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論文データベース(最新論文順)

CFR Interview
TPPをどうとらえるか
―― 貿易交渉か経済統合の試みか

2013年9月号

ミレヤ・ソリス
ブルッキングス研究所
北東アジア政策研究センター シニアフェロー

TPPの際だった特色は非常に野心的なハイレベルの目的を掲げ、知的所有権、労働基準、環境問題など(貿易領域を超えた)あらゆるものを交渉テーブルに載せると表明していることだ。こうした「WTOプラスアジェンダ」が取り上げられているのは、WTO(世界貿易機関)の交渉ラウンドが事実上停止していることの裏返しに他ならない。ウルグアイラウンドで貿易と投資ルールの見直しが前回行われてからすでに20年近くが経過している。当然、WTOで定義されている以上のルールが必要になっている。・・・TPPを貿易交渉ととらえるか、経済統合の試みととらえるかが人によって違ってくるのはこのためだ。私は、TPPは経済統合へと向かっていると感じている。なぜ貿易以外のルールが議論されているかは、それが経済統合の試みととらえられているためだ。・・・これまでは、日本が交渉に参加するには、一連の条件を満たす必要があるとアメリカが一方的に要求を突きつける立場だった。しかし今後、日本はアメリカ市場の障壁を特定して、これを問題として指摘することになるだろう。事態がどのように展開し、どのようなギブアンドテイクが試みられることになるのか非常に興味深い。

安倍政権のエネルギーアジェンダ

2013年9月号

ダニエル・P・オルドリッチ パデュー大学政治学准教授
ジェームズ・E・プラッテ 原子力エネルギー協会(NEI)インターン
ジェニファー・スクラリュー ジョージメイソン大学公共政策大学院PhDキャンディデート

現在の日本の電力市場構造は、第二次世界大戦後の占領期に形作られている。GHQの指令によって電力事業体は地域ごとに独占市場を作り上げ、電力価格は通産省(現経済産業省)によって厳格に規制されてきた。だが安倍内閣の規制改革方針では、半世紀前につくられた古い電力システムを3段階の改革によって変化させていくことが想定されている。まず、独立機関「広域系統運用機関」が新しく創設され、この機関が電力の需給バランスを調整し、地域間の電力供給を担当する。次に、小売市場と卸売市場の両方において、新たな電力供給者の自由参入を認め、電力の取引市場も設けられる。そして、電力の生産、輸送、分配は法的に分離され、小売料金が全面自由化される。・・・だが、今後を大きく左右するのは、原発の再稼働申請が認められるかどうかだ。現状では、停止中の原発48基分のエネルギーを埋め合わせるために(火力発電燃料である)天然ガスの輸入量が急増している。特に、MOX燃料の使用とプルトニウム燃料の再処理プログラムがどう判断されるかが、今後の日本のエネルギー政策を大きく左右する。

Review Essay
ナチス分析をワシントンに伝えたマルキストたち
―― フランクフルト学派と戦争

2013年9月号

ウィリアム・E・ショイアーマン
インディアナ大学政治学教授

ルーズベルト米大統領にナチスドイツに関する情報分析機関を立ち上げるように求められたウィリアム・ドノバンは、フランツ・ノイマンを筆頭とする「マルキストのユダヤ系ドイツ人思想家」たちにその分析を依頼した。彼らによれば、「ナチスの急進的反ユダヤ主義は、可能なかぎり多くのドイツ人をナチスによる犯罪の共犯者にすることが狙いだった」。彼らは「自分の手が血にまみれていることをドイツ人が認識していれば、連合国と最後まで戦い抜く」とナチスは考えている、と分析していた。こうして、ノイマンと彼のチームは「反民主的な集団が残存するのを許さない絶対的な勝利でない限り、結局は先の敗戦の再現になる」と提言した。ナチズムの基盤をいかに根絶するかについては、「まず連合国が連帯を維持することが不可欠だ」と指摘した上で彼らは次のように提言した。「ドイツを占領し、第三帝国の犯罪の責任を負うべきエリートたちを去勢し、ナチス党を非合法化し、その指導者は裁判にかける。そして、ドイツには二度と軍事力をもたせるべきではない」。だが、彼らの左派的ビジョンが、ドイツのリモデリングに、小さな影響しか与えないことは運命づけられていた。・・・

