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中国に関する論文

中国のコーポレートパワー
―― 中国企業が市場を制する日はやってくるのか

2016年5月号

パンカジュ・ゲマワット/ニューヨーク大学ビジネススクール教授
トマス・ホート/タフト大学シニアレクチャラー

最近の経済的失速と株式市場の混乱にも関わらず、「中国はいずれアメリカを抜いて世界最大の経済パワーになる」と考える人は多い。だが、このシナリオを検証するには、現実に成長と富を生み出している企業と産業の活動動向に目を向ける必要がある。世界でもっともパワフルな経済国家になるには、中国企業は資本財やハイテク部門でさらに競争力をつけ、半導体、医療用画像診断装置、ジェット航空機などの洗練された製品を製造し、市場シェアを拡大していく必要がある。繊維や家電製品など、そう複雑ではない第1世代部門同様に、中国企業はこうした第2世代部門でもうまくやれるだろうか。それを疑うべき理由は数多くある。途上国の企業とせめぎ合う製造業部門とは違って、資本財部門やハイテク部門では、中国企業は、日本、韓国、アメリカ、ヨーロッパの大規模で懐の深い多国籍企業を相手にしていかなければならない。・・・

文明は衝突せず、融合している
―― 将来を悲観する必要はない

2016年5月号

キショール・マブバニ シンガポール国立大学 リー・クアンユースクール学院長
ローレンス・サマーズ  ハーバード大学名誉学長

昨今の欧米世界ではイスラム世界の混乱、中国の台頭、欧米の経済・政治システムの硬直化といった一連の課題に派生する悲観主義が蔓延している。とにかく欧米人の多くが自信を失ってしまっている。しかし、悲観主義に陥る理由はない。悪い出来事にばかり気を奪われるのではなく、世界で起きている良いことにもっと目を向けるべきだ。この数十年で非常に多くの人が貧困層から脱し、軍事紛争の数も低下している。とりわけ、世界の人々の期待が似通ったものになってきている。これは、グローバルな構造の見直しをめぐる革命ではなく、進化へと世界が向かっていることを意味する。現在のペシミズムの最大の危険は、悲嘆に暮れるがゆえに悲観せざる得ない未来を呼び込んでしまい、既存のグローバルシステムを再活性化しようと試みるのではなく、恐れに囚われ、欧米がこれまでのグローバルなエンゲージメントから手を引いてしまうことだ。

中印の間で揺れるネパール
―― ネパールは中継貿易の拠点を目指せ

2016年4月号

ファハド・シャー ジャーナリスト

文化的にインドと近いネパールのマデシ民族の自治要求をめぐってインドとの関係が緊張するなか、ネパール政府は(インドのライバルである)中国との関係強化を模索しているかのような動きをみせている。ネパール政府は「インドは国内で差別の撤廃や自治権の拡大を求めて運動を展開しているマデシを支援している」と批判した。事実、インド政府はネパールに対して(マデシの意向に沿うような)憲法改正を促し、カトマンズは「内政干渉だ」とこれに強く反発した。一転、ネパールは中国との北部貿易ルートの開発に力を入れ、中国も開発援助の増額やさまざまな開発プロジェクトでこれに応えている。北京はチベットの治安対策面でもネパールとの関係強化に関心を持っている。中国との良好な関係を形作るのは良いことだが、結局のところ、ネパールにとって「中国はインドの代替策にはなり得ない」。むしろ、ネパールは中印貿易の中継基地として戦略的立地を生かすべきではないか。

日本の新しいリアリズム
―― 安倍首相の戦略ビジョンを検証する

2016年4月号

マイケル・オースリン アメリカン・エンタープライズ研究所 レジデントスカラー、日本研究ディレクター

日本の地域的役割の強化を目指し、民主国家との連携強化を試みるために、安全保障行動の制約の一部を取り払おうとする安倍首相の現実主義的な外交・安全保障路線は、北朝鮮と中国の脅威という地域環境からみても、正しい路線だ。たしかに論争は存在する。市民の多くが平和主義を求める一方で、識者たちは日本の安全保障に対する脅威を憂慮している。しかし、そうした社会的緊張には、孤立主義や介入主義といった極端な方向に日本が進むことを防ぐ効果がある。超国家主義が日本を近隣諸国に対する侵略と戦争へと向かわせた1930年代と違って、現在の日本は、アジアを豊かさと安定へと導く「リベラルなシステム」を強化し、擁護していくために、古い制約を解体しつつある。再出現した権威主義国家がグローバルな平和を脅かすような世界では、日本の新しいリアリズムが太平洋地域の今後10年を形作るのに貢献し、アジアを特定の一国が支配するような事態にならないことを保証する助けになるはずだ。

中国経済のメルトダウンは近い
―― 中国経済はまったく成長していない

2016年3月号

サルバトーレ・バボネス シドニー大学准教授(社会学)

中国の経済成長が減速しているのは誰もが認めるところだが、北京が言うように本当に中国経済は依然として成長しているのだろうか。中国政府は2016年の成長率を6・5%と予測しているが、コンファレンス・ボードは3・7%という数値をあげている。だが、実体経済の動きを示すさまざまな指標をみると、3・7%という数字さえ、楽観的かもしれない。2015年に電力、鉄鋼、石炭の消費はいずれも低下している。購買担当者指数(PMI)もこの10カ月にわたって50を下回っており、これは製造業部門の生産が長期的な収縮トレンドにあることを意味する。中国経済の成長率は3%かそれを下回っているかもしれない。そして政府の赤字財政支出は、実際には間違いなくGDPの3%を超えている。つまり、中国の実体経済はおそらくまったく成長していないかもしれないし・・・いまや中国経済を動かしているのは政府支出だけだと考えてもおかしくない。

