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ヨーロッパに関する論文

CFR Experts Brief
移民問題とヨーロッパの統合
―― 通貨危機から難民危機へ

2015年10月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

現状では、難民受け入れをドイツが主導し、一方で、東ヨーロッパ、中央ヨーロッパ諸国はこれに否定的だ。いずれにせよ、ヨーロッパの難民危機は、今後当面続く。シリアだけでも、すでに400万人が国を後にし、700万人が国内避難民と化している。これまでのところ、シリア難民のごく一部がヨーロッパの海岸に押し寄せているに過ぎない。欧州連合(EU)がこの課題への集団的対応策を見いだせなければ、非常に無様な疑問が浮上することになる。ヨーロッパの国境線が抜け穴だらけになった場合、EUメンバー国は「域内の自由な人の移動」へのコミットメントを維持できるだろうか。移民の流れをうまく管理できなければ、ヨーロッパの有権者のヨーロッパ統合への熱意がさらに揺るがされることになりかねない。

対ロ新冷戦とヨーロッパの漂流
―― オバマはなぜロシアの侵略を予見
できなかったか

2015年9月号

アン・アップルボーム ワシントン・ポスト紙コラムニスト

欧米はロシアに嘘をついてきた。NATOは今もロシアにとって脅威だ。・・・たとえ欧米がロシアの天然ガスに背を向けても、ロシアには東アジアに多くの潜在的顧客がいる」。すでに2009年の段階で、ロシアのラブロフ外相はこう語っていた。しかしオバマ政権は、「ヨーロッパは安全で退屈な場所で、真剣に議論すべき対象というより、記念写真に収まるサイト」としか考えていなかった。そしてウクライナ危機が起きた。それでも、オバマは危機を一貫してヨーロッパの地域問題と表現し、距離を置いた。いまやロシアの影響力が高まっているのは旧ソビエト地域だけではない。ロシアはヨーロッパの反EU・反NATO政党を資金面で支援し、ヨーロッパを内側から切り崩そうとしている。しかも、ヨーロッパはギリシャの債務問題とイギリスのEU離脱を問う国民投票、そして大規模な地中海難民の問題に翻弄されている。・・・

「ギリシャ危機」という虚構
―― 危機の本当のルーツは独仏の銀行
だった

2015年8月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治・経済学)

2010年に危機が起きるまでに、フランスの銀行がユーロ周辺諸国に有する不良債権の規模は4650億ユーロ、ドイツの銀行のそれは4930億ユーロに達していた。問題は、ユーロゾーン中核地域のメガバンクが過去10年で資産規模を倍増させ、オペレーショナルレバレッジ比率が2倍に高まり、しかも、これらの銀行が「大きすぎてつぶせない」と判断されたことだった。ギリシャがディフォルトに陥り、独仏の銀行がその損失を埋めようと、各国の国債を手放せば、債券市場が大混乱に陥り、ヨーロッパ全土で銀行破綻が相次ぐ恐れがあった。要するに、EUはギリシャに融資を提供することで、ギリシャの債権者であるドイツとフランスの銀行を助けたに過ぎない。ギリシャはドイツとフランスの銀行を救済する目的のための道筋に過ぎなかった。なかには、90%の資金がギリシャを完全に素通りしているとみなす試算さえある。「怠惰なギリシャ人と規律あるドイツ人」というイメージには大きな嘘がある。

