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テーマに関する論文

イエメン紛争の本質
―― サウジが軍事介入した本当の理由

2018年1月号

アシャー・オーカビー ハーバード大学リサーチフェロー

イランがフーシ派に武器を提供し、軍事アドバイザーを送りこんでいるために、イエメン内戦は(シーア派の)イランと(スンニ派の)サウジの覇権争いの延長線上にあると説明されることも多い。しかしこの見方は、戦争の原因とサウジが介入した理由を誤解している。イエメン内戦は、イエメン政府の正統性と統治能力が低下した結果、中央政府と長年虐げられてきた北部部族の対立がエスカレーションしたことで引き起こされた。そして、サウジが介入したのは、イランの拡張主義に対抗するためではなく、フーシ派の脅威から自国の南部国境線を守るためだった。・・・

レーニン主義と習近平の中国モデル
―― 北京のボリシェビキ

2017年12月号

ニック・フリック イエール大学大学院  博士候補生(アジア研究)

ボリシェビキそして彼らが形作ったソビエトという国家は、中国共産党にとってモデルであり、反面教師でもあった。ソビエト崩壊の記憶ゆえに(その二の舞になるのを避けようと)中国共産党指導部は権力維持に向けた決意を固め、党が軍部を支配することの重要性を肝に銘じた。なぜ習近平が個人への権力集中や民衆の生活のより多くの側面への党の介入路線の強化へと動いているかも、これである程度説明できる。だが目的は変化した。習の「中国の夢」が約束するのは、ボーダーレスなプロレタリアの楽園ではなく、党の支配の下で、中華文明の栄光を取り戻すことだ。こうした固有のナショナリズムとレーニン主義の鉄の規律の組み合わせは、トルコからフィリピンにいたるまでの権威主義の指導者たちにとって、代表制民主主義に代わる魅力的な選択肢なのかもしれない。

インターネット企業と中国経済の未来
―― 製造業からインタンジブル・エコノミーへ

2017年12月号

サルバトーレ・バポネス シドニー大学 社会学准教授

アップルは環太平洋地域の至る所に新しい経済システムをつくりあげている。iPhoneとそれが支える技術的エコシステムに多くを依存しているこのシステムをiエコノミーと呼ぶこともできる。そこには数多くのハブがある。マイクロソフトとアマゾンはシアトルを、ソニーと任天堂は日本を、サムスンは韓国を拠点としている。しかし現在の「インタンジブル・エコノミー」(無形経済)の主要センターはやはり中国だ。アリババ、バイドゥ、テンセントといった中国のインターネット企業は、規模や収益性という側面でも、カリフォルニア州のライバル企業に次ぐ存在となり、もはや他国の企業を寄せ付けない存在となっている。いまや中国を含む太平洋諸国にとって、もっとも価値ある経済要素は、生産・組立工程から、ソフトウェアデザインとアプリケーションなどのインタンジブル・エコノミーへとシフトしつつある。

カタルーニャのナショナリズム
―― 分離独立危機の歴史的ルーツ

2017年12月号

セバスチャン・バルフォア
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 名誉教授(現代スペイン研究)

スペインで最初に近代化を果たしたのは、他の地域とは言語・文化・アイデンティティが大きく異なるバスクとカタルーニャだった。フランスとは違って、国の力が弱かったスペインでは、中央が全国レベルでの正統性を得ることも、国を束ねるような社会的凝集力が生まれることもなかった。マドリードの支配者たちが権力を行使するには、国内周辺地域のエリートとの同盟に依存せざるを得なかった。だが、この中央と地方のパートナーシップも、米西戦争に敗れ、もっとも重要な植民地をアメリカに奪われた後に崩壊し始めた。20世紀に入ると、フランコの独裁政権はカタルーニャのアイデンティティとかかわってくる制度や組織を解体し、その言語を公的な場から一掃した。この時期にスペインのファシスト政権が民主化運動と抗議デモを弾圧したことが、今もカタルーニャ・ナショナリズムの原点とされている。・・・

サウジアラビアとイラン
―― ビン・サルマンへの権力集中の意味合い

2017年12月号

トビー・マティーセン オックスフォード大学 シニアリサーチフェロー(中東外交)

最近の政治的パージによって、ビン・サルマン皇太子は政治的ライバルを追い落としただけでなく、これまでアブドラ一族が支配してきた国家警備隊を含む、サウジの軍事組織の全てをいまや直接・間接に支配している。彼は、周辺地域が抱える問題の多くはテヘランが背後で操っているとみなし、イランに対してより強硬な路線をとっている。この現状は危険に満ちている。イラン脅威論を利用して国内のナショナリズムを煽りたてるビン・サルマンが、いまやサウジの権力を一手に担おうとしているからだ。テヘランに対する強硬路線をとるビン・サルマンをイスラエルが支持し、彼がサウジにおける自らの権力基盤を固めるなか、ワシントンからテルアビブ、リヤド、そしてアブダビをつなぐ、対イランの新たな枢軸が形成されつつある。

