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中東に関する論文

CFRインタビュー
食料価格高騰で不安定化する世界
―― 中東の変革と食糧危機

2011年3月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニア・フェロー

食糧価格が世界的に急騰している。国連食糧農業機関によれば、2011年1月には、この組織が食糧価格指標を記録し始めた1990年以降、その数値はピークに達した。中東では、小麦価格の高騰が最近の社会争乱に大きな影響を与えており、特に、世界最大の小麦輸入国であるエジプトにとって、価格高騰はデモの背景の一つになった。中東での主要穀物の高騰が人々の現状への怒りと不公正に対する憤慨を増幅させている。天候不順のせいで主要穀物の供給が減少し、貧困に苦しむ地域での食糧不足が起き、投機によって入手できる食糧の価格さえも上昇している。供給の減少を別にしても、食糧需要が増大しているのは、人口が増えているからだけでなく、世界の中産階級の規模が拡大し、プロテイン類を購入できる人々が増えているためだ。この拡大する需要を満たしていくには、農業、収穫、輸送、流通のすべてを見直す必要がある。

中東では多くの若者たちが、教育を受けたにもかかわらず、まともな職に就けずにおり、現状に大きな不満を抱いている。これが今起きていることの根底にある問題だ。だが、人口構成に占める若者の人口が突出して多い「ユースバルジ」が問題をさらに深刻にしている。歴史的にも、青年人口が突出して多い国では社会的混乱が頻発することが多い。混乱は平和的なものにも破壊的なものにもなる。チュニジアやエジプトでの抗議行動が概して平和的なものだったのは幸運だった。両国の場合、欧米が民主化への移行を支援すれば、ユースバルジを社会の責任あるメンバーとして取り込み、長期的には非常に建設的な未来展望が開けてくるかもしれない。だが、政治体制が非常に脆く、社会が分裂している国では、ユースバルジが社会紛争を長期化させ、国を破綻国家へと向かわせるリスクもある。実際、イエメンはそうなるリスクがあるし、パレスチナもそのリスクを抱えている。

カダフィ後に何が起き、誰が台頭してくるのか

フレデリック・ウェレイ ランドコーポレーション、シニアポリシーアナリスト

チュニジア、エジプトで民衆蜂起がおきると、1969年のクーデターでカダフィを支持した軍高官の一部でさえ、ポストを解任された。カダフィは、彼らが反体制運動を主導することを懸念した。いまや軍は分裂し、トリポリにはカダフィの息子たちが統率する「ダイハード」部隊がいる。カダフィがリビアを去っても、リビアの解放を求める勢力と、最後まで戦いをやめないカダフィ体制の「ダイハード」たちの間で抗争が続くことになるだろう。結局、今後のリビアをまとめられるのは、リビア解放を求める旧リビア軍の部隊しかいない。さらに行く手には、トリポリとキレナイカの対立、大きすぎる部族パワー、民族的不満をいかに制御していくかという難題が控えている。もっとも重要なのは、リビアの軍と部隊が、特定の指導者、部族や地域ではなく、組織に対して忠誠とアイデンティティを持つようにすることだ。

チュニジア革命とエジプト、リビア、サウジアラビア

2011年2月号

エリオット・アブラムス 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

2010年12月にチュニジアで起きた民衆デモは数週間に及び、2011年1月についに政権は崩壊し、ベンアリ大統領はサウジに亡命した。このチュニジアでの展開が北アフリカ他の独裁国家でも民衆蜂起を誘発するのではないかといまや広く考えられている。中東問題の専門家であるエリオット・アブラムスは、「民衆蜂起の高まりを前に、チュニジアの軍隊は組織としての生き残りを重視し、ベンアリと彼の家族のために、数百人の市民を殺害すれば、軍に未来はないと判断し、これが、民衆が作り出した革命の流れを加速した」と指摘する。つまり、「他の中東の独裁国家でも、かりに民衆運動が起き、軍隊が独裁者の鎮圧命令を拒絶すれば、同じような展開になる」と語った同氏は、似たような展開になる可能性を秘めているのが、いずれも権力継承のタイミングにある「リビアとエジプトだ」と指摘した。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティングエディター)

CFRミーティング
カダフィ後のリビア
―― 石油の富でいかに部族間のバランスをはかり、
国家建設へと結びつけるか

スピーカー
エリオット・アブラムス 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー
プレサイダー
バーナード・ガーツマン コンサルティング・エディター、CFR.org

リビアの社会状況は、エジプトよりも、さらに怒りを禁じ得ないものだった。一日あたり150~200万バレルの石油が輸出されてきたが、リビアの貧しい人々は、「いったい石油からの収益はどこにいってしまったのか」と考えてきた。おそらくは、カダフィ政権が倒れるのはさけられない。最大の問題はリビアに制度らしき制度が存在しないことだ。カダフィは40年をかけて、制度構築を阻止してきた。しかも、国家的な統合は実現していない。帰国して何かができるような君主もいない。来週、カダフィ政権が倒れれば、何らかの暫定政権が必要になる。問題は、一つではなく、二つか三つ暫定政権が誕生する可能性があることだ。

