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テーマに関する論文

人的資本投資と経済成長
―― 教育・医療への投資がなぜ必要か

2018年8月号

ジム・ヨン・キム 世界銀行総裁

教育と医療への人的資本投資を怠れば、労働生産性と国の競争力は大きく損なわれる。学校教育を1年多く受けると、平均して約10%収入が増加する。教育の質も関係してくる。例えば、アメリカでは、小学校のクラス担任を質の低い教員から平均的教員に替えると、生徒たちの生涯収入の合計は25万ドル増加する。重要なのは客観的基準をもつことだ。現状を客観的に測定する人的投資の指標を世界銀行が提供すれば、必要とされる改革が何であるかについての思いを共有できるようになる。優先順位もはっきりしてくるし、様々な政策に関する有益な議論が起き、透明性も強化される。人的資本に適切に投資できなければ、人類の進化と連帯にとって、あまりにも大きなコストが生じることになる。

分離独立運動の未来
―― なぜ暴力路線へ向かう危険が高いか

2018年8月号

タニシャ・M・ファザル ミネソタ大学准教授(政治学)

分離独立運動が直面するジレンマは深い。国家の仲間入りを果たしたい以上、分離独立運動も主権概念を尊重している。だがそのためには、分離独立しようとする国の主権を犯すことになる。しかも、非暴力主義が独立して国家をもつための最善の道なのかどうか、はっきりしなくなってきている。国際社会と国際機関が、国家として機能できそうなクルディスタンやカタルーニャの分離独立の承認を拒絶し続ければ、これらの運動は、これまでの自制をかなぐり捨てて、いずれ、暴力路線や一方的独立宣言に踏み切るかもしれない。分離独立勢力が「(国際社会が求めるルールを守って目的の実現を目指しても、ほとんど何も得られない」と判断すれば、その帰結は忌まわしいものになる。

中国モデルとは何か
―― 権威主義による繁栄という幻想

2018年8月号

ユエン・ユエン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

途上国は「リベラルな民主主義」よりも「中国モデル」に魅力を感じ始め、習近平自ら、「他の諸国は人類が直面する問題への対策として、中国のやり方に学ぶべきだろう」と発言している。当然、中国モデルが注目を集めているが、それがどのようなものかという質問への答は出ていない。その経済的成功が何によって実現したかも定かではない。現実には、鄧小平期の北京が、官僚制度の改革を通じて、地方の下級官僚たちが、現地の資源を用いて経済開発を急速に進めるのに適した環境を提供したことが、中国モデルの基盤を提供している。だが、こうした特質は民主国家にとっては、おなじみのものだ。懸念すべきは、中国モデルが欧米や途上世界で広く誤解されていること、そして中国のエリートたちでさえ、中国モデルを誤解していることだろう。

都市外交の台頭
―― グローバルな課題に対処する新アクター

2018年8月号

アリッサ・アイレス 米外交問題評議会シニアフェロー(南アジア担当)

各国の都市がグローバルレベルで直接交流するケースが増えている。都市の指導者たちは、他国の都市と連携し、災害からの復旧やリスク緩和について意見交換し、持続可能な開発、インフラ、治安、気候変動などの問題に取り組んでいる。まるで国際機関のようなネットワークを通じた都市の協調ネットワークもある。都市多国間主義(city multilaterals)と呼べるこのネットワークを通じて、都市が自分たちにとって無縁ではない地球規模の切実な課題に協調して取り組むようになり、国際社会で都市がリーダーシップを発揮する機会が作り出されている。国際条約に署名するのは今も国家の役割だが、都市は迅速に行動できるし、集積された知識を行動に生かし、グローバルな問題に協調して取り組むことができる。

多様性を受け入れる秩序へ
―― リベラルな国際秩序という幻

2018年8月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

戦後のアメリカの世界関与を促したのは、自由を世界に拡大したい、あるいは国際秩序を構築したいという思いからではなく、国内でリベラルな民主主義を守るための必要性に駆られてのことだった。民主的な統治の価値を信じる現在のアメリカ人にとっての最大の課題も、まさに、国内で機能する民主主義を再建することに他ならない。必要なのは、アメリカは自らがイメージする通りに戦後世界を形作ったとする空想上の過去に戻ることではない。幸い、国内の民主主義を再建するために、中ロその他の国の人々にアメリカの自由主義思想を受け入れてもらう必要はないし、他国の政治制度を民主体制に変える必要もない。むしろ、1963年にケネディが語ったように、自由主義であれ、非自由主義であれ、「多様性を受け入れる」世界秩序を維持するだけで十分ではないか。

