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ヨーロッパに関する論文

ヨーロッパのハンガリー問題
―― ビクトル・オルバンという腐ったリンゴ

2015年11月号

ダニエル・ケレメン
ラトガース大学教授(政治学)

中国やロシア、あるいはトルコに準じた非自由主義的な国家をハンガリーに建設する」と発言するなど、ハンガリーのビクトル・オルバン首相はこれまでも欧州連合(EU)にとって困惑を禁じ得ない存在だった。彼はハンガリーの司法権の独立やメディアの多様性を攻撃し、選挙制度を操作し、一党独裁の強化を試みてきた。だが現在の難民危機におけるオルバンの冷淡で短絡的な対応からみて、もはや彼は「困惑を禁じ得ない」どころか人権と人間の尊厳を重視するEUの「名折れ」的な存在だ。疲れ果てた難民を路上に放置し、残りは汚い収容施設へ送り込んでいる。セルビアとの国境沿いに有刺鉄線のフェンスを設置し、これを不満として集まってきた難民たちには放水銃や催涙ガスさえ浴びせかけた。ヨーロッパの指導者たちは、一丸となってオルバンのレトリックと政策を糾弾しなければならない。そうできなければ、ヨーロッパの腐ったリンゴがますます増えていくことになる。

引き籠もるイギリスと欧州連合
―― EUもイギリスも衰退する

2015年11月号

アナンド・メノン キングス・カレッジ・ロンドン教授(ヨーロッパ政治・外交)

1962年、ディーン・アチソン米国務長官は、「帝国を失ったイギリスは、まだ新しい役割を見つけていない」と指摘したが、現在のイギリスは、国際問題への関与にさらに消極的になっている。イギリスはヨーロッパだけでなく世界全般から手を引きつつあり、一方で、経済的な利益のためなら、中国の立場に配慮して地政学的な原則さえ犠牲にしていると一部では考えられている。おそらくは2016年に実施されるEU脱退の是非を問う国民投票は、イギリスの「引きこもり」が今後も続くのかどうかを判断する重要な材料になるはずだ。投票では、イギリスのパワーを強化するのは、EUメンバーのイギリスかEUを離れたイギリスかが問われることになる。問題は現在のようにイギリスがEUにおけるリーダーシップをとることを躊躇し続ければ、EUはますます非効率的になり、イギリスではEU脱退論がますます強くなり、悪循環に陥ってしまうことだ。

欧州移民危機の真実
―― 悲劇的選択とモラルハザード

2015年10月号

マイケル・テイテルバーム ハーバード大学法律大学院 シニアリサーチフェロー

人道的にも政治的にも非常に深刻な危機がヨーロッパで進行している。難民に同情する市民感情のうねりは、リセッション、高い失業率、テロ攻撃、ユーロシステムの危機に苦しむヨーロッパに、さらに深刻な課題を突きつけている。ヨーロッパのポピュリストや反EUの政党や運動にとっては、そこに、うまく追い風にできる政治環境が生じていることを意味する。しかも「悲劇的な選択」と「モラルハザード」の問題がある。限られた資源を絶望的な状況にある人々にいかに分配するかを含めて、ヨーロッパの移民対策がその社会的価値と衝突する恐れがある。一方、好ましい目的地とみなされている国が人道主義的立場から移民を受け入れるという声明を発表すれば、ますます多くの人をリスクの高い旅へと駆り立ててしまう。紛争周辺国にいる難民への支援強化など、現在の路線を見直していかない限り、平和と繁栄、そして人の自由な移動に象徴されるヨーロッパ統合プログラムの成果そのものが、揺るがされることになる。

