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テロに関する論文

経済安全保障国家と地政学
―― デリスキングとサプライチェーン

2023年12月号

ヘンリー・ファレル ジョンズ・ホプキンス大学 教授(国際関係論)
エイブラハム・ニューマン ジョージタウン大学 教授(政治学)

いまや、消費者向け電子機器が簡単に兵器化され、高性能グラフィックチップが軍事用人工知能のエンジンに転用される時代にある以上、貿易と通商を安全保障から容易に切り離すことはできない。こうして生まれたのが「相互依存世界が作り出す脆弱性を管理するプロセス」としての「デリスキング」だ。経済安全保障の新概念を実践していくには、それに対応していくための政府構造の再編に取り組まなければならない。過去は適切な指標にはならないし、現在の問題は厳格な再評価を必要としている。高度な相互依存状況にあり、安全保障上リスクに満ちた世界にうまく適合していくには、経済安全保障国家の確立に向けた大きな改革が必要になる。

イスラエルがガザに侵攻すれば
―― ヒズボラ、西岸、イラン(10/9)

2023年11月号

ブルース・ホフマン 米外交問題評議会シニアフェロー(テロ、テロ対策担当)

ヒズボラとハマスとの長年のつながり、そしてヒズボラとハマスをともに支えるイランがこれらのテロ集団を存続させることに大きな関心をもっていることを考えると、イスラエルがガザへの地上戦を開始した場合、ヒズボラは基本的に自らの意思だとしても、完全にイランの意向に同調して、イスラエルとの戦争に参戦する可能性が高い。この場合、その帰結は非常に大きなものになる。さらに、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ武装勢力はいつ行動を起こしてもおかしくなく、イスラエルが大規模な地上攻撃を試み、ガザを再占領すれば、そのリスクは一気に高まるだろう。この場合、別の疑問が生じる。三正面戦争に直面した場合、イスラエルは、テヘランがその手下に攻撃を控えるように求めることを期待して、イランをターゲットにして圧力を高める行動をとるだろうか。

生成AIとプロパガンダ
―― 高度な偽情報にどう対処するか

2023年5月号

ジョシュ・A・ゴールドスティン ジョージタウン大学 セキュリティー・新領域技術センター リサーチフェロー
ギリシュ・サストリー オープンAI 政策チーム リサーチャー

チャットGPTなどの対話型AIは、人間が書いた文章かAIによるものかが分からず、大量生産が可能なコンテンツを安価に生成する能力をもっているために。プロパガンダに悪用される恐れがある。実際、AI生成プロパガンダでオンライン空間を埋め尽くせば、疑念の種をまき、真実を見極めるのを難しくし、人々は自分の観察さえ信用できなくなる。社会と共有する現実への信頼を失う危険もある。「こうした言語モデルのアクセスを誰が管理するのか、誰を危険にさらすことになるのか、AIに人間の会話を模倣させるのは望ましいのか」。政府、企業、市民社会そして市民は、こうしたモデルの設計や使用法、そしてそれがもたらす潜在的なリスクを管理する方法について、発言権をもつべきだ。

民主主義を脅かすスパイウェアの脅威
―― 標的は野党と反政府勢力

2023年3月号

ロナルド・J・デイバート トロント大学教授(政治学)

イスラエルに拠点を置く「NSOグループ」がプログラミングしたスパイウェア「ペガサス」が、各国の著名な野党政治家、ジャーナリスト、人権活動家のデジタル機器から発見されている。ペガサスは、最新のスマートフォンに気づかれずに侵入でき、オペレーターはターゲットの個人情報にほぼ完全にアクセスできる。こうしたスパイウェアを利用しているのは、世界の独裁者だけではない。多くの民主国家も、人権と説明責任についての確立された規範を侵害する形で、スパイウェアを利用し始めている。しかも、この産業はほとんど規制されていない。

中東における宗派対立の再燃
―― カギを握るイラン核合意の再建

2022年3月号

ヴァリ・ナスル ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 教授(中東研究)

中ロが中東への関心を高め、イランが頑迷な路線を崩さず、スンニ派アラブ諸国がアメリカの安全保障コミットメントをかつてなく疑いだしたタイミングで、ワシントンは中東における活動を手控えようとしている。シーア派イランの優位を覆そうとするスンニ派の動きが地域的に広がりをみせている。しかも、混乱のなかで各国の社会契約が破綻し、国が機能不全に陥るなか、過激派の動きが勢いづいている。より安定した地域秩序への道を切り開かない限り、アメリカは遠ざかろうと試みても、結局、中東の地域紛争に引きずり込まれるだろう。大きな鍵を握るのが、イランとの核合意を再建できるかどうかだ。交渉が決裂すれば、イランとアメリカは危険な対立の道を再び歩み始め、アラブ世界を巻き込んで、宗派対立もさらに激化することになるだろう。

