1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

ヨーロッパ連邦の形成を
―― 次なるヨーロッパプロジェクト

2013年8月号

ニコラス・バーググルーエン バーググルーエン統治研究所理事長
ネイサン・ガーデルス ニューパースペクティブ・クォータリー編集長

「世界の人口の7%が暮らし、世界の経済生産の25%を担う現在のヨーロッパは、世界の社会関連支出の50%を拠出している」。メルケル独首相のこの発言が示唆するとおり、(この人口・経済生産・社会保障支出間の不均衡を)改革を通じて是正していかない限り、ヨーロッパの福祉国家を財政面で支えていくのはますます難しくなる。より踏み込んだ制度的改革も必要だ。EU(欧州連合)を構成する欧州委員会、欧州理事会、欧州議会の正統性を強化し、EUを、単一通貨を支える共通の財政・金融政策をもつヨーロッパ連邦へと進化させていかない限り、ヨーロッパはこれまで同様に未来においても不安にさいなまれることになる。さまざまな不確実性のなかでヨーロッパが直面する課題に対応していく唯一の方法は、ヨーロッパの指導者と市民が、前に踏み出すのを嫌がって機能不全状況のなかに身を置き続けるのではなく、ヨーロッパ連邦の形成という壮大な変革ビジョンにコミットし、前に歩き始めることだろう。

世界経済アップデート
―― 米経済の回復、アベノミクス、中国経済

2013年8月号

◎スピーカー
ルイス・アレキサンダー 野村ホールディングスアメリカ、チーフエコノミスト
シメオン・ジャンコフ 前ブルガリア副首相・財務相
ビンセント・ラインハルト モルガンスタンレー、チーフエコノミスト
◎プレサイダー
セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会地政経済学センター所長

(財政削減のための消極財政による悪影響としての)フィスカル・ドラッグの余波を克服できれば、アメリカ経済は成長軌道に乗り、2014年には3%の成長を期待できると私はみている。・・・現在の日銀と日本政府は、正しい方向に向かっているとみなせるが、日本の場合、(時期尚早に)逆コースをとることも多い。(V・ラインハルト)

私は、今回の新興国経済の変調はターニングポイント的な部分があるとみている。長く続いた新興市場経済にとって非常にポジティブな局面は終わろうとしている。・・・中国経済の成長率が低下していくのは避けられず、投資主導型の成長路線からは離れていかざるを得ないとみている。(L・アレキサンダー)

北朝鮮は経済改革を模索している
―― 崩壊か経済改革か

2013年8月号

ジョン・デルーリー 延世大学国際関係大学院准教授

北朝鮮は2030年までに崩壊すると予測する専門家もいるが、平壌はすでに中国流の経済改革導入への道を歩みつつあるとみなすこともできる。これを理解するには、中国はどのような手順で改革へと歩を進めたかを考える必要がある。1960年代に核兵器を獲得した北京は、1970年代に対米デタントによって体制の安定と安全を確保した上で、経済改革路線を優先させるようになった。つまり、今日の北朝鮮は1970年の中国同様に、経済改革に着手する前に、まずワシントンから体制の安全に関する保証を取り付けたいと考えている段階にある。金正恩は「経済建設」の次の局面に進みたいと考えていると示唆し、4月1日には実務派テクノクラートの朴奉珠を首相に登用して、経済成長の舵取りを委ねている。朴奉珠が北朝鮮の首相に抜擢されたこと自体、金正恩が経済を重視し、改革志向を持っていることの現れとみなせる。平壌の穏健派に力を与えるためにも、アメリカは強硬策ではなく、北朝鮮の安全を保証し、経済改革にむけた環境整備に手を貸すべきだ。体制を揺さぶり、崩壊を待つ路線を続ければ、偶発事件によって次なる朝鮮戦争が誘発される恐れがある。

CFR Interview
分裂し、二極化するエジプトの現実

2013年8月号

ジョン・B・アルターマン
戦略国際問題研究所
中東研究ディレクター

軍がモルシを拘束する前段階で、エジプトでは大規模な反モルシ派のデモが起きていた。このデモをめぐって、「民間人の抗議運動と裕福な資本家階級、そして軍や治安組織の一部との間で協力関係が存在した」と報道されている。特にビジネスコミュニティは軍に対してかなり組織的な支援を行っていたようだ。こうしていまやエジプト社会は、軍の行動を支持する人々と、軍は選挙で正当に選出された指導者たちから権力を奪い取ったと考える人々によって二分されている。この現実を前にアメリカは目的を見失い、その外交路線も漂流している。モルシが権力を失った1週間後に、クウェート、サウジ、アラブ首長国連邦が120億ドルの融資を表明したのは偶然ではない。こうした湾岸諸国の資金援助によって、アメリカのエジプトへの影響力はますます低下している。

