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テーマに関する論文

ハイリスク環境における安定とは
―― システミック・レジリエンスの確立を

2024年1月号

アンシア・ロバーツ オーストラリア国立大学 教授(グローバル・ガバナンス)

レジリエンスはショックやストレスに耐える能力として理解されている。だがそれは、リスクに効果的に対応するだけでなく、将来的な恩恵を獲得し、変化に対応できるように進化することも意味する。そうした、システミック・レジリエンスを実現するには、政府と企業は「リスクと恩恵の適切なバランス」をとらなければならない。リスクの最小化を目指すと、恩恵が減少するだけでなく、時間の経過とともに新たな脆弱性が生み出される。同様に、短期的な恩恵の最大化を目指せば、既存のリスクを見過ごし、新たなリスクを生み出し、後に大きな犠牲に直面する危険がある。もっとも困難なケースは、経済的相互依存のリスクと恩恵の双方が大きい場合だ。このような場合、システミック・レジリエンスに注目することが極めて有効になる。

本当の対中抑止力とは
―― 米台が中国を安心させるべき理由

2024年1月号

ボニー・S・グレーザー 米ジャーマン・マーシャル財団 マネージングディレクター
ジェシカ・チェン・ワイス コーネル大学 教授(中国・アジア太平洋研究)
トーマス・J・クリステンセン コロンビア大学教授(国際関係論)

「あと一歩踏み込んだら撃つぞ」という警告が抑止のための威嚇になるのは、「踏み込まなければ、撃つことはない」という暗黙の了解が一方に存在するからだ。潜在的な敵を思いとどまらせるには、「保証」を示して、相手を安心させる必要もある。ワシントンと台北は抑止力の強化に努めながらも、武力行使を控えれば、懲罰の対象にはされないと北京を安心させなければならない。一部の米政府高官たちが主張するように、台湾を主権国家として承認し、台湾防衛のための明確な同盟コミットメントを示せば、北京の安心感は損なわれ、抑止力も低下する。この場合、ワシントンが地域的な軍事力強化にいくら力を注いでも、戦争を防ぐことはできなくなるかもしれない。

欧州における右派の台頭
―― 移民と法の秩序

2024年1月号

マティアス・マタイス 米外交問題評議会シニアフェロー

右派が台頭しているフランス、ドイツ、ポーランドに続いて、オランダでもゲルト・ウィルダースが率いる(右派ポピュリストの)自由党が、オランダ議会下院の最大勢力となった。ベルギーでも、民族主義政党「フランダースの利益」が2024年の国政選挙で最大政党に躍り出ようとしている。フィンランド、ハンガリー、イタリア、スロバキアではすでに極右勢力が政権を握っており、スウェーデンでも極右政党が少数派政権を支えている。ヨーロッパにおける中道左派が支持を失い、中道右派政党が極右政党のレトリックや、時には政策さえも模倣するようになってきたために、中道の左派政党が右派政党との共有基盤を見いだすのが難しくなっている。

中東を一変させたガザ戦争
―― 混乱をいかに安定と秩序に導くか

2024年1月号

マリア・ファンタッピー イタリア国際問題研究所 アソシエートフェロー
バリ・ナスル ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際関係大学院 教授(国際関係論)

ついに実現しつつあるかにみえた、イスラエルとアラブ世界の関係正常化を中心とするアメリカの中東構想も、イスラエル・ハマス戦争によって根底から覆されてしまった。もはやパレスチナ問題は無視できないし、パレスチナ国家への信頼できる道筋がみえるまでは、アラブ・イスラエル関係の今後を含めて、アメリカがこの地域の他の問題に取り組むのは不可能だろう。さらに、中東を動揺させているテヘランの台頭にも対処しなければならない。このためにも、ワシントンは、イラン、イスラエル、アラブ世界全体と実務的な関係を維持しているサウジとのパートナーシップを、新たな中東ビジョンの基盤に据える必要がある。

ハビエル・ミレイがアルゼンチンを変える?
―― 過激なリーダーシップの可能性とリスク

2024年1月号

ブルーノ・ビネッティ インターアメリカン・ダイアログ 非常勤フェロー

アルゼンチン大統領に就任したハビエル・ミレイは、中央銀行の閉鎖や米ドルを自国通貨として採用するといった極端な公約の多くからは、すでに後退をみせている。それでも、大統領としてのミレイに立ちはだかる課題は非常に大きい。この国が何十年にもわたって陥ってきた衰退と不安定の連鎖を断ち切るには、政権奪取の際にみせた大胆さだけでなく、妥協し、不必要な争いを避け、過去の改革の試みから学ぶ姿勢が必要になるし、経験と知識ある人々を迎え入れなければならない。現実的でありつつも、毅然とし、新しい概念に開放的で、掲げた目的に確信をもっている必要がある。これまでの多くの大統領と同じように、ミレイが失敗すれば、アルゼンチンはこのような改革のチャンスには長期的に巡り会えないかもしれない。

