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論文データベース(最新論文順)

ドローン兵器と実体なき戦争

2011年8月号

ピーター・ベルゲン
ニューアメリカン・ファウンデーション ディレクター
キャサリン・タイデマン
ニューアメリカン・ファウンデーション リサーチフェロー

ワシントンの政治・軍事指導者たちは、ドローン(無人飛行機による)攻撃プログラムは対ゲリラ戦略において大きな成功を収めていると考えており、攻撃の巻き添えになって死亡した民間人も2008年5月からの2年間で30人程度だと主張している。だが、パキスタン人の多くは、ドローン攻撃によって多くの民間人が犠牲になっていると考えている。パキスタンの部族地域で暮らす人々の75%が「アメリカの軍事ターゲットに対する自爆テロは正当化される」と考えているのも、こうした現地での認識と無関係ではないだろう。一方、パキスタン政府は、ドローン攻撃によって自分たちの敵であるパキスタン・タリバーンの指導者も殺害されているために、アメリカによる攻撃を黙認している。この複雑な現状の透明性を高める必要がある。部族地域の武装勢力に対するドローン攻撃がアメリカとパキスタン双方の利益であることをアピールし、ドローン攻撃をめぐるパキスタン軍の役割を増大させるべきだ。パキスタンの空で戦争を始めたのはワシントンだったかもしれないが、イスラマバードの協力なしでは、この作戦を完了することはできないのだから。

Review Essay
都市設計を考える
―― 都市と郊外の対立と融和

2011年8月号

サンディー・ホーニック ニューヨーク市都市計画局戦略コンサルタント

歴史的に都市開発にはさまざまな思想があった。19世紀には都市の美化運動と田園都市運動が大きな流れを作り出した。建物のデザイン、彫刻に芸術的要素を取り入れることを求めた都市の美化運動は公共建築部門で大きな流れを作り出したが、住民が都市にいながら田園生活を送れるようにすることを目的とする田園都市運動は定着せず、結局、郊外という概念が形成された。ここに都市と郊外という複雑な関係が生じた。ときに対立しつつも、いまや、ほとんどの人々が郊外の好きな場所に住みながら、仕事をし、食事をし、買い物をする場所についてこれまでよりも豊かな選択肢を持てるようになり、都市の中枢と郊外は相互補完的な存在になりつつある。だが、ここにいたるまでには伝統的な都市を再開発する必要があると考えたフランク・ロイド・ライトを始めとする偉大な都市開発の理論家、また、都市は完璧ではないからこそ面白いと考える専門家など、都市計画はさまざまな思想的変遷を経験している。

CFRインタビュー
米格付け引き下げは何を引き起こすか
―― さらなる新興国の台頭か、米経済の再生か

2011年8月号

ケント・ヒューズ ウッドロー・ウィルソン・センター プログラムディレクター

一定の対策は採られたが、ヨーロッパの主要銀行が問題に関与しない限り、ギリシャのソブリン債務の解決はあり得ないと多くの専門家はみている。中国はインフレ問題を抱え、対応に追われている。一部地域では住宅バブルが生じ、生活コストが上昇している。ブラジル経済は中国と比べれば安定しているが、同様にインフレリスクを抱えている。アメリカ経済は、赤字削減をどう進めていくかについて大きな不確実性が残されているとはいえ、依然としてその金融市場は奥深く、力強いと考えられている。格付けが引き下げられても、米国債の魅力が大きく色あせることはない。最終的には、議会もアメリカが直面している長期的な財政・債務問題に対処していくだろう。むしろ、格付け引き下げによって、財政赤字・債務問題への政治的対応が刺激される可能性が高い。すでに格付け会社は米議会の関係者に対して、なぜ格付けを引き下げる可能性があるかについて話をしている。当面は、ドルが最善の投資対象とみなされるはずだ。(K・ヒューズ)

