レビューエッセイ
民族紛争という神話
2003年9月号

紛争をめぐる神話は比較的短期間で形成されることが多く、実際には、紛争が起きた後に文化的神話が人為的に持ち出されることがほとんどだ。
紛争を起こすことに対する自制は、一般にかなり大きく作用している。隣人に対して気が狂ったように立腹しても、武器を取るという事態にまではいたらないことのほうが多い。現実の紛争にいたるのは、通常、絶対に失えないもの(例えば、自分たちの故郷)を防衛しようとする場合で、何か欠けているもの(例えば、先祖が昔もっていた領土)を取り戻そうとして、そのような行為に及ぶことは少ない。