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論文データベース(最新論文順)

マリで何が起きているのか
―― マリ紛争とフランスの誤算

2013年03月

スザンナ・ウイング
ハーバーフォード・カレッジ准教授

マリからの分離独立を求めるトゥアレグ族、さらにはアンサール・ディーン、イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)、西アフリカ統一聖戦運動(MUJAO)などのイスラム過激派勢力がかかわっているこの紛争が短期間で決着することはあり得ない。フランスの軍事介入は、現在は支持されているが、いずれ現地の民衆の支持は先細りになる。そうでなくても、AQIMは、(フランスのマリへの軍事攻撃停止を要求して)アルジェリアの天然ガス生産施設で数十人を人質にする事件を起こしている。古くから不満を抱くトゥアレグ族、紛争を利用するイスラム過激派が簡単に武力抗争を止めるとは考えにくい。仮に戦闘が下火になっても、マリが安定し正統性のある政府を組織するのは容易ではないだろう。

論争 アメリカのアジア重視戦略
―― リバランシング路線は価値ある投資になる

2013年3月号

ショーン・ブリムリー
前国家安全保障会議戦略立案担当ディレクター
イーライ・ラトナー
前米国務省中国デスク・スタッフ

オバマは大統領に就任する段階で、アフガニスタンとイラクでの戦争ゆえに、アメリカの経済・戦略利益にとっての中核地域であるアジアへの投資がないがしろにされていることを理解していた。・・・オバマ政権は、イラクでの戦争を終わらせ、アフガニスタンからの撤退を開始しただけでなく、アルカイダに特化した対テロ戦略をとることで、より多くの時間と資源をアジアに振り分けられる環境を作り出した。こうしたワシントンの優先順位の見直しは、たんに中国への対応ではなく、21世紀における地政学の変化を見据えたものだった。・・・

シリア政府が倒れない理由

2013年3月号

エド・フサイン
米外交問題評議会シニア・フェロー(中東担当)

交渉を通じたいかなる仲裁も、シリア紛争の停戦に向けた信頼できる枠組みを形成できるとは考えにくい。仮に合意が成立しても、国内には、最後まで戦い抜くことを決意している戦士たちが数多くいるからだ。最終的にバッシャール・アサド体制が倒れるのは避けられないが、当面は、アサドは体制を維持していくだろう。シリア政府はロシア、イラン、ヒズボラだけでなく、イラクからもある程度の支援を取り付けている。そして、われわれにとってはいかに不快な人物だとしても、(アラウィ派を中心とする)シリアの都市住民の多くは、まだ完全にはバッシャール・アサドに背を向けていない。その理由は、現体制が倒れれば、宗派間抗争が起きて、少数派である自分たちは殺戮されることになると考えているからだ。・・・

危機感を募らせる米国、不安をぬぐえぬ韓国
―― 問われる米拡大抑止の信頼性

2013年3月号

スコット・スナイダー
米外交問題評議会シニア・フェロー(朝鮮半島担当)

ワシントンは韓国への拡大抑止のコミットメントを再確認することで、北朝鮮を抑止するだけでなく、韓国に戦略的安心感(assurance)を提供しようと試みている。同時に、北朝鮮によるさらなる挑発策を抑止するために中国側からさらに協調を引き出そうと、「北朝鮮の挑発行動を許容するような北京の路線が地域的な安定を損なうこと」を明確に示して説得したいと考えている。だがここでねじれが生じている。中国が朝鮮半島のことを米中が影響力を競い合う舞台と考え、この文脈では、北朝鮮による抑止力は自国の利益にプラスに作用すると考えているからだ。韓国側も「アメリカは、同盟国を守るために自国が攻撃されるリスクを引き受けるかどうか」、つまり、ソウルを守るためにロサンゼルスを危機にさらすつもりがあるかどうか、疑問に感じている。・・・・

モンゴル経済の奇跡、それとも幻想

2013年3月号

モリス・ロッサビ
ニューヨーク市立大学歴史学教授

2010年に6・4%の成長を遂げたモンゴル経済は、2011年には実に17・3%の経済成長率を実現し、この圧倒的な成長は今も続いている。IMF(国際通貨基金)は2012年のモンゴルの成長率を12・7%と推定している。だが、最近の見事な経済成長は鉱業というたった一つの産業の成長、別の言い方をすれば資源開発バブルで説明できる。銅、金、石炭、ウラン、スズ、タングステンなどの鉱物資源の存在が確認され、現地にはオーストラリア、カナダ、中国、フランス、ロシアの企業が殺到している。それがバブルであることを別にしても、モンゴルの劇的なGDP成長には曖昧な部分がある。豊かな鉱物資源と天然資源を持っているために当面は成長を期待できるが、政治腐敗が横行しているだけでなく、所得格差、貧困、遊牧経済の衰退、環境の悪化という根の深い問題も進行している。