中国の意図は何か

2011年8月号

アンドリュー・ネーサン コロンビア大学政治学教授

「悲劇的な紛争を回避するには、アメリカは中国の台頭を悠然と受け入れるべきだ」。こう主張するヘンリー・キッシンジャーは、中国外交を高く評価している。アメリカが外交を取引とみなしているのに対して、中国は外交を心理学でとらえ、外国からのゲストを恐れさせ、不快にするか、あるいは、中国側の富、寛大さ、冷静さを見せつけることで、相手がすり寄ってくるように仕向けるとキッシンジャーは指摘する。一方、フリードバーグは、中国の意図は、「東アジアにおける支配的なパワーとしてのアメリカに取って代わり、おそらくは、アメリカを東アジア地域から締め出す」ことにあるとみなし、アメリカに好ましいパワーバランスを維持することで、中国の台頭に対する一定の境界線を引くべきだと主張している。二人の立場は、共和党主流派内における対中戦略の亀裂を見事に浮き彫りにしている。だが、いずれにしても、中国にはアメリカをアジアから締め出せるような力はない。そうなるとすれば、アメリカがアジアからの全面撤退を決意した場合だけだろう。・・・

「今回の危機はヨーロッパの人々に自分がヨーロッパ人となることを夢見ているのか、それとも、結局は、ドイツ人、フランス人、イタリア人に戻るのかという命題を突きつけている」。ソブリン危機が、ヨーロッパで第3の経済規模をもつイタリアにも飛び火しかねない緊迫した情勢下で、ユーロ圏首脳は対ギリシャ第2次支援策で合意し、状況は一時的に落ち着いたかにみえる。だが、問題は残されている。7月中旬にも、ベルルスコーニ首相は緊縮財政プログラムを成立させることで、市場の動揺を抑えて、かろうじて危機発生を食い止めたばかりだった。イタリアがソブリン危機に陥らずにすんだのは、ポルトガルやスペインとは違って大きな対外債務を抱えていないからだと指摘するジョン・キャボット大学のフランコ・パボンチェッロは「国債の多くはイタリア人が保有しており、今後もイタリア人は国債を買い続けるだろう」とみる。だが、イタリアの政治的な不確実性が「市場のコンフィデンスを損なっている」と同氏は語る。「危機にどう対応すべきかをめぐってイタリアの政治家が困惑していることを、市場は懸念している」と語った同氏は、結局、ユーロゾーンは、ユーロ共同債の発行を含む、共通の解決策を模索するしかないとコメントした。聞き手は、クリストファー・アレッシ(cfr.orgのアソシエート・スタッフライター)

苦しみのなかにある人を助けるのは チャリティか、責務か
―― 人道主義における義務と思いやりについて

2011年8月号

マイケル・ウォルツァー プリンストン高等研究所 社会科学名誉教授

われわれは、人道援助をフィランソロピー(利他的な奉仕活動)の一形態だと考えている。ハイチでの地震、アジアでのツナミなどの被災者を支援するのは、人々を苦しみや生命の危機から救い出そうとする慈善行為で、これは明らかに良いことだ。しかし、人道主義は、「思いやり」というだけでなく、むしろわれわれの「責務」、「義務」なのかもしれない。そうしないのが間違っているからだ。思いやりと責務は二つで一つのセットであり、困難な状況にある人々にわれわれが与えるべき贈り物なのかもしれない。人々は、数多くの選択肢のなかからどのようにチャリティを行うかを決めるが、そのためにどの程度の時間をさき、努力し、お金を寄付できるかが選択の基準とされる。だが、正義の観点から何が必要かを理解せずに、適切な判断を下すことはできない。人道支援のチャリティと責務をセットにして考え、どのような正義が必要なのかを検討しなければならない。正義へのコミットメントは個人として市民として、われわれが果たすべき義務である。