長期停滞にどう向き合うか
―― 金融政策の限界と財政政策の役割

2016年3月号

ローレンス・サマーズ 元米財務長官

今後10年にわたって、先進国のインフレ率は1%程度で、実質金利はゼロに近い状態が続くと市場は読んでいる。アメリカ経済についても同様だ。回復基調に転じて7年が経つとはいえ、市場は、経済がノーマルな復活を遂げるとは考えていない。この見方を理解するには、エコノミストのアルヴィン・ハンセンが1930年に示した長期停滞論に目を向ける必要がある。長期停滞論の見方に従えば、先進国経済は、貯蓄性向が増大し、投資性向が低下していることに派生する不均衡に苦しんでいる。その結果、過剰な貯蓄が需要を抑え込み、経済成長率とインフレ率を低下させ、貯蓄と投資のインバランスが実質金利を抑え込んでいる。この数年にわたって先進国を悩ませている、こうした日本型の経済停滞が、今後、当面続くことになるかもしれない。だが、打開策はある。・・・

中国経済のスローダウンを分析する

2016年2月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)、ブラッド・セッツアー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際金融担当)

企業投資の前提は高度成長であり、成長の結果である消費の拡大によって、投資が作り出す財が吸収される。しかし、経済成長がスローダウンすれば、大規模な不良債権を抱え込む。これが資金の流れを淀ませ、経済成長は鈍化する。成長率の鈍化はさらに多くの融資を不良債権化する。・・・中国でこの手のネガティブなフィードバックループによる負の連鎖が起きる危険がある。(S・マラビー) 現在の中国経済に、(経済成長モデルの移行に派生する)構造的なスローダウンという側面があることは誰もが知っている。これに加えて、景気循環上の下降局面にあることも認識しなければならない。実際、不動産市場の冷え込みが製造業に影響を与え、これが賃金の成長や国内需要を抑え込んでいる。これらの下方圧力を、資金投入を通じた金融緩和政策によって十分に相殺できるかどうかが問われている。・・・金融緩和政策とそれが経済に与える衝撃を判断する上で、製造業購買担当者景気指数(PMI)は重要な指標だ。PMIを、緩和政策が不動産投資の落ち込みに端を発する成長を抑え込む流れを覆せるほどパワフルかどうか判断する目安にできる。(B・セッツアー)

世界経済リスクとしての中国経済の
不確実性
―― 持続不可能なフィードバックループ

2016年2月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

中国政府が避けようのない経済スローダウンのタイミングを先送りしよう試みれば、債務はますます肥大化し、最終的な結末をさらに深刻なものにするだろう。銀行がインフラプロジェクトに資金を注ぎ込み、IMFが予測するように、成長率は6%を超えるかもしれない。しかし、持続不可能なやり方に派生するリスクが認識されるようになれば、政府の資本規制をかいくぐって資金は外国へと流出する。いずれにせよ、2016年の中国経済に注目する必要がある。この10 年以上にわたって世界経済の成長を牽引してきた国が、次のグローバル経済ショックの震源地になるかもしれないからだ。・・・

「中国の台頭」の終わり
―― 投資主導型モデルの崩壊と中国の未来

2016年2月号

ダニエル・C・リンチ 南カリフォルニア大学国際関係大学院准教授 (国際関係論)

いまや中国はリセッションに直面し、中国共産党の幹部たちはパニックに陥っている。今後、この厄介な経済トレンドは労働人口の減少と高齢化によってさらに悪化していく。しかも、中国は投資主導型経済モデルから消費主導型モデルへの移行を試みている。中国の台頭が終わらないように手を打つべきタイミングで、そうした経済モデルの戦略的移行がスムーズに進むはずはない。でたらめな投資が債務を膨らませているだけでなく、財政出動の効果さえも低下させている。近い将来に中国共産党は政治的正統性の危機に直面し、この流れは、経済的台頭の終わりによって間違いなく加速する。抗議行動、ストライキ、暴動などの大衆騒乱の発生件数はすでに2000年代に3倍に増え、その後も増え続けている。経済の現実を理解しているとは思えない習近平や軍高官たちも、いずれ、中国経済が大きく不安定化し、その台頭が終わりつつあるという現実に向き合わざるを得なくなる。・・・

欧米の分析者や政府関係者のなかには、ロシアが深く関与しているシリアとウクライナでの紛争が、北京とモスクワの関係を緊張させるか、破綻させると期待混じりに考える者もいる。だがそもそも中国はロシアとの公的な同盟関係を結ぶことにも、反米、反欧米ブロックを組織することにも関心はない。むしろ、北京は、中ロが開発目標を達成できるような安全な環境を維持し、互恵的な関係で支え合い、どうすれば国際システムを強化する方向で大国同士が立場の違いを管理できるかのモデルとされるような関係を形作っていくことを望んでいる。アメリカとその同盟諸国は、中国とロシアの緊密な絆を、米主導の世界秩序を脅かす疑似同盟関係の証拠とみなすかもしれない。だが中国は、米中ロの三国間関係は、二つのプレイヤーが連帯して残りの一つと対峙するパワーゲームとみてはいない。・・・

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