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政治・文化・社会に関する論文

情報と戦争の歴史
――カルタゴの戦いから対テロ戦争まで

2006年11月号

デビッド・カーン 歴史家

19世紀に陸軍参謀部が情報収集を制度化し、第一次世界大戦期に無線傍受が重視されるようになり、第二次世界大戦と冷戦期には、情報担当官は、戦場の司令官同様に大きな役割を果たすようになった。だが、情報があっても、戦力がなければそれを生かせない。情報によって作戦の焦点を絞り、効率化を図り、戦場での優位を手にできるが、敵に勝利するには戦力が必要だ。非国家アクターに対する水面下での戦いをめぐって情報がかつてなく重視されている現在の対テロ戦争にしても、同じことが言える。

核の優位を確立したアメリカ
―― 核抑止時代の終わりか

2006年6月号

ケイル・A・リーバー ノー トルダム大学政治学助教授、 ダリル・G・プレス ペンシルベニア大学政治学準教授

近いうちに、アメリカが核の先制攻撃によってロシアや中国の長距離核のすべてを破壊し、反撃能力を一度に粉砕できるようになる日がやってくる。この核のパワーバランスの劇的なシフトは、アメリカが核システムを持続的に改善し、ロシアの核兵器がしだいに時代遅れになり、中国の核戦力の近代化がゆっくりとしたペースでしか進まなかったことの帰結である。われわれのシミュレーショ ンでも、ロシアの戦略核のすべてを一度の核攻撃で破壊できるという結果が出ている。相互確証破壊の時代、核抑止の時代は終わりに近づきつつある。今後、問われるのは、核の優位を手にしたアメリカが、国際的にどのような行動をとるかだろう。

アメリカの家計貯蓄増大とグローバル経済
――ドル価値は低下し、各国の対米輸出は低下する

2006年6月号

マーチン・フェルドシュタイン ハーバード大学経済学教授

これまで世界各国の生産増大と雇用を支えてきたアメリカの旺盛な消費にもついに陰りが見え始めてきた。今後アメリカの消費は衰え、家計貯蓄が増えていく。アメリカにとって貯蓄増大は、長期的には外資への依存率を引き下げ、米企業の設備投資、生産性を向上させ、将来の生活レベルを引き上げるような構造的投資が進むことを意味する。しかし一方で、世界経済は大きな課題を抱え込むことになる。高い貯蓄率は実質金利を引き下げ、ドル価値は低下して、アメリカの輸出競争力は高くなる。この現象は、アメリカの輸出が増大し、輸入が減って経常赤字の対GDP比バランスが回復され、完全雇用が実現するまで続く。他の諸国にしてみれば、それは輸出の低下とアメリカからの輸入増大を招くことになる。重要なのは、諸外国が、生産と雇用を維持できるように内需拡大策を準備しておくことだ。

中台安定化時代の始まり  ――そして台湾は独立を望まなくなった

2006年4月号

ロバート・S・ロス ボストンカレッジ政治学教授

台湾海峡周辺地域へのミサイルと戦闘機の配備を強化した中国は、2000年までには、アメリカが軍事介入する前に台湾の繁栄を破壊できるだけの軍事力を整備していたし、急速な経済成長によって台湾経済を左右するような大きな経済的影響力も手に入れていた。北京の台湾に対する軍事的、経済的な影響力を前に、台湾の有権者は、台湾の独立を唱える陳総統と民進党に見切りをつけ、中国と折り合いをつけていくことを選択し、ここに、台湾独立を求める機運は事実上、消え去った。中国と台湾の関係が平和的に改善されていけば、米中戦争のリスクも低下する。北京、台北、ワシントンが軍事・防衛体制を調整する機会さえ生まれることになる。

新生イラクにおける女性とイスラム

2006年2月号

イソベル・コールマン 米外交問題評議会シニア・フェロー

イスラム法を重視する憲法が導入されたことで、イラクはタリバーン時代のアフガニスタンのような原理主義、あるいはイランのような神権政治へと回帰し、女性に対する差別と抑圧がイスラムの名の下に正当化されてしまうのだろうか。「憲法がイスラム法重視をうたっているからといって、直ちにイラク人女性が難しい状況に置かれるわけではない」とコールマンはみる。どのようなイスラム法の解釈が新生イラクの法制度において優先されるかで道は分かれる、と。イスラム保守派人口が多い環境のなかでは、西洋の論理を振りかざすのではなく、イスラム法解釈の枠内で、シャリアの進歩的解釈を盾にイスラム改革をめざすべきだ、と彼女は提言する。

