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― 北東アジア安全保障に関する論文

防衛力強化に踏み込んだ日本
―― 高まる脅威と日本の新安全保障戦略

2023年2月号

ジェニファー・リンド ダートマス大学准教授(政治学)

新国家安全保障戦略に即して、軍事予算を大幅に増額し、敵への報復攻撃を可能にする「反撃」能力を整備することで、日本は、これまでの路線から大きな転換を遂げようとしている。この路線を軍国主義とみなすのは、もちろん、間違っている。日本は世界をリードする責任ある地球市民国家だし、その安全保障政策は日米同盟をその基盤に据えている。軍国主義に乗り出すどころか、地域的脅威の高まりを前に、日本は大きなためらいの末に対応している。アメリカとそのパートナーからみれば、日本の新国家安全保障戦略は称賛に値する内容だ。巨大な経済・技術資源を有する平和国家が、地域安全保障への貢献を強化しようと動き出したことを意味する。・・・

現状維持を望む台湾市民
―― 統一はもちろん、独立も望まぬ理由

2023年2月号

ネイサン・F・バトー 中央研究院(台湾)政治学研究所副研究員

圧倒的多数の台湾人が、北京に統治されることにはほとんど関心をもっていない。正式な独立宣言を表明したいわけでもない。独立への支持は年々上昇してきたが、半分をゆうに超える人々が「現状の維持」を望んでいる。なぜ統一に人気がないかは明らかだ。中国と統一すれば、台湾は苦労して手に入れてきた政治的自由のほぼすべてを手放さなければならなくなる。台湾は独自の歴史、文化、アイデンティティ、そして民族的プライドをもっている。ほとんどの人にとって、台湾はすでに完全な主権国家であり、中途半端な状態で存在する自治の島ではない。既成事実をあえて正式に宣言して、波風を立てる必要はない。自らの理想と現状との違いは微々たるものであり、争う価値はないと判断している。

対中露二正面作戦に備えよ
―― 新しい世界戦争の本質

2022年12月号

トーマス・G・マンケン 戦略予算評価センター会長

アメリカが東欧と太平洋で二つの戦争に直面すれば、米軍は長期的なコミットメントを強いられる。北京の影響圏が広がっているだけに、対中戦争の舞台が台湾と西太平洋に限定されることはなく、それは、インド洋から米本土までの複数の地域に広がっていくだろう。そのような戦闘で勝利を収めるには、アメリカの国防産業基盤を直ちに拡大・深化させなければならない。部隊をどのように動かすかなど、新しい統合作戦概念も必要になる。(第二次世界大戦期同様に)多数の戦域における戦争という戦略環境のなかで、アメリカの軍事的焦点を、どのタイミングでどこに向かわせるかも考えなければならない。そして、世界レベルでの軍事紛争を勝利に導くには、アメリカにとってその存在が不可欠な同盟諸国との調整と計画をもっと洗練していく必要がある。

強大化した北朝鮮の核の脅威
―― 平壌の核ドクトリンと韓国、東アジア

2022年12月号

スー・ミ・テリー ウィルソンセンター アジアプログラム・ディレクター

金正恩は、2022年9月に、核の「先制使用」ドクトリンを公表した。核兵器で米本土を脅かす力をもっているだけではない。北朝鮮の核は、北東アジアで軍拡競争を引き起こす危険がある。金正恩が突きつける脅威ゆえに、これまであり得ないと考えられていた核保有を求める韓国民衆の声は大きくなっている。だが、この流れが形成されれば、韓国が核開発を試みる前に、北朝鮮が韓国を攻撃するリスクは高くなる。日本も核武装に向かうかもしれない。問題は、北朝鮮の脅威が増大するなか、トランプ政権以降のアメリカの安全保障コミットメントが、かつてほど手堅くはないようにみえることだ。実際、北朝鮮の核攻撃によるアメリカの脆弱性が高まるなか、東アジアの同盟国がアメリカの「核の傘」に依存し続けられるかどうか、はっきりしない状況にある。

米中にとっての台湾の軍事的価値
―― 台湾とフィリピン海そして同盟諸国

2022年8月号

ブレンダン・L・グリーン シンシナティ大学准教授(政治学) ケイトリン・タルマッジ ジョージタウン大学外交大学院 准教授(安全保障研究)

台湾は、日本、フィリピン、韓国を中国の威圧や攻撃から守る上で重要なフィリピン海へのゲートウェイとして、きわめて重要な軍事的価値をもっている。中国にとっても、台湾統一を求める大きな動機はナショナリズムよりも、その軍事的価値にある。実際、北京が台湾を攻略して、そこに軍事インフラを設営し、フィリピン海への影響力を高めれば、中国の軍事的立場は大きく強化され、アジアの同盟国を防衛する米軍の能力は制限される。将来的に北京が静音型の攻撃型原子力潜水艦や弾道ミサイル潜水艦の艦隊を編成し、台湾の基地に配備すれば、北東アジアのシーレーンを脅かし、核戦力も強化できる。ワシントンの対中政策に関するすべてのジレンマが集約される場所であるだけに、台湾は世界でもっとも困難で危険な問題の一つだ。だが困ったことに、そこにあるのは、災いをもたらしかねない悪い選択肢ばかりだ。

