1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

テーマに関する論文

危険な10年をいかに乗り切るか
―― 地政学、グローバルな課題、アメリカの弱体化

2022年11月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

地政学的競争の激化が、温暖化に象徴されるグローバルな課題をめぐる国際協調をさらに難しくし、一方で国際環境の悪化が地政学的緊張をさらに高めている。しかも、アメリカはさらに弱体化し、世界への関心を失っている。グローバルな課題と世界の(細々とした)対応間の恐ろしいほどのギャップ、ヨーロッパとインド太平洋における大国間戦争リスクの上昇、イランが中東を不安定化させるリスクの拡大、これらが渾然一体となって、第二次世界大戦以降、もっとも危険な瞬間が作り出されつつある。現在と同様に困難で危険な10年、つまり、伝統的な地政学リスクと増大する一方のグローバルな課題が共存する時代を乗り切っていくには、何が必要なのか。

水素エネルギーが地球環境を救う?
―― 新エネルギー技術のポテンシャル

2022年11月号

S・フリオ・フリードマン カーボン・ダイレクト社 チーフサイエンティスト

カナダ、チリ、ドイツ、日本を含む、世界の35カ国以上が水素エネルギー戦略を導入し、促進している。クリーンな水素エネルギーは、気候変動に対処していく上で不可欠なだけでなく、貿易や商業面での競争力を強化する大きなチャンスだと考えられているからだ。特に、太陽光や風力、水力、原子力から得たクリーンな電力を使って、水を水素と酸素に分解する「グリーン水素」の製造が大きな注目を集めている。だが、気候変動との闘いにおいてグリーン水素のポテンシャルを最大限に引き出すには、各国がインフラ整備に投資するともに、新しいエネルギー市場が急速に商業化されたときに必ず生じるリスクを緩和していく政策が必要になる。

帝国の衰退と歴史の教訓
―― 米中ロの衰退と混乱に備えよ

2022年11月号

ロバート・D・カプラン 米外交政策研究所 地政学担当チェアー

米中ロという大国は、一般に考えられる以上に脆弱な存在なのかもしれない。政策破綻を回避するために必要な「悪いシナリオに備える姿勢」、つまり、悲劇を回避するために未来を悲観的に考える能力が北京、モスクワ、ワシントンでは不十分などころか、どこにもみあたらない。実際、帝国や大国はこうして自滅的な戦争を決断し、それによって歴史を左右する大きな節目が作り出されてきた。帝国や大国が突然終わりの時を迎えると、混乱と不安定化が続く。ロシアがこの運命を避けるのは、おそらくもう手遅れだろう。中国はその運命を切り抜けられるかもしれないが、容易ではないはずだ。アメリカも、先行きを悲観して現実的なアプローチに転換する時期が遅れれば、状況はさらに悪化していく。

習近平の本質
―― 奢りとパラノイアの政治

2022年11月号

蔡霞 元中国共産党中央党校教授

習近平は中国の政治派閥のすべてから反発を買っている。彼が伝統的な権力分配構造を破壊したことに憤慨し、その「無謀な政策が党の将来を危うくしている」と考えているエリートは少なくない。民間企業を締め上げ、政策の細部にまで介入して民衆を苦しめる統治スタイルへの社会の反発も大きい。いまや、天安門事件以降初めて、中国の最高指導者は政府内部の反対意見だけでなく、激しい民衆の反発と社会騒乱の現実的リスクに直面している。今後、統治スタイルがさらに極端になれば、彼がすでに引き起こしている内紛は激化し、反発は大きくなる。習近平が脅威を感じ、大胆な行動に出れば、ますます反発が大きくなるという悪循環が生じるかもしれない。・・・

迫り来るグローバル・リセッション?
―― インフレ、為替、中央銀行のジレンマ

2022年11月号

ブラッド・セッツァー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済政策担当)

いまや、中国、アメリカ、ヨーロッパという世界経済の主要エンジンのすべてが減速しつつある。中国経済は実質的にリセッションに陥り、ヨーロッパ経済もエネルギー不足によって冬にはリセションに入ると考えられる。アメリカ経済も停滞に向かいつつある。グローバルな経済停滞が主要国におけるインフレ圧力をどの程度迅速に低下させるかが、今後考えるべき大きなテーマになるだろう。長期的なインフレの定着リスクよりも、インフレ抑制のために採用した措置がうまく機能しすぎて、現在の世界的な引き締め策が中国の不動産不況、エネルギー市場の混乱と重なり合って深刻な景気後退をもたらすリスクが警戒されている。円安ドル高、イギリス経済の混乱という問題もある。金融市場は明らかに神経質になっている。・・・

領土「併合」とプーチンの賭け

2022年11月号

トーマス・グラハム 米外交問題評議会 特別フェロー(ロシア、ユーラシア担当)

