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論文データベース(最新論文順)

トルコは脱ケマリストの時代へ?

2010年10月号

スティーブン・クック CFR中東担当シニア・フェロー

9月中旬に実施された憲法改正をめぐるトルコの国民投票で、イスラム系の公正発展党(AKP)が示した憲法改正案を市民は支持したが、これは何を意味するのか。1992年にAKPが権力を握り、議会の多数派になると、世俗派が反対するような法案を数多く法制化してきた。こうして野党勢力は世俗派が中枢を握る司法の場で決着を付けようと試み、その結果、AKPが成立させた法案のほとんどに違憲判決が下された。AKPが憲法改正を通じて司法改革に乗り出したのはこうした理由からだ。今回の国民投票に続いて、AKPとエルドアンが次の総選挙でも勝利を収め、議会の多数派としての地位を確保すれば、彼らがかねて望んでいたように、新憲法を導入する機会に恵まれるだろう。ここで認識しておくべき重要なポイントは、こうした変化がイスラムへの回帰というよりも、大きな力を持ち始めているイスラムの中産階級の立場を反映していることだ。むしろ問うべきは、これによってトルコの民主主義の質が高まるかどうかだろう。

聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)

トルコのイスラム政党であるAKPの台頭は、その大義が訴求力を持っているからというよりも、トルコ社会の変化をくみ取ることに成功した結果だ。1980年の市場経済革命のおかげで、トルコにはイスラムの中産階級、起業家階級が誕生しており、いまや、数においても経済における重要性においても、世俗派の旧エリート層を圧倒している。AKPの近代化路線の支持基盤を支えているのが、まさにこのイスラムの中産階級で、彼らのビジョンが今後のトルコの路線を形作っていくことになる。トルコが欧米に貢献できるとすれば、その最大のポイントは、イスラム、民主主義、資本主義を統合できる立場にあることだ。中東およびその周辺地域の流れを巧みに仕切れるような歴史的、文化的なツールを持っていないアメリカにとって、世俗化ではなく、近代化を求める現在のトルコは重要な存在だし、新しい親友になれるだろう。

欧米とアジアの相互依存は成立するか
―― 中国、インド、欧米の相互作用とアジアの未来

2010年10月号

サイモン・タイ シンガポール国際問題研究所(SIIA)理事長

中国とインドを中心とするアジア経済は、このままめざましい成長を続け、欧米世界からは距離をおくようになるのか、それとも、依然としてアジアは欧米を必要としているのか。経済・金融危機が起きるまでは、アジア経済の統合が進めば、アメリカの消費者に頼らずとも、アジア経済は成長を維持できるという立場の「ディカップル論」に合理的な根拠があるようにも思えた。しかし、危機が深刻化するにつれて、アジア経済と欧米経済のディカップルなどあり得ないことが明らかになっていく。アメリカの需要が急速に落ち込むと、アジア全体、特に中国の生産がすぐさま打撃を受けた。だが、アメリカ市場への依存を抑えようとするアジアの取り組みも始まっている。内需を高め、アジアの貯蓄を米国債の購入にばかりあてずにアジアにとどまるようにするための、新しい金融メカニズムの構築が試みられている。流れはどちらへと向かうのか。そして、地域的、そして世界的に経済モデルとして注目されるのは中国経済、インド経済のどちらなのか。

中国の真意はどこに
――人民元、南シナ海、領有権論争

2010年10月号

S・デュナウェイ CFR(国際経済担当)シニアフェロー
E・フェイゲンバーム CFR(東アジア・中央アジア・南アジア担当)シニアフェロー
E・エコノミー CFRアジア研究部長
J・クランジック CFR(東南アジア担当)フェロー
A・シーガル (国家安全保障・対テロ担当)シニアフェロー

人民元の切り上げを一時的に容認しつつも、中国は、それがまるでルールであるかのように、あるいは、アメリカの決意を試すかのように、7月と8月には人民元価格を再び固定(ドルにペグ)させた。今回についても、中国が為替政策を永続的に変化させるかどうかは今後をみなければ分からない(S・デュナウェイ)

