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中東に関する論文

アフガンに迫る人道的悲劇
―― 制裁下の国の民衆をいかに救うか

2022年1月号

P・マイケル・マッキンリー  元駐アフガニスタン米大使

都市部でも地方でもアフガニスタン全土が食糧不足に陥っていく恐れがある。カブールなどの大都市や州都では、何十万もの公的部門の労働者、教師、医療従事者の給料が支払われておらず、その家族は最低限の収入さえ得られなくなっている。農村部では、干ばつ、現金や市場の不足、そして冬の到来が大きな災害を引き起こしかねない状況にある。タリバンに対する制裁を求めている安保理決議第1988号は依然として有効だが、国連は人道的活動には決議は適用されないと明確に示すこともできるだろう。われわれは直ちに危機的状況に対応すべきで、人道的悲劇が起きて行動を起こすのでは手遅れだ。現地での人道的緊急事態は日を追うごとに深刻化し、アフガン民衆を救うタイムリミットが近づきつつある。

イラン新政権と核合意
―― 対米強硬路線を貫く理由

2021年12月号

モハマド・アヤトラヒ・タバァー テキサスA&M大学 ブッシュ行政公共サービス大学院 准教授(国際関係論)

エブラヒム・ライシ大統領率いるイランの新政権は、今後の核合意への復帰に向けた交渉で強硬姿勢を崩すつもりはない。むしろ、アジア経済に焦点を合わせ、自立的経済を模索することで、イラン経済の命運を核合意から切り離したいと考えている。イランの前大統領は、巨大国内市場を欧米企業に開放する手段として核合意を利用しようと試みたが、ライシ政権は、むしろ中国、ロシア、近隣諸国との経済関係を強化することで、イランを制裁の余波から切り離したいと考えている。テヘランの戦略は、アメリカの影響力に抵抗し、強制力には強制力をもって対抗することだ。核交渉の再開に向けて準備をしている間にも、テヘランはあらゆる事態に備えようと試みている。

アフガン撤退後の米欧同盟
――アメリカのコミットメントは信頼できるか 

2021年10月号

ロビン・ニブレット  英王立国際問題研究所 ディレクター

バイデン大統領は当初から、大多数の米有権者の利益に合致する「中間層のための外交」を優先すると表明してきた。そして、中国に対する関税を維持する一方で、パリ協定に復帰し、アフガンへの永続的介入を終わらせることは「中間層のための外交」の試金石だった。たしかに、アフガン国軍が蜘蛛の子を散らすように敗走し、政府が倒れ、カブールの国際空港が極度の混乱に陥るという展開は、アフガン情勢を読み誤ったバイデン政権に対するヨーロッパの信頼を揺るがした。とはいえ、アフガンからの混沌とした撤退が、21世紀のアメリカの世界的衰退を予兆しているわけではない。アメリカとヨーロッパは、アフガン戦争の混乱に満ちた終結を、安全保障への相互コミットメントを示す機会にすべきだろう。

アルカイダ対イスラム国
―― アフガンにおける権力闘争

2021年11月号

コール・ブンゼル  フーバー研究所フェロー

タリバンは、アルカイダとの関係を維持する一方で、アフガンの正統な支配者として国際的な承認を得たいと考えている。アルカイダの「トランスナショナルな(テロ)アジェンダ」は共有していない。タリバンの利益認識はアフガンに始まりアフガンに終わる。一方、イスラム国(ISIS)は強硬路線をとることで、タリバン内の強硬派を取り込んでアフガンでの基盤を拡大したいと考えている。(米軍の撤退と)タリバンの復権によって、アルカイダは組織を再編する上でこの10年で最大の機会を手にするかもしれないが、それを生かすのは容易ではない。一方、ISISが民衆の支持を勝ち取り、マンパワーと資金面でタリバンと五分に持ち込むのもおよそ不可能だ。・・・

中国のアフガニスタン・ジレンマ
―― 失われる安定と予測可能性

2021年11月号

セス・ジョーンズ  米戦略国際問題研究所(CSIS) シニアバイスプレジデント ジュード・ブランシェット  米戦略国際問題研究所(CSIS) 中国研究部長

「ポストアメリカの中央アジア」情勢は中国に恩恵よりもリスクをもたらすことになるだろう。国境の西側でアフガンという破綻国家に直面し、南西側ではインドとの緊張が高まっている。北東には北朝鮮という不安定で厄介なパートナーがいる。しかも、台湾海峡を含めて、アメリカとの競争はエスカレートしている。習近平は安定と予測可能性を模索しているが、アメリカのアフガン撤退後の地域情勢では、そのどちらも手に入れられなくなるだろう。実際、アメリカのアフガン撤退は、(台湾を含む)東部での競争のエスカレーションに集中すべきタイミングで、北京を身動きできなくする恐れがある。

アフガン難民はどこに行くのか?

