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論文データベース(最新論文順)

イスラム国に参加するトルコの若者たち
―― 過激化するトルコ社会

2014年12月号

ギュネス・ムラット・テズクール ロヨラ大学准教授(政治学) / サブリ・シフチー カンサス州立大学助教(政治学)

約1000人のトルコ市民がイスラム国に、数百人がシリアのアルカイダ系組織・ヌスラ戦線に参加しているとメディアは伝えている。だが、トルコとシリアの国境管理がずさんであることを考慮すれば、こうした数字はトルコへのジハード主義の浸透、そしてリクルートの実態を過小評価している。驚くべきは、トルコからシリアへ向かったジハードの戦士の多くは、貧困に苦しむ、社会から隔絶された若者たちではないことだ。彼らは安定した家族のなかで育まれ、力強い共同体のネットワークのなかで暮らしてきた。どう考えても、トルコでは非常に特異的な何かが進行している。これは、公正発展党(AKP)が中核的な支持基盤にアピールし、より敬虔な社会を実現しようと、イスラム組織を資金援助したことと関係がある。イスラム主義の社会的活動が盛んになっただけでなく、そのなかで、過激主義も育まれてしまったのだ。・・・

中東ではなく、中ロの脅威を重視せよ
―― 欧州と東アジアの同盟国をいかに守るか

2014年12月号

リチャード・ベッツ   コロンビア大学教授

イスラム過激派がイラクとシリアの大規模な領土を制圧し、ロシアがウクライナに介入し、東アジアでは中国が軍事力を増強している。ワシントンは大きな選択に直面している。これら危険にさらされた地域に介入せずに、運命にすべてを委ねるのか、それとも、状況を正すために危険な賭に打ってでるのか。政策決定者は二つの設問を考える必要がある。一つは危機にさらされている利益がどの程度重要か、もう一つは、その利益を守る上で軍事力を用いるのがどの程度効果的かだ。この設問への答から考えても、いまやアメリカは戦略的優先課題の焦点を伝統的な国家間紛争に再び合わせるべきだし、ワシントンは中東から完全に手を引けるようになるのを待たずに、最優先課題をヨーロッパとアジアにおける同盟国の防衛に据える必要がある。

アメリカのエネルギー資源輸出
―― その幻想と現実

2014年12月号

モハンマド・アリ・セルギー    オンライン・ライター

シェールオイルは米国内の施設では効率的に精製できないために、すでにその生産量が精製能力の限界に近づきつつある。専門家の多くは、このような精製能力を上回る供給過剰となったシェールオイルを輸出にまわすべきだと主張している。一方、天然ガス輸出の場合、FTA(自由貿易協定)を締結していない国への輸出には米政府の認可が必要になる。この意味では、環大西洋包括的貿易投資協定(TTIP)と環太平洋協定パートナーシップ(TPP)が実現すれば、ヨーロッパとアジア諸国へのLNG輸出は実質的に自由化される。・・・国内のシェールガスとシェールオイルの生産量が増大するにつれて、アメリカのエネルギー輸出をめぐってさまざまな憶測が飛びかっている。しかし、アメリカの資源輸出には、規制、市場経済のロジック、環境問題、そして政治が複雑に関わってくる。・・・・

文化遺産とナショナリズム
―― 文化遺産を人類が共有するには

2014年12月号

ジェームズ・クノー J・ポール・ゲッティ財団最高経営責任者

文化遺産の返還を求めることで、エジプトはファラオの時代と、イランは古代ペルシャ時代と、そしてイタリアはローマ帝国とつながっていることを示したいと考えている。しかし、これは文化保護主義につながる。狭義なアイデンティティーを強化するために文化遺産とその歴史を利用すべきではないだろう。文化遺産の返還を要求する流れは、文化財交流を否定するだけでなく、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドンの大英博物館、パリのルーブル美術館などの世界的博物館の役割を否定することになる。博物館は、ある時期のある文化の美術品を、別の時期の異なる文化の作品と並べて展示することで、さまざまな世界と人々への関心と好奇心を刺激し、コスモポリタンな世界観を育む場所だ。文化財を、統治エリートの政治的アジェンダに左右される国家の遺産としてではなく、人類の遺産としてとらえる必要がある。