ギリシャとヨーロッパの出口無き抗争
―― きれいには別れられない

2015年8月号

デビッド・ゴードン 前国務省政策企画部長、トマス・ライト ブルッキングス研究所フェロー

ユーロゾーンからギリシャが離脱するのが、急進左派連合にとっても、ヨーロッパ各国の財務相にとっても、最善の選択であるかに思える。だが、「きれいに別れる」という選択は幻想に過ぎない。地理的立地がそれを許さない。ギリシャは、ヨーロッパでもっとも不安定な南東ヨーロッパの中枢に位置している。すでにギリシャの銀行破綻の余波がブルガリアやセルビアに及ぶのではないかと懸念されている。ギリシャが不安定化すれば、南東ヨーロッパの緊張がさらに高まる。それだけに、ギリシャとヨーロッパを結びつける絆は断ち切れそうにない。この点をもっとも深く理解しているのが、アンゲラ・メルケル独首相だ。IMF、アメリカ、多くのヨーロッパ諸国は唯一の打開策が、かつてなく踏み込んだ経済改革を受け入れさせる代わりに、債務救済に応じることであることを知っている。だが、教条的なチプラスとショイブレがそこにいる限り、これが実現する可能性はあまりない。

イスラムに背を向けるイスラム系移民たち
―― ヨーロッパ社会の世俗化とイスラム系移民

2015年8月号

ダーレン・E・シャルカット
南イリノイ大学社会学教授

宗教から距離を置く世俗化が進行するヨーロッパに、イスラム世界から大規模な移民たちが押し寄せている。2050年までに、イスラム教がヨーロッパの宗教人口の20%を占めるようになるとする予測もある。異文化のなかでの社会的疎外感がイスラム系移民の若者たちを過激な原理主義に向かわせる傾向があるのは事実としても、ヨーロッパ社会で世俗的多文化主義が台頭するなかで、イスラム系移民の世俗化も水面下では進んでいる。ヨーロッパの世俗主義が移民たちのイスラム思想を揺るがし、一部にはイスラムの信仰を捨てた者もいる。実際、原理主義に傾倒していく移民の若者よりも、信仰を捨てる者の方が多い。たしかに、信仰を捨てれば、懲罰を受けるという恐怖がつきまとうし、家族との衝突も避けられなくなる、それでも、多くのイスラム系移民の若者たちが、宗教に背を向けている。・・・

ヨーロッパの人道主義はどこへいった
―― ボート難民が揺るがす欧州の理念

2015年6月号

ファブリジオ・タッシナーリ
デンマーク国際関係研究所(DIIS) シニアリサーチャー
ハンス・ルチェット
デンマーク国際関係研究所(DIIS) シニアリサーチャー

リビアのカダフィ政権崩壊後、2011年半ばまでに3万のリビア人がイタリアのランペドゥーザ島へと押し寄せた。フランス当局は、移民たちが(イタリアを経由して)フランスに入国するのを阻止しようと、イタリアとの国境線を一方的に閉鎖した。2014年には、地中海を経てヨーロッパへ向かう難民の数は20万を超えるようになり、その途上で犠牲になる人々も3500人に達した。だが、リビアで拠点を築きつつあるイスラム国がヨーロッパを南から脅かす危険が生じているために、ヨーロッパは、アフリカからの難民流入を「対処すべき人道危機」としてではなく、むしろ封じ込めるべきリスクとみなしている。このまま、ヨーロッパがボート難民を受け入れる方法を見出せなければ、地中海は再びヨーロッパの安定を脅かすアキレス腱になる。開放的国境線という近代ヨーロッパの中核理念が、困窮する難民たちによって変化していくとすれば、転覆したボートが、ヨーロッパの失敗を象徴することになるだろう。

ユーラシアで進行する露欧中の戦略地政学
――突き崩されたヨーロッパモデルの優位

2015年5月号

アイバン・クラステフ ルーマニア自由戦略センター所長
マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会理事

ベルリンの壁崩壊以降、ヨーロッパはEUの拡大を通じて、軍事力よりも経済相互依存を、国境よりも人の自由な移動を重視する「ヨーロッパモデル」を重視するようになり、ロシアを含む域外の近隣国も最終的にはヨーロッパモデルを受け入れると考えるようになった。だが、2014年に起きたロシアのクリミア侵攻によってその前提は根底から覆された。しかも、ウクライナへの軍事援助をめぐって欧米はいまも合意できずにいる。一方でプーチンは、ハンガリーを含む一部のヨーロッパ諸国への影響力を強化し、ユーラシア経済連合構想でEUに対抗しようとしている。だが、ウクライナをめぐるロシアとの対立にばかり気をとられていると、思わぬ伏兵・中国に足をすくわれることになる。海と陸のシルクロード構想を通じて、ユーラシアを影響圏に組み込もうと試みる中国は、ウクライナ危機が進行するなか、すでに東ヨーロッパでのプレゼンスを高めることに成功している。