CFRブリーフィング
「リスクフリー」の輝きを失った米国債

2011年8月号

フランシス・E・ウォーノック 米外交問題評議会国際金融担当非常勤シニアフェロー

世界の準備通貨としてのドルが地位を失っていくには、いくつかのステップが必要になるが、その一部が現実になるのをわれわれは近く目の当たりにすることになるかもしれない。世界のリスクフリーな資産を危険にさらした政府が、今後も赤字と債務の削減に向けた実体を伴う対策をとらなければ、ドルへの信頼が回復することはあり得ない。ドルへの信頼が低下すれば、投資家は、価値を蓄えておくどこか別の場所を探し始め、価値を創造してくれる他の借り手を探し始めるはずだ。・・・

CFRミーティング
通貨戦争、資本管理、 そして国際通貨システムの未来

2011年1月号

スピーカー
ベン・ステイル 米外交問題評議会 国際経済担当シニア・フェロー
アラン・テイラー モルガン・スタンレー シニアアドバイザーアジャイ・シャー インド国立財政政策研究所教授
プレイサイダー
セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会・地政経済学センター所長

ロバート・トリフィンが指摘したように、ドルが国際的な準備通貨とされる限り、ドルの世界への供給量が少なすぎても、多すぎても危機が作り出される。つまり、現在の通貨レジームそのものを変えない限り、二つの危機の間を揺れ動くことになる。残された選択肢は二つしかない。・・・・・(B・ステイル)

新興国が変動相場制を懸念し、大規模な外貨準備を積み増したのは、自国通貨建てで債券を発行する力がなかったからだ。・・・だが、いまや多くの新興国はそうした力を持つようになった。これは新興国が次第に途上国を卒業しつつあることを意味する。(A・テイラー)

新興国の外貨準備は危機に対処できるレベルを十分に超えている。特に2002年以降、外貨準備は(輸出に有利な為替を維持するための)重商主義路線の一部と化した。・・・現在われわれは、為替重商主義の時代にある。(A・シャー)

CFRミーティング
21世紀のエネルギー地政学
――原子力、天然ガス、石油の未来

2011年8月号

スピーカー
マイケル・レビ 米外交問題評議会シニア・フェロー
ウィリアム・マーチン 米エネルギー省原子力諮問委員会・委員長
デビッド・サンダロー 米エネルギー省次官補(政策・国際関係担当)
プレサイダー
トマス・ウォーリン エナジー・インテリジェンスグループ 編集長

原子力産業は数年間にわたって停滞を経験するかもしれないが、その後は、各国で原子力による電力生産が再び推進されることになるだろう。・・・最後に残される問題は、核廃棄物だ。核廃棄物の最終処分問題を解決しなければ、原子力の未来も制約される。(マーチン)

原油価格のボラティリティを抑えるには、産油国、消費国の双方が情報公開を進めて、市場の透明性を高めるしかない。デリバティブを認めれば、変動リスクに対する保険にできる。(M・レビ)

エネルギーの使用効率を高めるテクノロジーは、温室効果ガスの排出を削減する上で、代替エネルギーとともに、もっとも簡単かつ迅速、しかも安価に温室効果ガスを抑える方法だ。大きな違いをもたらせると思う。技術革新を進めるとともに、政治的なコミットメントを示す必要がある。(D・サンダロー)

3.11は日本の何を変え、何を変えなかったのか。高齢社会と社会保障の財源不足、債務、財政赤字という大きな問題はいまもそこに存在する。変化したのは、原発危機によってエネルギー供給の先行きが不透明化し、産業の空洞化が進み、観光産業の促進も専門職の外国人の招致も難しくなっていることだ。過去のやり方ではもはや未来は切り開けない。だからこそ、復興プロジェクトを新しい日本の将来に向けた土台を築くための触媒にしなければならない。電力不足を将来のクリーンエネルギー大国の布石にし、債務と赤字を削減するような経済成長路線へと向かわせるには、現状を的確に把握した上での大胆な戦略が必要になる。

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