対北朝鮮経済制裁を検証する
―― 制裁に意味はあるのか

2017年12月号

エレノア・アルバート www.CFR.org ライター

北朝鮮に対する経済制裁が強化されているが、望むような結果を手にできるかどうか、疑問視されているのも事実だ。実際、2016年に北朝鮮経済は4%の成長をみせ、過去17年間でもっとも急速な成長を遂げている。制裁は、平壌を非核化交渉のテーブルに引き戻すことを目的としているが、交渉では非核化は実現しないと考える専門家は多い。北朝鮮は、いかなるコストを支払ってでも核の兵器庫を維持していくつもりだ。こうなると、経済制裁に意味はあるのかという考えも浮上する。一方で、北朝鮮を核武装国として実質的に認めるのも、軍事攻撃するのも完全な選択肢にはなり得ない。結局、北朝鮮を平和的に非核化する上での残された唯一の希望は、武装解除し改革をしない限り、滅亡が待ち受けていることを平壌に納得させることだが、問題はいかにしてそれを実現するかにある。

民主国家を脅かす 権威主義国家のシャープパワー
―― 中ロによる情報操作の目的は何か

2017年12月号

クリストファー・ウォーカー 全米民主主義基金 副会長(分析・研究担当)
ジェシカ・ルドウィッグ 全米民主主義基金 リサーチオフィサー

民主国家をターゲットにするロシアの情報操作の目的は、アメリカやヨーロッパの主要国を中心とする民主国家の名声そして民主的システムの根底にある思想を多面的にかつ容赦なく攻撃することで、自国をまともにみせることにある。一方、中国の情報操作は、問題のある国内政策や抑圧を覆い隠し、外国における中国共産党に批判的な声を可能な限り抑え込むことを目的にしている。権威主義国家の対外的世論操作プロジェクトは、ソフトパワー強化を目指した広報外交ではない。これをシャープパワーと呼べば、それが悪意に満ちた、攻撃的な試みであることを直感できるだろう。その目的は民主国家の報道機関に(自国に不都合な情報の)自己規制(検閲)を強制し、情報を操作することにある。

政府は格差にどう対処していくべきか
―― アフター・ピケティ

2017年12月号

メリッサ・S・カーニー メリーランド大学教授(経済学)

格差は貧困の世代間連鎖の罠を作り出し、社会的流動性を低下させ、非常に多くの人を周辺化させる。このような現象が政治的余波を伴うのは避けられない。ピケティは大きな富の格差の存在は、平等主義的な政策対応を求める声を高めると指摘した。しかし、これまで以上の大きな富を手にした富裕層は、そうした変化を阻む手段をもつようになる。ピケティが特定した問題は本質的に政治問題だが、それに対処していくには政治が不可欠であることに彼はほとんど関心を示していない。・・・極端な格差が経済安全保障や社会的流動性を脅かさないようにするには、どのような政策が必要なのか。そのためには、先ず、高額な報酬が支払われているエグゼクティブの所得が市場における効率的な働き、才能を反映したものなのか、それとも、それ以外のプロセスの結果なのかを解明しなければならない。

イスラム国後のイラクと中東
―― イラク国家の再建で中東秩序の再建を

2017年12月号

エマ・スカイ イェール大学グローバル問題研究所 シニアフェロー

トランプだけでなく、アメリカ人の誰もが、イラクへの関与を終わらせたいと考えているだろう。しかし、かつてイラクの崩壊が現在の中東秩序の解体をもたらしたように、イラクで起きることが中東全体に大きな余波をもたらすことを忘れてはならない。逆に言えば、中東のパワーバランスを回復する上でもっとも重要な要因は、イラクの安定化ということになる。地域諸国が依然として混乱のなかにあるイラクの権力の空白を埋めていくのを阻止するには、この国を強くしなければならないし、そのためには依然としてアメリカの支援が必要だろう。

シリア内戦後を考える
―― アメリカに何ができるのか

2017年12月号

ロバート・S・フォード 元駐シリア米大使

イスラム国勢力の衰退によってシリア内戦が終わりに近づいても、アサド政権と反政府勢力やクルド人勢力との新しい紛争が待ち受けている。特に、西部からデリゾールにかけての「イランとロシアが支援するシリア政府軍」と、デリゾール東部を支配している「アメリカが支援するシリア民主軍」がいずれ戦火を交えることになるかもしれない。ワシントンも決断を迫られる。撤退すべきかどうか、撤退するとすれば、いつどのように撤退するかを決めなければならない。アサド政権を支援するイランがシリアでの影響力を高め、ロシアもプレゼンスを確立している。ここでシリア民主軍、クルド人勢力を助ければ、アメリカは新しい紛争に巻き込まれることになる。・・・

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