主要国がロシアによる「併合」を認めないとしても、モスクワが、これらの地域をロシアの領土と位置づければ、「領土」を守るための試みを強化することが正当化される。部分的な動員、将来におけるより全面的な動員、そして潜在的な核兵器の使用もこの文脈に位置づけることができる。もっとも、モスクワが総動員を回避したのは、ロシアの若者がウクライナにおけるプーチンの目標のために実際に戦い、死ぬ準備ができているかどうかを疑っていたからだという見方が広がっている。だが、最近におけるロシア軍の撤退とウクライナ戦争での進展のなさから、強硬派の批判を緩和するために部分的であっても動員を実施せざるを得なかった。紛争が続くにつれて、モスクワはこの二つの課題間で今後もバランスをとることを強いられるだろう。実際、プーチンが直面しているもっとも深刻な抵抗は、より攻撃的な行動を求める強硬派かもしれない。・・・

クレムリンのクーデター?
―― ソビエトの権力抗争史とプーチンの未来

2022年11月号

セルゲイ・ラドチェンコ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 特別教授

プーチンがウクライナ戦争の劣勢を覆せぬなか、潜在的な後継者たちが、ライバルの動向を窺い、後継シナリオをあれこれ考えているのは間違いないだろう。プーチンの打倒を目指す者は数多くいる。おべっか使いの側近や危機マネージャーなど、後継候補たちは多彩な顔ぶれだ。大統領への忠誠心で選ばれた人物たちだとしても、裏切りが横行する環境ではそれは相対的なものでしかない。プーチンを完全に信頼している者はいないし、側近たちが互いに相手を信頼しているわけでもない。事実、ソビエト時代のクーデターは、権力中枢における人間関係、ライバルたちの野心と裏切りによって引き起こされてきた。行動を突き動かしたのは、指針とするイデオロギーや政治的な原則ではなく、赤裸々な野心だった。成功はタイミングと流れに左右される。その鍵は、現職の指導者が弱気になったときに素早く、果敢に動けるかどうかだ。・・・

アフリカのウクライナ・ジレンマ
―― ロシアと欧米の狭間で

2022年10月号

ナンジャラ・ナイアボラ 政治アナリスト

アフリカ諸国の多くがウクライナ支持を明言しないことに、欧米の指導者は苛立ちを募らせている。実際、大規模な兵器供給国であるロシアに配慮するアフリカ諸国は多い。理由はこれだけではない。欧米がかつての植民地宗主国としての負の遺産をひきずっているのに対して、アフリカの多くの国にとって、共産主義は欧米の植民地主義に代わる選択肢だった。つまり、ソビエトの後継国家であるロシアは、アフリカの歴史の正しい側にいるかのように装うことができる。だが、立場を明確にしないのは、数世代にわたって紛争を続けてきたアフリカ諸国の紛争疲れのせいでもある。可能ならば、ウクライナ戦争のどちらか片方に与するのを避けることが、アフリカ諸国の支配的な態度となっている。その戦争が、アフリカを新たな代理戦争の舞台にする恐れがあるとすれば、なおさらだろう。

ロシア経済の行方
―― 戦争、経済制裁、インフレ

2022年10月号

クリス・ミラー タフツ大学フレッチャースクール 准教授(国際史)

戦争と経済制裁のコストは、当初のインパクトが、欧米が期待したほど、そしてロシアが懸念したほど劇的でなかったとしても、今後、大きくなっていく一方だろう。今のところ、ロシアの指導者たちは、半年以上にわたって欧米の制裁を乗り切ったことに満足している。しかし、今後ロシアの産業は、欧米から輸入パーツを調達できない状況にいかに適応していくかに苦しむことになる。原油価格が上昇しない限り、モスクワは社会(財政)支出を続ける一方で、財政赤字や高インフレを受け入れるという、厳しいトレードオフに直面することになるはずだ。モスクワの戦争遂行を停止させるような形でロシア経済が崩壊することはないとしても、急激なリセッションや生活レベルの低下が続き、今後も短期的には経済がリバウンドするとは期待できないだろう。

米対中戦略の落とし穴
―― ビジョンなきゼロサム思考の弊害

2022年10月号

ジェシカ・チェン・ワイス コーネル大学 教授(中国・アジア太平洋研究)

中国が世界のどこかで何かを試みると、その国の政府や住民が何を望んでいるかも十分考えずに、とにかく対抗しようとする罠にワシントンははまっている。自由に使えるリソースについての現実的な評価を基盤とする長期ビジョンがないため、どの領域や地域に優先順位をつけるかにさえ苦労している。より良いアプローチの指針は、その世界ビジョンに求めるべきだ。つまり、恐れるものではなく、求めるものをベースとする思想とビジョンが必要だ。制裁であれ、関税であれ、軍事行動であれ、アメリカの政策を判断する基準は、中国の国益をどれだけ損なえるか、相手に対する優位を得られるかどうかではなく、「アメリカが望む世界へ向けた進歩がどれだけ得られるか」に定める必要がある。

Page Top