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論文データベース(最新論文順)

「美しいデレバレッジ」とは
――デフレとインフレの間

2012年11月号

レイ・ダリオ
ブリッジウォーター・アソシエイツLP創業者
兼共同投資責任者

デレバレッジ局面で緊縮財政が実施されると、非常に大きな債務を抱え込んでいることが広く認識されるようになる。その結果、リセッションに陥るだけでなく、危機が発生する。この段階で量的緩和が開始され、デレバレッジ・サイクルが10年程度は続く。・・・(デレバレッジ・サイクルのなかにある)日本やアメリカで強気相場と弱気相場が繰り返されているのは、量的緩和が実施されると強気相場となるが、いずれ量的緩和には問題があると考えられるようになるからだ。そして(量的緩和が作り出す)別のサイクルが生まれる。これは非常に周期が長く、通常は15年にもおよぶ。・・・・債務削減、緊縮財政、量的緩和のバランスをうまくとる必要がある。債務削減と緊縮財政はデフレをもたらす。量的緩和にはインフレ効果がある。これらをうまくバランスさせるのだ。これを私は「美しいデレバレッジ」と呼んでいる。デレバレッジ局面でもっとも重要なのは、十分な資金を供給し、名目金利を上回る名目成長率を維持すること、・・・そして、資金を必要とし、経済を刺激するポイントに資金を行き渡らせられるかどうかだ。

独立を求めるスコットランドの真意は

2012年11月号

チャールズ・キング ジョージタウン大学教授

スコットランドは1997年の住民投票で独自の行政府を持つことを選択し、2014年末には分離独立を問う住民投票が実施される。スコットランド議会の多数派であるスコットランド民族党(SNP)は、イギリスからの分離独立を明確に政治目標に掲げている。現代のスコットランドのナショナリストたちは、「スコットランド人の政治的・社会的価値観はイングランド、ウェールズ、北アイルランドのそれとは異なる」という理由で独立を模索している。世論調査によれば、実際に住民投票が行われても分離・独立派が勝利する可能性は低い。より「高度な地方分権」を認められるのなら、それで人々は満足なのかもしれない。しかし、地方の特質、統合された統治、そして民主的プラクティスは共存できるし、相互に補強しあうという理念を具現する存在だったスコットランドが、今後、力強い地域主義を分離独立主義に変貌させるモデルになっていくとすれば、非常に残念な事態だ。

ムハンマド侮辱動画が 誘発した世界的騒乱
――怒りを煽ったエジプト政府の真意は

2012年10月号

ジュッテ・クラウセン ブランダイス大学教授で専門は比較政治学、著作に『世界を揺るがした風刺画』がある。

ムハンマドを侮辱する動画がユーチューブで公開され、世界各地でイスラム教徒の抗議行動が起きている。今回の事件は、2005年にデンマークの新聞ユランズ・ポステンに預言者ムハンマドの風刺画12枚が掲載されたことをきっかけに、世界的な抗議運動へとつながっていった事件のリプレイのようにもみえる。今回の動画同様に、ムハンマドの風刺画も掲載された当時はほとんど注目されず、問題とみなされることもなかった。だが、当時のエジプト政府(ムバラク政権)が「デンマークでムハンマドを冒涜する行為が行われた」と発表すると、イスラム世界の多くの人がこの問題に関心を示すようになった。今回も同じパターンの動きがみられる。現在のエジプト政府を率いているムスリム同胞団の指導者も、仇敵であるムバラク同様に「本当の問題から目を背けさせる政治」戦術をとっている。