領有権問題に限らず、中国外交は他のいかなるものよりも主権を優先させる。だが国際社会の責任ある利害共有者であれば、主権とそうした主権の主張が関わってくる国際公共財を明確に区別することはできないはずだ。(E・フェイゲンバーム)

二国間関係の上昇局面と下降局面の急激な変化サイクルを永続的に繰り返す。これが新しい関係の形なのかもしれない。少なくとも、アメリカも中国も関係が制御不能に陥っていくことは望んでいない。米中が合意できるのはこれだけかもしれないが、当面は、これで満足するしかないだろう(E・エコノミー)

中国は領有権論争のある南シナ海(のパラセル諸島、スプラトリー諸島)をめぐって東南アジア諸国と対立したのに続いて、今度は東シナ海をめぐって日本とも対立した。この数ヶ月で中国は10年をかけて育んできた近隣諸国における中国への好感情を一気に破壊するような行動をとっている。一体中国は何を考えているのか。(J・クランジック)

現在の流れは2012年の中国に新指導層が誕生することと密接に関連している。将来の指導者たちは、他の世界に対して中国が毅然と接していくことを示すことで、自分たちの立場を示しておきたいと考えている。(A・シーガル)

より現実をうまく反映できるように世界秩序を再編し、グローバルな統治構造の中枢に新興大国を迎え入れる必要がある。こうみなす点では世界的なコンセンサスが形作られつつある。経済的には必然の流れかもしれない。だが、それは世界の人権と民主主義にとって本当にいいことだろうか。金融や貿易領域では、新興大国がグローバルな交渉に参加するのは当然だろう。しかし今のところ、人権や民主主義をめぐる新興国の政治的価値は、国際社会の主要なプレーヤーおよびそのパートナーが信じてきた価値とはあまりにもかけ離れており、世界の統治評議会を構成する国際機関の中枢に新興大国を参加させるのは考えものだ。新興大国は世界で有意義な役割を果たすのに必要な条件、つまり、内外の市民社会の声に耳を傾け、民主的統治を受け入れるつもりがあるのか、もっと真剣に考えるべきだし、既存の大国の側も、そのような新興大国をあえて仲間に迎え入れることを本当に望むのか、もう一度考えるべきだろう。

ペンタゴンの新サイバー戦略
―― なぜアメリカはサイバー軍を立ち上げたか

2010年10月号

ウィリアム・J・リン三世 米国防副長官

いまやアメリカ政府のデジタル・インフラは、あらゆる敵対勢力に対する圧倒的な優位を確立している。だが、その優位がコンピュータ・ネットワークに依存しているために、一方で脆弱性からも逃れられない。相手に攻撃の意図さえあれば、わずか数十人のコンピュータ・プログラマー集団でも、アメリカのグローバルな後方支援ネットワークに脅威を与え、作戦計画を盗み出し、情報収集能力を攪乱し、兵器の輸送を妨害できる。このポテンシャルを理解している諸外国の軍部はサイバースペースでの攻撃能力を整備しており、100を越える外国情報機関がアメリカのネットワークへの侵入を試みている。なかにはアメリカの情報インフラの一部を混乱させる能力をすでに獲得している外国政府機関もある。・・・アメリカは新たにサイバー軍を創設し、各軍を横断的に網羅するサイバー防衛作戦を立ち上げ、・・・国土安全保障省と協同で政府ネットワークと重要インフラの防衛体制を構築していく。これは、友好関係にある同盟国とも連携してサイバー防衛体制を国際的に広げていく構想だ。

ロシアの「内なる外国」北カフカスの混迷
―― 終わりなきロシアの内戦

2010年10月号

チャールズ・キング ジョージタウン大学教授(国際関係論)
ラジャン・メノン リーハイ大学教授(国際関係論)