変貌した東南アジアへ帰ってきた「古い日本」

2013年9月号

ジョシュア・クランジック 米外交問題評議会フェロー

いまや東南アジアにおける日本の存在感は大きくなっている。アベノミクスに啓発された東南アジア諸国はヨーロッパ流の緊縮財政でなく、景気刺激策をとろうと試みている。さらには、タイ、ミャンマー、インドネシアにおける政治的混乱、タイにおける大気汚染、ベトナムでの深刻な経済停滞を前にしても、中国企業とは違って、日本企業が投資の約束を守ることへの認識と評価も高まっている。経済停滞と援助予算の削減とともに衰退した日本の東南アジアへの影響力がいまや回復しつつある。すでに東南アジアを3度訪問した安倍首相の努力は、東南アジアとの貿易交渉や投資、現地の世論において着実に実を結びつつある。しかし問題もある。援助、インフラ投資、戦略的つながりに焦点を合わせるだけで、民主主義や市民社会について日本が言及することはほとんどない。日本は、かつてスハルトその他の独裁政権に用いたのと同じ戦略を安易に踏襲してしまっている。・・・

Foreign Affairs Update
習近平が質素・倹約を求める理由
―― 儒教的価値と政治的支持

2013年9月号

ジョン・デルーリー
延世大学国際関係大学院
アシスタント・プロフェッサー

中国共産党総書記に就任して以降、習近平は政府官僚に対して質素・倹約を求める一連の緊縮措置を通達している。政府官僚が豪華な晩餐会を主催することは禁止され、デザイナーウォッチを身につけることも、新たに政府ビルを建設することも禁止されている。だが、緊縮財政といっても彼の意図は、経済領域にではなく、政治領域にある。「政治腐敗とは無縁の清廉潔白な官吏」という儒教の古い規範は、現在の資本主義と共産主義が交錯する準儒教的な中国社会でも依然として強く意識されており、習近平は優れた統治に関する伝統的な概念をアピールすることで自分の政治的支持につなげたいと考えている。逆に言えば、習近平は、GDPの成長率以上の何かが危機にさらされていると感じている。一時的には支持は高まるかもしれない。だが長期的には、トップダウンの規律強化路線だけでなく、政府の説明責任を求めるボトムアップの流れが必要だ。この二つを一体化させない限り、政治改革としての緊縮路線は近くその限界に達することになる。

保護する責任かシリア政府に対するペナルティか
―― シリア介入論をめぐる混乱

2013年9月号

チャーリ・カーペンター
マサチューセッツ大学アムハースト校 准教授

オバマ政権は、シリアへの軍事介入の主要な目的は「化学兵器を使用したシリア政府にペナルティを課すことで、(化学兵器の使用を禁じた)国際規範を支え、守ることにある」と明言している。ルールを踏みにじったアクターにペナルティを課すことは、「戦争において何が許され、何が許されないかについて国際的に共有されている了解を守ること」を目的にしている。だが、一方で、民間人を政府の残虐行為から守る「保護する責任」という概念もある。これは、現在のシリアのように、政府が民衆を保護する責任を果たさない、あるいは果たせない場合には、国際社会が人道的悲劇への対応責任を負うという概念だ。保護する責任の原則を基に相手国に介入するには、市民の殺戮にどのような兵器が用いられたかではなく、どれくらいの民間人が犠牲になったか、そして保護する責任を果たす適切な根拠があるかどうかを考えなければならない。混同されることも多いが、この二つの議論に重なり合う部分は少なく、目的が違うだけに、必要とされる介入のタイプも違ってくる。当然、市民の殺戮にどのような兵器が用いられたかを根拠とする空爆によって二つの目的を同時に満たそうと試みてはならない。

模倣せよ、本物を造れるまで
―― 中国経済のイノベーションとイミテーション

2013年8月号

カル・ラウスティアラ/カリフォルニア大学ロサンゼルス校 国際関係センター所長
クリストファー・スプリグマン/バージニア大学法科大学院特任教授

知的所有権、著作権の侵害行為には破壊的な側面もあるが、生産的な側面もある。中国政府が模倣活動に目をつぶり、ときにそれを奨励しているとしても、欧米企業が直ちに大きなダメージを被ることはない。中国ではまだほとんどの人々が貧しく、欧米製品を買えるのは一握りの富裕層に過ぎないため、コピー商品が必ずしも欧米企業の売り上げを低下させるとは限らないからだ。それどころか、コピー商品は、オリジナル製品の効果的な前宣伝になることが多い。かつてのアメリカも模倣経済国家だったことを思い出すべきだ。ベンジャミン・フランクリンはイギリスの作家の本を許可もなくアメリカで出版し、これに対してチャールズ・ディケンズは、多くのイギリス人作家の感情を代弁して、「アメリカ人が私の本で莫大な利益を上げても、そこから6ペンスも得られないというこの上ない正義」と皮肉ったものだ。だが、アメリカで海賊版が幅広く流通したことが彼の社会的認知度を高め、後にディケンズはアメリカで一財産を築くことになる。中国の模倣活動をうまく管理し、そのマイナス面とプラス面の双方をバランスよくとらえるべきだろう。

