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論文データベース(最新論文順)

漂流するアメリカ政治
―― 共和党穏健派の衰退と党派対立

2012年5月号

ライハン・サレーム 米シンクタンクe21政策アドバイザー

「ドグマ的、イデオロギー的な政党は、国の政治的・社会的な基本構造を破壊する恐れがある・・・イデオロギーに凝り固まった政策を掲げる政党は政府を行き詰らせて危機に陥れる」。右寄りへシフトした共和党を嘆いて、ミット・ロムニーの父で共和党穏健派だったジョージ・ロムニーはかつてこう警告した。そのドクマ的な保守主義を、自分の息子が受け入れ、アメリカ政治が極端な党派対立に陥っている現状を父ロムニーはどう思うだろうか。かつては豊かな発想力をもつ共和党穏健派が、共和党と民主党の妥協点を見出す役割を果たしてきた。だが、穏健派の消失とともに、その機能を現在の共和党は失っている。穏健派を失った共和党は「筋肉質の体はあっても頭を持たない」存在と化した。共和党保守政権は、有権者の費用負担を「小さな政府」レベルに抑える一方で、「大きな政府」を運営し、結局、財政破綻を招き入れてしまった。

中国発サイバー攻撃とサイバーセフトに どう対処するか

2012年4月号

アダム・シーガル    米外交問題評議会シニアフェロー

サイバー攻撃やそれに準じた行動によって、企業と政府は貴重な知的財産や重要な軍事機密を盗み出されている。米政府は最近まで、サイバー攻撃の黒幕を名指しすることをためらってきたが、ほとんどの専門家は、これらの攻撃の多くは中国からのものだと考えている。情報機関はアメリカを対象とする攻撃の一部については、それが誰の仕業によるものかすでに突き止めており、アメリカは特定のコンピューター、個人、金融データを攻撃のターゲットにできる状態にある。すでにサイバー空間における攻撃作戦の実施を民間企業に依頼しているかもしれない。中国政府に外交ルートで対処を求めても、米中ではインターネットへの概念がまったく違うだけに、効果があるとは考えにくい。現状では、中国人ハッカーたちの攻撃のコストを上昇させるとともに、自国のネットワークセキュリティーを向上させるしか手はない。

なぜ世界銀行は依然として必要か
―― 変化する世界と変貌する多国間組織

2012年4月号

ロバート・B・ゼーリック    世界銀行グループ総裁

世界銀行を含む、国際機関はそのプロセスと議論にばかりエネルギーを奪われ、重要な活動効率をないがしろにしてしまうことが多い。とかくイニシアティブが抑え込まれがちな世界銀行のような多国間組織にとって、結果を重視する現実主義を持つこと、特に、結果を出すことのコミットメントを示すことが重要だ。結果を出すことで、組織としての士気が高まり、財的支援を確保できるようになり、説明責任と正統性も強化される。この5年間にわたって私が試みた世界銀行近代化の試みは、より大きな多国間主義を近代化する試みの一部だった。世界銀行の活動目的を「援助を超えた領域」へと引き上げ、「途上国の依存状況を克服すること」へと設定し直す必要がある。世界各国は現在の経済危機を克服して、「援助を越えた世界」を実現するための基盤を築く必要があり、この点からみても、世界は依然として世界銀行を必要としている。

CFR Interview
北朝鮮の衛星発射実験後、何が起きるか
――2009年の悪夢の再現か

2012年4月

スコット・スナイダー /米外交問題評議会シニア・フェロー (朝鮮半島問題担当)

国際社会が北朝鮮の衛星発射実験を懸念しているのは、衛星打ち上げに必要な技術を大陸間弾道ミサイルにも応用できるからだ。この技術を洗練していけば、核ミサイル能力も強化される。衛星実験は既定路線であるだけでなく、現在、権力移行期という政治的に微妙な時期にあるために、実験を取りやめるとは考えにくい。要するに、ピョンヤンは国内のリーダーシップ強化に必要なことが、国際的にはネガティブにとらえられてしまうというジレンマに直面しており、この意味で、国際社会で譲歩を示せば、国内政治面ではマイナスに作用する・・・今後何が起きるかを考えるには、2009年の展開を思い起こすべきだ。北朝鮮の衛星発射は国連で問題として取り上げられ、なんらかの声明か決議が採択され、北朝鮮はこれに否定的に反応する。その後、核実験を試みた。これが3年前に起きたことだ。

