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論文データベース(最新論文順)

Foreign Affairs Update
イスラエルによるシリア空爆の本当の意味合い

2013年3月号

イタマル・ラビノビッチ
元駐米イスラエル大使

イスラエルは、アサド政権が倒れた後に、イスラム主義政権、それもジハード主義政権がシリアに誕生することを警戒している。政権崩壊によってシリアが混沌とした状況に陥れば、ジハーディストがゴラン高原からイスラエルに対してテロ攻撃を試みるかもしれない。あるいは、イスラム主義政権がシリアの化学兵器や生物兵器をヒズボラに与えるか、そうした兵器を過激派勢力が混乱に乗じて手に入れる危険もある。さらには追い込まれたアサド政権が、道連れとばかりに、イスラエルに向かってミサイルを発射するリスクもある。より全般的には、イスラエルは、アサド政権とその同盟勢力がシリア内戦をイスラエルとの戦争、アラブ・イスラエル紛争へと変貌させることを警戒している。エルサレムは公的な声明を通じて、どのような事態になれば介入に踏み切るか、イスラエルにとって看過できないレッドラインを明確に示してきた。最先端の兵器システムがヒズボラの手に落ちることもレッドラインの一つだった。今回のイスラエルによるシリア空爆は、この文脈で理解されるべきだ。問題は、空爆によって抑止力が形成されたかどうかが、はっきりしないことだ。

CFR Interview
シリア、イランのヒズボラ・コネクション

2013年3月号

マシュー・レビット
ワシントン近東政策研究所 シニアフェロー

シリアでアサド政権が追い込まれていくにつれて、ヒズボラは、シリアにある自分たちの兵器を、レバノン山岳地帯の洞窟に設けた兵器庫など、安全な場所に移したいと考えている。イスラエルが空爆で攻撃したのは、そうした兵器を積んでレバノンに運びだそうとしていたトラック車列だった。スンニ派の過激派、シーア派の過激派は、アサド体制の崩壊に備えて、それぞれ自分たちに忠実な武装勢力の組織化を進めている。われわれが目にしているのは、紛争の第2局面に向けた兵器の備蓄・調達に他ならない。さらに、イランがヒズボラへの武器提供をシリア経由で行うことが多いことも、今回の空爆の構図に関係している。現状ではヒズボラとイランは非常に緊密な関係にあり、アメリカの情報コミュニティは、両者の関係を「戦略的パートナーシップ」と描写している。

中国が日本との戦争を望まない理由

2013年3月号

アレン・カールソン
コーネル大学准教授

「日本との紛争で自国が敗れ去る」とは北京は考えていないが、「いかに圧倒的な軍事的勝利を収めても、武力行使は副作用が大きすぎる」とみている。武力衝突という事態になれば、経済成長を維持し、国内のナショナリズムの激化を抑えるという、北京にとってきわめて重要な二つの基本的国益に悪影響が出るからだ。いかなる抑止力にも増して、こうした国内的な自制要因ゆえに、習近平が、尖閣をめぐって武力行使を認めることはないだろう。もちろん、北京が「気晴らしの戦争が自分たちの権力を維持する唯一の方法だ」と考える危険もある。だが、戦争によって誰も勝者になれないことを理解すれば、中国は日本に対する瀬戸際作戦を回避するはずだ。

ユーロ危機とヨーロッパの政治的迷走

2013年3月号

チャールズ・クプチャン
米外交問題評議会シニア・フェロー

ユーロ危機の打開に向けた財政同盟、銀行同盟のためのビジョンが描かれ、欧州中央銀行(ECB)が最後の貸し手の役目を果たす態勢も整いつつある。しかし、ヨーロッパの政治が大きな障害を作り出している。いまやベルリンは独自路線をとり、一方のパリは内向きになっている。・・・ユーロの安定化に向けてドイツが示した(財政同盟などの)処方箋は統合の深化を必要とする。国家主権を譲ることについて連邦制のドイツはそれを問題と感じないが、歴史的に国家主権にこだわってきたフランスはそうではない。今後、危機対応をめぐって独仏の立場の違いが先鋭化してくるのは避けられないだろう。一方、キャメロン英首相は、イギリスとEUとの関係を再交渉し、少なくとも、EUから距離を置きたいと考えている。そうした緩やかな関係であれば、市民の支持をとりつけて、イギリスは今後もEUに関わり続けることができるようになると考えているからだ。だが、その結果、イギリスの地政学的重要性が低下する危険があるし、一方ではスコットランドの独立というリスクもロンドンは抱え込んでいる。・・・

マリで何が起きているのか
―― マリ紛争とフランスの誤算

2013年03月

スザンナ・ウイング
ハーバーフォード・カレッジ准教授

マリからの分離独立を求めるトゥアレグ族、さらにはアンサール・ディーン、イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)、西アフリカ統一聖戦運動(MUJAO)などのイスラム過激派勢力がかかわっているこの紛争が短期間で決着することはあり得ない。フランスの軍事介入は、現在は支持されているが、いずれ現地の民衆の支持は先細りになる。そうでなくても、AQIMは、(フランスのマリへの軍事攻撃停止を要求して)アルジェリアの天然ガス生産施設で数十人を人質にする事件を起こしている。古くから不満を抱くトゥアレグ族、紛争を利用するイスラム過激派が簡単に武力抗争を止めるとは考えにくい。仮に戦闘が下火になっても、マリが安定し正統性のある政府を組織するのは容易ではないだろう。