欧米はロシアへの約束を破ったのか
―― NATO東方不拡大の約束は存在した

2014年12月号

ジョシュア・R・I・シフリンソン  テキサスA&M大学准教授

「NATOゾーンの拡大は受け入れられない」と主張するゴルバチョフ大統領に、ベーカー米国務長官は「われわれも同じ立場だ」と応えた。公開された国務省の会議録によれば、ベーカーはソビエトに対して「NATOの管轄地域、あるいは戦力が東方へと拡大することはない」と明確な保証を与えている。この意味ではNATOを東方に拡大させないという約束は明らかに存在した。約束は文書化されなかったが、東西ドイツは統合し、ソビエトは戦力を引き揚げ、NATOは現状を維持する。これが当時の了解だった。ドイツ統一に合意すれば欧米は(NATOの東方拡大を)自制するとモスクワが考えたとしても無理はなかった。しかし、「ワシントンは二枚舌を使ったという点で有罪であり、したがって、モスクワのウクライナにおける最近の行動も正当化される」と考えるのは論理の飛躍がある。・・・・

CFR Meeting
証言 いかに冷戦は終結したか
―― ドイツ再統一とNATO加盟問題

2014年12月号

ロバート・ブラックウィル/米外交問題評議会シニアフェロー
ビタリー・チュルキン/ロシア国連大使
フランク・エルベ /元ドイツ外務省政策企画部長

「ゴルバチョフとシュワルナゼは、経済的にも社会的にもソビエトが深刻な状態に陥っていることを理解していた。・・・ソビエトの指導者たちは、アメリカを中心とする欧米との新しい関係が、ソビエトの経済問題を解決する助けになると考えていた」。(フランク・エルベ)

「あまりに性急に交渉を進めれば、ソビエト市民がまだ事態を受け入れる準備ができていないために、ドイツ再統一も見果てぬ夢に終わる。交渉を過度に緩慢なものにすれば、ゴルバチョフに敵対する勢力が連帯し、この場合も統一は実現しない。これがシュワルナゼの立場だった」。(ロバート・ブラックウィル)

「ゴルバチョフは、自分自身が批判的な体制を維持したいとは考えていなかったし、ある意味では自分が政治的に生き残りたいとは考えていなかった。だから、(東ヨーロッパへの軍事介入を選ばず)状況を流れに委ねることを選んだ」。(ビタリー・チェルキン)

当時、ドイツ人の多くは「NATO加盟にこだわれば、再統一は実現しない」と考えていた。他に再統一を果たす道筋がなかったために、中立国家になるしかないと感じていた。 だが、12月12日にベルリンで演説したベーカー国務長官は「統一を果たしたドイツがNATOに加盟することを条件に、ワシントンはドイツ再統一を支援する」と表明した。これによって、西ドイツ政府は非常に苦しい立場に追い込まれた。統一とNATO加盟を両立させる方法はないと感じていたからだ。 (フランク・エルベ)

