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中国に関する論文

北京では、中国の国家安全保障、主権、国内の安定に対する外からの最大の脅威はアメリカが作り出しているとみなされている。「アメリカは恐怖と羨望に駆られて、あらゆる方法で中国を封じ込めようとしている」。ワシントンの政策エリートは、このような考えが中国国内で定着していることを明確に認識しつつも、そうした敵対的環境を助長しているのは中国ではなく、「中国共産党の権力を弱体化させようと、長年にわたって介入し続けているアメリカの方だ」考えられていることを見落としている。これほどまでに異なる近年の歴史解釈が米中間に存在することを理解すれば、競争を管理し、誰も望んでいない壊滅的な紛争を回避する方法を両国が特定する助けになるはずだ。

再生可能エネルギーの新地政学
―― シーレーンから多国籍グリッドへ

2021年8月号

エイミー・マイヤーズ・ジャッフェ   タフツ大学 フレッチャー・スクール 研究教授

ランサムウェア攻撃でアメリカ最大のパイプラインの一つが2021年5月に閉鎖に追い込まれる事件が起きた。遠く離れた場所の得体のしれぬ勢力が遂行した(重要な国内インフラを対象とする)複雑なデジタル攻撃は今後の脅威を予兆している。(再生可能エネルギーによる)電力が世界のエネルギーシステムでのプレゼンスを拡大していくにつれて、より多くのインフラがサイバー攻撃にさらされるようになるだろう。グリッドが大きくなると、保護を必要とするインフラが巨大になり、ハッカーが侵入する機会が増えるからだ。例えば、(電力インフラをターゲットにする)サイバー空間での活動を規制する国際ルールの確立を主導するのは、冷戦期における核軍備管理合意と同じくらい重要な試みになる。「デジタル化された世界の地政学」に向けて、ワシントンは現状を大きく見直す必要がある。

米台自由貿易協定の締結を
―― その地政経済学的意味合い

2021年7月号

デビッド・サックス  米外交問題評議会リサーチアソシエーツ ジェニファー・ヒルマン  米外交問題評議会シニアフェロー

中国は2010年に経済協力枠組み協定(ECFA)を台湾と締結し、関税と貿易障壁を大幅に引き下げることに合意している。この状況で、北京によって台北が他国との自由貿易協定を結ぶ道が閉ざされれば、必然的に台湾経済は追い込まれ、中国の台湾に対する影響力は大きくなっていく。一方、米台自由貿易協定を結べば、中国を牽制し、他の諸国が台北との貿易交渉を開始するための(北京に対する)政治的盾を提供できる。中国が軍事力を強化し、自信を高めているだけに、ワシントンは、中国の冒険主義を抑止する追加措置を特定する必要がある。台湾との自由貿易協定は経済的恩恵をもたらすだけでなく、アメリカが台湾との関係を重視していることを示す強いシグナルを中国に送り、台湾の自信を高め、台北は強い立場から北京にアプローチできるようになる。いまや野心的な米台自由貿易を模索すべきタイミングだろう。

アイデンティティと中国の政治・外交
―― 共産党の自画像と北京のアジェンダ

2021年7月号

オッド・アルネ・ウェスタッド  イェール大学教授(歴史学)

中国を支配しようとする者にとって、アイデンティティ、領土、文化に関する問いにどう答えるかは極めて重要だ。大清帝国の瓦礫の上に現代中国を構築した共産党にとって「中国とは何か、そして中国人とは誰か」を定義することは、「中国的特質を持つ社会主義」を育むのと同じくらい重要だった。それだけに、広東省南部の人々のほとんどが「自分を中国人だ」と自覚しているのに、チベットや新疆にルーツがある人々がそうではないと考えていることは大きな問題だ。共産党は国内で生活する人すべてを中国人と定義している。そして、共産党が、国の領土主権にこだわっているのは、帝国から引き継いだ領土の一部で、その支配に挑戦する動きが生まれることを警戒しているからに他ならない。台湾ほど中国の出方を警戒すべき場所はない。北京は、いつでも好きなときに力によって乗っ取る権利があると考えている。

中国を引き裂く大潮流
―― そこにある二つの中国

2021年7月号

エリザベス・エコノミー   外交問題評議会  シニアフェロー(中国研究担当)

中国政府の勝利主義的レトリックの背後には、不都合な真実が隠されている。それは、社会がやっかいな形で複雑に分裂しつつあることだ。ジェンダーと民族を基盤とする差別が横行し、オンライン空間での憎悪に満ちた、ナショナリスティックな発言がこれに追い打ちをかけている。起業家や研究者を含む「クリエーティブな社会階級」は官僚と衝突している。ジャック・マーのように、政府の介入を公然と批判し、厳格な処分対象とされた者もいる。都市部と農村部の深刻な格差もなくなっていない。これらの分断ゆえに、重要な社会集団が中国の思想・政治的生活に完全に参加できずにいる。この状況が放置されれば、習近平が言う「中華民族の偉大なる復興」は夢のままで終わる。

