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論文データベース(最新論文順)

レバノン情勢を左右する キープレイヤーたちの思惑はどこに

2010年9月号

モハマド・バッジ 米外交問題評議会非常勤シニア・フェロー

レバノン国際特別法廷で2005年のハリリ(レバノン首相)暗殺事件の判断が近く示されるとの報道を前に、レバノンでは緊張が高まっている。スンニ派の指導者だったハリリ暗殺事件へのシーア派ヒズボラの関与が明らかになれば、国内で宗派間抗争が起き、再びレバノンは内戦へと陥っていくのではないかと懸念されている。ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララは、「特別法廷はハリリ暗殺の実行犯としてヒズボラのメンバー数名を間違って特定しようとしている」と牽制し、逆に、「暗殺の責任はイスラエルにある」と主張している。一方、シリアのバッシャール・アサド大統領は「(第3次レバノン)戦争の可能性が高まっている」と示唆し、その警告がまやかしではないことを示すかのように、8月上旬には、イスラエル軍とレバノン軍は国境地帯で衝突事件を起こしている。今後の展開の鍵を握るレバノン、ヒズボラ、イスラエル、シリア、イラン、サウジというプレイヤーの思惑を軸に、一触即発の情勢にある中東をCFRのモハマド・バッジが分析する。

多文化国家レバノンにおける 軍隊の複雑な歴史
―レバノン軍の南部掌握で国の一体性が生まれるか?

2010年9月号

マイケル・モラン  エグゼクティブ・エディター (www.cfr.org)

1943年の独立以降、レバノン軍・士官部隊の主流派はマロン派キリスト教徒だったが、各部隊は民族・宗派ラインに沿って組織され、シーア派、スンニ派、ドルーズ派、マロン派キリスト教徒がそれぞれの部隊を持っていた。こうした民族・宗派ラインに沿った部隊編成がレバノン内戦を誘発し、助長した。国家の軍隊としてレバノン軍を再編する試みが始められたのは、1989年のタイフ合意によって長い内戦にピリオドが打たれた後になってからだった。タイフ合意以降、レバノンがごく最近まで安定を維持してきたことを国軍の貢献として評価することもできる。しかし、レバノン軍の最大の失敗は、ヒズボラが幅を利かすレバノン南部を掌握できなかったことだ。

平壌という北朝鮮民衆の悪夢

2010年9月号

マーカス・ノーランド ピーターソン国際経済研究所シニア・フェロー

北朝鮮の経済は今後も停滞を続け、人々は食糧不足に苦しみ、2004~2005年以降の反改革路線もおそらくは継続されるだろう。憂鬱な停滞が続くはずだ。平壌は、人々を奈落の底に突き落とすような政策をとりつつも、それでも権力を維持していくだろう。これは北朝鮮の悲劇だ。現在の北朝鮮の体制はとにかく秘密主義だし、民衆を悲惨な目に遭わせるという点では無限大の能力を持っている。・・・だが、北朝鮮に対する金融制裁はそれなりの効果を期待できる。各国の金融機関が自行のイメージが傷つくことを恐れて、北朝鮮との取引を自主的に制限し始めることは過去のケースからも明らかだし、中国政府も金融制裁については、中国の銀行がアメリカ市場へのアクセスを失うことを恐れて、積極的に協力するからだ。今後の鍵を握るのは、制裁とともに、大きな変化をもたらすポテンシャルを秘めている北朝鮮の非公式経済がどうなるかだ。もちろん、北朝鮮政府は、今後も、この国における経済活動の多くを直接的な管理下に置こうと試みるだろう。だが問題は、経済を運営する能力を政府が持っていないこと、人々が食卓に食事を並べるための食糧を提供できないことだ。

