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テーマに関する論文

欧米世界とグローバルサウス
―― 失った信頼を回復するには

2023年7月号

デービッド・ミリバンド 元イギリス外相

欧米と「その他の世界」のビジョンの間には大きな溝が存在する。非欧米世界で、「ウクライナの自由と民主主義のための闘いは、自分たちの闘いでもある」という欧米の主張を受け入れる国はあまりない。これは冷戦後の欧米によるグローバル化の管理ミスに対する途上国の深いいらだち、実際には怒りの産物に他ならない。グローバルサウスは、欧米のダブルスタンダードに怒りを感じ、国際システムの改革が停滞していることに苛立っている。欧米とその他の世界のビジョンとの間にこうした溝が存在することは、気候変動、パンデミックという巨大なグローバルリスクに直面する今後の世界にとってきわめて危険であり、その根本原因に対処しなければ、溝は広がる一方だろう。

インドの台頭は必然なのか
―― 何がこの国を機能不全に追い込んでいるのか

2023年7月号

ミラン・バイシュナフ カーネギー国際平和財団 シニアフェロー(南アジア担当)

歴史的に、インドの分裂した政治がこの国の改革能力を抑え込んできたが、それも終わりつつあるのかもしれない。ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)はいまや議会の過半数を獲得し、長年の懸案であった経済改革を推進するために必要な政治基盤を手に入れている。だがそれでも、この国はあまりに多くの問題を抱えている。多数派が影響力を高め、権力分立が形骸化し、メディアは口を封じられている。インドの都市のイスラム教徒地区はますますゲットー化し、女性が労働力に占める割合はごくわずかだ。政治腐敗が横行し、民主主義が理屈上は存在しても、実際にはほとんど実践されていない。「独立後75年を経たインドの民主主義と経済は、根本的に破綻している」とみる専門家もいる。

新産業政策の恩恵とリスク
―― 建設的な国際協調か補助金競争か

2023年7月号

デビッド・カミン ニューヨーク大学ロースクール教授
レベッカ・カイザー フォーダム大学ロースクール教授

グローバルミニマム課税の成功は、大企業が利益を最大化しようと、国を競い合わせることに対して、各国が協力して「法人税引き下げによる底辺への競争」を回避できることを示した。問われているのは、国家安全保障や気候変動との闘いに不可欠な産業の生産拠点をどこに移すかをめぐっても、ワシントンが友好国や同盟諸国と協力して、解決策を見出せるかどうかだ。気候変動問題への対応、新サプライチェーンの構築、中国の脅威への対応といったわれわれと友好国が共有する目標を達成するための措置をめぐって協力できなければ、ワシントンは、同盟諸国や信頼できる貿易相手国との間で激しい競争を新たに引き起こすことになる。それを回避するには何が必要なのか。

現在と1930年代は似ているか
―― 反グローバル化、経済保護主義、ポピュリズム

2023年7月号

マーク・マゾワー コロンビア大学教授(歴史学)

第一次世界大戦後、自由貿易と国際主義的政治が批判され、関税障壁と移民規制が強化されるなか、ヨーロッパは独裁政治へ転落していった。当時の状況と現状の間には重なり合う部分も多い。実際、ポピュリストやナショナリストのさまざまな不満を背景とするトランプの台頭は、民主主義の危機を分析するために、グローバル化に反対する人々に注意を払う必要があることを初めて明らかにした。グローバル化支持派は、自由貿易と経済の自由化が民主主義拡散の基盤を提供すると主張している。だが歴史が示す因果関係はもっと曖昧だ。戦間期の混乱から当時導き出された真の教訓は、レッセフェール型経済が命取りになりかねないこと、そして政治家が、戦略的な国家リーダーシップの必要性を理解しなければならないということだ。

プーチンの戦争からロシアの戦争へ
―― プーチンと一体化するエリートと民衆の心理

2023年7月号

ユージン・ルーマー カーネギー国際平和財団 ロシア・ユーラシアプログラム ディレクター

ウクライナに戦争を仕掛け、モスクワが敵視する個人を神経ガスで攻撃する。イランや北朝鮮などのならず者国家に先端技術を売り込み、サイバー兵器を無差別に利用する。しかも、核兵器と国連安保理常任理事国の地位に守られているため、国際的な非難や制裁を受けることもない。プーチンの後継者が抜本的な軌道修正を行い、罪を償い始めるとも考えにくい。結局、プーチンは、ロシアのエリートと社会を戦争の共犯に仕立て上げることで、この国が彼の体制から劇的に離れていく可能性を抑え込んでいる。こうして、アメリカとその同盟国にとって、中国といかに戦うかという問題に勝るとも劣らない、厄介な問題が作り出されている。