対中戦争に備えるには
―― アジアシフトに向けた軍事ミッションの合理化を

2021年7月号

マイケル・ベックリー  タフツ大学准教授(政治学)

もし中国が台湾を攻略すると決めたら、米軍がいかにそれを阻止しようと試みても、中国軍に行く手を阻まれると多くの専門家はみている。だが、これは真実ではない。中国の周辺海域や同盟国にミサイルランチャー、軍事ドローン、センサーを事前配備すれば、(容易に近づけぬ)ハイテク「地雷原」を形作れる。これらの兵器ネットワークは、中国にとって無力化するのが難しいだけでなく、大規模な基地や立派な軍事プラットフォームを必要としない。問題は、アメリカの国防エスタブリッシュメントがこの戦略への迅速なシフトを怠り、時代遅れの装備と重要ではないミッションに資源を投入して浪費を続けていることだ。幸い、中国に厳格に対処すること、そしてアジアへの戦力リバランシングについては超党派の政治的支持がある。適正な戦略にシフトしていく上で欠けているのは、トップレベルのリーダーシップだけだ。

中国の台湾侵攻は近い
―― 現実味を帯びてきた武力行使リスク

2021年7月号

オリアナ・スカイラー・マストロ   スタンフォード大学国際関係研究所 センターフェロー

この数カ月、北京が平和的な台湾アプローチを見直し、武力による統一を考えていることを示唆する不穏な動きがある。「アメリカが台湾有事に介入してきても、状況を制することができる」と考えられている。かつては台湾への軍事作戦など現実的オプションではないと考えていた中国政府も、いまや、それを現実の可能性として捉えている。習近平は台湾問題を解決するという野心を明らかにし、武力統一というオプションへの中国市民と軍指導層の支持も強化されている。この30年で初めて、ほぼ1世紀にわたる内戦を決着させるために中国が軍事力を行使する可能性を真剣に憂慮すべき環境にある。

中ロ離間戦略を
―― 対ロエンゲージメントのポテンシャル

2021年6月号

アンドレア・ケンドール=テイラー  新アメリカ安全保障センター 大西洋横断安全保障プログラム ディレクター
デヴィッド・シュルマン 共和党国際研究所 シニアアドバイザー

中国とロシアの利益の重なり合い、軍事力その他の分野での相互補完性は、アメリカのパワーに対する両国の脅威をたんなる足し算以上に大きくしている。中国は、ロシアとの関係を利用して軍事力のギャップを埋め、技術革新を加速し、アメリカのグローバルリーダーシップを切り崩そうとしている。一方、国際社会で周辺化されていくことを警戒するモスクワは、アメリカがロシアと交渉せざるを得ないと考える環境を作り出そうと考え、北京との関係をそれを強化するための手段とみているようだ。例えば、中国に洗練された兵器を販売することで、モスクワはそうした関係の構築を模索してきた。ワシントンは関係の強化へと両国を向かわせるような行動を避けつつ、中ロの接近と協調をいかに制約するかをクリエーティブに考える必要がある。

「台湾と中国」というアメリカ問題
―― 台頭する新興国と衰退する超大国

2021年6月号

チャールズ・L・グレーザー  ジョージ・ワシントン大学エリオット・スクール 教授(政治学、国際関係論)

ワシントンは慎重なアジア政策をとっていると考えられているが、実際には、環境が変化していることを考慮せずに、既存のコミットメントを維持している。かつてのようなパワーをもっていない大国が、現状を無理に維持しようと試みれば、非常に危険な賭けに打って出る恐れがある。もちろん、東アジアの同盟関係へのコミットメントは維持すべきだが、台湾を含む南シナ海地域への関与路線は見直すべきだろう。アメリカのパワーが低下しているのなら、最善の選択肢はコミットメントを減らすことかもしれない。これは、南シナ海において中国がより多くの影響力をもつことを認め、台湾を手放し、もはや東アジア地域における支配的なパワーではないことをワシントンが受け入れることを意味する。・・・

中国の空虚な地政学戦略
―― 友人も影響力も得られない

2021年6月号

オードリー・ウォン  ハーバード大学ケネディスクール&MIT 安全保障プログラム  ポストドクトラルフェロー

貿易交流や一帯一路を通じた融資、ワクチンやマスクの供与など、中国は経済力をツールに地政学的影響力を高めているとみなされている。債務トラップ外交で相手国に過大な債務を負わせて自国の影響力を高め、言うことを聞かぬ相手は経済的強制策で締め上げる。多くの専門家がこの事態を懸念している。だが中国のパフォーマンスは、考えられているほど見事ではない。経済的影響力を用いた戦略的試みはしばしば抵抗に遭遇している。中国の融資や投資受け入れ国は中国企業の手抜き工事、見積もりに収まらぬコストの肥大化、環境の悪化に不満を募らせている。北京の高官たちは、融資によって経済開発が進めば、受け入れ国は中国に感謝し、好感情をもつようになると考えているかもしれない。しかし、この認識が間違っていると信じるべき理由がある。・・・

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