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テーマに関する論文

アメリカの新貿易コンセンサス
―― ロバート・ライトハイザーの世界

2024年3月号

ゴードン・H・ハンソン ハーバード大学ケネディスクール 教授(都市政策)

前米通商代表のライトハイザーは、製造業にほぼ神秘的なまでの経済価値をみいだし、貿易赤字だけが貿易協定を評価する唯一の指標だと考えている。問題は、明らかに正しくないものを含めて、彼の見解が米国内で支持を広げていることだ。トランプの「アメリカ第1主義」の威勢のよさを思わせる彼の立場は右派にアピールし、バイデンの産業政策と環境保護路線を受け入れることで左派への訴求力ももっている。だが、ライトハイザーの処方箋が貿易政策の標準とされても、国内の工場を復活させることはできない。むしろ、その過程で国際関係に大きなダメージを与えてしまう。彼にとっては受け入れがたいとしても、アメリカの繁栄の未来は溶鉱炉や組立ラインではなく、サービス業にある。

南シナ海に迫る危機
―― 中国との危機を機会に変えるには

2024年3月号

マイケル・J・マザー ランド研究所 上席政治学者

習近平国家主席は、停滞する中国経済の再生と国内での政治的管理体制の強化に躍起になっているし、アメリカとの緊張緩和への期待も示している。しかし、南シナ海での衝突や挑発行為がより頻繁に発生するようになれば、それが危機につながっていくのは避けられないし、そのような事態に直面すれば、アメリカの対中戦略は大きな転換点を迎える。北京の能力と影響力を抑える障壁を積み上げることであれ、抑止力の強化であれ、中国の力と野心に対抗するだけでは、今後10年にわたって存続できる戦略関係を形作ることはできない。むしろアメリカは中国に対抗しつつも、一方で、北京との安定した関係を築き、いつかは相互に尊重できる共存へと移行できるような基盤を築いていくべきだろう。

紛争の一方で進む中東の和解と協調
―― ポストアメリカの中東秩序へ

2024年3月号

ダリア・ダッサ・ケイ カリフォルニア大学ロサンジェルス校 バークル・センター シニアフェロー
サナム・ヴァキル 英王立国際問題研究所 中東・北アフリカプログラム ディレクター

アラブ世界の主要国は、トルコのような地域大国とともに、ガザ戦争前に存在した和解の流れとその後誕生した協調の機運を固定化するために、この瞬間を生かし、この地域に安定をもたらせる力強い安全保障メカニズムの確立をめざすべきだ。中東は清算の時を迎えている。ガザ戦争からみても、いまや中東におけるアメリカパワーに限界が生じていることは明らかであり、今後の中東の和平と安全保障をめぐって主導権をとるのは、地域の指導者や外交官たちでなければならない。危機と紛争にさらに陥っていく危険もある。だが、別の未来を築き始めることもできる。中東の指導者たちが暴力のスパイラルを食い止め、この地域をより前向きな方向へと導ける可能性は存在する。

共和党の国際主義と外交戦略
―― 軍事・貿易・経済戦略をどう立て直すか

2024年3月号

コリ・シェイク アメリカン・エンタープライズ研究所 ディレクター

共和党支持者がもっとも懸念する「経済的な不安」を引き起こしているのは、バイデン政権の政策だ。その保護主義的な理論とアプローチはインフレを煽り、市場を歪め、貿易を抑え込み、アメリカの同盟国をいらだたせている。共和党支持者は、中国に世界のルールを決めさせれば、米企業は不利な状況に追い込まれ、同盟国が脆弱な状況に置かれることを理解している。軍事予算の増大も、移民政策の見直しも必要だし、中国への依存を減らし、それでも繁栄を維持できる経済戦略が求められている。必要なのは、世界で何が起きているのか、そして共和党がどのように国を守り、繁栄を維持していくつもりなのかについての理論を有権者に明確に示すことだ。

ミャンマーは崩壊するのか
―― 反体制派と連邦制の夢

2024年3月号

アビナッシュ・パリワル ロンドン大学東洋アフリカ研究学院 准教授(国際関係論)

軍事政権は国内のほとんどの地域で追い込まれている。「国家分裂の危険にある」ミャンマーが複数の民族小国家に分裂していく可能性は、すでに現実問題として捉えられている。実際、軍事政権が敗北し、追放される可能性も否定できず、ミャンマーは連邦制に即して社会契約を書き変えるべきタイミングにあるのかもしれない。ミャンマー軍に対する攻撃には数カ月に及ぶ計画や異質なグループ間の連携が必要なわけで、これが実現されていることからみれば、この国が連邦制に基づく民族間統合モデルを実践できるのではないかという希望も浮上してくる。

