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テロに関する論文

テロ情報の共有で変化する米欧関係
―― プライバシー保護とテロ対策の間

2016年9月号

ミシェル・フロノイ 元米国防次官(政策担当)
アダム・クレイン 米外交問題評議会国際関係フェロー

依然としてスノーデン事件の衝撃の余波が残るヨーロッパでも、アメリカのサーベイランス活動をどう受け止めるかについての政治ダイナミクスは変化し始めている。ドイツでは、自国の情報機関が外国の政府機関を諜報の対象にしていたことが明らかになったことで変化が生じた。ジハード主義者の攻撃に脅かされるベルギー、フランスその他のヨーロッパ諸国世論も、(プライバシー保護よりも)安全保障重視へと大きく傾斜し、情報活動への見方は変化している。すでにホワイトハウスは、ヨーロッパの同盟諸国の防衛と国境警備の強化のため、ヨーロッパの主要都市に対テロ専門家チームを派遣している。アメリカの次期政権は、ヨーロッパの情報活動に関する政治ダイナミクスの変化がもたらしている機会をうまく生かす必要がある。

漂流する米・サウジ関係

2016年8月号

F・グレゴリー・ゴース テキサスA&M大学 行政大学院教授(国際関係)

戦後のアメリカとサウジの関係を支えてきた複数の支柱に亀裂が入り始めている。両国を「反ソ」で結束させた冷戦はとうの昔に終わっている。イラクのサダム・フセインが打倒されたことでペルシャ湾岸諸国への軍事的脅威も消失した。しかも、米国内のシェールオイルの増産によって、(中東石油への関心は相対的に薄れ) エネルギー自給という夢が再び取りざたされている。一方サウジは中東全域からイランの影響力を排除することを最優先課題に据え、中東政治で起きることすべてを、イランの勢力拡大というレンズで捉えている。当然、アメリカが重視するイスラム国対策にも力を入れようとしない。すでに「サウジとの同盟関係に価値はあるのか」という声もワシントンでは聞かれる。しかし中東が近い将来、安定化する見込みがない以上、リヤドとの緊密な関係を維持することで得られる恩恵を無視するのは愚かというしかない。・・・

エルドアンの予言
―― 軍事クーデターの政治的意味合い

2016年8月号

マイケル・J・コプロー イスラエル政策フォーラム 政策ディレクター

エルドアンが軍の影響力から逃れられると考えたことはなく、軍事クーデターが起きる危険を常に意識してきた。こうして彼はトルコ軍、ギュレン運動、ゲジパークにおける市民の抗議行動と、それが何であれ、あらゆる政府に対する挑戦を策略・陰謀とみなすようになった。もちろん、軍のクーデターが成功していても、この国の民主主義を支えたはずはない。最善のシナリオをたどったとしても、現在とは違う、権威主義体制を出現させていただけだろうし、悪くすると、内戦に陥っていた危険もある。だからといって、クーデターの失敗を民主主義の勝利とみなすのも無理がある。エルドアンは今回のクーデター未遂事件を根拠に自分の見方の正しさを強調し、大統領権限の強化と反エルドアン派の弾圧を含む、望むものを手に入れるために最大限利用していくだろう。

イスラム国の黄昏
―― 離脱したシリア人元戦闘員たちへのインタビュー

2016年6月号

マラ・レブキン / イエール大学ロースクール博士課程 、アハマド・ムヒディ / ジャーナリスト

イスラム国を後にするシリア人戦闘員が増えている。2016年3月だけでも、数百人のイスラム国戦闘員がラッカやアレッポを離れて、戦線離脱したと考えられており、その多くがシリア人だ。離脱後、穏健派の自由シリア軍(FSA)に参加する者もいれば、紛争から離れようと、国境を越えてトルコやヨルダンに向かう者もいる。シリアのイスラム国は、現地社会や地勢などをめぐるインサイダー情報をめぐってシリア人メンバーに多くを依存してきた。逆に言えば、シリア人戦士の戦線離脱の増大は、シリアにおけるイスラム国の統治と軍事活動を大きく脅かすことになるだろう。現在トルコにいる8人の元イスラム国戦闘員たちへのインタビューから浮かび上がるのは、もはや勢いを失い、自暴自棄となったイスラム国の姿だ。

グローバル化したイスラム国
―― 増殖する関連組織の脅威

2016年4月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

欧米諸国が、国内の若者たちがイラクやシリアへ向かうことを心配していればよかった時代はすでに終わっている。ジハード主義者たちが、中東だけでなく、中東を越えたイスラム国のさまざまな「プロビンス」を往き来するようになる事態を警戒せざるを得ない状況になりつつある。「プロビンス」を形づくる関連組織の存在は、イスラム国の活動範囲を広げる一方で、地域紛争における関連組織の脅威をさらに高めており、いずれ関連集団による対欧米テロが起きる恐れもある。だが、われわれは「コア・イスラム国」の指導者と、遠く離れた地域で活動するプロビンスの間で生じる緊張をうまく利用できる。適切な政策をとれば、アメリカとその同盟国は「プロビンス」と「コア・イスラム国」に大きなダメージを与え、相互利益に基づく彼らの関係を破壊的な関係へと変化させることができるだろう。