食糧・穀物供給危機の再来か
― 異常気象と穀物市場の行方

2010年9月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニア・フェロー

記録破りの猛暑の日差しが、世界の穀倉地帯を焦がしている。異常気象による収穫減を前に、ウクライナやウズベキスタンがロシアと同様に穀物の輸出禁止措置に踏み切れば、すでに先細り気味の世界の穀物収穫量はさらに下方修正を余儀なくされる。インド、スイス、フランスその他のヨーロッパ諸国が大量の穀物備蓄を開始しているという噂もある。サウジアラビアや中国などの諸国は、すでに今後の食糧危機に備えて、アフリカやアジアの貧困諸国で耕作可能な土地を確保しつつあるようだ。現在の穀物市場をめぐる世界の不安を抑えようと賢明に試みている世界農業・食糧機関も、最近の価格高騰が始まる前の2010年6月に憂鬱な予測を示している。それによれば、農産品の供給が十分ではなく、エネルギーコストが増大し、拡大する世界の中産階級層の食の多様化が重なり合うことで、今後10年の穀類、穀物、石油、乳製品価格は、2007年の水準と比べて40%上昇する可能性がある。厄介なことに、小麦その他の穀物の取引トレンドは、食糧危機が起きた2007~2008年のそれに似てきている。穀物の先物取引が急増し、いまや価格は2008年以降、最高水準に達している。

「アフガンにおける成功」の定義は何か
―― このままではアフガン国家は分裂する

2010年9月号

スティーブン・ビドル 米外交問題評議会シニア・フェロー
フォティニ・クリスティア マサチューセッツ工科大学助教授
J・アレクサンダー・サイアー 米平和研究所ディレクター

中央集権体制型の民主主義はアフガンではうまく機能しなかった。このままでいくと、アフガンは分裂し、タリバーンが一部地域を支配し、他の地域は強権者たちがそれぞれ不安定な支配権を確立していくことになるだろう。この流れを覆すことはできるが、もはや中央集権的統治モデルの導入に固執するのは賢明ではない。アフガンの権力構造、地方における正統性への認識からみても、中央集権的統治モデルはアフガンでは機能しない。この国の主要な民族、宗派集団だけでなく、武装勢力の一部も取り込んだ、永続的な平和の枠組みを作るには、より多くのプレイヤーが参加する、柔軟で分権化された政治枠組みが必要だ。アフガンでの成功とは、「理想的な国家」と「受け入れられない国家」の中間に位置する状況へとアフガンの現状を改善していくことであり、そのためには、中央集権モデルではなく分権化モデルへと国家建設のギアを入れ替える必要がある。

民族と腐敗で引き裂かれた国家
―― ケニアの国家統合への長い道のり

2010年9月号

ジョン・ジソンゴ 元ケニア政府統治・道徳(反政治腐敗) 担当事務次官

2003年に発足したケニアのキバキ政権は、学校、道路など経済開発のハードウエアを提供することに成功したが、利権を独占し、国としての一体感や連帯というソフトウェアを育めなかった。指導者が政治腐敗にまみれているケニアは、世界的にみても、もっとも大きな経済格差に苦しみ、民族ラインで社会が分裂し、人口構成がいびつなまでに若年層に偏っている。こうした不幸な現実に対する怒りで煮えたぎっていた大釜が、2007年の大統領選挙の混迷に刺激されて、吹きこぼれ、大規模な社会暴力に国が覆われてしまった。その結果、ケニアはかつて経験したことのない国家的な危機に直面した。この事態を前に国連が介入し、いまは連立政権が曲がりなりにも存在する。だが、この連立政権は、民主主義が機能した結果ではなく、それが失敗した結果を象徴している。必要なのは、人々に国家の構成員としての一体感を植え付けることだ。「犯罪がまん延し、日常化しても、国が現在の問題に飲み込まれて内側から崩壊するようなことはない」と人々が確信できるような力強いビジョンをケニアは必要としている。

ギリシャ危機とユーロの将来
― ギリシャ危機はユーロ衰退の始まりか?