アルカイダ対イスラム国
―― アフガンにおける権力闘争

2021年11月号

コール・ブンゼル  フーバー研究所フェロー

タリバンは、アルカイダとの関係を維持する一方で、アフガンの正統な支配者として国際的な承認を得たいと考えている。アルカイダの「トランスナショナルな(テロ)アジェンダ」は共有していない。タリバンの利益認識はアフガンに始まりアフガンに終わる。一方、イスラム国(ISIS)は強硬路線をとることで、タリバン内の強硬派を取り込んでアフガンでの基盤を拡大したいと考えている。(米軍の撤退と)タリバンの復権によって、アルカイダは組織を再編する上でこの10年で最大の機会を手にするかもしれないが、それを生かすのは容易ではない。一方、ISISが民衆の支持を勝ち取り、マンパワーと資金面でタリバンと五分に持ち込むのもおよそ不可能だ。・・・

中東における全面戦争のリスク
―― 何が起きても不思議はない

2020年1月号

ロバート・マレー 国際危機グループ(ICG) プレジデント

中東のいかなる地域における衝突も中東全体を紛争に巻き込む引き金になる恐れがある。一つの危機をどうにか封じ込めても、それが無駄な努力になる危険が高まっているのはこのためだ。しかも、国家構造が弱く、非国家アクターが大きな力をもち、数多くの大きな変化が同時多発的に進行している。イスラエルと敵対勢力、イランとサウジ、そしてスンニ派の内部分裂が存在し、これらが交差するだけでなく、ローカルな対立と絡み合っている。「サウジに味方をすることは、(イエメンの)フーシに反対するということであり、それはイランを敵に回すことを意味する」。こうしたリンケージが入り乱れている。ワシントンが中東から撤退するという戦略的選択をしようがしまいが、結局、アメリカはほぼ確実に紛争に巻き込まれていく。

CFR In Brief
シリア北西部の現状
―― そこに誰がいるのか

2019年12月号

リンジー・メイズランド
CFR.org アジア担当ライター

アンカラが南部国境線に近いシリア北部にトルコ軍を投入したことで、シリア内戦は新たな局面を迎えている。わかり難いのは現地でどのようなプレイヤーたちが活動しているかだ。
10月9日、シリアに展開する米軍が国境地帯から撤退した後、トルコ軍は国境を越えて、実質的なクルド人地域に進攻した。一方クルド人勢力の要請に応じてシリア軍が北東部に進攻した。
トルコ軍とクルド人勢力との間で交戦が起き、トルコ軍によるクルドの民間人を対象とする残虐行為があったとも報道された。10月下旬、ロシアのソチでプーチンとエルドアンが会談し、安全地帯の設定を含む国境地帯に関する合意が交わされた。
ロシアは「クルド人勢力の撤退はすでに完了した」と表明し、国境地帯をロシア軍とトルコ軍が合同パトロールをしている。事態は依然として流動的で、特にクルド人勢力がこれまで管理してきたイスラム国戦闘員の拘束施設や難民キャンプがどのような状態にあるかが懸念されている。(FAJ編集部)

粉砕されたクルド人の夢
―― エルドアンとトランプの誤算

2019年12月号

アンリ・J・バーキー リーハイ大学教授(国際関係論)

トランプは(米軍のシリアからの撤退という)クルド人に対する裏切り行為への米社会の反発を過小評価し、エルドアンは、トルコの残忍な侵攻作戦に対する国際社会の反発を軽くみていたようだ。アメリカの議会、軍、官僚、メディアは「(イスラム国との戦いの中枢を担った)同盟勢力であるシリアのクルド人をなぜあっさりと見限ったのか」と困惑した。しかも、クルド人が支配してきた地域に収容されている1万2000人のイスラム国戦闘員と4万人の家族が収容施設から外へ出る恐れもある。カリフ国家を打倒するという数年に及んだ困難な試みの成果を、(米軍を撤退させ、トルコのシリア侵攻を認めたことで)トランプはあっさりと台無しにしたのかもしれない。いまやトルコと欧米の関係だけでなく、トルコの国内政治も、トルコと中東におけるクルド人との関係も不安定化している。

東南アジアとイスラム国勢力
―― ジハードの戦士は東南アジアを目指す

2019年11月号

ザチャリー・アブザ 米国防大学教授
コリン・P・クラーク ソウファン・センター シニアリサーチフェロー

いまやイスラム国は土地と民衆をもつ主権という概念から離れ、「分権化されたグローバルな武装抵抗モデル」へギアを入れ替えつつある。すでに、2018年以降、外国人戦闘員は、レバントではなく、フィリピン、インドネシア、マレーシアをグローバルジハードの新しい戦線とみなすようになった。東南アジアにはイスラム国系組織だけではなく、親アルカイダ系のネットワークもある。こうした武装集団は、中東の二つのテロ集団のいずれかと連帯関係を組織しようとする。視野の狭い闘争にグローバルな意味合いをもたせれば、メッセージを伝え、戦闘員をリクルートし、資金を調達する上で有利になるからだ。イスラム国は武装集団に姿を変えざるを得ないが、未開の地である東南アジアが、この組織に大きな恩恵をもたらすことになるのかもしれない。

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