日独の自主路線と対米協調のバランス
―― ポストアメリカの協調モデル

2022年8月号

マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会 ディレクター

ロシアのウクライナ侵攻と米中対立の激化は、戦後秩序の現状とパックス・アメリカーナを根底から覆そうとしている。モスクワのウクライナ侵略を前に、ドイツは外交政策を抜本的に見直し、国防費の大幅増額を約束している。中国の覇権主義を警戒する日本も、同じような変貌を遂げようとしているようだ。短期的には、こうした変化は欧米世界の結束、あるいは復活さえも促すかもしれない。しかし、ドイツが新たに自主路線の道を歩み、日本も同様の道を歩めば、対米依存度は低下し、むしろ、近隣諸国との結びつきが大きくなるだろう。このようなシフトは、ヨーロッパとアジアにおける安全保障秩序だけでなく、欧米世界のダイナミクスを大きく変化させる。ベルリンと東京で進行している変化は、ワシントンが戦後に構築し維持してきたものとは異なる、よりバランスのとれた同盟関係が視野に入ってきていることを意味する。・・・

安倍ビジョンと日本の安全保障
―― ナショナリズムと安全保障の間

2022年8月号

ジェニファー・リンド ダートマス大学准教授

リベラル派は、安倍首相(当時)に日本の過去の暗黒部を直視して償うことを求め、保守派は、彼の国の誇りを重視する姿勢、軍事力増強と国際的安全保障活動への参加を強化しようする試みを称賛した。多額の債務を抱え、人口減少によって長期的に不利な経済状況に直面するなかで、日本は今後防衛費を増額させていくことになるだろう。それでも、現状は安倍元首相が掲げたビジョンからはかけ離れているし、実際に彼のビジョンにたどり着けるかどうかも、わからない。現実には、市民も多くの政治家も、中国がますます支配力を強めるアジアで(具体的な対策をとるのではなく)漫然とよい方向に進むことを願っているにすぎない。安倍は、安全保障議論を進めて国を導くことのできる知的枠組みと政治的洞察力を備えた数少ない指導者だった。その死が日本にとって悲劇的な損失であることは誰もが認めている。・・・

強大化する中国の核戦力
―― 変化するパワーバランスと抑止

2022年7月号

アンドリュー・F・クレピネビッチ ハドソン研究所 シニアフェロー

既存の2大核保有国と肩を並べることで、中国は核の三極体制という、きわめて不安定な核システムへのパラダイムシフトを起こしつつある。冷戦期とは違って、核軍拡競争のリスクが高まり、国家が危機に際して核兵器を利用するインセンティブも大きくなる。三つの核大国が競合すれば、二極体制の安定性を高めていた特質の多くが不安定化し、信頼性も低下する。中国がロシア同様に核大国の仲間入りすることをアメリカは阻止できないが、その帰結を緩和するためにできることはある。先ずアメリカは核抑止力を近代化しなければならない。同時に、核のパワーバランスに関する考え方を刷新し、はるかに複雑な戦略環境において抑止力を維持し、核の平和を維持する方法を新たに検証する必要がある。・・・

太平洋の断層線
―― 高まる中国の影響力

2022年7月号

チャールズ・エデル 米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問

2022年4月、ソロモン諸島は「中国との安全保障協定を締結した」と発表し、5月後半には中国の王毅外相が同様の協定を取りつけようと太平洋の他の島嶼国を訪問した。しかも、ソロモン諸島との協定は「社会秩序を維持する」要請を受けた場合、中国は警察や軍を派遣できるとされている。こうした協定は中国軍の影響圏を拡大して、海上交通の要衝へのアクセスを与えることになる。こうして、太平洋諸島はグローバルな地政学的競争に引きずりこまれ、この地域の安全保障が損なわれる恐れがある。アメリカと同盟国は目を覚ますべきだ。北京がこれ以上、太平洋全域に軍事的プレゼンスを拡大するのを阻止するには、従来のアプローチを早急に見直す必要がある。・・・

台湾紛争と核戦争リスク
―― 米中衝突のエスカレーションシナリオ

2022年7月号

ステイシー・L・ペティジョン 新アメリカ安全保障センター  シニアフェロー(防衛プログラム)
ベッカ・ワッサー 新アメリカ安全保障センター  フェロー(防衛プログラム)

北京は「台湾防衛のコストは極めて高く、たとえ北京が台湾に侵攻しても対抗措置をとることは割に合わない」とアメリカおよびその同盟国を納得させたいと考えるはずだ。そのための手段はいくつかあるが、北京にとって、核兵器を持ち出すことがアメリカをこの紛争に介入させないもっとも効果的なやり方だろう。実際、アメリカと同盟国の戦略家は、「台湾をめぐる紛争では、中国は通常戦力と核戦力の全選択肢を検討に入れている」という事実を認識しておかなければならない。アメリカが抑止力を強化して「台湾侵攻に成功できるかもしれないと中国が考えないようにするために」残された時間はなくなりつつある。最大のリスクは、ワシントンとその友好国が、行動を起こすチャンスをあえて見送ってしまうことだ。1―2年後には、もはや手遅れになっているだろう。

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