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ロシアに関する論文

ユーラシアに迫り来るアナキー
―― ユーラシアのカオスと中ロの対外強硬路線

2016年3月号

ロバート・カプラン ニューアメリカン・セキュリティセンター シニアフェロー

1930年代までに十分なパワーを培ったドイツが対外侵略に打ってでたのとは逆に、中ロという現在のリビジョニスト国家は、国内の不安定化、脆弱性ゆえに対外強硬路線をとっている。ロシアは深刻なリセッションに陥っているし、中国の株式市場のクラッシュは今後の金融混乱を予兆している。経済的苦境のなかでアナキーに陥れば、中ロはナショナリズムを高揚させ、不満を募らす民衆の関心を外へ向かわせることで、内的な結束を固めようとするかもれない。クレムリンでのクーデター、ロシアの部分的解体、中国西部でのイスラムテロ、北京における派閥抗争、中央アジアの政治的混乱など、ワシントンは、カオスの到来に備えるべきだ。冷戦、ポスト冷戦という比較的穏やかな時代は過ぎ去り、ユーラシアの解体に伴うアナキーに派生する長期的な大国間紛争の時代に備えるべきだろう。

欧米の分析者や政府関係者のなかには、ロシアが深く関与しているシリアとウクライナでの紛争が、北京とモスクワの関係を緊張させるか、破綻させると期待混じりに考える者もいる。だがそもそも中国はロシアとの公的な同盟関係を結ぶことにも、反米、反欧米ブロックを組織することにも関心はない。むしろ、北京は、中ロが開発目標を達成できるような安全な環境を維持し、互恵的な関係で支え合い、どうすれば国際システムを強化する方向で大国同士が立場の違いを管理できるかのモデルとされるような関係を形作っていくことを望んでいる。アメリカとその同盟諸国は、中国とロシアの緊密な絆を、米主導の世界秩序を脅かす疑似同盟関係の証拠とみなすかもしれない。だが中国は、米中ロの三国間関係は、二つのプレイヤーが連帯して残りの一つと対峙するパワーゲームとみてはいない。・・・

ウクライナがドネツクを失うとき
―― アレクサンドル・ザハルチェンコの世界

2016年1月号

アレクサンダー・J・モティル ラトガース大学教授(政治学)

ウクライナ東部の平和は実現するか。これは、ウラジーミル・プーチンとアレクサンドル・ザハルチェンコという、強情で何をするかわからず、軍事志向の強い二人のデマゴークたちの意向に左右される。プーチンはウクライナ紛争について「自分は見守っているだけだ」と主張し、ザハルチェンコは「自分が責任者だ」と語っている。しかし、現実はもっと複雑だ。2015年9月1日の停戦合意が示すように、決定権をもっているのはプーチンだ。戦争を始めたプーチンなら、和平も模索できる。しかし、ザハルチェンコはたんなる傀儡ではない。思想と野心、そして自分の計画をもっている。彼がおとなしくしているかどうかが、いかなる合意の成功も左右することになる。結局、ウクライナ東部は「凍結された紛争」という事態に陥っていく可能性がもっとも高いが、別のシナリオもある。・・・

ロシアの介入で変化したシリア紛争の構図
―― 内戦からグレートゲームへ

2016年1月号

アンドリュー・タブラー ワシントン近東政策研究所 シニアフェロー

バッシャール・アサド政権を支援することが、ロシアのシリア介入の目的だと当初は考えられていたが、それだけではないこともわかってきた。イランの影響下にある地上部隊と連携してアレッポ近郊をロシア軍が空爆した証拠が出てきているからだ。ロシアとイランが支援する地上部隊の連携作戦は、シリア北部におけるトルコや湾岸諸国の実質的勢力圏と正面から衝突している。実際、ロシア軍は度重なるトルコ領空の侵犯を通じて、シリア北部に関与する意図をトルコにみせつけている。ロシアがもっとも重視するターゲットには、アメリカが支援してきた穏健派反体制グループ、トルコが支援してきたイスラム主義勢力も含まれている。こう考えると、今やシリアではグレートゲームが展開されている。ロシアが介入する前は、シリアはボスニアかソマリアへの道を歩みつつあるかにみえたが、今やグレートゲームの舞台となった19世紀のアフガニスタンへの道を歩みつつある。・・

プーチンの中東地政学戦略
―― ロシアを新戦略へ駆り立てた反発と不満

2016年1月号

アンジェラ・ステント  ジョージタウン大学教授(政治学)

ロシアによるグルジアとウクライナでの戦争、そしてクリミアの編入は、「ポスト冷戦ヨーロッパの安全保障構造から自国が締め出されている現状」に対するモスクワなりの答えだった。一方、シリア紛争への介入は「中東におけるロシアの影響力を再生する」というより大きな目的を見据えた行動だった。シリアに介入したことで、ロシアはポスト・アサドのシリアでも影響力を行使できるだけでなく、地域プレイヤーたちに「アメリカとは違って、ロシアは民衆蜂起から中東の指導者と政府を守り、反政府勢力が権力を奪取しようとしても、政府を見捨てることはない」というメッセージを送ったことになる。すでに2015年後半には、エジプト、イスラエル、ヨルダン、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の指導者たちが相次いでモスクワを訪問している。・・・すでにサウジは100億ドルを、主にロシアの農業プロジェクトのために投資することを約束し、・・・イラクはイスラム国との戦いにロシアの力を借りるかもしれないと示唆している。・・・