CFR Experts Brief
移民問題とヨーロッパの統合
―― 通貨危機から難民危機へ

2015年10月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

現状では、難民受け入れをドイツが主導し、一方で、東ヨーロッパ、中央ヨーロッパ諸国はこれに否定的だ。いずれにせよ、ヨーロッパの難民危機は、今後当面続く。シリアだけでも、すでに400万人が国を後にし、700万人が国内避難民と化している。これまでのところ、シリア難民のごく一部がヨーロッパの海岸に押し寄せているに過ぎない。欧州連合(EU)がこの課題への集団的対応策を見いだせなければ、非常に無様な疑問が浮上することになる。ヨーロッパの国境線が抜け穴だらけになった場合、EUメンバー国は「域内の自由な人の移動」へのコミットメントを維持できるだろうか。移民の流れをうまく管理できなければ、ヨーロッパの有権者のヨーロッパ統合への熱意がさらに揺るがされることになりかねない。

対ロ新冷戦とヨーロッパの漂流
―― オバマはなぜロシアの侵略を予見
できなかったか

2015年9月号

アン・アップルボーム ワシントン・ポスト紙コラムニスト

欧米はロシアに嘘をついてきた。NATOは今もロシアにとって脅威だ。・・・たとえ欧米がロシアの天然ガスに背を向けても、ロシアには東アジアに多くの潜在的顧客がいる」。すでに2009年の段階で、ロシアのラブロフ外相はこう語っていた。しかしオバマ政権は、「ヨーロッパは安全で退屈な場所で、真剣に議論すべき対象というより、記念写真に収まるサイト」としか考えていなかった。そしてウクライナ危機が起きた。それでも、オバマは危機を一貫してヨーロッパの地域問題と表現し、距離を置いた。いまやロシアの影響力が高まっているのは旧ソビエト地域だけではない。ロシアはヨーロッパの反EU・反NATO政党を資金面で支援し、ヨーロッパを内側から切り崩そうとしている。しかも、ヨーロッパはギリシャの債務問題とイギリスのEU離脱を問う国民投票、そして大規模な地中海難民の問題に翻弄されている。・・・

「ギリシャ危機」という虚構
―― 危機の本当のルーツは独仏の銀行
だった

2015年8月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治・経済学)

2010年に危機が起きるまでに、フランスの銀行がユーロ周辺諸国に有する不良債権の規模は4650億ユーロ、ドイツの銀行のそれは4930億ユーロに達していた。問題は、ユーロゾーン中核地域のメガバンクが過去10年で資産規模を倍増させ、オペレーショナルレバレッジ比率が2倍に高まり、しかも、これらの銀行が「大きすぎてつぶせない」と判断されたことだった。ギリシャがディフォルトに陥り、独仏の銀行がその損失を埋めようと、各国の国債を手放せば、債券市場が大混乱に陥り、ヨーロッパ全土で銀行破綻が相次ぐ恐れがあった。要するに、EUはギリシャに融資を提供することで、ギリシャの債権者であるドイツとフランスの銀行を助けたに過ぎない。ギリシャはドイツとフランスの銀行を救済する目的のための道筋に過ぎなかった。なかには、90%の資金がギリシャを完全に素通りしているとみなす試算さえある。「怠惰なギリシャ人と規律あるドイツ人」というイメージには大きな嘘がある。

ギリシャとヨーロッパの出口無き抗争
―― きれいには別れられない

2015年8月号

デビッド・ゴードン 前国務省政策企画部長、トマス・ライト ブルッキングス研究所フェロー

ユーロゾーンからギリシャが離脱するのが、急進左派連合にとっても、ヨーロッパ各国の財務相にとっても、最善の選択であるかに思える。だが、「きれいに別れる」という選択は幻想に過ぎない。地理的立地がそれを許さない。ギリシャは、ヨーロッパでもっとも不安定な南東ヨーロッパの中枢に位置している。すでにギリシャの銀行破綻の余波がブルガリアやセルビアに及ぶのではないかと懸念されている。ギリシャが不安定化すれば、南東ヨーロッパの緊張がさらに高まる。それだけに、ギリシャとヨーロッパを結びつける絆は断ち切れそうにない。この点をもっとも深く理解しているのが、アンゲラ・メルケル独首相だ。IMF、アメリカ、多くのヨーロッパ諸国は唯一の打開策が、かつてなく踏み込んだ経済改革を受け入れさせる代わりに、債務救済に応じることであることを知っている。だが、教条的なチプラスとショイブレがそこにいる限り、これが実現する可能性はあまりない。

