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ロシアに関する論文

プーチン・ドクトリンの目的
―― 勢力圏の確立とポスト冷戦秩序の解体

2022年3月号

アンジェラ・ステント  ブルッキングス研究所 非常駐シニアフェロー

「欧米は30年にわたってロシアの正統な利益を無視してきた」。この確信がプーチンの行動を規定している。近隣諸国、旧ワルシャワ条約機構加盟国の主権上の選択を制限するロシアの権利を再び主張し、そうした制約を課すロシアの権利を欧米に認めさせることを彼は決意している。要するに、ロシアのことを、近隣地域に特別な権利をもち、あらゆる重大な国際問題について発言権をもつ、尊敬し、畏怖すべき大国として接するようにさせることが大きな狙いだ。プーチン・ドクトリンは、世界の権威主義政権を擁護し、民主主義国家を弱体化させることも意図している。ソビエト崩壊という結末を覆し、大西洋同盟を分裂させ、冷戦を終結させた地理的解決策を再交渉すること。これがプーチンの包括的な目的だ。

ウクライナ危機の本質
―― モスクワの本当の狙い

2022年2月号

アンジェラ・ステント ブルッキングス研究所 シニアフェロー

ロシアによる国境地帯への戦力増強は、ワシントンの関心を引くことだけが目的ではない。キエフへの圧力を高めることで、ウクライナ近隣のヨーロッパ諸国を不安にさせ、ロシアの真の目的がどこにあるのかをアメリカに憶測させることも狙いのはずだ。実際、モスクワの意図を曖昧にすることが、実は目的なのかもしれない。ロシアの高官たちはこれまでも、その動機を隠し、敵やライバルに絶えずその意図を憶測させる「戦略的曖昧性」を創り出そうと試みてきた。だが、こうした曖昧さゆえに、ロシアの意図を読み違え、米欧が対応を誤るリスクは高まる。・・・

ロシアの衰退という虚構
―― そのパワーは衰えていない

2022年1月号

マイケル・コフマン  新アメリカ安全保障センター ディレクター(ロシア研究プログラム) アンドレア・ケンダル・テイラー  新アメリカ安全保障センター ディレクター (トランスアトランティック安全保障プログラム)

人口減少や資源依存型経済など、ロシア衰退の証拠として指摘される要因の多くは、ワシントンの専門家が考えるほどモスクワにとって重要ではない。プーチン大統領が退任すれば、ロシアが自動的に対米対立路線を放棄すると考えるべきではない。プーチンの外交政策は、ロシアの支配層に広く支持されており、クリミア編入をはじめとする未解決の紛争も彼の遺産とみなされている。アメリカとの対立は今後も続くだろう。つまり、ワシントンには中国に焦点を合わせ、ロシアの衰退を待つという選択肢はない。アメリカのリーダーは、ロシアを衰退途上にある国とみなすのではなく、永続的なパワーをもつ大国とみなし、ロシアの本当の能力と脆弱性を過不足なく捉えて議論しなければならない。


ロシアとウクライナの紛争リスク
―― キエフの親欧米路線とロシアの立場

2022年1月号

マイケル・キメージ  アメリカ・カトリック大学 歴史学教授 マイケル・コフマン  新アメリカ安全保障センター シニアフェロー

かつてはロシアとの対話に前向きな姿勢を示していたウクライナのゼレンスキー大統領も、いまや対ロ妥協路線を放棄し、欧米との協調を模索している。ウクライナとの国境線に部隊を動員しているモスクワはもはや外交の機会は失われたとみているのかもしれない。しかも、ワシントンが中国との競争に関心と資源をシフトさせているために、プーチンは「ウクライナはアメリカにとって周辺的な関心事にすぎない」と確信しているかもしれない。これまでウクライナのNATO加盟をレッドラインとみなしてきたロシアは、いまや欧米とウクライナの防衛協力の強化を看過できないとみなし始めている。モスクワが武力によって現在の均衡をリセットする環境が整いつつある。

ゾンビ民主主義と空洞化した選挙
―― 権威主義体制の虚構を暴くには

2021年9月号

ケネス・ロス  ヒューマン・ライツ・ウオッチ エグゼクティブ・ディレクター

これまで「独裁的支配を民主主義という名でカモフラージュしてきた」多くの政権は、今やそうした取り繕いさえしなくなった。こうして「制度はあっても中身のない、生ける屍のような選挙制度をもつゾンビ民主主義」が台頭している。ロシア、ハンガリー、エジプト、トルコはその具体例だ。選挙を形骸化させた独裁者が「管理された民主主義」から「ゾンビ民主主義」に移行している以上、人権擁護派も対策を変化させなければならない。見せかけの選挙を実施することで独裁者が政治的正統性を主張することに異議をとなえ、より正面から対抗策をとる必要がある。独裁者たちが、本来は仕えるべき民衆のことなど何も配慮していないことを暴き出す必要がある。どんなに強い独裁者も、市民に完全に背を向けられたら、権力を維持し続けるのは難しくなるのだから。・・・

