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論文データベース(最新論文順)

CFR Interview
出口のないシリア紛争
――何がバッシャール・アサドを変えたのか

2012年10月号 

デビッド・W・レッシュ トリニティ大学教授(中東史)

政府側にも反政府勢力側にも相手に屈服する意図はなく、双方とも長期戦を覚悟している。加えて、ともに相手に致命的な打撃を与える力を持っていない。このために、シリア紛争は明確に定義できる戦線の存在しない内戦と化している。・・・しかも、反政府勢力が一枚岩でないために、政府が掌握していない地域が軍閥に支配されたり、特定勢力の拠点にされたりしていく危険もある。外部勢力の介入によってこの均衡が崩れない限り、この状況が変化することは当面あり得ないし、現状では外部勢力の介入があるとは想定できない。・・・介入しても、より大きなダメージと混乱、そして不安定化がもたらされるだけだろう。最終的には不可能になるかもしれないが、レバノン、イラクその他へと紛争が飛び火しないように、あるいは、イスラエルやトルコは引きずり込まれないように、誰もがシリア紛争を国境内に封じ込めようと試みている。

米国債の最大の引き受け手でもある中国とアメリカの複雑な政治・経済関係を、バラク・オバマもミット・ロムニーも11月の大統領選挙の大きな争点の一つに据えている。米中関係はグローバル・インバランスに象徴される米中関係の不均衡に加えて、中国による為替操作、不公正な貿易慣行によって、いまやアメリカ国内では感情的な政治問題と化している。一方で、中国が南シナ海や東シナ海の領有権問題をめぐって、攻撃的な外交路線に転じているという問題もある。オバマ政権は、これまで中国の貿易慣行上の問題については、WTO(世界貿易機関)に提訴する路線をとる一方で、中国の台頭に対するバランスを形成しようとアメリカのアジアにおける外交的、軍事的プレゼンスを強化する「アジアシフト」路線をとってきた。だが、ミット・ロムニー候補は、オバマ政権は中国に対して手ぬるすぎたと批判し、とくに人民元の切り上げや貿易問題をめぐってもっと強硬策をとるべきだと主張している。ロムニーは、就任後直ちに、中国の為替操作問題への対策をとると表明し、アジア・太平洋地域でのアメリカの軍事プレゼンスを強化していくと表明している。

慎重なミャンマー投資を
―― 急成長の弊害に目を向けよ

2012年9月号

ブライアン・P・クレイン 前米通商代表部東南アジア担当ディレクター

コカコーラ、GE、石油企業、天然ガス企業はすでにミャンマーへの進出に強い関心を示し、すでに2011年には、中国、香港、タイを中心とする諸国が、約200億ドル規模のミャンマー投資を行っている。大きな人口と豊かな資源、そして資本流入の増大によって、いまやミャンマーは、経済ルネッサンスに必要な環境を手にしつつある。だが、急速な開放政策は大きな富をもたらすだけでなく、社会を不安定化させる。ミャンマーは「急成長」と「バランスのとれた成長」の岐路にさしかかっている。指導者たちは短期的な富を模索するのではなく、力強い中間層を育んでいくやり方を選択すべきだろう。必要なのは、国全体の必要性をバランス良く満たし、広範な経済成長を実現するのに不可欠な司法、徴税、国境管理、情報公開をささえる制度を構築することだ。制度を構築して民主的な体制を整備していかない限り、これまで同様に、恩恵のすべてを権力者が横取りし、民衆は放置されることになる。

北京はアメリカと世界をどうみているか

2012年9月号

アンドリュー・J・ネーサン コロンビア大学教授 / アンドリュー・スコベル ランド研究所 シニア・ポリティカルサイエンティスト

「アメリカの行動には裏がある。アメリカは、中国がアメリカに挑戦できるほど強大化するのを阻止する意図をもっている」。中国の軍や安全保障組織の分析官たちは「ワシントンは自分の条件での協調を望み、北京が自国の利益を守るのに必要な軍事能力を整備するのを牽制し、中国の政治体制の変革を促進することを意図している」とみている。彼らは「アメリカは中国の政治的影響力と中国の利益を抑え込むリビジョニスト国家だ」と本気で考え、「軍事的に対米対抗路線をとるべきだ」と主張する者もいる。とはいえ、長期的にみれば中国と欧米の双方にとってのより優れた代替策は、現行の世界システムを維持するために中国がこれまでよりも大きな役割を担う、新しい力の均衡を作り上げることだろう。中国が世界最大の経済国家になっても、その繁栄は、日本とアメリカを含む、グローバルなライバル国家の繁栄に左右される。ライバルが繁栄しない限り、中国も先には進めないのだから。

強大化する中国への対抗策を

2012年9月号

アーロン・フリードバーグ プリンストン大学教授

米中が今日まで真の和解を達成できていないのは、努力が足りなかったからではない。根本的に米中の利害認識が異なるからだ。米中が安定した行動様式を維持しようにも、イデオロギーギャップと相互不信があまりに大きすぎる。アメリカの働きかけにもかかわらず、中国は現状維持を受け入れるどころか、近隣海域の資源を手に入れようと強硬な対外路線をとっている。だが対抗バランスを形成するとしても、中国が軍事力の増強を続ける一方で、アメリカは軍事予算を削減せざるを得ない状況にある。こうして、東アジアの地域バランスは、急速に中国に有利なものへと変化しつつある。中国は「接近阻止・領域拒否(A2AD)」と呼ばれる軍事能力の整備に力を入れ、これらの兵器で西太平洋におけるすべての空軍基地と港をターゲットにし、米軍の空母を含む戦艦を威嚇することもできる。北京は地域的覇権の確立を思い描いている。