解体したヨーロッパ市民社会
―― 多文化主義と同化政策はなぜ
失敗したか

2015年4月号

ケナン・マリク
インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト

多文化主義と同化主義は、社会の分裂に対する二つの異なる政策処方箋だが、結局、どちらもヨーロッパの社会状況を悪化させてきた。英独は多文化主義政策を、フランスは同化政策を導入した、だが、イギリスではコミュニティ同士の衝突がおき、ドイツのトルコ人コミュニティは社会の主流派からさらに切り離され、フランスでは当局と北アフリカ系コミュニティの関係が険悪になった。しかし、社会が分裂し、マイノリティが疎外され、市民の怒りが高まっている点では各国は同じ状況にある。理想的な政策は「多文化主義の多様性を受容する側面と、同化主義の誰でも市民として扱う側面を結合させることだろう」。だが、ヨーロッパ諸国はその正反対のことをやってきた。多文化主義と称してコミュニティをそれぞれの箱に閉じ込めるか、同化主義と称してマイノリティを主流派から疎外してきた。この政策が分断を作り出してしまった。

欧州連合を崩壊から救うには
―― 緊縮財政から欧州版三本の矢へ

2015年3月号

マティアス・マティス ジョンズ・ホプキンス大学ポール・ニッツスクール准教授、R・ダニエル・ケレメン ラトガース大学教授(政治学)

いまやヨーロッパ市民はヨーロッパ統合プロジェクトの成果を忘れ去り、EUのことを無能な指導者が率い、経済的痛みを市民に強いる組織だと考えている。かろうじて持ち堪えてはいるが、EUは勢いとソフトパワーを失っている。いまや大胆で奥深いアジェンダを掲げるときだ。先ず経済政策の焦点を緊縮財政から投資と成長へと見直していくべきだ。EUの指導者たちは日本の安倍晋三首相が試みている「3本の矢」に目を向け、量的緩和、景気刺激策、構造改革を組み合わせて実施する必要がある。安全保障と自由主義的価値の領域では、外にロシア、内にハンガリーという脅威を抱え、イギリスのEU脱退という問題にも直面している。だが危機を連帯の機会とみなすべきだ。EUの指導者たちは、経済、安全保障、民主主義をめぐって連帯すればヨーロッパはより強くなれるという自信を取り戻す必要がある。

ハンガリーの独裁者
―― ヴィクトル・オルバンの意図は何か

2015年3月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン ノースイースタン大学教授(政治学)、ピーター・クレコ 政治資本研究所 ディレクター、アティラ・ユハス 政治資本研究所 シニアアナリスト

ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、国内で民主的制度を傷つける政策をとり、対外的にも第一次世界大戦後に喪失した領土の回復を模索するかのような路線をとっている。「外国で暮らすハンガリー系住民にパスポートを発行し、投票権を与えること」を目的に一連の法律を成立させた彼は、周辺国の同胞たちに自治権を模索するように呼びかけている。モスクワがウクライナやアブハジアのロシア系住民にロシアの市民権を与えたことが、その後の侵略の布石だったことを思えば、オルバンの言動に専門家が戦慄を覚えたとしても不思議はない。だが、彼の意図は、ウラジーミル・プーチンのそれとは違うようだ。民族主義の視点から失われた領土を取り戻すことよりも、オルバンはむしろ選挙での政治的優位を確保することを重視している。問題は、これまでのところ彼の戦略が機能しているとはいえ、いずれそのデリケートなバランスが崩れるかもしれないことだ。

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