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論文データベース(最新論文順)

中東では多くの若者たちが、教育を受けたにもかかわらず、まともな職に就けずにおり、現状に大きな不満を抱いている。これが今起きていることの根底にある問題だ。だが、人口構成に占める若者の人口が突出して多い「ユースバルジ」が問題をさらに深刻にしている。歴史的にも、青年人口が突出して多い国では社会的混乱が頻発することが多い。混乱は平和的なものにも破壊的なものにもなる。チュニジアやエジプトでの抗議行動が概して平和的なものだったのは幸運だった。両国の場合、欧米が民主化への移行を支援すれば、ユースバルジを社会の責任あるメンバーとして取り込み、長期的には非常に建設的な未来展望が開けてくるかもしれない。だが、政治体制が非常に脆く、社会が分裂している国では、ユースバルジが社会紛争を長期化させ、国を破綻国家へと向かわせるリスクもある。実際、イエメンはそうなるリスクがあるし、パレスチナもそのリスクを抱えている。

暗闇では銃を発射できないように、世界がどのように機能するかについてのビジョンなしに、政策を決めることはできない。だからこそ、現実主義者は、この世にいない経済学者か、政治理論家の奴隷となるしかない。政策決定者が、世界を間違った方向ではなく、正しい方向へと動かす可能性を高めるような、情報と知識に裏付けられた思想的な基盤とビジョンをわれわれは常に必要としている。冷戦末期以降、『文明の衝突』、『歴史の終わり』、『大国政治の悲劇」』という三つの壮大なビジョンが表明された。ベルリンの壁が崩壊した段階ではフクヤマは真実の鐘をならし、9・11以降の世界政治についてはハンチントンの予測は現実を言い当てていた。中国パワーが今後開花していけば、ミアシャイマーも現実を言い当てることになるのかもしれない。だが、ハンチントン、フクヤマ、ミアシャイマーは未来の何を言い当てて、どこを読み誤ったのか。それを理解することが、世界が必要とする第4のビジョンを描く鍵となる。

現在の原油価格高騰がいわゆる「ノーマルな状態」へ戻っていくと考えるのは正確ではない。「現在は一時的なショック状態にあるだけで、かつての状況に戻っていく」と考えるのは間違っている。危機前の状況へと戻っていくことはあり得ない。・・・さらに、マクロ経済の分析ではとかく景気循環が前提にされる傾向があるが、世界経済の構造と性格が着実に変化していることに目を向けるべきだ。・・・(今後、先進国は)貿易財部門、雇用に関して長期的に大がかりな変化を経験していくことになる。いずれ経済成長路線に立ち返るだろうが、雇用(失業)問題が残存することになる。教育、・・・税制度、投資インセンティブ、公的資源を用いた投資と技術開発を見直していく必要がある。

カダフィ後に何が起き、誰が台頭してくるのか

フレデリック・ウェレイ ランドコーポレーション、シニアポリシーアナリスト

チュニジア、エジプトで民衆蜂起がおきると、1969年のクーデターでカダフィを支持した軍高官の一部でさえ、ポストを解任された。カダフィは、彼らが反体制運動を主導することを懸念した。いまや軍は分裂し、トリポリにはカダフィの息子たちが統率する「ダイハード」部隊がいる。カダフィがリビアを去っても、リビアの解放を求める勢力と、最後まで戦いをやめないカダフィ体制の「ダイハード」たちの間で抗争が続くことになるだろう。結局、今後のリビアをまとめられるのは、リビア解放を求める旧リビア軍の部隊しかいない。さらに行く手には、トリポリとキレナイカの対立、大きすぎる部族パワー、民族的不満をいかに制御していくかという難題が控えている。もっとも重要なのは、リビアの軍と部隊が、特定の指導者、部族や地域ではなく、組織に対して忠誠とアイデンティティを持つようにすることだ。

Review Essay
富める者はますます豊かに
―― アメリカにおける政治・経済の忌まわしい現実

2011年3月号

ロバート・C・リーバーマン コロンビア大学教授

富裕層の一部に驚くほど富が集中しているのは、市場経済とグローバル化の結果であるとこれまで考えられてきた。だが、実際には、格差の拡大には政治が大きな役割を果たしている。富裕層を優遇する政策だけでなく、アメリカの多元主義的政治システムにおいて、資金力にものをいわせる保守派が大きな影響力と権限をもつようになり、中産階級の利益代弁機能を抑え込んでしまっている。この流れの起源は、意外にも、アメリカのリベラリズムがピークを迎えた時期とされる1960年代にある。この時期に、自分たちの社会的影響力が地に落ちたことを痛感した企業エリートたちは、保守の立場からイデオロギー、政治、組織の領域でカウンターレボリューションを進めていった。・・・