ヨルダンとイスラム国
―― なぜヨルダンでは大規模テロが起きないか

2016年4月号

アーロン・マジッド アンマン在住ジャーナリスト

サウジアラビア、イラク、シリアとは違って、これまでのところヨルダン国内ではイスラム国による大規模なテロ攻撃は起きていない。国内のイスラム国関連の事件による犠牲者数は、多くて5人。ヨルダンの治安部隊、情報機関が洗練された高い能力をもっているとしても、それだけで「なぜヨルダンがイスラム国のテロを回避できているか」のすべてを説明するのは無理がある。おそらく他の中東諸国とは違って、ヨルダン政府が民意を汲み取る明確な姿勢をみせてきた結果、社会の混乱を抑え、テロのリスクを抑え込めたのかもしれない。「民主体制ではないが、ヨルダンはアラブ諸国のなかでも数少ない、市民が政府への要望や不満を表明できる国だ」。ヨルダンではアブドラ国王とムスリム同胞団はともに相手に対して寛容な立場をとっている。そこに問題への政治的解決策が存在することが、大がかりな社会的混乱も過激派テロもヨルダンで起きていない最大の理由ではないか。

東南アジアとイスラム国
―― アジアのジハード主義とイスラム国

2016年3月号

ジョセフ・チンヨン・リョー 南洋理工大学 国際関係大学院学院長

2016年1月14日、イスラム国によるテロがジャカルタで起きた。テロを計画したのは、数年前にシリアに向かったインドネシア国籍のバールン・ナイム。テロは「東南アジアにおけるイスラム国の指導者」を自任するナイムの主張を立証するための示威行動だったと考えられている。実際には、イラクやシリアのイスラム国指導者たちは、現状では東南アジアを拠点として重視していないし、イスラム国のイデオロギーが東南アジアで支持されているわけでもない。ジェマ・イスラミアとインドネシアのイスラム国支持派の対立は良く知られている。だが、二つの組織が、イデオロギー的に和解することはなくても、戦術的な同盟関係を結ぶ可能性は排除できない。分裂している親イスラム国支持グループを連帯させようとする動きもある。だが本当の危険は、イスラム国の出現によって、インドネシア国内のジハード主義集団や過激派のネットワークに、フィリピンやマレーシアの過激派が参加し、さらなる社会暴力が引き起こされることだろう。

ヨーロッパの政治的混乱とイスラム主義
―― 代替策なきヨーロッパに苦悶する若者たち

2016年1月号

ケナン・マリク インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト

イスラム教徒の若者だけではない。ヨーロッパの若者の多くがその政治プロセスに幻滅し、自分の声を届けられないことへの政治的無力感、メインストリームの政党も、教会や労働組合のような社会的集団も自分たちの懸念や必要性を理解していないことへの絶望が社会に蔓延している。これまでなら、そうしたメインストリームに対する不満を抱く若者の多くは政治的変化を求める運動に身を投じたが、いまやそうした政治運動も現実との関連性を失っている。そして移民の社会的統合を目指したヨーロッパの社会政策が、より分裂した社会を作り出し、帰属とアイデンティティに関する視野の狭いビジョンを台頭させてしまった。皮肉にも、こうした欧州の社会政策が、不満をジハード主義に転化させる空間の形成に手を貸してしまっている。・・・・

アサド大統領、シリア紛争を語る

2015年3月号

バッシャール・アサド シリア大統領

そこには二つの反政府武装勢力がいる。多数派はイスラム国とヌスラ戦線・・・。もう一つはオバマが「穏健派の反政府勢力」と呼ぶ集団だ。しかしこの勢力は穏健派の反政府勢力というよりも、反乱勢力だし、その多くがすでにテロ組織に参加している。そしてテロ集団は交渉には関心がなく、自分たちの計画をもっている。一方でシリア軍に帰ってきた兵士たちもいる。・・・紛争は軍事的には決着しない。政治的に決着する。・・・問題はトルコ、サウジ、カタールが依然としてこれらのテロ組織を支援していることだ。これらの国が資金を提供し続ける限り、障害を排除できない。・・・

イスラム国の全貌
―― なぜ対テロ戦略は通用しないか

2015年3月号

オードリー・クルト・クローニン ジョージ・メイソン大学教授(国際安全保障プログラム)

イスラム国はテロ集団の定義では説明できない存在だ。3万の兵士を擁し、イラクとシリアの双方で占領地域を手に入れ、かなりの軍事能力をもっている。コミュニケーションラインを管理し、インフラを建設し、資金調達源をもち、洗練された軍事活動を遂行できる。したがって、これまでの対テロ、対武装集団戦略はイスラム国には通用しない。イスラム国は伝統的な軍隊が主導する純然たる準軍事国家で、20世紀に欧米諸国が考案した中東の政治的国境を消し去り、イスラム世界における唯一の政治、宗教、軍事的権限をもつ主体として自らを位置づけようとしている。必要なのは対テロ戦略でも対武装集団戦略でもない。限定的軍事戦略と広範な外交戦略を組み合わせた「攻撃的な封じ込め戦略」をとる必要がある。

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