新米ロ冷戦の現実
―― 冷戦期以上の米ロ関係の緊張

2015年12月号

ディミトリ・サイメス ナショナルインタレストセンター会長

ロシアにペナルティを科すことが経済制裁の目的だとすれば、われわれは一定の成功を収めている。一方、その目的がロシアをもっと穏健かつ協調的にし、好ましい方向へと向かわせることが目的なら、われわれは意図とは逆の現実に直面している。制裁が続くなかで、アメリカがウクライナに武器を供与し、ウクライナ政府がウクライナ東部(ドンバス)の問題を力で解決しようとすれば、ロシアは歴史的な決定、つまり、ウクライナ全域の占領に踏み切らざるを得ないと考える高官もいる。この場合、300―500万の難民がヨーロッパへと向かうことになる。私の知る限り、モスクワが、これを現実の計画としてまとめているわけではない。しかし、そうした議論があるのは事実だし、この議論を魅力的だと考える高官たちもいる。さらに、包囲網を築かれていると危機感を強めるロシア高官の一部は、バルト諸国の1カ国か2カ国に懲罰を与えることでNATOの安全保障システムが空洞化していることを立証したいと考えている。・・・(聞き手はJeanne Park, Deputy Director, www.cfr.org)

ロシアのシリア介入戦略の全貌
―― そのリスクとベネフィットを検証する

2015年11月号掲載

デミトリ・アダムスキー/IDCヘルズリア 准教授

シリアを安定化させて、ロシアの地域的プレゼンスを維持できるようにすることを、モスクワはおそらく介入の最終目的に据えている。初期段階ではシリアの沿海部の安全を確保し、この地域での影響力の強化を試みるはずだ。この地域には、ラタキヤやタルトゥースなど、ロシアがこれまでも影響力をもってきた施設がある。とはいえ、モスクワはシリアにおける地上戦の殆どを同盟勢力に委ねるだろう。作戦計画に参加し、情報を共有し、ターゲットを選定するとしても、ロシアの大隊をダマスカスで日常的に見かけるようなことにはならない。・・・地上戦を担うのは、残されたアサドの部隊、イランの革命防衛隊と民兵部隊バスィージ、そしてレバノンのヒズボラだろう。問題は、イスラム国に対する作戦を開始した当初は、この同盟勢力間の連帯を維持できても、作戦が長期化し、特にアサドが支配する地域の安定化が実現すれば、同盟勢力の利益認識が次第に分裂し始めると考えられることだ。・・・

プーチンを支えるイワン・イリインの思想
―― 反西洋の立場とロシア的価値の再生

2015年11月号

アントン・バーバシン インターセクションプロジェクト マネージング・ディレクター
ハンナ・ソバーン ハドソン研究所 非常勤フェロー リサーチアソシエーツ

イワン・イリインは歴史上の偉大な人物ではない。彼は古典的な意味での研究者や哲学者ではなく、扇動主義と陰謀理論を振りかざし、ファシズム志向をもつ国家主義者にすぎなかった。「ロシアのような巨大な国では民主主義ではなく、(権威主義的な)『国家独裁』だけが唯一可能な権力の在り方だ。地理的・民族的・文化的多様性を抱えるロシアは、強力な中央集権体制でなければ一つにまとめられない」。かつて、このような見方を示したイリインの著作が近年クレムリン内部で広く読まれている。2006年以降、プーチン自ら、国民向け演説でイリインの考えについて言及するようになった。その目的は明らかだ。権威主義的統治を正当化し、外からの脅威を煽り、ロシア正教の伝統的価値を重視することで、ロシア社会をまとめ、ロシアの精神の再生を試みることにある。・・・

ウクライナの混迷とシリア介入
―― プーチンの策謀に欧米はどう対処すべきか

2015年11月号

ミッチェル・オレンシュタイン ペンシルベニア大学教授(政治学)

なぜプーチンはシリア紛争に軍事介入したのか。第1の目的は、ウクライナという言葉を新聞のヘッドラインから消すことだ。モスクワの外交担当者たちは、ウクライナ問題が国際社会のアジェンダの後方に位置づけられるようになれば、欧米の問題意識も薄れ、最終的に対ロシア制裁も緩和されるのではないかと期待している。第2に、シリアに関与することで、「欧米が取引しなければならない世界の指導者としての地位を再確立できる」とプーチンは考えたようだ。欧米は安易にプーチンの策謀に調子を合わせるのではなく、この「プーチンのあがき」をうまく利用して、ウクライナ問題をめぐってロシアから譲歩を引き出すべきだろう。

ウクライナ「紛争凍結」という幻想
―― ロシアが再び武力行使に出る理由

2015年10月号

サミュエル・キャラップ 英国際戦略研究所シニアフェロー (ロシア・ユーラシア担当)

ロシアの目的は、ウクライナの新たな憲法構造のなかで親ロシア派地域の権限と自治権を強化し、キエフに対する影響力を(間接的に)制度化することにある。この意味で、ドンバスをウクライナの他の地域から切り離すのは、ロシアにとって敗北を受け入れるに等しい。これまでのところ、ミンスク2の政治プロセスは、モスクワが考えていたようには進展していない。つまり、ウクライナによる合意の履行に明らかな不満をもっている以上、モスクワは現状を覆すために実力行使に出る可能性が高い。いまや唯一の疑問は、行動を起こすかどうかではなく、どのような行動をみせるかだ。いずれにせよ、ロシアの実力行使によってウクライナはかなりの経済的・人的なコストを強いられる。ヤヌコビッチ政権が倒れてわずか数日後にロシアがクリミアに侵攻したように、モスクワは危機の当初から拙速で無謀な行動をとってきたことを忘れてはならない。

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