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中国に関する論文

戦狼外交の正体
―― 中国外交官たちの強硬路線と不安

2021年11月号

ピーター・マーティン  ブルームバーグ・ニュース 防衛・情報担当記者

2008―09年の世界金融危機以降、中国モデルの正しさが立証されたという思い込みから、北京は自己主張の強い外交戦略をとり始めた。2012年に習近平が中国共産党総書記に就任すると、変化は一気に加速した。北京の政府高官たちが習の指示に従ったのは、出世のためだけではなく、恐怖のせいでもあった。実際、政治的背信行為も一種の汚職とみなされた。外交官たちは、外務省での「自己批判」の会だけでなく、党に対する忠誠と命令に従う意志が試される「確認合宿」に参加しなければならなかった。こうして現在の北京は、「世界は北京の方針に適応しなければならない」と決めてかかっているかのような言動をみせるようになった。

中国はクアッドの何を警戒しているか
―― 北京の野心とクアッドの目的

2021年11月号

ケビン・ラッド   アジア・ソサエティ会長

「中国が支配的優位を確立するのが必然である以上、中国の要求を譲歩して受け入れる以外に選択肢はない」。北京は各国をこのように納得させたいと考えている。それだけに、日米豪印戦略対話(クアッド)が中国への対抗バランスを形成できるような十分な規模、一貫性、包括性をもつフォーラムへ進化し、それによってアジアまたは世界的における中国の支配的優位が損なわれるのが避けられない事態になるのは、北京にとって大きな問題だ。中国がクアッドの進歩を抑え込めるような戦略を特定できるかが、一触即発の危険な時代における米中競争、中国のグローバルな野望を左右する重要な要因の一つになる。

グレーゾーン事態と小さな侵略
―― 台湾、尖閣、スプラトリー

2021年11月号

ダン・アルトマン ジョージア州立大学 アシスタントプロフェッサー(政治学)

小さな侵略・征服行動の背後には明確な戦略がある。それを取り返すのではなく、仕方がないと侵略された側が諦めるような小さな領土に侵略をとどめれば、あからさまに国を征服しようとした場合に比べて、全面戦争になるリスクは大きく低下する。だが現実には、中国による台湾侵攻、封鎖、または空爆のシナリオばかりが想定され、(金門島・馬祖島、あるいは太平島を含む)台湾が実行統治する島々を中国が占領するという、より可能性の高いシナリオが無視されている。そうした小領土の占領を回避する上でもっとも効果的なのが、(応戦の意図を示す小規模な)トリップワイヤー戦力、特にアメリカのトリップワイヤー戦力だ。だが、そうした戦力が配備されていないために、尖閣、スプラトリー、台湾など、中国との潜在的なホットスポットの多くで抑止力が不安定化している。

国際社会における台湾の役割
―― 「権威主義VS.民主主義」モデル競争のなかで

2021年11月号

蔡英文 中華民国総統  (邦訳文はタイトル、小見出しを含めてフォーリン・アフェアーズ・ジャパンの編集によるものです。より直接的なニュアンスその他については英文をご覧ください。https://www.foreignaffairs.com/articles/taiwan/2021-10-05/taiwan-and-fight-democracy)

パンデミックを経て、(大陸の)権威主義政権は「自分たちの統治モデルが民主主義のそれ以上に21世紀の要請にうまく適応できる」とさらに確信するようになった。これがイデオロギー競争をさらに加速している。台湾は(多くの意味で)競合する二つのシステムが交差するポイントに位置している。力強い民主主義と欧米のスタイルをとりながらも、中国文明の影響を受け、アジアの伝統によって規定されている台湾は、そのプレゼンスと持続的な繁栄を通じて、中国共産党が主張するストーリーへの反証を示すと共に彼らの地域的野心に対する障害を作り出している。・・・中国共産党が突きつける脅威を認識するにつれて、各国は台湾と協力することの価値を理解するだろう。台湾が倒れれば、地域的平和と民主的同盟システムにとって壊滅的な事態になる。

中国のアフガニスタン・ジレンマ
―― 失われる安定と予測可能性

2021年11月号

セス・ジョーンズ  米戦略国際問題研究所(CSIS) シニアバイスプレジデント ジュード・ブランシェット  米戦略国際問題研究所(CSIS) 中国研究部長

「ポストアメリカの中央アジア」情勢は中国に恩恵よりもリスクをもたらすことになるだろう。国境の西側でアフガンという破綻国家に直面し、南西側ではインドとの緊張が高まっている。北東には北朝鮮という不安定で厄介なパートナーがいる。しかも、台湾海峡を含めて、アメリカとの競争はエスカレートしている。習近平は安定と予測可能性を模索しているが、アメリカのアフガン撤退後の地域情勢では、そのどちらも手に入れられなくなるだろう。実際、アメリカのアフガン撤退は、(台湾を含む)東部での競争のエスカレーションに集中すべきタイミングで、北京を身動きできなくする恐れがある。