CFR Interview
E・スノーデン事件を法的に検証する
―― 米政府の認識にも問題がある

2013年8月号

スティーブン・I・ブラデック / アメリカン大学教授

ロシアへの一時亡命が認められたエドワード・スノーデンが、アメリカに送還されるかどうか。現在、彼が(アメリカが犯罪人引き渡し条約を結んでいない)ロシアにいるだけに、これは、法的プロセスというよりも、高度な政治プロセスになる。仮に告発の意図があったとしても、スノーデンは政府が所有する情報を盗んだだけでなく、告発手続きの相手であるNSA(国家安全保障局)の監察官ではなく、その情報を漏らすべきではない外国メディアに提供することで、手続きを踏み外している。したがって、彼が公開した情報で存在が確認された監視プログラム(プリズム)に仮に違法性があるとしても、スノーデンはアメリカの内部告発者保護法の適用対象にはならない。だが、アメリカで裁判にかけるとなると陪審制度という非常に大きな変数が絡んでくる。陪審制度の大きな機能の一つは、政府と検察の権力をチェックすることにある。仮に送還が実現して、裁判になるとして、スノーデンの運命を左右する12人の陪審員の一部は彼に同情しているかもしれない。・・・外国情報監視法(FISA)によって、政府による情報活動は適切な監督下におかれ、説明責任も果たされているという米政府の認識には問題がある。どのような結果になるにせよ、法律がテクノロジーの進化についていけていないのは間違いない。デジタル時代のプライバシーが何であるかについて、われわれはもう一度考える必要がある。

第2の大恐慌か ―― まだ緊縮財政のタイミングではない

2013年8月号

J・ブラッドフォード・デロング カリフォルニア大学経済学教授

「今回の経済危機は、大恐慌ほどには深刻にはならなかった」と多くのエコノミストは考えているし、私自身、今回の経済危機を「小ぶりの大恐慌」と呼んできた。だが今では、私の認識は間違っていたのではないかと考えている。現在も進行している経済危機と大恐慌を比較すると、現在の経済危機が「小ぶり」だと決めつける理由はない。経済停滞がもたらす痛みが、大恐慌期とは比較できないほどに軽いもので済んでいるのは、ひとえに社会政策のおかげだ。当然、もっと金融緩和と財政出動を続ける必要がある。積極策を続けると同時に、金融機関のエグゼクティブたちに、巨額の報酬を与えるべきではないことを株主たちに教育する必要があるし、そのような報酬システムが非常に大きなリスクを作り出していることを政治家に認識させることも必要だ。より大胆な一連の行動をとらない限り、アメリカは再び大規模な経済危機に直面することになりかねない。

CFR Briefing
欧州市場は再び不安定化へ
―― ディセンバーサプライズ?

2013年8月号

ロバート・カーン/米外交問題評議会国際経済担当シニア・フェロー

多くの人が指摘するように、ヨーロッパでは危機への対応疲れがみられる。これは、ユーロゾーン全域でみられる各国政府に対する批判の高まり、緊縮財政への反発、あるいは反エスタブリッシュメント政党の台頭などからも明らかだろう。・・・さらに、9月に予定されるドイツの連邦議会選挙が終わるまで(そして、ECBの資産購入プログラムに関する独憲法裁判所の判断が示されるまでは)、依然として困難な状況にあるヨーロッパの周辺諸国に支援が提供されることはあり得ない。今後、銀行と政府に対する圧力がさらに高まっていけば、ECBの債券購入計画はたんなるブラフにすぎなかったという疑問が出てくるかもしれない。ユーロメンバー国がECBによる債券購入の条件(コンディショナリティ)をめぐって、スムーズに合意できるとも考えにくいし、ECBが独自に条件を緩和できるとも考えにくいからだ。・・・秋には、ヨーロッパの金融市場の小康状態は終わり、再び変動期に突入することになるかもしれない。

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