論争 アメリカのアジア重視戦略
―― リバランシング路線は価値ある投資になる

2013年3月号

ショーン・ブリムリー
前国家安全保障会議戦略立案担当ディレクター
イーライ・ラトナー
前米国務省中国デスク・スタッフ

オバマは大統領に就任する段階で、アフガニスタンとイラクでの戦争ゆえに、アメリカの経済・戦略利益にとっての中核地域であるアジアへの投資がないがしろにされていることを理解していた。・・・オバマ政権は、イラクでの戦争を終わらせ、アフガニスタンからの撤退を開始しただけでなく、アルカイダに特化した対テロ戦略をとることで、より多くの時間と資源をアジアに振り分けられる環境を作り出した。こうしたワシントンの優先順位の見直しは、たんに中国への対応ではなく、21世紀における地政学の変化を見据えたものだった。・・・

シリア政府が倒れない理由

2013年3月号

エド・フサイン
米外交問題評議会シニア・フェロー(中東担当)

交渉を通じたいかなる仲裁も、シリア紛争の停戦に向けた信頼できる枠組みを形成できるとは考えにくい。仮に合意が成立しても、国内には、最後まで戦い抜くことを決意している戦士たちが数多くいるからだ。最終的にバッシャール・アサド体制が倒れるのは避けられないが、当面は、アサドは体制を維持していくだろう。シリア政府はロシア、イラン、ヒズボラだけでなく、イラクからもある程度の支援を取り付けている。そして、われわれにとってはいかに不快な人物だとしても、(アラウィ派を中心とする)シリアの都市住民の多くは、まだ完全にはバッシャール・アサドに背を向けていない。その理由は、現体制が倒れれば、宗派間抗争が起きて、少数派である自分たちは殺戮されることになると考えているからだ。・・・

危機感を募らせる米国、不安をぬぐえぬ韓国
―― 問われる米拡大抑止の信頼性

2013年3月号

スコット・スナイダー
米外交問題評議会シニア・フェロー(朝鮮半島担当)

ワシントンは韓国への拡大抑止のコミットメントを再確認することで、北朝鮮を抑止するだけでなく、韓国に戦略的安心感(assurance)を提供しようと試みている。同時に、北朝鮮によるさらなる挑発策を抑止するために中国側からさらに協調を引き出そうと、「北朝鮮の挑発行動を許容するような北京の路線が地域的な安定を損なうこと」を明確に示して説得したいと考えている。だがここでねじれが生じている。中国が朝鮮半島のことを米中が影響力を競い合う舞台と考え、この文脈では、北朝鮮による抑止力は自国の利益にプラスに作用すると考えているからだ。韓国側も「アメリカは、同盟国を守るために自国が攻撃されるリスクを引き受けるかどうか」、つまり、ソウルを守るためにロサンゼルスを危機にさらすつもりがあるかどうか、疑問に感じている。・・・・

モンゴル経済の奇跡、それとも幻想

2013年3月号

モリス・ロッサビ
ニューヨーク市立大学歴史学教授

2010年に6・4%の成長を遂げたモンゴル経済は、2011年には実に17・3%の経済成長率を実現し、この圧倒的な成長は今も続いている。IMF(国際通貨基金)は2012年のモンゴルの成長率を12・7%と推定している。だが、最近の見事な経済成長は鉱業というたった一つの産業の成長、別の言い方をすれば資源開発バブルで説明できる。銅、金、石炭、ウラン、スズ、タングステンなどの鉱物資源の存在が確認され、現地にはオーストラリア、カナダ、中国、フランス、ロシアの企業が殺到している。それがバブルであることを別にしても、モンゴルの劇的なGDP成長には曖昧な部分がある。豊かな鉱物資源と天然資源を持っているために当面は成長を期待できるが、政治腐敗が横行しているだけでなく、所得格差、貧困、遊牧経済の衰退、環境の悪化という根の深い問題も進行している。

日本は、外部の国際環境を所与のものとみなすことで、日本人が「時流」とよぶ国際的な流れに乗るために、現実的な調整を試みてきた歴史を持っている。そしていまや、中国の台頭、北朝鮮の核開発、アメリカの経済的苦境という国際環境の変化を前に、「東アジアにおけるアメリカの軍事的優位はどの程度続くのか」という疑問を抱いた日本人は、これまでの計算を見直しつつある。米中が対立しても、それによって必ずしも日米関係が強化されるわけではなく、現実には、自立的な安全保障政策を求める声が日本国内で高まるはずだ。鍵を握るのはアメリカがどのような行動をみせるかだ。日本の防衛に対するアメリカのコミットメントは信頼できると日本人が確信すれば、東京の外交政策が現在のトラックから大きく外れていくことはない。だが、アメリカの決意を疑いだせば、日本人は独自路線を描く大きな誘惑に駆られるかもしれない。

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