勝利なき戦争と外交
―― いかにウクライナでの戦闘を終わらせるか

2023年7月号

サミュエル・チャラップ ランド研究所 シニア・ポリティカルサイエンティスト

いまこそ、ウクライナ戦争をどのように終わらせるかについてのビジョンを描くべきだろう。15カ月に及ぶ戦闘で明らかになったのは、たとえ外部からの支援があったとしても、双方には相手に決定的な軍事的勝利を収める能力がないということだ。このままでは、はっきりとした結果を得られぬまま、数年にわたって壊滅的な紛争が続く恐れがある。休戦を前提とする戦闘の終結では、ウクライナは、一時的に全ての領土を回復できない状況に直面するが、経済的に回復するチャンスを手にし、死と破壊の日々と決別できる。少なくともこの1世代でもっとも重大な国際的危機となったこの紛争に対する効果的な戦略は、アメリカと同盟国が紛争の終わりを働きかけることだ。

アフリカ経済に注目せよ
―― アフリカが左右するグローバル経済の未来

2023年7月号

ジャック・A・ゴールドストーン ジョージ・メイソン大学 教授(公共政策)
ジョン・F・メイ ジョージ・メイソン大学 リサーチプロフェッサー(公共政策)

今後20年間で、世界の大半の諸国は、若年人口や労働力の減少に直面するだけでなく、爆発的に増加する高齢者の介護を余儀なくされる。この近未来において、中国経済がこの40年にわたって世界経済で果たしてきた役割を今後担っていくのはどの国や地域なのか。意外にも、それがインドになる可能性は低い。世界が目を向けるべきは、むしろ、アフリカ大陸だ。国連の最新統計では、アフリカの人口は、死亡率の低下と出生率の上昇を背景に、現在の14億から2050年には25億に増加すると予測されている。中国、日本、韓国、ヨーロッパで若年労働力が激減していくなか、今後、グローバル経済の未来を左右するのは、豊かな労働力をもつアフリカ大陸になるだろう。

プーチンの心理と世界観
―― ロシアの核使用リスクを考える

2023年7月号

ローズ・マクダーモット ブラウン大学 教授(国際関係論)
リード・ポーリー ブラウン大学 アシスタントプロフェッサー(政治学)
ポール・スロビック オレゴン大学 教授(心理学)

戦場での大敗も経済制裁も、プーチンに迷いを生じさせることはない。ウクライナの降伏を手に入れない限り、彼が和平に応じることはないだろう。「流れは自分の側にあり、現在の消耗戦が長引けば、ウクライナ軍とウクライナ支援国が疲弊してくる」という読みに賭けているのかもしれない。だが、権力を維持することを重視する彼のナルシズムゆえに、時間枠が限られてくるかもしれない。軍の将軍や傭兵の指導者が内紛を続けるなか、彼は戦争を早く終わらせるためにもっと大きなリスクを引き受けるかもしれない。認知バイアスとプーチンに特徴的ないくつかの心理的傾向からみて、追い込まれたと感じれば、彼は非常に危険な事態を作り出すかもしれない。戦争の歴史で裏付けられた心理学の理論とエビデンスは、欧米諸国が核攻撃の高いリスクを想定して備えるべきことを示唆している。

中国とウクライナ戦争
―― 対ロシア支援の論理と結末

2023年6月号

リアナ・フィクス 米外交問題評議会 フェロー(ヨーロッパ担当)
マイケル・キマージ カトリック大学 教授(歴史学)

ウクライナ戦争の傍観者として振る舞うことで、これまで中国は恩恵を確保してきたが、今後はそうはいかないだろう。ロシアの敗北は中国の利益にならないからだ。ロシアが敗北すれば、アメリカは中国とのライバル競争にエネルギーと資源を集中できる環境を手にする。このような事態を防ぐために、中国はロシアに対して、経済的、精神的支援だけでなく、殺傷能力のある兵器を提供することもできる。戦争を長引かせ、ロシアの敗北を食い止めるため、あるいは何らかのロシアの勝利を早めるために、これらの支援を提供できる。中国の参戦は国際関係の新たなページを開くことになる。ウクライナ紛争を世界規模の紛争に変え、中国と欧米間の敵対関係はさらに深刻になるだろう。・・・

プーチンがワグネルを必要とする理由
―― 戦争とモスクワの権力抗争

2023年6月号

アンドレイ・ソルダトフ Agentura.ruの共同創設者
アイリナ・ボローガン Agentura.ruの共同創設者

なぜプリゴジンは公然とロシア軍の高官を罵倒できるのか。これは、「有事にあっては軍が国家内でより大きな力を得る傾向があること」をプーチンが理解していることに関係がある。戦争が長引けば長引くほど、軍の影響力は拡大し、管理するのが難しくなる。内外の脅威という視点で状況を捉えるプーチンにとって、軍の相対的な力の増大は、戦場でのパフォーマンス以上に気になるところだ。要するに、プーチンにとって、ワグネルは、長く自分の支配を脅かす潜在的な脅威とみなしてきたロシア軍を抑制するための重要な手段でもある。欧米諸国とは違って、ワグネルがこの戦争で果たす役割は、ウクライナの戦場で起きていること同様に、モスクワにおける権力ダイナミクスに密接に関係している。

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