米軍部隊の投入は避けられない?
――シリア・イラクにイスラム国に対抗できる集団は存在しない

2014年12月号

フレデリック・ホフ 前米政府シリア問題担当特別顧問

イラクには一定の戦闘能力をもつ軍事アセットは存在するが、イスラム国に対抗していく力はもつ集団は存在しない。シリアの自由シリア軍もアサドのシリア軍とイスラム国勢力の双方から攻撃を受け、大きな圧力にさらされている。最優先課題はイスラム国とシリア軍の双方を相手に戦いを続けている自由シリア軍を中心とするナショナリスト勢力を支援することだ。彼らが力を失えば、われわれは非常に深刻なジレンマに直面する。シリアの主要な部隊は(ともに欧米が敵視する)シリア軍とイスラム国の部隊だけになってしまうからだ。・・・トルコ政府はクルド労働者党(PKK)とシリアの「民主統一党」(PYD)をともにテロ集団とみなしているために、有志連合への参加に二の足を踏み、イスラム国に包囲されたコバニ情勢を静観している。これが国内のクルド人の反発を買っている・・・今後、イラクとシリアのいずれにおいても力強い地上戦力が存在しないことが大きな問題として浮上してくる。オバマ政権は「地上軍は送り込まない」と主張してきたが、いずれこの立場を再検討せざるを得なくなるだろう。

シリア紛争への直接的軍事介入?
―― さらに踏み込むべきか、現状で踏みとどまるべきか

2014年12月号

スティーブン・サイモン 中東研究所シニアフェロー

(反政府勢力とアサド政権の双方と戦っている)イスラム国に対する空爆作戦を実施しつつも、ワシントンはシリア内戦の直接的プレイヤーにならないように細心の注意を払ってきた。特に、シリア政府を実質的に助けているとみなされたり、あるいは、シリア政府を倒す戦いに加担しているとみなされたりしないように心がけてきた。だが、ワシントンは、このどちらかを選ばざるを得ない状況に、程なく直面するだろう」。ここにおける基本的問題は次のようなものだ。(イスラム国対策として)アメリカが支援している非ジハード主義反政府勢力の一つが、アサド政権に対抗していくための支援を求めてきたら、どうするか。そうした反政府勢力を支援しなければ、イスラム国をターゲットとする空爆作戦を支持している諸国も、アメリカへの態度を変えることになる。だがワシントンが要求を受け入れれば、アメリカは内戦を戦う本当のプレイヤーになってしまう。

ギリシャを搾取したオリガークたち
―― 改革なき緊縮財政の悲劇

2014年12月号

パブロス・エレフセリアディス オックスフォード大学准教授

ギリシャは緊縮財政を実行し、経済再生を果たしつつあるかにみえる。しかし、ギリシャ経済は依然としてヨーロッパでもっとも閉鎖的で競争力に乏しく、大きな経済格差問題を抱えている。市民が緊縮財政のなかで困窮する一方で、政府は今も改革を先送りしている。依然として一握りの裕福な一族、オリガーク(少数の特権階級の支配者)たちがギリシャの政治を支配し、特権的立場を維持し、権力がもたらす恩恵を政治家たちと共有している。専門職団体と公的部門の労働組合という既得権益集団も存在する。極右・極左勢力が台頭しかねない社会・経済環境にあるというのに、それでもオリガークと既得権益層は、ギリシャだけでなく他のヨーロッパ諸国さえも犠牲にして、恩恵を手にし続けている。

論争 悪いのは欧米かロシアか
―― ウクライナ危機の本質は何か

2014年12月号

マイケル・マクフォール スタンフォード大学政治学教授
スティーブン・セスタノビッチ コロンビア大学国際関係大学院教授
ジョン・ミアシャイマー シカゴ大学教授

本当のストーリーを知るには何が同じで、何が変わったかに目を向ける必要がある。何が変わったかといえば、それはロシアの政治に他ならない。プーチンは支持層を動員し、野党勢力の力を弱めようと再びアメリカを敵として位置づけた。(M・マクフォール)

モスクワはヤヌコビッチに対して反政府デモを粉砕するように促したが、結局、彼の政権は崩壊し、ロシアのウクライナ政策も破綻した。プーチンがクリミアの編入に踏み切ったのは、自分が犯した大きな失敗からの挽回を図るためだった。(S・セスタノビッチ)

EUとの連合協定は、重要な安全保障合意という側面ももっていた。協定文書は「外交と安全保障政策の段階的な統一を、ウクライナをヨーロッパ安全保障へより深く組み込むという目的に即して進めること」を提案していた。これは、どうみても裏口からNATOに加盟させる方策だった。(J・ミアシャイマー)

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