アイゼンハワーの警告から半世紀、 アメリカの「軍産・技術・議会」複合体の現状

2011年2月号

レスリー・ゲルブ 米外交問題評議会名誉会長

1961年1月17日、アイゼンハワーは大統領退任演説で、「軍産複合体」の存在とその高まる影響力を抑え込なければならないと警告した。だが、実際には、「軍部と軍需産業だけでなく、技術、議会の利益が結びついており」、その結果、国防予算は肥大化し、アイゼンハワーの警告以降、その影響力はますます大きくなっていると、レスリー・ゲルブ外交問題評議会名誉会長は言う。アイゼンハワーの軍産複合体の警告に昨年言及したロバート・ゲーツ長官は、今年に入って、「今後5年間で国防予算を780億ドル削減する」と表明した。だが、ゲルブは現実に国防予算が削減されるかどうか、はっきりしないとみる。予算をもっと経済領域に投入すべきだと主張するゲルブは、オバマ大統領は「民主主義と経済の競争力を維持し、世界におけるアメリカの安全保障を維持していくには」経済を再生し、雇用を作り出すことが不可欠であることを、もっとも世論に強く訴えるべきだと語った。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティングエディター)

アメリカ軍国主義批判
―― 非介入主義外交への転換を

2011年2月号

ウィリアム・パフ コラムニスト

アメリカが第二次世界大戦後に市民兵を大規模な職業軍人による軍隊に置き換えたことのもっとも重要な帰結は、市民に直接的に説明責任を負わない国家パワーの手段を作り出してしまったことだ。軍隊は国家パワーの手段として扱われ、しかも、米軍はそれまで許されなかった手段さえ用いるようになった。いまや、ペンタゴンに対してだけ説明責任を負う、職業軍人による部隊とそれを支えるほぼ同規模の民間人の傭兵(予備役部隊)が、数十年前にアイゼンハワー大統領が警告した軍産複合体を支え、肥大化させている。国防・安全保障産業はいまやアメリカの製造業におけるもっとも重要な地位を占めているし、軍需産業の利益団体がいまや議会だけでなく、経験不足の政権さえも支配している。「アメリカは現在のプロイセンたる軍事国家だ」と述べても、事実を過度に誇張することにはならないだろう。

CFRインタビュー
高齢化問題のもう一つのとらえ方

2011年2月号

マイケル・W・ホーディン CFR人口問題担当非常勤フェロー

2045年には、先進国だけでなく、世界的にみても、60歳を超える高齢者の数が子供の数を上回るようになると考えられている。先進国の一部では、高齢社会に向けた流れが10年ほど前から急速に加速している。CFRの人口問題の専門家、マイケル・W・ホーディンは、「21世紀は出生率の低下と平均寿命の延びに特徴づけられることになるが、各国はこのトレンドにまだ政策的に対応していない」と指摘する。同氏は、アルツハイマーなど、高齢化とともに発症率が高くなり、多くの社会コストをともなう病気への医療対策をとるとともに、健康な高齢者が、これまでの労働年齢を超えて働けるように、教育、スキルその他の環境整備を行う必要があると指摘する。実際、「このまま社会政策、社会保障政策、医療政策を見直さずに、10~20年後にどのような事態に直面するかを考えれば、現在、われわれが直面している債務と赤字など取るに足らぬ問題」なのかもしれないと同氏は語った。
聞き手は、デボラ・ジェローム(Deputy Editor, www.cfr.org)

世界は日本経済の経験から何を学ぶべきか
――量的緩和とバランスシート不況

2011年2月号

ジェームズ・D・グラント
グラント金利オブザーバー オーナー兼編集長
リチャード・C・クー
野村総合研究所チーフ・エコノミスト
ロナルド・テンプル
ラザード・アセット・マネジメント 投資責任者兼ポートフォリオ・マネジャー

中国政府は日本の経験から教訓を得て、2008年11月に4兆人民元もの大規模な財政出動を実施した。・・・その結果、中国経済は「バランスシート不況」に向かっていたにもかかわらず、息を吹き返した。その後も中国は不況脱出の鍵となる財政出動を続け、現在の高度経済成長へと結びつけた。・・・(もっとも)中国は独裁国家であるがゆえに財政出動を維持できた・・・(R・クー)

現在のわれわれの課題は、いまユーロ圏で起きているように国債市場から強制される前に、管理可能なやり方で自ら債務を減らしていくことだ。(R・テンプル)

連邦準備制度は・・・危険で有害な存在になっている。・・・いまや連邦準備制度は、株、債券、モーゲージの価格をつり上げることによって生活水準を向上させようとする新たな試みを始めた。なぜそんなことにまで手を出すのだろうか。そのようなことをすれば、予期せぬ結果に直面する・・・(J・グラント)

インターネットのジレンマ
――セキュリティと相互運用性をいかに両立させるか

2011年2月号

ロバート・ネイク 
米外交問題評議会国際関係フェロー

世界に一つしか存在しない相互運用性のあるネットワークであるインターネットは、世界の経済成長を大きく促し、文化的な境界、国境線を越えてビジネスと思想を共有することを実現し、各国を結びつけてきた。だが、サイバー犯罪やサイバー空間の軍事化が、個々のネットワークだけでなく、インターネットの相互運用性と相互接続性そのものを脅かしている。現状を放置すれば、相互接続空間は、国が管理し、厳格な監督下に置かれる国別の閉鎖的なインターネットへと分断されていく危険がある。したがって、サイバー攻撃を阻止し、サイバー犯罪を防ぎ、国家アクターによる悪意のある活動を制御できるような国際メカニズムを新たに考案する必要があるが、インターネットを支えるプロトコルをもっと安全にするための再設計に投資するとともに、その試みが、インターネットに由来する開放的価値を温存・拡大するように十分に配慮しなければならない。

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