ウクライナ戦争の戦略シフトを
―― 反転攻勢から防衛へ

2024年1月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会名誉会長
チャールズ・クプチャン 米外交問題評議会シニアフェロー

ウクライナにとって、生き残るために「必要な戦争」として始まったものが、いまや、クリミアとウクライナ東部の多くを奪還するための「選択した戦争」に変化している。ウクライナの現在のアプローチはコストが高く、先の見通しも立たない。これは、勝利できない戦争であるだけでなく、時間がたつとともに、ウクライナは欧米の支持を失う危険もある。ウクライナが、ロシアと「停戦交渉」を試み、軍事的な重点を「攻勢から防衛」に切り替えるための戦略シフトをめぐって、ワシントンはキーウそしてヨーロッパのパートナーとの協議を開始する必要があるだろう。外交は戦争だけでなく、長期的にはロシアによる領土の占領を終わらせるための、もっとも現実的な道筋だ

紛争後のガザを誰が統治するのか
―― 紛争から外交への長い道のり

2024年1月号

ヨースト・ヒルターマン 国際危機グループ プログラムディレクター(中東・北アフリカ)

ハマスの軍事能力とガザの統治体制を破壊するという目標だけでなく、イスラエルは、ガザを再占領し、ガザ住民を直接統治することにも行き詰まるだろう。結局、国連その他の人道支援機関が基本的なアメニティーを提供し、ほとんどのガザ住民が避難生活を続けることになると考えられる。ハマスの粉砕を最優先課題としているために、イスラエルは、もっとも必要で価値あるもの、つまり、安全な環境、治安をいかに取り戻すかという目的を見失っている。しかも、イスラエルが2国家解決策を拒否しているために、イスラエルとパレスチナの双方が納得できる交渉による解決を達成するのを阻む、ほほ克服できない課題が存在する。

欧州におけるロシアの第二戦線
―― セルビアとプーチンの思惑

2023年12月号

デイビッド・シェッド 元米国防情報局長官代理
イヴァナ・ストラドナー 民主主義防衛財団 リサーチフェロー

ロシアは、バルカン半島をヨーロッパの弱点とみなし、なかでもセルビアをもっとも脆弱なポイントと捉えている。モスクワをバルカンにおける唯一の信頼される紛争調停者にして、欧米に対して影響力をもてるようにすることがプーチンの狙いだ。すでに、コソボのセルビア系住民が警察部隊を襲撃し、その後、セルビア軍がコソボとの国境地帯に動員されるという事態も起きている。実際、セルビアの指導者は、コソボで作戦を展開する機会がすぐにでも訪れるだろうと考えている。セルビアとコソボの紛争は、バルカンの他の地域に簡単に飛び火しかねず、これこそ、欧米がウクライナから他の場所へ関心を移すことを望んでいるプーチンが期待する展開かもしれない。

AIと経済革命
―― 人間のツールとして生かす政策を

2023年12月号

ジェームズ・マニュイカ グーグル-アルファベット シニアバイスプレジデント
マイケル・スペンス スタンフォード大学 フーバー研究所 シニアフェロー

AIが突きつける危険、それが引き起こす壊滅的なダメージを防ぐための国際的AI規制の必要性を指摘する議論は多い。しかし同様に重要なのは、AIの生産的な利用を促すポジティブな政策の導入だろう。AIが経済に与える最大の影響は、人間の仕事のやり方を変化させることだ。仕事を構成するタスクの一部、全体の30%程度は、AIによってオートメーション化されるが、職業そのものがなくなることはない。但し、能力の高いマシンと協力して仕事をこなすことになるために、新たなスキルが必要になる。現在AIが世界に与える最大のリスクは、文明を破滅させることでも、雇用に大打撃を与えることでもない。それは、現在の経済格差を今後何世代にもわたって拡大するような形で開発され、使われる恐れがあることだ。これを回避する政策が必要になる。

経済安全保障国家と地政学
―― デリスキングとサプライチェーン

2023年12月号

ヘンリー・ファレル ジョンズ・ホプキンス大学 教授(国際関係論)
エイブラハム・ニューマン ジョージタウン大学 教授(政治学)

いまや、消費者向け電子機器が簡単に兵器化され、高性能グラフィックチップが軍事用人工知能のエンジンに転用される時代にある以上、貿易と通商を安全保障から容易に切り離すことはできない。こうして生まれたのが「相互依存世界が作り出す脆弱性を管理するプロセス」としての「デリスキング」だ。経済安全保障の新概念を実践していくには、それに対応していくための政府構造の再編に取り組まなければならない。過去は適切な指標にはならないし、現在の問題は厳格な再評価を必要としている。高度な相互依存状況にあり、安全保障上リスクに満ちた世界にうまく適合していくには、経済安全保障国家の確立に向けた大きな改革が必要になる。

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