日本は、外部の国際環境を所与のものとみなすことで、日本人が「時流」とよぶ国際的な流れに乗るために、現実的な調整を試みてきた歴史を持っている。そしていまや、中国の台頭、北朝鮮の核開発、アメリカの経済的苦境という国際環境の変化を前に、「東アジアにおけるアメリカの軍事的優位はどの程度続くのか」という疑問を抱いた日本人は、これまでの計算を見直しつつある。米中が対立しても、それによって必ずしも日米関係が強化されるわけではなく、現実には、自立的な安全保障政策を求める声が日本国内で高まるはずだ。鍵を握るのはアメリカがどのような行動をみせるかだ。日本の防衛に対するアメリカのコミットメントは信頼できると日本人が確信すれば、東京の外交政策が現在のトラックから大きく外れていくことはない。だが、アメリカの決意を疑いだせば、日本人は独自路線を描く大きな誘惑に駆られるかもしれない。

先進民主国家体制の危機
―― 改革と投資を阻む硬直化した政治

2013年2月号

ファリード・ザカリア  国際政治分析者

先進民主世界を悲観主義が覆い尽くしている。ヨーロッパでは、ユーロ圏だけでなく、欧州連合(EU)そのものが解体するのではないかという声も聞かれる。日本の経済も停滞したままだ。だが、もっとも危機的な状況にあるのはアメリカだろう。停滞する先進国が本当に必要としているのは、競争力を高めるための構造改革、そして、将来の成長のための投資に他ならない。問題は政治領域にある。政治が、効率的な改革と投資を阻んでいる。その結果、われわれが直面しているのが民主主義体制の危機だ。予算圧力、政治的膠着、そして人口動態が作り出す圧力という、気の萎えるほどに大きな課題が指し示す未来は低成長と停滞に他ならない。相対的な豊かさは維持できるかもしれないが、先進国はゆっくりとそして着実に世界の周辺へと追いやられていくだろう。今回ばかりは、民主主義の危機を唱える悲観論者が未来を言い当てることになるのかもしれない。

米軍撤退論にメリットはない
―― アメリカの対外エンゲージメントを維持せよ

2013年2月号

スティーブン・G・ブルックス ダートマス・カレッジ准教授 G・ジョン・アイケンベリー   プリンストン大学教授 ウィリアム・C・ウォールフォース ダートマス・カレッジ教授

米軍はヨーロッパと東アジアから撤退し、本国へと帰還すべきなのか? 国際関係の著名な研究者の多くがこの問いにイエスと答えている。イラクでの壊滅的な失敗とグレートリセッションを経験しているだけに、この立場も賢明に思えるかもしれない。だが、より控えめなグローバル戦略で資金を節約できるわけでも、現状で対米対抗バランス形成の動きがあるわけでもない。現在の戦略によってアメリカが経済的衰退に追い込まれたわけでも、将来、この戦略が無謀な戦争へとアメリカを駆り立てるわけでもない。現在の戦略は世界の重要地域における紛争の発生を防ぎ、グローバル経済をうまく先に進め、国際協調をまとめやすくしている。グローバルなリーダーシップのための対外関与から手を引けば、これら立証されている恩恵は消失し、世界はかつてない不安定化に翻弄されることになる。

CFR Meeting
民主国家同盟D10を立ち上げよ
――なぜ民主国家によるフォーラムが必要か

2013年2月号

◎スピーカー
アッシュ・ジェイン / ユーラシアグループ・コンサルタント
◎プレサイダー
スチュアート・パトリック / 米外交問題評議会シニアフェロー

経済領域ではグローバルな規範に向けたコンバージェンス(収斂)が進んでいるが、民主的秩序の中核である政治や安全保障領域では、民主国家とそうでない国の間に依然として大きな立場の違いがある。問題は民主国家間の戦略調整メカニズムが希薄になってきていることだ。NATO(北大西洋条約機構)やG8ではこの現実を克服できない。脅威が多様化しているために、任務を安全保障領域に限定しているNATO(北大西洋条約機構)が果たせる役割には限界があるし、ロシアをメンバーに迎え入れたことでG8は空虚な声明を発表するだけのフォーラムと化している。必要なのは民主的価値を共有する諸国によるフォーラムを立ち上げることlだ。このフォーラムのメンバーを構成すべきは、ヨーロッパのイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、アジア・太平洋の日本、オーストラリア、韓国、そして北米のカナダとアメリカだろう。これにEU(欧州連合)を加えればD10になる。民主的価値を共有する民主諸国連合(D10)は、現在の世界の課題に対処していくもっとも適切な枠組みとして機能するポテンシャルを秘めている。

米軍の大規模な撤退を
―― 控えめな大戦略への転換を図れ

2013年2月号

バリー・R・ポーゼン マサチューセッツ工科大学教授

米財政の健全さを取り戻すために、社会保障支出の大幅な削減を検討せざるを得ない状況にあるというのに、ワシントンは依然としてドイツや日本の安全保障に事実上の補助金を出している。これでは富裕層(国)に社会保障給付を提供しているようなものだ。アメリカが覇権的で拡大的な大戦略を維持してきたために、同盟国の安全保障をアメリカが肩代わりする事態が続き、同盟国は応分の負担をするのさえ嫌がるようになった。それだけではない。敵を倒すたびに新しい敵が作り出され、中ロなどの他の大国は連帯してアメリカの路線に反対するソフトバランシング路線をとるようになった。状況を正し、現実的な安全保障戦略へと立ち返るには、現在の大戦略をより抑制的な戦略へと見直し、アメリカは前方展開基地から部隊の多くを撤退させ、同盟国が自国の安全保障にもっと責任をもつようにする必要がある。

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