CFR Interview
薄熙来公判と中国の法の支配
―― 高まる社会不満と指導層の混乱

2013年8月号

ジェローム・コーエン
ニューヨーク大学教授

中国では、政治腐敗を含めて、とにかく不正に対する人々の反発が高まっている。社会不満を感じる多くの人々は、自分たちの声が社会に反映され、高潔さと社会的調和を重視する裁判を求めている。それだけに薄熙来の公判は人々の大きな関心を集めた。(毛沢東主義的な見せしめ裁判としての思惑と側面があったとしても)、公判中に彼が発言し、自分で弁護することが許されたこと、それが、共産党の政治裁判では非常に珍しいケースであることを、彼の支援者を含む、多くの人が感じたはずだ。さらに、一部検閲されているとはいえ、彼の発言は文書化され公開された。これは中国における法の正義にとっては、画期的な進歩だ。だが、政治腐敗その他への高まる社会不満は政府に圧力として跳ね返ってきており、これが今後、どの程度深刻化していくかわからない状況にある。習近平体制は大きな混乱のなかにある。

NSAの無節操なスパイ活動
―― 安全保障とプライバシー保護の間

2013年8月号

ヘンリー・ファレル ジョージ・ワシントン大学准教授(政治学、国際関係論)
アブラハム・ニューマン ジョージタウン大学准教授

NSA(米国家安全保障局)がEU(欧州連合)に対して諜報活動を行っていたことが露見すると、ヨーロッパの指導者たちはアメリカに対する怒りを露わにした。ドイツ政府のある高官は、アメリカのやり方は「冷戦期におけるわれわれの敵の手法を想起させる」と状況を皮肉った。長年にわたって、対テロをめぐる情報共有とプライバシー保護のバランスを協議してきた米欧間には情報活動に関する一定の了解と合意がこれまで存在し、当初、ヨーロッパはアメリカに苦言を呈しつつも、比較的落ち着いた対応をみせていた。だが、テロとは何の関係もないEUの官僚たちをNSAが監視対象にしていたことが発覚すると、ヨーロッパにおける振り子は安全保障から再びプライバシーの保護へと大きく振れ、米欧関係は動揺している。ワシントンが関係修復を望むのなら、アメリカもヨーロッパ同様に、政府から独立したプライバシー保護のための組織を国内で立ち上げ、安全保障とプライバシー保護のバランスをとるべきだろう。

いまや問われているのは、アメリカがシリアに対する軍事行動を起こすかどうかではなく、どのように行動を起こすかだ。おそらく、船あるいは航空機から巡航ミサイル攻撃が実施されるだろう。ターゲットはシリアの化学兵器能力そのもので、具体的には、化学兵器貯蔵施設、あるいは、化学兵器を使用した部隊などが考えられる。さらに、シリア軍の指揮統制、軍事能力、政治指導者など、他にも攻撃のターゲットの潜在リストは数多く存在する。但し、主要な目的はシリア政府がこれ以上化学兵器を用いないようにすること、そして大量破壊兵器の使用を抑止するグローバルな規範を強化することだ。ワシントンには、シリア内戦の主要なプレイヤーになるつもりはないだろう。・・・・攻撃の国際的正統性は安保理からは得られないとしても、攻撃を支持する外交的な有志同盟は相当な規模に達する。但し、実際にはシリアへの軍事攻撃を試みるのは、アメリカと一握りの諸国にとどまるだろう。

日本を抑え込む「シルバー民主主義」
―― 日本が変われない本当の理由

2013年8月号

アレクサンドラ・ハーニー 前外交問題評議会インターナショナルフェロー

日本社会は急速に高齢化している。そして高齢者たちには、政治家が現行の社会保障システムに手をつけるのを認めるつもりはない。だが、高齢社会に派生する問題に向き合うのを先送りすればするほど、その経済コストは大きくなる。これが日本の現実だ。事実、政府の年金財源は2032―2038年の間に枯渇するという試算もある。だが、年齢層からみた多数派で、投票率も高い高齢者集団にアピールするようなキャンペーンを実施すれば、政治家はもっとも忠誠度の高い支持基盤を手に入れることができる。こうして、高齢社会が日本経済にどのようなコストを与えることになるとしても、「高齢者に優しい政策」が最優先とされている。高齢層の有権者の支持を失うことに対する恐怖が、政治家が長期的に国の未来を考えることを妨げ、これが若者に対する重荷をさらに大きくしている。1票の格差同様に、世代間の不均衡問題に目を向け、もっと若者の意見を政治に反映させる必要がある。そうしない限り、日本の経済未来は今後も暗いままだろう。

Page Top