリカの危険な対中コンセンサス
―― チャイナスケアを回避せよ

2020年1月号

ファリード・ザカリア CNNファリード・ザカリアGPSホスト

「経済的にも戦略的にも、中国はアメリカの存続にかかわってくる脅威であり、これまでの対中政策はすでに破綻している。ワシントンは中国を封じ込めるためのよりタフな新戦略を必要としている」。これが、民主・共和両党、軍事エスタブリッシュメント、主要メディアをカバーしている新対中コンセンサスだ。しかし、このコンセンサスでは脅威が誇張されている。ソビエトの脅威を誇張したことの帰結がいかに大きかったことを思い出すべきだ。中国が突きつける課題を現状で適切に判断しないことの帰結はさらに大きなものになる。40年にわたる中国へのエンゲージメントを通じてやっと獲得したものを浪費し、中国に対決的政策をとらせ、世界の二大経済大国を経験したことのない規模と範囲の危険な紛争へ向かわせる。この場合、われわれは数十年にわたる不安定化と不安の時代に向き合うことになる。・・・

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