ミサイル防衛の可能性と限界
2000年1月号
二十一世紀の安全保障戦略のカギは、ミサイル防衛システムである。ミサイル防衛システムとは、基本的に、相手のミサイル発射を探知・追跡する衛星の赤外線センサー、飛来するミサイルを捕捉し迎撃ミサイルを誘導するレーダー、そして迎撃ミサイル本体によって構成される。短距離・中距離ミサイルを迎撃する防衛システムを戦域ミサイル防衛(TMD)と呼び、大陸間弾道弾などによる攻撃からアメリカ本土を防衛するのが米本土ミサイル防衛(NMD)である。TMDシステムの信頼性はすでに確立されており、実際、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)という脅威を近くに抱えるアジアの同盟諸国がTMD導入をとりやめるとはもはや考えにくい。一方、NMDの場合、まだ技術的な課題を伴うために、明確な結論は出ていない。とくにNMD論争に顕著なのは、技術的に可能なことは現実にも可能であるととらえる短絡論に終始する賛成派と、冷戦期の戦略や思考から抜けだせない反対派との議論がかみ合わず、本来の安全保障概念が無視されていることだ。NMDの技術高度化を図っても、それによって米ロ関係などの重要な外交関係が緊張するようでは意味がない。進歩した技術も万能ではなく、高度の防衛システムの配備には外交的悪影響も伴うことを踏まえた冷静な安全保障論争が必要である。