戦後のガザ統治に備えよ
―― 自治政府をどう改革するか

2024年3月号

ダニエル・バイマン ジョージタウン大学 外交政策大学院教授

アフガニスタンやイラクなどの紛争から得た教訓の一つは、敵対的な体制を排除することはそれほど難しくなくても、現地における民衆の暮らしを立て直し、長期的な平和を確保できる新政府を構築することは、はるかに難しいということだ。ハマスという選択肢もイスラエルという選択肢もない。アラブ諸国も戦後ガザへの関与は嫌がるだろう。国際的テクノクラートによる統治は、政治基盤をもたないという大きな欠陥がある。自治政府は、西岸においてさえ、イスラエルのかなりの支援がなければ、ハマスを抑え込み、暴力を阻止することもできずにいるが、それでも、ガザの統治という任務を担う上でもっともましな選択肢だ。しかし、現在の自治政府を改革していく必要がある。・・・

次期米大統領と欧州
―― なぜ欧州の自立が必要なのか

2024年3月号

アランチャ・ゴンサレス・ラヤ
カミーユ・グランド
カタジナ・ピサルスカ
ナタリー・トッチ
グントラム・ヴォルフ

ヨーロッパの指導者たちは、バイデンなら、大西洋の絆を守り、混乱する大陸と近隣諸国にヨーロッパがより大きな責任を果たすための時間と支援を与えてくれると考えている。だが今後、そうした配慮は彼からも得られないかもしれない。もちろん、トランプ大統領が誕生すれば、2期目には、ヨーロッパが直面する不安定な状況はさらに悪化するかもしれない。だが、安全保障と経済を守るために行動を起こし、具体的な措置を講じることは、ヨーロッパの手に委ねられている。誰がワシントンで政権を担おうと、一貫したパートナーとしてアメリカを頼ることはもはやできないかもしれない。ヨーロッパの指導者たちは自分たちが成長しなければならないこと、つまり、アメリカへの依存度を低下させるべきことを理解している。

世界戦争の足音
―― 歴史は繰り返すのか

2024年3月号

ハル・ブランズ アメリカン・エンタープライズ研究所 シニアフェロー

世界は、1940年代のように、複数の紛争が一つの戦争へ統合されていく局面にあるのかもしれない。東ヨーロッパと中東ではすでに戦争が勃発し、現状を否定するリビジョニズム国家の結びつきがますます強くなっている。この環境で、アジアの係争海域で軍事衝突が起きれば、別の恐ろしいシナリオが浮上する。東アジアでの戦争が他の地域ですでに進行している紛争と重なり合い、ユーラシアの三つの主要地域が一度に大規模な紛争で燃え上がれば、1940年代以来の状況が出現する危険がある。しかも、アメリカはこの課題への準備ができていない。すでにプーチンは、ウクライナと中東における紛争は「ロシアと全世界の運命を決める」一つの大きな闘争の一部だと宣言している。

抵抗の枢軸という新脅威
―― ミサイルとSNSで戦う敵の目的は

2024年3月号

ナルゲス・バジョグリ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 アシスタント・プロフェサー(中東研究)
バリ・ナスル ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 教授(中東研究)

イラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニが設計し、シリア紛争で具体的なつながりをもち、ガザ戦争で一気に連帯を深めた「抵抗の枢軸」とは、いかなる軍事ネットワークなのか。欧米は、イランが(ハマス、ヒズボラ、フーシ派などを含む)「抵抗の枢軸」の黒幕だとみているが、実際には、それぞれが自立した、より緩やかなネットワークだ。それでも、メンバーたちは、イスラエル、そして間接的にはアメリカに対する同じ戦争を戦っていると信じている。それだけに、抵抗の枢軸を簡単に解体することも、それを生み出した思想を粉砕することもできない。ガザの銃声が静まり、住民への圧力が緩和され、パレスチナの主権と自決への確かな道筋が描かれない限り、アメリカは危険なエスカレーション・スパイラルから抜け出すことはできないだろう。

パスポート売買ビジネス
―― 市民権、国籍の値段と意味合い

2024年2月号

アトッサ・アラクシア・アブラハミアン ネーション誌 シニアエディター

投資による市民権獲得、つまり、外国人に政府公認のパスポートを合法的に販売する産業が急成長している。国内総生産(GDP)を押し上げる、このビジネスは、観光産業を後押しし、国の借金を減らし、天災後の復興、学校や年金制度の維持を助けている。いまや、パスポート売買は制度化され、例えば、セントクリストファー・ネービスの場合、そのGDPの約40%は国内の不動産を購入し、政府の開発基金に現金を寄付した「投資家市民」によってもたらされている。グレナダの「投資による市民権取得制度」の利用者の9割がロシア国籍保有者なのは、この島国の市民権でプーチン主義から逃れることができるからだ。しかし、このビジネスをわれわれはどうとらえるべきなのか。パスポート売買には複雑な倫理が絡んでくる。・・・。

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