ロシアの若者の歴史認識を問う
――高まるスターリンへの評価

2006年2月号

サラ・E・マンデルソン/戦略国際問題研究所(CSIS)シニア・フェロー
セオドア・P・ガーバー/ウィスコンシン大学マディソン校社会学教授

ロシアの若者の多くは、スターリンに対してあいまいで、一貫性に欠ける、不安定な見方をしている。だが、こうしたあいまいな態度に危険が潜んでおり、実際、若者のスターリンへの評価は次第にプラスへと転じつつある。これらが問題なのは、歴史的な記憶、あるいは歴史的な記憶の喪失が、具体的な政治的流れをつくり出しかねないからだ。国や社会が過去をどうとらえるかで、歴史をいかに今に位置づけるかが決まる。若いロシア人がスターリン時代に何が起きたかについて無知だったり、ソビエト・ロシア全域での恐怖政治を制度化した凶暴な独裁者を前向きに評価したりしているようでは、ロシアが近代的な民主社会に変貌していくのは難しい。

CFRインタビュー
イラン核開発問題をめぐる米欧協調の危うさ
―― 打開の鍵をにぎるのはロシアだ

2006年1月号

リー・フェイシュタイン 米外交問題評議会シニア・フェロー

現在のところ、イランの核開発問題に対して共同歩調をとっているとはいえ、アメリカとヨーロッパの脅威認識にはかなりの気温差がある。「ヨーロッパ人はすでに対イラン貿易制裁には反対すると表明している」。リー・フェイシュタイン(米外交問題評議会<CFR>シニア・フェロー)は、イランの核開発の脅威の本質、切迫性をめぐって、米欧の認識は大きく違っているし、米欧は経済制裁の効果についても違う意見を持っていると指摘し、今後もアメリカとヨーロッパが同じ土俵に立ち続けることができるかどうかを疑問視する。むしろ、イラン問題をめぐって何らかの進展が期待できるのは、ロシアでウラン濃縮の合弁事業を立ち上げる妥協案が進展した場合だろうとコメントした。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。
邦訳文は英文からの抜粋。

CFRインタビュー
イランの核開発問題
―― ロシア案の受け入れか、安保理付託か

2006年1月号

ジョセフ・シリンシオーネ カーネギー国際平和財団 核不拡散研究プロジェクト・ディレクター

すこしばかり核開発計画を先にすすめ……それで、ヨーロッパが立場を後退させるかどうか、「状況を容認するか、あるいは、状況を批判しつつも具体的行動はとらないか」を見極めるという戦術をこれまでテヘランは慎重に試みてきた。イランの核開発に向けた戦術をこう分析するジョセフ・シリンシオーネ(カーネギー国際平和財団の核不拡散研究プロジェクト・ディレクター)は、だが今回ばかりは、イランは強硬な発言を繰り返すことで、ヨーロッパの出方を見誤ったとみる。「一線を越えないように配慮しつつ、核兵器開発に必要な全技術を獲得すること」がテヘランの戦術であるにも関わらず、アフマディネジャド大統領は、「平和利用という自分たちの主張に酔いしれるあまり」、あるいは、「国内政治面での窮状を打開しようと」、今回は、勇み足を踏んだと分析する。安保理への付託か、ロシア案の受け入れか。その大きな鍵を握るのはロシアになるとシリンシオーネは語った。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

経済成長は本当に民主化を促すのか
―― 中国の民主化はなぜ進展しない

2006年1月号

ブルース・ブエノ・デ・メスキータ
ニューヨーク大学政治学部長、フーバー研究所シニア・フェロー
ジョージ・W・ダウンズ
ニューヨーク大学社会科学部

近年では、抑圧政権は、経済発展を実現しつつも、民主主義の導入を非常に長い間遅らせることに成功している。例えば、中国は、この年にわたって力強い経済成長を遂げているが、依然として政治的には抑圧体制を温存している。現実には、経済成長によって抑圧政権の寿命は短くなるどころか、むしろ長くなっている。経済成長によって得た資金をバックに、公共交通機関、保健医療サービス、初等教育などの公共財を提供することで市民の満足度を高める一方で、民主化を求める市民の連帯を育む前提である政治的権利、人権、報道の自由を厳格に管理しているからだ。いまやわれわれは、経済成長は民主化を呼び込むという理論を見直す必要があるし、国際機関の融資条件に市民間の連帯をうながす一連の権利の保障を含めるべきだろう。

CFRミーテ ィ ング
IEAチーフエコノミストが語る、 世界のエネルギー需給見通し

2005年12月号

ファティ・バイロル スピーカー 国際エネルギー機関 (IEA) 経済分析部長  司会  ニューヨークタイムズ記者  ジャド・モーアワッド

「この5~6年をみると、世界の石油の需要増のほぼすべては交通・運輸部門の需要増大によるもので、これはかつてとは違うパターンだ。これまでは、産業、電力生産、家庭での需要増がその内訳だったが、いまや、需要増のほぼすべてが交通・運輸部門の需要増大に引きずられている。だが、この部門を石油以外のエネルギー資源へと移行させていくのは容易ではない。いかなるシナリオをたどっても、今後中東と北アフリカMENA の世界の石油供給にしめるシェアはますます増大していく」(F・バイロル)

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