環太平洋パートナーシップへの復帰を
―― CPTPPのアメリカにとっての価値

2021年10月号

ウェンディ・カトラー  元米通商代表部(USTR)次席代表代行

ワシントンでは「アメリカ抜きではTPPは静かに死を迎える」と考えられてきた。しかし、そうはならなかった。日本率いる残されたメンバーはCPTPPと名称を変更し、2018年に合意をまとめた。アメリカがCPTPPに参加すべき理由は数多くあるが、もっとも重要な要因はやはり中国だ。北京は(すでに正式加盟を申請し)CPTPPに参加する態勢を整えているかもしれない。中国がCPTPPのルールを守るのは難しいとしても、それで協定に参加できないということにはならない。市場が拡大することの魅力だけでなく、中国の参加を、重要な改革を先送りする機会とみなすメンバーも出てくるだろう。中国との競争を展開しているだけに、この協定はアメリカ経済にとってだけでなく、ワシントンの世界的影響力にとっても大きな価値をもつ。

中国とタリバン
――互いの人権侵害に目をつむる

2021年10月号

イアン・ジョンソン  ピュリツアー賞受賞ジャーナリスト

ある意味では、タリバン率いるアフガンは中国の完璧なパートナーかもしれない。「機能不全で北京への依存度が高く、中国がすることは何でも受け入れる」。タリバンと北京が共に相手の内政に干渉しないことが両国の関係の前提とされるはずだ。これは、北京にとっては「タリバンがアフガンとか細い国境を共有する新疆地域に過激主義を輸出せず、この地域のウイグル人イスラム教徒を対象とする北京の人権弾圧への非難を控えること」を意味する。一方、タリバンにとっては「中国市民が直接的に関わるケースでない限り、北京がタリバンの人権侵害を問題にしないこと」を意味する。おそらく、タリバンが新疆のイスラム教徒を支援するリスクを抑え込むことが北京の大きな狙いだろう。もっとも重要なのは、北京のアフガン関与が「中国の利益を支持する限り、相手国の内政を問題にすることはない」という、他国への北京の全般的エンゲージメントルールを示すことになると考えられることだ。


反アジアヘイトクライムと対中政策
―― 強硬な対中レトリックがレイシズムを助長する

2021年9月号

ラッセル・ヨング サンフランシスコ州立大学  教授(アジア系アメリカ人研究) ジェシカ・J・リー クインシー研究所 シニアリサーチフェロー(東アジア担当)

アジア系アメリカ人を標的とする社会暴力が増加している。米国内のアジア系成人の45%に相当する1000万人以上が「パンデミックが始まって以降、人種差別を直接的に経験している」と調査に答えている。歴史的にみても、地政学的不安が高まった時代には、アメリカではアジア系市民や移民が攻撃の対象にされてきた。ワシントンが、中国の脅威を極端なレトリックで誇張するなか、北京とつながっているかどうかに関係なく、米社会の一部の人々はアジア人やアジア系アメリカ人を敵視している。ワシントンが「中国のことを、アメリカのあらゆる苦境の憂さを晴らすサンドバッグ」として使うのを止めなければ、アジア系アメリカ人は今後も脅かされ続けるだろう。

適切な中ロ離間戦略を
―― ロシアを不幸な結婚から救うには

2021年9月号

チャールズ・クプチャン  米外交問題評議会シニアフェロー ジョージタウン大学国際関係学教授

反欧米による強い絆で結ばれているかにみえる中ロも、水面下では亀裂を抱えている。中国がめざましい勢いで台頭し、自負心を高めているのに対して、ロシアは停滞し、不安を高めている。超大国としての地位を取り戻したいと願いつつも、中国のジュニアパートナーに甘んじている。このギャップと非対称性がバイデンにはチャンスとなる。中ロを離間させるには、中国との関係で明らかになったロシアの脆弱性を是正すること、つまりロシアが自国の問題に対応できるように助けることで、バイデンは、モスクワが北京から距離をおくように促せるだろう。中ロを離間させれば、両国の野心を牽制し、アメリカとその民主主義的なパートナー国家が、イデオロギーの多様化が進む多極化世界で、リベラルな価値観や制度を守り、平和的な国際システムを形作るのも容易になるはずだ。

北京の泥棒男爵たち
―― 中国の金ピカ時代

2021年9月号

ユエン・ユエン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

この40年で、中国の政治腐敗は構造的に変化し、窃盗型から(特権を手に入れるための)アクセスマネー型へ変化した。資本家の利益に見合う動きをする政治家には報酬が与えられ、特権を買った資本家は私腹を肥やす。要するに、中国はいまや金ピカ時代のさなかにある。縁故資本主義の危険性に気づいている習近平は、政治腐敗が少なく、平等性が高い中国バージョンの革新主義時代を実現しようと、冷酷に強制力を用いている。だが、本当の改革とは、このような形では定着しない。むしろ、強制力を用いた上からの改革は、現在の問題を解決するカギとなる「下からのエネルギー」を抑え込んでしまい、結局は事態をさらに悪化させる。それにしても、なぜ「政治的に腐敗している国は貧しい」というトレンドを、中国は回避できているようにみえるのか。・・・

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