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政治・文化・社会に関する論文

変化した日本の政治とナショナリズム

2014年5月号

マルガリータ・エステベズ・アベ
シラキュース大学政治学部准教授

安倍首相の人気の高さと政治的影響力のどの程度が、ナショナリスティックな外交政策を求めるようになった日本の大衆の立場の変化を映し出しているのかは分からない。たしかに、尖閣問題もあって、2012年には、日本人の81%が中国には親近感がないか、どちらかといえばそうした感情を覚えないと答えている。安倍首相がこれまでの政治キャリアを保守主義や国家主義に即して積み上げてきたのも事実だ。だが、ナショナリスト路線を検証するには選挙制度改革が作り出した政治環境、普通の国への道筋をめぐる論争、そして中国の台頭が与えている影響も考える必要がある。選挙制度改革の結果、野心的な政治家が重要な国家アジェンダに特化できる環境が作り出され、国家安全保障とそれに付随するナショナリズムが有権者への訴求力を持っていることにいち早く気づいたのが自民党の政治家たちだった。・・・・

「歴史の終わり」と地政学の復活
―― リビジョニストパワーの復活

2014年5月号

ウォルター・ラッセル・ミード バードカレッジ教授(歴史・外交)

政治学者フランシス・フクヤマは、「冷戦の終わり」をイデオロギー領域での「歴史の終わり」と位置づけたが、多くの人は、ソビエトの崩壊はイデオロギー抗争の終わりだけでなく、「地政学時代の終わり」を意味すると考えてしまった。現実には、ウクライナをめぐるロシアとEUの対立、東アジアにおける中国と日本の対立、そして中東における宗派間抗争が国際的な紛争や内戦へとエスカレートするリスクなど、いまや歴史は終わるどころか、再び動き出している。中国、イラン、ロシアは冷戦後の秩序を力で覆そうとしており、このプロセスが平和的なものになることはあり得ない。その試みは、すでにパワーバランスを揺るがし、国際政治のダイナミクスを変化させつつある。いまや、リベラルな秩序内に地政学の基盤が築かれつつあるのを憂慮せざるを得ない状況にある。・・・・

プーチンの思想的メンター
―― A・ドゥーギンとロシアの新ユーラシア主義

2014年5月号

アントン・バーバシン 在モスクワ国際関係研究者
ハンナ・ソバーン 米フォーリン・ポリシー・イニシアティブ (ユーラシア分析担当)

2000年代初頭以降、ロシアではアレクサンドル・ドゥーギンのユーラシア主義思想が注目されるようになり、2011年にプーチン大統領が「ユーラシア連合構想」を表明したことで、ドゥーギンの思想と発言はますます多くの関心を集めるようになった。プーチンの思想的保守化は、ドゥーギンが「政府の政策を歴史的、地政学的、そして文化的に説明する理論」を提供する完璧なチャンスを作りだした。ドゥーギンはリベラルな秩序や商業文化の破壊を唱え、むしろ、国家統制型経済や宗教を基盤とする世界観を前提とする伝統的な価値を標榜している。ユーラシア国家(ロシア)は、すべての旧ソビエト諸国、社会主義圏を統合するだけでなく、EU加盟国のすべてを保護国にする必要があると彼は考えている。プーチンの保守路線を社会的に擁護し、政策を理論的に支えるドゥーギンの新ユーラシア主義思想は、いまやロシアの主要なイデオロギーとして位置づけられつつある。・・・・

主要経済指標という幻
―― ビッグデータ時代の経済指標を

2014年4月号

ザチャリー・カラベル リバートゥワイス・リサーチ会長

いまやGDPは国の成功と失敗を判断する指標とみなされ、選挙結果を左右し、政府を倒し、大衆運動を引き起こす力さえ持っている。だが、GDPでは幸福感、満足感、家計労働は計測できない。政府が発表するインフレ数値を信じる市民もほとんどいない、公的なインフレ統計数値など「信用詐欺」のようなものだと言う専門家さえいる。グローバル・サプライチェーンを特徴とする現在の世界では貿易指標もほとんど当てにならない。いかなる主要経済指標も、現実の経済の姿を適切に映し出せていない。だが「より優れた主要経済指標」をわれわれが必要としているわけでもない。必要なのは政府、企業、コミュニティ、個人の特定の必要性を満たす、それに適したテーラーメードの指標だろう。

ユーラシア主義か、栄誉ある小さな戦争か
―― 三つのシナリオとプーチンの選択

2014年4月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授

プーチンがユーラシア主義のイデオロギーや権力志向に取り憑かれ、合理的な思考を失い、ウクライナ侵略のコストと利益を判断できなくなっているとすれば、彼は今後も現在の路線を突き進むと考えるのが無難だろう。ウクライナに対する大規模な地上戦の開始を阻むものは何もない。一方、プーチンが合理的な考えを取り戻し、コストと利益のバランス、ユーラシア主義路線の余波を見極めることができれば、ウクライナと世界秩序を破壊する前に、侵略を止めるだろう。プーチンは、(ユーラシア主義の)イデオロギー、地政学的利益、そして自己利益から、今回の行動に出ている。だが指導者を突き動かすのはイデオロギーだけではない。欧米が厳格な対抗策をとれば、プーチンにもロシアにもほとんど利益をもたらさないコストのかさむ戦争への代替策、それも面目を失わずに済む代替策を模索するように促すことができるだろう。