マルキスト・ワールド
―― 資本主義を制御できる政治形態の模索

2018年8月号

ロビン・バーギーズ オープンソサエティ財団・経済促進プログラム アソシエートディレクター

共産主義モデルを取り入れた国が倒れ、マルクスの政治的予測が間違っていたことがすでに明らかであるにも関わらず、その理論が、依然として鋭い資本主義批判の基盤とされているのは、「資本主義が大きな繁栄をもたらしつつも、格差と不安定化をもたらすメカニズムを内包していること」を彼が的確に予見していたからだ。欧米が20世紀半ばに社会民主的な再分配政策を通じて、資本主義を特徴づけたこれらの問題を一時的に制御することに成功して以降の展開、特に、70年代末以降の新自由主義が招き入れた現状は、まさにマルクスの予測を裏付けている。今日における最大の課題は、「人類が考案したもっともダイナミックな社会システムである」資本主義の弊害を制御できる新たな政治システムを特定することにある。しかし、そのためには先ず、社会民主的政策を含めて、過去に答が存在しないことを認識しなければならない。・・・

人工知能とデジタル権威主義
―― 民主主義は生き残れるか

2018年8月号

ニコラス・ライト インテリジェント・バイオロジー  コンサルタント(神経科学者)

各国にとっての政治・経済的選択肢は「民衆を抑圧し、貧困と停滞に甘んじるか」、それとも「民衆(の創造力)を解き放って経済的果実を手に入れるか」の二つに一つだと考えられてきた。だが、人工知能を利用すれば、権威主義国家は市民を豊かにする一方で、さらに厳格に市民を統制できるようになり、この二分法は突き崩される。人工知能を利用すれば、市場動向を細かに予測することで計画経済をこれまでになく洗練されたものにできる。一方で、すでに中国は、サーベイランスと機械学習ツールを利用した「社会信用システム」を導入して「デジタル権威主義国家」を構築し始めている。20世紀の多くが民主主義、ファシズム、共産主義の社会システム間の競争によって定義されたように、21世紀はリベラルな民主主義とデジタル権威主義間の抗争によってまさに規定されようとしている。

ワーミング・ワールド
―― 気候変動というシステミック・リスク

2018年8月号

ジョシュア・バズビー テキサス大学オースティン校 准教授(公共政策)

気候変動とは、地球温暖化だけではない。世界は、気候科学者のキャサリン・ヘイホーが、「グローバル・ウィアーディング(地球環境の異様な変化)」と呼ぶ時代に突入しつつある。考えられない気象パターンがあらゆる場所で起きている。気温が上昇すると、気候変動が引き起こす現象が変化する。かつて100年に1度だった大洪水が、50年あるいは20年おきに起きるようになる。想定外のテールリスクもますます極端になる。気候変動がひどく忌まわしいのは、地政学への影響をもつことだ。新しい気象パターンは、社会的にも経済的にも大混乱を引き起こす。海面が上昇し、農地が枯れ、より猛烈な嵐や洪水が起きるようになり、居住できなくなる国も出てくる。こうした変化は、国際システムに前代未聞の試練を与えることになる。

変化する貿易と経済地図
―― デジタルグローバル化にどう備えるか

2018年7月

スーザン・ルンド マッキンゼー・アンド・カンパニー  パートナー
ローラ・タイソン カリフォルニア大学 バークレー校経営大学院教授(経済学)

グローバル化は反グローバル化に道を譲ったのではなく、新しい段階に入ったにすぎない。モノのグローバル化から最大の恩恵を引き出した政治・経済エリートと、最大の余波にさらされた労働者コミュニティーが激しい論争を展開している間にも、デジタルテクノロジーが支える新しいグローバル化が急速に進展している。デジタルグローバル化は、イノベーションと生産性を高め、かつてない情報アクセスを提供することで、世界中の消費者とサプライヤーを直接結びつけることができる。だが、これも破壊的プロセスを伴う。特定の経済部門や雇用が消滅する一方で、新たな勝者が生まれるだろう。企業と政府は、新しいグローバル化に派生する迫り来る破壊に備える必要がある。

東と西におけるポストリベラル思想
―― 宗教と国家の存在理由

2018年7月号

シャディ・ハミッド ブルッキングス研究所 シニアフェロー

ポピュリズムが台頭する欧米では、アイデンティティや帰属に関する非自由主義的で排他的なエスノナショナリズムが復活している。いまや「純然たる(リベラルの)道徳的コンセンサス」を否定する批評家も多く、リベラリズムは「真の思想的代替策を拒絶する野心的なイデオロギーと化している」と批判されることもある。一方、中東では、民主化が模索された「アラブの春」以降、社会における宗教の役割、国家の本質についての力強い論争が起きた。そこで支持されたのはリベラリズムではなく、イスラム主義だった。そしていまや政治的イスラム主義と宗教的イスラム主義の対立が起きている。ポストリベラル思想として、中東では宗教的イスラムコミュニティが、欧米では目的共同体が注目され始めている。・・・

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