CFRインタビュー
アラブ世界で何が起きているのか

ロバート・ダニン 米国家安全保障会議中東担当ディレクター(代理)

わずか数週間で、チュニジアのベンアリ大統領が民衆デモを前に亡命を余儀なくされ、エジプト、イエメンその他でも民衆デモが続いている。多くの場合、デモを主導しているのは若者たちで、その行動はソーシャルメディアやアルジャジーラなどで知った近隣諸国の出来事に刺激されている。特にアルジャジーラが現在の中東の流れを左右するアクターになっている。このタイプのデモは中東ではかつてみられなかったと、CFRのロバート・ダニンは言う。これまでのように反米運動という形をとるのではなく、「現地の問題に対する不満や反発からデモが起きている。しかも、それが、近隣諸国の出来事に刺激されている」。ムバラク大統領が息子のガマル・ムバラクを後継大統領にする道はもはや閉ざされたといってよく、ムバラクが次期大統領選挙後、政治的に存続できるかどうかさえ危ぶまれる、と同氏は語り、アメリカの政策にとって大きな意味合いは、「イスラエル・パレスチナ問題を解決することこそ、中東問題を解決する鍵」とみなしてきた、アメリカの中東政策の前提の多くが間違っていたことが、国内問題を前に立ち上がった今回の民衆デモで立証されたことだ、とコメントした。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)

エジプトでの民衆の抗議行動はいまも拡大し続けている。大統領が内閣改造を行い、副大統領を新たに任命したにもかかわらず、人々はムバラクの退陣を求めている。そして、すでにエジプト軍は市民に武力は行使しないと宣言している。「ムバラクの時代は終わった」とみるリチャード・ハースは、民衆の支持(正統性)を失い、リーダーシップも発揮できずにいるムバラクは辞任し、その後を担う、暫定内閣を立ち上げて、暫定的な政治プロセスに移行していく時期にきているとみる。そのプロセスにおいて、政治改革と憲法改革を具体化していく必要がある。こう考えるハースは、「軍が軍らしくあるためには、新たな政治的権限、つまり、新しい政治指導者が必要だし、軍はムバラクのためではなく、次期政権のために、エジプトの秩序と安定を回復すべきだ」と強調した。暫定政権の指導者の候補にスレイマン副大統領、モハメド・エルバラダイの名前を挙げた同氏は、移行プロセスが安定した秩序だったものになるかどうか、そして、イスラム同胞団が移行プロセスにおいてどう動くかが今後の鍵を握るとコメントした。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)

非国家アクターとしての宗教の台頭
―― グローバル化時代の宗教

2011年1月号

スコット・M・トーマス バース大学上席講師(国際関係)

新しい世界が形成されつつあり、そのおもな担い手は途上世界を構成する国と人々、そして宗教コミュニティだ。そして、昨今の宗教の興隆の大きな特徴は、イスラムの台頭だけではなく、ペンテコステ派と福音主義プロテスタント(福音派)が中国やインド、途上国で大きな広がりをみせていることだ。また宗教系非国家アクターの台頭にも注目する必要がある。世界最大のイスラム組織「タブリギ・ジャマート」、中国の法輪功なども、カトリック教会や東方正教会のように、国際関係に影響を与えるグローバルな宗教プレイヤーの仲間入りを果たしている。しかも、途上世界では社会奉仕ネットワークとテロネットワークの多くが重なり合っている。また、途上国の人々がわれわれと同じ宗教を受け入れても、欧米における(保守やリベラルといった)政治志向をそのまま映し出すことにはならない。グローバル化がいかに宗教を変貌させるかは、テロや宗教紛争といった安全保障上の脅威が今後どう推移するかさえも左右することになるだろう。

メザニン集団の台頭
―― 国の内側から蝕まれる中東・南アジア諸国

2011年1月号

マイケル・クロフォード 英国際戦略研究所コンサルティング・シニアフェロー
ジャミ・ミスシック 元CIA副長官

レバノン、イラク、アフガニスタン、パキスタンでは、政府と民衆の間に割り込むようにメザニン(中二階)集団が台頭し、確固たる権力を確立しつつある。国に救いを求めても無駄だと考える人々はメザニン集団を血族集団のようにみなし、連帯を強めている。ヒズボラ、マフディ軍、タリバーン、アルカイダ、ラシュカレトイバなどの、メザニン集団は、社会サービスや治安を提供することで、民衆の忠誠を勝ち取り、政府にはできない形で人々を鼓舞する力をもっている。問題は、政府にこれらのメザニン集団を管理する力がなく、しかも、国際法でも、この集団が作り出す問題にうまく対処できないことだ。聖域を利用するメザニン集団は、トランスナショナルなテロの拠点とされているだけでなく、政府を不安定化させる力も持っている。状況を放置すれば、国際的な平和と安定に壊滅的なダメージがおよぶ恐れがある。

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