債務ブレーキとドイツ経済のジレンマ
―― 国内投資か債務削減か

2012年9月号

アダム・トーズ イェール大学歴史学教授

ドイツ経済はどうみても持続可能な状況にはない。民間投資の多くは外国へと向かい、国内投資はかつてなく低調だ。しかも、憲法に連邦政府と州政府の双方に均衡予算の維持を求める条項が付け加えられたことで、政府による借入が事実上できなくなっている。教育、エネルギー、育児など公的投資を必要としているセクターが数多くあるにも関わらず、政府は既存のプログラムを打ち切ることで、投資資金を捻出し、あとは、民間投資の活性化に期待するしかない状態にある。持続的な財政のためには、「肥大化する支出を抑える政策」、そして一方での「成長戦略」が必要だ。財政赤字に苦しむドイツの州、そして危機によって追い込まれているヨーロッパ諸国が成長戦略も必要としていることをメルケルは忘れている。ベルリンは国債で資金を借り入れ、それを投資に用いるかつてないチャンスを手にしている。だがこのままでは、ベルリンはそのチャンスを見過ごすことになりかねない。

日本の電力危機とアジア・スーパーグリッド構想

2012年9月号

田中伸男 日本エネルギー経済研究所 特別顧問

石油が安価で供給が安定し、世界経済の繁栄を支えた時代はすでに終わっており、将来のエネルギー安全保障のためには多様なエネルギーミックスが必要である。石油以外にも、天然ガス、原子力、石炭、再生可能エネルギーで電力を生産できる。特に、天然ガスによる発電はゲームチェンジャーとみなされている。だが、原発が稼働停止に追い込まれている日本にとって、原子力発電所を再稼働できなければ、毎年400-500億ドルの資金を投入して石油や天然ガスを調達しなければならなくなる。これは、日本の経常黒字の半分が石油や天然ガスの輸入によって消し飛ぶことを意味する。事故の教訓を踏まえて安全対策を強化した原子力を日本のエネルギーミックスの一部として当面維持していくことを選択肢から排除すべきではないだろう。一方で、ロシアの天然ガス資源を基盤に、アジア地域の経済成長と安定にとって不可欠なエネルギーアクセスを確保するための多国間協調枠組を形作っていく必要がある。

韓国市民の多くは、(竹島訪問という)李明博大統領の行動に大きな意義を見出したかもしれない。だが、彼が国家安全保障問題や世界における韓国の役割というアジェンダをめぐってこれまでスケールの大きな発言と行動をみせてきただけに、今回の行動には大きな違和感を覚えざるを得ない。竹島を訪問し、日本は歴史問題を含めて大国にふさわしい行動を取るべきだと示唆する発言をしたことで、李明博は韓国の地域的、グローバルな利益を犠牲にして、竹島という特定の限られた問題に不当なまでに大きな政治資源を注ぎ込んでしまった。しかも日韓両国の国益が収斂しつつあるタイミングで、トレンドにそぐわない国際環境を作りだしてしまった。李大統領の竹島訪問で(悪しき)先例が作られてしまったとはいえ、韓国の次期大統領が大きなビジョンを示してくれることを期待したい。そうすれば、日本の指導者も大所高所からの判断ができるようになる。

CFR Interview
リビアとエジプトにみる革命後の社会暴力
――反米主義の台頭か

2012年9月号 

ロバート・ダニン 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

アメリカの在外公館襲撃事件に対するリビア政府とエジプト政府の事件への対応の違いに注目すべきだ。リビアの米領事館がロケット弾で攻撃され、大使を含むアメリカ人4人が犠牲になった。リビア政府は直ちに攻撃が起きたことを謝罪し、犠牲者がでたことへの悼みを共有しているとワシントンに伝え、犯人に対する怒りを表明した。対照的に、エジプト政府は、襲撃事件には触れずに、イスラム世界を侮辱したフィルムについてアメリカに謝罪を求め、金曜には全国レベルのデモを計画している。アメリカで制作されたフィルムが批判されても仕方のない内容だとしても、エジプト政府は率先して反米デモを呼びかける立場にはない。・・・国の定義の一つは、武力を独占していることだが、リビアを含めて、中東諸国の多くではそうではないことが事件の背景にある。シリアにしても、アサドが姿を消しても、非常に厄介な事態が待ち受けている。イラク、レバノン、パレスチナ、イエメンにも同じことが言える。紛争後の社会における武器の氾濫が作り出す問題が中東を覆い尽くしつつある。

CFR Update
アメリカは天然ガス輸出を認めるべきか?

2012年9月号

マイケル・レビ 米外交問題評議会エネルギー担当シニア・フェロー

(日本の電力会社は相対的に安いアメリカの天然ガスを輸入しようと試みているが、米企業が天然ガスを含む特定資源を輸出するには、米エネルギー省がそうした資源輸出が「アメリカの国益に合致するかどうか」の判断を先ず示す必要がある)。これをきっかけに、アメリカの天然ガス資源の輸出を認めるべきか、いなかをめぐって論争が起きている。私は数週間前に(ニューヨークタイムズ紙で)天然ガスの輸出を認めることを提言し、その根拠を示した。(中国のレアアース輸出制限に反対しておきながら、自国の資源の輸出制限をするのではつじつまが合わないし、自由貿易協定を結んでいるカナダやメキシコを裏切ることになる。さらに輸出をみとめれば、日本との貿易交渉で日本企業が望む天然ガス輸出を交渉ツールとして用いることもできる)。だが、輸出を禁止し、米国内で天然ガスを消費するべきだと考える人もいる。例えば、T・ブーン・ピケンズは「クリーンで安価で豊かに存在する国内の天然資源を輸出し、汚染度が高く、より高価なOPECの石油を輸入し続けるとすれば、われわれはもっとも愚かな世代として記憶されることになる」と指摘している。・・・

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