イラクはなぜシリアを擁護しているのか
――「イラン化するイラク」に苛立つスンニ派アラブ諸国

2012年4月号

モハマド・バッジ 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー(非常勤)

スンニ派湾岸諸国は、イラクのマリキ政権がシーア派イランと同盟関係にあること、イラクの生活へのイランの影響が大きくなっていることに不快感を覚えている。だが現在のイラクはイランに多くを依存しており、マリキ首相がイランとの関係を清算することはあり得ない。

宇宙探索を続けるべき理由

2012年4月号

ニール・ドグラース・タイソン
アメリカ自然歴史博物館
ヘイデンプラネタリウム館長

天体物理学者、生物学者、化学者、エンジニア、惑星地質学者などでチームを組む宇宙探索ほど領域を越えた技術の応用を促すものはない。例えば、宇宙の天文台ともいわれるハッブル宇宙望遠鏡の画像処理をめぐる技術革新が医療分野に応用され、マンモグラフィーを通じたガンの早期発見に役立てられ、多くの女性たちがガンの脅威から解放されている。だが、いまや財政、党派対立に足をとられて、アメリカの宇宙開発計画は停滞し、一方で中国が自立的な宇宙志向国家(スペースパワー)への道を着実に歩みつつある。例えば、火星の地表にはなぜ液体が存在しないか。何か悪いことが火星に起きたわけで、似たようなことが地球でも起きていないかどうか、その兆候を特定することは非常に重要だ。経済的に困難な時代にあるとしても、宇宙探索への投資は経済を刺激し、人々の期待を満たし、次世代の人々の夢を育むことができる。

政治から離れ、宗教へ回帰する米宗教界
―― 宗教右派台頭の一方で進む宗教離れ

2012年4月号

デヴィッド・E・キャンベル ノートルダム大学准教授
ロバート・D・パットナム ハーバード大学教授

この20年にわたって「教会のミサに参加するかどうか」が、共和党と民主党の有権者を分ける大きな指標とされてきた。現状では、宗教がアメリカ政治、特に右派勢力の立場に与える影響が非常に大きくなっているが、この現実に対する反発も大きくなっている。保守的価値、宗教的価値が否定された1960年代の反動として、その後、福音派を含む、伝統的な宗教が復活したが、いまや、この20年間で組織化され、政治的な影響力を増した宗教組織に対する反発が若者を中心に大きな広がりをみせている。特にアメリカの若者たちは、「宗教心をもつことがたんに保守政治を支持することを意味するのなら、宗教にはかかわらない」と考えている。宗教右派の台頭と宗教の政治化を前に、多くの人が宗教そのものに背を向け始めている。共和党指導者にとって頭が痛いのは、支持層の一部が強く支持する政治と宗教の融合というテーマに対して、一般有権者がますます嫌悪感を示し始めていることだ。

Foreign Affairs Update
暗闇で輝く豚肉と爆発するスイカ
―― なぜ中国の食品は危険なのか

2012年4月号

トマス・トンプソン リージェントグループ・リサーチディレクター

メラミン混入ミルク、成長促進剤を添加されて爆発するスイカ、赤みを増すために薬剤を添加され暗闇が輝く豚肉など、中国の人々がもっとも懸念しているのは、高く売るためなら、食品に人体に有害な薬剤を添加することも厭わない農家や業者が作り出した食品汚染危機が大きな広がりをみせていることだ。危機は、市場経済の拡大ペースに応じてビジネス倫理を確立できず、規制もそのペースについていけていないことによって引き起こされている。「偽造品や汚染食品を作る人も、他の危険な食品の犠牲者であり、この社会では誰もが他人に対して毒を振りまいている」状況にある。・・・いまや社会破綻というシナリオでさえも、現実離れしているとは言えない。

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