イランではなく、イスラエル に対するレッドラインを設定せよ
――アメリカのネタニヤフ問題

2012年10月号

マイケル・C・デッシュ ノートルダム大学教授

「イランに対してレッドラインを示せなかった国際社会(アメリカ)に、イスラエルの行動を縛る道義的権限はない」。イスラエルのネタニヤフ首相は、イランに対するレッドラインを示すことを拒絶したオバマ政権への怒りを露わにし、単独でのイラン攻撃を明確に示唆する発言を繰り返している。だが、怒りを感じるべきはアメリカ人のほうかもしれない。アメリカにイランに対するレッドラインを示すように求め、それが受け入れられなければイランの核施設への単独攻撃も辞さないと表明したネタニヤフは、これまであらゆる面でイスラエルを支援してきたアメリカを、イランとの戦争に巻き込もうとしている。現状でレッドラインを定義して、適用するとすれば、それはイランに対してではなく、イスラエルの指導者たちに対してだろう。イスラエルはアメリカの国内政治に干渉すべきではないし、アメリカを不必要な戦争に引きずり込むのをやめるべきだ。

変ぼうしたロシア社会と「ロシアの春」?
―― 都市と地方の不満が一体化すれば

2012年10月号

ミハイル・ドミトリエフ 戦略研究所(モスクワ)所長 / ダニエル・トレーズマン カリフォルニア大学 ロサンゼルス校(UCLA)教授(政治学)

ロシア政治の未来にとって最大の試金石は、デモを展開している政治意識の高い都市部の「少数派」が、モスクワとサンクトペテルブルグ以外に住む「サイレントマジョリティ」の共感をどの程度得られるかにある。たしかに、地方で生活するロシア人は、騒がしい街頭デモや抽象的なスローガンには関心がない。だが、彼らも「現在の政治システムは絶望的に腐敗しており、基本的な行政サービスさえ提供できない」と考えている。地方でもプーチンを支持する声は小さくなる一方で、今度大きな経済危機が起きれば、彼らも大規模な抗議行動に参加するかもしれない。ロシア全土でデモが起きるようになれば、企業やメディア、それに法執行当局でさえも、クレムリンから距離を置くようになり、自分たちが生き残るには、政治の変革が必要だと判断するだろう。ロシアの民主活動家の課題は、都市部と地方の二つの不満、つまり、変化への希求をひとつにまとめあげることだ。もちろん、クレムリンは、それを阻止することが最重要課題であることを理解している。

それでもユーロは存続する
―― 欧州版IMFとしての欧州中央銀行のポテンシャル

2012年10月号

C・フレッド・バーグステン  ピーターソン国際経済研究所所長

ユーロ危機が再燃するたびに、専門家の多くがユーロの崩壊を口にする。だが、そうした予測は、不備のある制度を再構築しようと試みているECB(欧州中央銀行)の駆け引きが成功していることを見過ごしている。すでに、ECB、ドイツ、フランスを含むすべての主要プレイヤーは、共通通貨の崩壊がもたらす壊滅的なコストを認識し、これを阻止しようと試みている。最大の問題は、ユーロが財政同盟、銀行同盟など通貨同盟を支える制度やメカニズムをもっていなかったことだが、この欠陥も危機対応プロセスのなかで次第に是正されつつある。ECBは、ユーロ危機を収束させること以上に、各国の指導者たちに、ユーロ圏の制度を抜本的に改革し、各国の経済を構造的に再構築するように促している。ギリシャがユーロから離脱するとしても、いずれヨーロッパは現在の混乱から抜け出し、より明るい見通しをもって、未完のプロジェクトの実現に向けて歩み出すことになるだろう。

増税か歳出削減か
――なぜアメリカの貧困率は高いのか

2012年10月号

アンドレア・ルイス・キャンベル マサチューセッツ工科大学教授

共和党は増税ではなく、歳出を減らして債務を削減することを重視し、一方の民主党は政府支出のレベルを維持するか、あるいは拡大し、そのための増税を考えている。アメリカは、他の先進国と比べてより累進的な課税制度、つまり、税負担の重荷を貧困層から富裕層へシフトさせる税体系をもっている。だが、他の先進国に比べて、アメリカの富の再分配機能は弱い。累進課税策をとりながらも、所得再分配機能を社会保障プログラムではなく、減税策や税免除などの税額控除策に委ねているためだ。このやり方では所得と資源をうまく再配分できない。1人あたりGDPでは世界でトップレベルながらも、富裕国のなかでアメリカの貧困率がもっとも高いのはこのためだ。