イスラムに背を向けるイスラム系移民たち
―― ヨーロッパ社会の世俗化とイスラム系移民

2015年8月号

ダーレン・E・シャルカット
南イリノイ大学社会学教授

宗教から距離を置く世俗化が進行するヨーロッパに、イスラム世界から大規模な移民たちが押し寄せている。2050年までに、イスラム教がヨーロッパの宗教人口の20%を占めるようになるとする予測もある。異文化のなかでの社会的疎外感がイスラム系移民の若者たちを過激な原理主義に向かわせる傾向があるのは事実としても、ヨーロッパ社会で世俗的多文化主義が台頭するなかで、イスラム系移民の世俗化も水面下では進んでいる。ヨーロッパの世俗主義が移民たちのイスラム思想を揺るがし、一部にはイスラムの信仰を捨てた者もいる。実際、原理主義に傾倒していく移民の若者よりも、信仰を捨てる者の方が多い。たしかに、信仰を捨てれば、懲罰を受けるという恐怖がつきまとうし、家族との衝突も避けられなくなる、それでも、多くのイスラム系移民の若者たちが、宗教に背を向けている。・・・

ヨーロッパの人道主義はどこへいった
―― ボート難民が揺るがす欧州の理念

2015年6月号

ファブリジオ・タッシナーリ
デンマーク国際関係研究所(DIIS) シニアリサーチャー
ハンス・ルチェット
デンマーク国際関係研究所(DIIS) シニアリサーチャー

リビアのカダフィ政権崩壊後、2011年半ばまでに3万のリビア人がイタリアのランペドゥーザ島へと押し寄せた。フランス当局は、移民たちが(イタリアを経由して)フランスに入国するのを阻止しようと、イタリアとの国境線を一方的に閉鎖した。2014年には、地中海を経てヨーロッパへ向かう難民の数は20万を超えるようになり、その途上で犠牲になる人々も3500人に達した。だが、リビアで拠点を築きつつあるイスラム国がヨーロッパを南から脅かす危険が生じているために、ヨーロッパは、アフリカからの難民流入を「対処すべき人道危機」としてではなく、むしろ封じ込めるべきリスクとみなしている。このまま、ヨーロッパがボート難民を受け入れる方法を見出せなければ、地中海は再びヨーロッパの安定を脅かすアキレス腱になる。開放的国境線という近代ヨーロッパの中核理念が、困窮する難民たちによって変化していくとすれば、転覆したボートが、ヨーロッパの失敗を象徴することになるだろう。

ユーラシアで進行する露欧中の戦略地政学
――突き崩されたヨーロッパモデルの優位

2015年5月号

アイバン・クラステフ ルーマニア自由戦略センター所長
マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会理事

ベルリンの壁崩壊以降、ヨーロッパはEUの拡大を通じて、軍事力よりも経済相互依存を、国境よりも人の自由な移動を重視する「ヨーロッパモデル」を重視するようになり、ロシアを含む域外の近隣国も最終的にはヨーロッパモデルを受け入れると考えるようになった。だが、2014年に起きたロシアのクリミア侵攻によってその前提は根底から覆された。しかも、ウクライナへの軍事援助をめぐって欧米はいまも合意できずにいる。一方でプーチンは、ハンガリーを含む一部のヨーロッパ諸国への影響力を強化し、ユーラシア経済連合構想でEUに対抗しようとしている。だが、ウクライナをめぐるロシアとの対立にばかり気をとられていると、思わぬ伏兵・中国に足をすくわれることになる。海と陸のシルクロード構想を通じて、ユーラシアを影響圏に組み込もうと試みる中国は、ウクライナ危機が進行するなか、すでに東ヨーロッパでのプレゼンスを高めることに成功している。

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