2010年9月号

ロレンゾ・ビニ・スマギ 欧州中央銀行役員

いまや専門家の多くは、ギリシャ金融危機によって、ヨーロッパの制度や単一通貨ユーロを含む、これまでの統合の試みが非常に大きなダメージを受け、今後、統合の流れが途絶える恐れさえあると考えているようだ。だが、そうした見方は時期尚早だろう。通貨同盟であるユーロを含めて、ヨーロッパはいまも統合に向けた改革の途上にある。・・・財政改革路線が経済成長を低下させるだけでなく、政治的にも経済的に持続不可能だと考える者もいるが、一方で、放漫財政を続ければ、金融市場にペナルティを課され、さらに深刻な事態に直面することを考えなければならない。厳格な財政改革を実施しなければ、さらに深刻な事態が待ち受けている。抜本的な財政改革、構造改革なしでは、危機を食い止めることはできない。・・・危機管理のための超国家的な監視・規制メカニズムについても、欧州は主権と統合の間の適切なバランスを今後見極めていくことになるだろう。

2009年秋、ドルは準備通貨の 地位を失いかけた
― 世界はドルを見捨て始めたのか?

2010年9月号

フランシス・E・ウォーノック 全米経済研究所リサーチアソシエート

ドルのダンピングがいつ起こるのかは誰にも分からない。だが、そのような事態になれば、準備通貨保有国における金利の上昇と経済成長の鈍化は避けられなくなる。2009年末には、この潜在的リスクが現実となりかねない局面があった。・・・世界のリスク・フリー資産であるはずの米国債10年物の利回りが上昇し、価格が急落したのだ。一方、世界のユーロ建て国債の購入額からユーロ圏の外国債券への投資額を引いた差額は過去最高レベルに達していた。ユーロへの資金流入に連動してドル相場が下落したために「ついに世界の投資家たちはドルとアメリカを見捨て始めた」という懸念が高まりをみせた。しかし、このタイミングで、ユーロ圏で金融危機(ギリシャ危機)が表面化し始めた。危機のおかげで、アメリカ政府は国内の市場圧力とトリフィンが予測した運命の双方から一時的に逃れることができた。しかし、ドルからの離脱という流れはよどんだだけで、消滅したわけではない。

HIV・エイズ対策優先か、
他の援助との バランスをとるか、それが問題だ

2010年9月号

プリンストン・N・ライマン 元駐ナイジェリア米国大使
スティーブン・B・ウィテルズ 米外交問題評議会(CFR)リサーチフェロー

2005年、G8はアフリカのHIV感染者全員にARV(抗レトロウイルス薬)を投与することにコミットする宣言を発表した。だが、感染者数が犠牲者数を上回る限り、ARV投与が必要になる人々の数は劇的に増えていくし、しかも、ARV投与は一生続けなければならない。これは、主にアフリカにいる数百万人のHIV感染者の生死が、財政赤字に苦しむ先進諸国、とくに米議会が援助予算を認めるかどうかに直接的に左右されるようになることを意味する。HIV対策が他の疾病や開発援助用の予算を奪い取っている部分があるだけに、優先的に扱われるHIV感染者へのアフリカでの反発が高まる危険もある。状況を整理しない限り、優れた人道主義的構想が、予期せぬ問題を招き入れる恐れがある。

Review Essay
世界的水資源不足の時代へ
―― ペットボトル飲料水は何を意味するか

2010年9月号 

ジェームズ・E・ニッカム
国際水資源協会事務局長

数多くの湖や川が消滅しつつあるし、現存する川や湖についても水質が悪化している。地下水資源も濫用や汚染のリスクにさらされている。水資源の危機はいまそこにある脅威だ。問われているのは「誰がどのように」貴重な水資源を利用するかだ。世界で消費される水の70%は農業用水として用いられており、これらが生産的に消費されることはほとんどない。一方、経済機能と人口が都市部に集中し、工業用水と生活用水の需要が増えるにつれて、水の安定供給を求める都市部からの圧力が高まりつつある。一方、河川デルタのエコシステムの維持など、環境保全のために手を付けるべきではない水資源もある。ペットボトルの見直しや処理された下水の再利用という選択肢を含めて、希少な水資源をいかにうまく管理すべきなのか。効率的水資源の管理に向いているのは市場メカニズムなのか、それとも官民の協調なのか。世界の水資源の問題は、人口動態、エネルギー、環境など世界のあらゆる問題と分かち難く結びついていること考慮して、水資源の包括的管理を考えるべきタイミングにある。

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