適切な中ロ離間戦略を
―― ロシアを不幸な結婚から救うには

2021年9月号

チャールズ・クプチャン  米外交問題評議会シニアフェロー ジョージタウン大学国際関係学教授

反欧米による強い絆で結ばれているかにみえる中ロも、水面下では亀裂を抱えている。中国がめざましい勢いで台頭し、自負心を高めているのに対して、ロシアは停滞し、不安を高めている。超大国としての地位を取り戻したいと願いつつも、中国のジュニアパートナーに甘んじている。このギャップと非対称性がバイデンにはチャンスとなる。中ロを離間させるには、中国との関係で明らかになったロシアの脆弱性を是正すること、つまりロシアが自国の問題に対応できるように助けることで、バイデンは、モスクワが北京から距離をおくように促せるだろう。中ロを離間させれば、両国の野心を牽制し、アメリカとその民主主義的なパートナー国家が、イデオロギーの多様化が進む多極化世界で、リベラルな価値観や制度を守り、平和的な国際システムを形作るのも容易になるはずだ。

中ロ離間戦略を
―― 対ロエンゲージメントのポテンシャル

2021年6月号

アンドレア・ケンドール=テイラー  新アメリカ安全保障センター 大西洋横断安全保障プログラム ディレクター デヴィッド・シュルマン 共和党国際研究所 シニアアドバイザー

中国とロシアの利益の重なり合い、軍事力その他の分野での相互補完性は、アメリカのパワーに対する両国の脅威をたんなる足し算以上に大きくしている。中国は、ロシアとの関係を利用して軍事力のギャップを埋め、技術革新を加速し、アメリカのグローバルリーダーシップを切り崩そうとしている。一方、国際社会で周辺化されていくことを警戒するモスクワは、アメリカがロシアと交渉せざるを得ないと考える環境を作り出そうと考え、北京との関係をそれを強化するための手段とみているようだ。例えば、中国に洗練された兵器を販売することで、モスクワはそうした関係の構築を模索してきた。ワシントンは関係の強化へと両国を向かわせるような行動を避けつつ、中ロの接近と協調をいかに制約するかをクリエーティブに考える必要がある。

権威主義へ傾斜する国際システム
―― 追い込まれたリベラルな秩序

2021年5月号

アレクサンダー・クーリー  バーナードカレッジ教授(政治学) ダニエル・H・ネクソン  ジョージタウン大学外交大学院教授

「世界を権威主義にとって安全な場所」にしようと、リベラルな秩序を支える主要な要因を排除しようとする権威主義国もある。特に中国とロシアは外交・経済力そして軍事力を行使して、オルタナティブ(代替)ビジョンを推進している。現在のトレンドをみるかぎり、世界政治を特徴づける非自由主義的要素と自由主義的要素のバランスは大きく変化していくかもしれない。国際システムはより独裁的で非自由主義的になっていくだろう。反動的なポピュリズムが力を増し、権威主義国家が頑迷な路線をとるようになったために、人権、政治的権利、市民権を尊重する思想が切り崩されつつある。現状でもっとも可能性が高いのは、泥棒政治家と利益供与ネットワークのニーズに即した国際秩序へ向かっていくことだ。

偽情報戦略の本当の目的
―― 独裁者の真意は国内にある

2021年5月号

ダレン・リンヴィル クレムソン大学 准教授(コミュニケーション) パトリック・ウォーレン クレムソン大学 准教授(経済学)

国家機関が関与するソーシャルメディア空間での偽情報キャンペーンの多くが、現実には、外国ではなく国内の民衆をターゲットにしていることはほとんど認識されていない。「ソーシャルメディアでの偽情報キャンペーンというグローバルトレンドは、現実には(国家間の影響力を競い合う)地政学ではなく、むしろ国内政治に根ざしている。結局のところ、ロシアの対米攻撃キャンペーンが実際には国内向けであるとすれば、ワシントンはロシアの有権者を念頭に置いて冷静な対応をしなければならない。そうしない限り、モスクワの偽情報を抑え込むのではなく、むしろ、増幅してしまう恐れがある。

グローバルな大国間協調の組織化を
―― 多極世界を安定させるために

2021年5月号

リチャード・N・ハース  外交問題評議会会長 チャールズ・A・クプチャン  ジョージタウン大学  教授(国際関係学)

アメリカやヨーロッパにおけるポピュリズムや非自由主義への誘惑がそう簡単に下火になることはない。かりに欧米の民主主義が政治対立を克服し、非自由主義を打倒して、経済をリバウンドに向かわせても「多様なイデオロギーをもつ多極化した世界」の到来を阻止することはできない。歴史は、このような激動の変化を伴う時代が大きな危険に満ちていることをわれわれに教えている。だが、第二次世界大戦後に形作られた欧米主導のリベラルな秩序では、もはや世界の安定を支える役目は果たせないことを冷静に認めなければならない。21世紀の安定を実現するための最良の手段は「19世紀ヨーロッパにおける大国間協調」を世界に広げた、中国、欧州連合(EU)、インド、日本、ロシア、アメリカをメンバーとし、国連の上に位置する「グローバルな大国間協調体制」を立ち上げ、大国の運営委員会を組織することだ。

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