ロシアにおける政治暴力の震源地帯、北カフカス。この地域の混迷にどう対処していくべきか、モスクワは頭を悩ませている。攻撃と報復の連鎖が止まないのは、この地域に流れ込んでいるイスラム過激派のせいなのか、ナショナリズムの高揚が過激な行動を誘発しているのか、それとも、北カフカスの人々がロシアに対して抱く反発が原因なのか。だが、北カフカスをめぐる問題の中枢は、ロシア連邦内でのこの地域の共和国の位置づけられ方にある。北カフカスにおけるテロを一定レベルに抑え込もうとしつつも、モスクワは、この地域で治安と安定を確立できなくても、ロシア人の多くが惨劇に巻き込まれなければ、政治的ダメージは最低限に抑え込めると計算している。現地の展開は現地に委ね、ロシアの有権者がカフカス問題を忘れてくれることを願うこと。これが、モスクワの現在の戦略だ。ロシア政府が現地に代理人、総督を送り込み、力による秩序維持路線をとり続ける限り、この地域は、ツァーリ時代のような「厄介でエキゾチックな帝国の周辺地域」へと回帰していくことになる。

CFRミーティング
財政赤字へのリスク認識が変化しない限り、資金は動かない
――アラン・グリーンスパンとの対話

2010年10月号

スピーカー
アラン・グリーンスパン 前FRB議長
プレサイダー
モティマー・ザッカーマン U・S・ニュース&ワールドリポート理事長

雇用は伸びていないが、企業収益は大幅に改善している。これは生産性の上昇によって単位あたり生産コストが減少していることで説明できる。だが、それが、固定資産投資へとつながっていない。私の試算では4000億ドルの投資が手控えられている。・・・・中央銀行が大規模な資金を金融システムに注入するが、そこから資金が動こうとしない。ケインズは、1936年にこの現象を「流動性の罠」という言葉で表現した。この現象は、アメリカだけでなく、他の先進国にも共通してみられる。リスクに対する心理や姿勢が変化しない限り、資金は動かないだろう。・・・大規模な財政赤字が資本投資をクラウドアウトしている。財政赤字の規模が、資本投資のレベル、特に、固定投資、非流動性資産への投資を左右している(抑え込んでいる)。・・・・日本問題も考えなければならない。いずれ、経常黒字は赤字へと転じ、日本は国際市場から資金を調達しなければならなくなる。・・・

GDPは万能ではない
だが、代替経済指標はあるのか?

2010年10月号

ロヤ・ウォルバーソン
CFR.org Staff Writer

政府は予算を決めるために、中央銀行は金融政策の決定に、金融機関は経済活動を判断するために、そして企業は今後の経済を予測して、生産、投資、雇用の概要を決めるために国内総生産(GDP)を主要な指標として用いてきた。第二次世界大戦後に銀行の取り付け騒ぎ、金融パニック、恐慌が起きる頻度が減少したのは、包括的で正確な経済データがタイミングよくGDPとして提供されるようになったことが一つの理由だ。しかし、GDPでは、経済活動が環境の持続可能性に与える影響などの長期的要因は考慮されないし、所得格差もカウントされない。したがって、GDP成長ばかりを追い求めれば、環境悪化、所得格差の問題が深刻化する可能性があるし、GDPが増大するだけでは、必ずしも人々の幸福感は高まらないとする理論も登場している。GDPは万能ではない。だがGDPをいかに改善すべきか、あるいは、他のアプローチに置き換えるかについて、エコノミストの間にコンセンサスはない。

ワシントンが中東和平プロセスを前進させたいのなら、まず、いかようにも交渉を混乱させる手立てをもつハマスの問題に取り組む必要がある。イスラエルの安全保障を脅かし、パレスチナの政治を左右するという点では、ハマスは実に数多くの選択肢を持っている。したがって、ガザ包囲網を緩和させ、ハマスとの停戦合意の制度化を交渉しない限り、中東和平プロセスはいずれ破綻し、再び戦争が起きて、イスラエルはガザを占領せざるを得なくなる。このジレンマを解く上で注目すべきは、いまやハマスはガザをうまく統治しなければならず、ガザ住民の生活に対して責任を負っていることだ。つまり、ハマスはもう単なる抵抗組織として活動するわけにはいかないのだ。ハマスがイスラエルとの停戦合意の制度化交渉に応じれば、今後、ファタハによるイスラエル交渉路線にも反対できなくなる。ハマスとの交渉は、この意味において、イスラエルとの交渉を成功させることで得られる政治的正統性を必要としているファタハにとっても政治的追い風を作りだす。

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