2021年10月号

リンジー ・メイズランド  Writer@cfr.org

2021年8月、タリバンがカブールを含むアフガニスタンの多くの地域を掌握して以降、すでに数万人が国を後にしている。国連難民高等弁務官事務所によると、年末までに50万人が家を追われて難民化する恐れがある。その多くは、陸路で隣国のイランとパキスタンに向かっている。これまでのところイランとパキスタンは、これ以上の難民を受け入れることを嫌がり、国境線の一部を閉鎖し、文書をもたないアフガン難民は国外追放処分にすると表明している。今回の危機ですでにアフガンから国外へ逃れた8万人の一部はアフガン戦争中に米軍やその家族に協力した個人が利用できる特別移民ビザ(SIV)を保有するか、その対象とされる資格を満たしている。数千人のアフガン難民がアメリカへの入国を果たしたが、より多くのアフガン人が世界各地の米軍基地に一時的に収容されている状態にある。

中国とタリバン
――互いの人権侵害に目をつむる

2021年10月号

イアン・ジョンソン  ピュリツアー賞受賞ジャーナリスト

ある意味では、タリバン率いるアフガンは中国の完璧なパートナーかもしれない。「機能不全で北京への依存度が高く、中国がすることは何でも受け入れる」。タリバンと北京が共に相手の内政に干渉しないことが両国の関係の前提とされるはずだ。これは、北京にとっては「タリバンがアフガンとか細い国境を共有する新疆地域に過激主義を輸出せず、この地域のウイグル人イスラム教徒を対象とする北京の人権弾圧への非難を控えること」を意味する。一方、タリバンにとっては「中国市民が直接的に関わるケースでない限り、北京がタリバンの人権侵害を問題にしないこと」を意味する。おそらく、タリバンが新疆のイスラム教徒を支援するリスクを抑え込むことが北京の大きな狙いだろう。もっとも重要なのは、北京のアフガン関与が「中国の利益を支持する限り、相手国の内政を問題にすることはない」という、他国への北京の全般的エンゲージメントルールを示すことになると考えられることだ。


アフガンは再びテロの聖域と化すのか
―― グローバルジハードとナショナリズム

2021年10月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学教授

すでにアルカイダはタリバン勢力と一体化し、合同で訓練し、共同作戦を展開しているとする見方もある。一方、タリバンとイスラム国との関係は不安定だ。「タリバンはアフガンのナショナリズムを優先して汎イスラム主義を放棄した」とISISは批判し、アルカイダとタリバンの双方に強く反発している。現実には、ジハード主義運動のなかで権力抗争が起きているとみるのが真実に近い。今後、タリバンはISIS司令官の取り込みを図り、忠誠を誓わない集団は粉砕していくつもりかもしれない。しかし、対テロ作戦上の最大の試金石は、タリバンが再びアルカイダが国際テロ攻撃の拠点としてアフガンを使用することを認めるかどうかだ。少なくとも、国際テロを支援するタリバンのインセンティブはそれほど大きくないだろう。アルカイダが実行した9・11の結果、米軍が介入してきたために、タリバンは20年にわたって権力を奪われ、米軍との戦闘で中枢のリーダーたちを失ってきたのだから。

チベットという名の監獄
―― 第2の新疆ウイグルか

2021年6月号

ハワード・W・フレンチ  コロンビア大学 ジャーナリズム大学院教授

2008年、ダライ・ラマの亡命50年の節目を前に、一連の大規模な抗議デモが起きた。このデモの背景には、北京がチベット文化を弱め、チベット仏教の力を弱めようとすることに対する怒りだけでなく、尊敬されているダライ・ラマが亡命先で死去して、北京がその後継者を指名してチベット仏教を乗っ取るのではないかという不安があった。チベットの緊張が近く再び山場を迎える恐れがある。85歳のダライ・ラマが命の終わりに近づいているかもしれないからだ。すでに北京は、中国共産党が次のダライ・ラマ指名プロセスを管理すると発表している。このような異例の措置をとれば、新たなチベット騒乱をもたらす導火線に間違いなく火をつけることになる。

イスラエルとハマスそして自治政府
―― それぞれの政治、すれ違う思惑

2021年6月号

マーティン・インディク  米外交問題評議会 特別フェロー(中東問題担当)

ハマスはパレスチナ人社会での自分たちの地位をもっと引き上げたいと考え、イスラエルは、市民に対するハマスの攻撃に対する抑止力を再確立したいと望んでいる。だが双方とも、ワシントンが二国家解決を仲介することには関心がない。ハマスは「イスラエルのいない一国解決策」にこだわっている。ネタニヤフは「ガザをハマスが支配し、西岸をパレスチナ自治政府が統治する三国家解決策」にコミットしている。バイデン政権は・・・東エルサレムからのパレスチナ人の立ち退きや家屋解体をイスラエルに止めるように求め、アッバス自治政府議長に(無期限の延期としている)選挙の日程を定めるように求めるべきだろう。バイデン政権は、この危機から抜け出すためにも、二国家解決策への関係勢力の信頼と希望を再構築する必要がある。

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