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中国のコーポレートパワー
―― 中国企業が市場を制する日はやってくるのか

パンカジュ・ゲマワット/ニューヨーク大学ビジネススクール教授
トマス・ホート/タフト大学シニアレクチャラー

Can China's Companies Conquer the World?

Pankaj Ghemawat ニューヨーク大学ビジネスクール教授。スペインのナバーラ大学・IESE(イエセ)ビジネスクールの議長(戦略&グローバル化)
Thomas Hout ボストン・コンサルティング・グループのパートナーを経て、現在はミドルベリー国際大学院モントレー校客員教授、タフツ大学シニアレクチャラー、香港大学ビジネスクールでも教鞭をとっている。

2016年5月号掲載論文

最近の経済的失速と株式市場の混乱にも関わらず、「中国はいずれアメリカを抜いて世界最大の経済パワーになる」と考える人は多い。だが、このシナリオを検証するには、現実に成長と富を生み出している企業と産業の活動動向に目を向ける必要がある。世界でもっともパワフルな経済国家になるには、中国企業は資本財やハイテク部門でさらに競争力をつけ、半導体、医療用画像診断装置、ジェット航空機などの洗練された製品を製造し、市場シェアを拡大していく必要がある。繊維や家電製品など、そう複雑ではない第1世代部門同様に、中国企業はこうした第2世代部門でもうまくやれるだろうか。それを疑うべき理由は数多くある。途上国の企業とせめぎ合う製造業部門とは違って、資本財部門やハイテク部門では、中国企業は、日本、韓国、アメリカ、ヨーロッパの大規模で懐の深い多国籍企業を相手にしていかなければならない。・・・

  • 驚異的な成長は今後も続くのか <一部公開>
  • 資本財・ハイテク部門という難関
  • 価値連鎖の上流と下流
  • 依然として組み立て工場か
  • 中国企業のR&D投資
  • 孤独な大国
  • 中国企業モデル?
  • 長い坂道

<驚異的な成長は今後も続くのか>

最近の経済的失速と株式市場の混乱にも関わらず、エコノミストや分析者の多くは「中国はいずれアメリカを抜いて世界最大の経済パワーになる」とみている。実際、これが、太平洋の両岸における主流派の見方だろう。しかし、この立場をとる専門家たちは、国の経済パワーはコーポレート(企業)パワーに密接に関連しているという重要な事実を見落としている。企業部門については「中国は依然としてアメリカに大きく後れをとっている」というのが現実だ。

これが中国の経済的未来にどのような影響を与えるのかを理解するには、先ず、多くの専門家が中国経済の今後についてなぜ強気の見方を崩さないか、つまり、中国が支配的な経済パワーになるという彼らの見方を支えるエビデンスの有効性を再検証する必要がある。

表面的には、見事な実績が並んでいる。少なくとも2028年までは無理だとしても、中国のGDP(国内総生産)はいずれアメリカのそれを上回る可能性がある。(2014年に中国経済のスローダウンが始まるまで、分析者の多くは、2028年よりも5―10年早いタイミングで、中国のGDPはアメリカのそれを超えると予測していた)。車から発電所そしてオムツにいたる数百の製品のメーカーにとって中国は世界最大の市場だし、北京は、世界最大規模の約3兆ドルを超える外貨準備を保有している。貿易取引量でみても、中国はアメリカを上回っている。

米中と貿易関係にある180カ国中の124カ国にとって、中国との貿易取引量の方がアメリカとの取引よりも大きく、これらの国にはアメリカの重要な政治・軍事的同盟国も含まれている。さらに中国は、投資国、インフラビルダー、機械サプライヤー、途上国の有数のバンカーになるという目的に向けて着実に歩を進めており、すでにアジア、アフリカ、ラテンアメリカの多くの国が、経済的にも政治的にも中国への依存を高めている。

2015年夏と2016年の株式市場の混乱を前に、投資家が中国株を警戒するようになったのは事実だろう。しかし、中国の株式市場と経済成長の間にはほとんど関係がない。1990―2013年まで、中国のGDPは平均で年10%の成長を遂げたのに対して、株式市場にはほとんど変化はなかった。最近の混乱は、中国経済の全般的な不安定化よりも、むしろ、株式市場の長期的な停滞を示しているにすぎない。20世紀前半に大規模な株式市場の混乱と大恐慌を経験したアメリカ経済がその後再生を遂げたように、中国経済もいずれ立ち直りをみせていくはずだ。

だが、中国の強靱なマクロ経済データだけでは全体像はわからない。中国経済が短期的に立ち直りをみせても、そして、これまで経済的に成功してきたとしても、世界の経済主導国としてのアメリカに中国が取って代わるとは限らない。GDP、貿易取引量などは国の経済力を反映する指標だが、これらですべてを語ることはできない。現実に成長と富を生み出しているのは企業と産業の活動だからだ。逆に言えば、中国企業のパフォーマンスと今後を考えれば、中国経済が直面する障害が何であるかがわかるはずだ。

米中を問わず、GDPの3分の2を担っているのは企業の活動だ。多国籍企業の活動とサプライチェーンの流れで、世界への輸出と外国直接投資の80%が説明できる。国の経済パワーは企業パワーに多くを依存していると言い換えることもできるだろう。

低コストの労働を武器とする製造業、より具体的には、ウォールマートなどの量販店での陳列に適したアパレルや家庭用品を供給し、消費者嗜好の変化に適応できる信頼できるメーカーのおかげで、この30年にわたって中国経済は見事な成長を遂げてきた。

北京はインフラを強化し、外資を惹きつけ、中国の人民元の価値を相対的に低く抑えることで、民間企業の成長に適した環境を作り上げた。市場で成功するには、中国のメーカーが世界のライバル企業を圧倒する必要があったが、これを実現したことで、中国はグローバルな経済舞台における重要なプレイヤーへと台頭していった。

だが、世界でもっともパワフルな経済国家になるには、中国企業が資本財やハイテク部門での競争力を培い、半導体、医療用画像診断装置、ジェット航空機などの洗練された製品を作り、それを世界市場でうまくマーケティングする能力を身につけていく必要がある。

中国が世界で支配的な優位をもつ経済国家になると考える人は、繊維や家電製品など、それほど複雑ではない第1世代部門同様に、中国企業がこうした第2世代部門でもうまくやれると考えている。だが、そうした見方を疑うべき理由は数多くある。

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