CFR Interview
ユーロ解体、存続の鍵を握るスペイン

2012年10月

ミーガン・グリーン
ルービニ・グローバルエコノミクス、
欧州経済担当ディレクター

ギリシャ、ポルトガル、アイルランドのような比較的小さな周辺国経済の危機はなんとか管理できたが、EUはスペインとイタリア経済の双方を救える規模の資金は持っていない。つまり、スペインのケースは、ヨーロッパが危機を管理できるか、それとも、管理できなくなるかの試金石なのだ。おそらく2013年のどこかの段階で、スペインは市場から資金を調達できなくなり、この段階でスペインは全面的なトロイカの支援、つまり、IMF(国際通貨基金)、欧州委員会、ECBによるベイルアウトのすべてを必要とするようになる。そして、スペインにベイルアウト策がとられれば、今度は誰もがイタリアに注目する。仮に危機がスペインとイタリアに全面的に広がりをみせていけば、ソブリン危機、銀行危機がユーロゾーン全体に広がりをみせ、ユーロ圏は全面的に解体していく。問題は、ユーロゾーンを維持して持続的な成長路線に立ち返るには、各国が構造改革を進める必要があるにも関わらず、政治家は誰もが次の選挙での再選を念頭に政治ゲームを展開し、政府も本腰を入れて構造改革に取り組んではいないことだ。

トルコの反シリア路線と地域紛争化のリスク

2012年10月

スティーブン・ハイデマン
米平和研究所
中東イニシアティブシニア・アドバイザー

モスクワからダマスカスへと向かっていたシリアの民間旅客機を(武器を輸送している可能性があるという理由で)トルコ政府は国内に強制着陸させ、積み荷から武器弾薬が見つかったと発表した。このエピソードだけをみても、トルコが(シリア政府を支援する)ロシアとイランを敵に回してもかまわないと考えているのは明らかだ。いまやトルコは、近隣諸国との関係のすべてをシリアというレンズでとらえている。国境地帯での緊張の高まりによって小規模の戦闘が大きな紛争へとエスカレートしていく危険はあるが、トルコの指導者は、シリアとの戦争は、他に選択肢がない状況に陥らない限り回避したいと考えている。・・・すでに、トルコ南部には、シリアから10万規模の難民が流入しており、シリアと戦争になった場合の社会的、経済的帰結が心配されている。・・・シリア軍の士気と能力は大きく低下し、一方反政府勢力は戦闘経験を重ねることで、戦闘能力を高めている。アサド政権が生き残るには、もはやヒズボラ、そしてイランに援軍を求めるしかない状況にある。

CFR Interview
イランの核開発プログラム
――曖昧な意図と空爆の可能性

2012年10月号

デビッド・オルブライト 科学国際安全保障研究所(ISIS)会長

これまでイランは自国のウラン濃縮について「小規模な研究炉のための核燃料を生産している」という立場を示してきた。だが、すでに研究炉用の核燃料は十分すぎるほどに生産されている。つまり、民生部門用だけなら、もう核燃料(濃縮ウラン)をつくる必要はない。ここに矛盾がある・・・すでに、イランは相当量の兵器級ウランを生産できる状態にある。核兵器生産を決断すれば、すぐにでも兵器級ウランの生産(濃縮)に取りかかれる。だが、今のところテヘランは核兵器を作ると明確には決断していないようだ。・・・イランの立場は曖昧だ。可能であれば、核兵器を生産したいと考えている。だが、実際に核兵器の開発に乗り出せば、(武力行使を含めて)非常に大きな力がかかってくること、核兵器を手に入れる前に体制が崩壊してしまう危険があることをテヘランは理解している。

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