Review Essay
移民を受け入れるべきか規制すべきか
―― 移民と経済と財政

2014年2月号

マイケル・クレメンズ
世界開発センターシニアフェロー
ジャスティン・サンドファー
世界開発センター研究員

移民は基本的に社会モデルが機能しなくなった国から逃れてくる。この事実を踏まえて、その影響をよく考えるべきで、「移民を無制限に受け入れれば、ある時点で受入国と移民出身国の双方にマイナスの影響が出るようになる」と考える研究者もいる。一方、労働市場を移民に開放すると、労働力の供給が拡大するだけでなく、投下資本利益率が上昇して経済成長を加速し、労働需要が高まり、移民だけでなく受入国の住民の生活水準も改善すると考える研究者もいる。実際、移民が受入国の財政にプラスの影響をもたらすことを示す研究は数多くある。経済協力開発機構(OECD)が2013年に27カ国を対象に実施した調査によると、移民が受入国の国庫にもたらす金額は、彼らが受け取る社会保障給付よりも一世帯当たり平均4400ドルも多い。問題は、移民論争がとかく感情的で十分な裏付けが示されないまま、過熱してしまうことだ。

ロウハニはイランのゴルバチョフになれるか

2014年1月号

スティーブン・コトキン プリンストン大学歴史学教授

当時のミハイル・ゴルバチョフは、ソビエトで過激な改革を実施しているとも、していないとも思わせる曖昧な発言をしていたために、専門家もソビエトで何が起きているかを理解できなかった。実際には、ゴルバチョフは「共産党独裁体制を終わらせる」という意図はもっていなかった。むしろ共産党体制の終焉への流れは、彼が、市民団体の組織化を認め、検閲を緩め、自由選挙を導入したことによって作り出された。つまり、イランの穏健派指導者ロウハニが抜本的な改革ではなく、政治や社会に関わってくる名ばかりの改革を表明したときこそ、われわれは注目する必要がある。そうした改革は、改革のアジェンダが想定する以上の社会・経済的流れ、政治的変化を呼び込み、ロウハニ自身管理できないような流れを作り出す可能性がある。

Foreign Affairs Update
グリーンランドの資源開発ブーム
―― 開発と汚染リスクに揺れる島民たち

2013年12月

アンナ・カタリナ・グラブガード フリーランスジャーナリスト

オーストラリア、カナダ、中国を含む各国の投資家が、鉱物資源開発をめぐって、グリーンランドに押し寄せている。大きな資源が存在すると長く言われながらも、これまではグリーンランドの資源開発を阻む障害が存在した。ごく最近まで氷床が資源豊かな大地を覆い尽くし、しかも、ウランの掘削が禁止されてきたからだ。潤沢なウラン資源と混在する形でレアアースその他の資源が存在するため、事実上、すべての鉱物資源開発ができなかった。だがいまや氷床は溶け出し、グリーンランド自治政府はウラン掘削を禁止する法律を撤廃している。資源開発に異を唱える人はいない。だが、ウランが掘削されることを現地の多くの人が心配している。注意深く掘削しなれば、ウラン掘削によって土地や水が数世代にわたって汚染されるリスクがあるからだ。・・・

暴かれたアメリカの偽善
―― 情報漏洩とアメリカのダブルスタンダード

2013年12月号

ヘンリー・ファレル ジョージ・ワシントン大学准教授(政治学、国際関係論)
マーサ・フィネモアー ジョージ・ワシントン大学教授(政治学、国際関係論)

E・スノーデンがリークした情報によって情報源や情報収集の手法が明るみに出たとはいえ、予想外のものは何も出てきていない。専門家の多くは、かねて「アメリカは中国にサイバー攻撃をし、ヨーロッパの政府機関を盗聴し、世界のインターネット・コミュニケーションを監視している」と考えてきた。リークが引き起こしたより深刻な問題は、アメリカのダブルスタンダードが明らかになり、理念と原則の国としてのアメリカのイメージを失墜させたことだ。アメリカは、自分たちが唱道する価値を一貫して擁護し、順守してきたわけではなかった。この矛盾を前に、他の諸国は「アメリカが主導する秩序は正統性を欠いている」と判断するかもしれない。ワシントンは(米情報機関の行動に対する)厳格な監視体制を導入し、政策に関する論争をもっと民主的に進めるべきだろう。安易な偽善(とダブルスタンダード)の時代はすでに終わっている。

北朝鮮は経済改革を模索している
―― 崩壊か経済改革か

2013年8月号

ジョン・デルーリー 延世大学国際関係大学院准教授

北朝鮮は2030年までに崩壊すると予測する専門家もいるが、平壌はすでに中国流の経済改革導入への道を歩みつつあるとみなすこともできる。これを理解するには、中国はどのような手順で改革へと歩を進めたかを考える必要がある。1960年代に核兵器を獲得した北京は、1970年代に対米デタントによって体制の安定と安全を確保した上で、経済改革路線を優先させるようになった。つまり、今日の北朝鮮は1970年の中国同様に、経済改革に着手する前に、まずワシントンから体制の安全に関する保証を取り付けたいと考えている段階にある。金正恩は「経済建設」の次の局面に進みたいと考えていると示唆し、4月1日には実務派テクノクラートの朴奉珠を首相に登用して、経済成長の舵取りを委ねている。朴奉珠が北朝鮮の首相に抜擢されたこと自体、金正恩が経済を重視し、改革志向を持っていることの現れとみなせる。平壌の穏健派に力を与えるためにも、アメリカは強硬策ではなく、北朝鮮の安全を保証し、経済改革にむけた環境整備に手を貸すべきだ。体制を揺さぶり、崩壊を待つ路線を続ければ、偶発事件によって次なる朝鮮戦争が誘発される恐れがある。

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