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テーマに関する論文

中国が台頭しロシアが復活する一方で、アメリカは同盟関係を含む対外関与を敬遠し、米欧同盟の解体はもはや避けられない状態にある。米中対立を軸に、秩序もパワーバランスも、この数年来の流動化を経て、一気に変化へ向かいつつある。国内に目を向けても、先進諸国の少子高齢化は国の社会保障制度や財政基盤を脅かすだけでなく、地域的安全保障と資本主義というグローバルな経済システムそのものを動揺させるかもしれない。さらに、どのように答えを出すのか分からない人工知能にわれわれは何をどこまで依存できるのか。例えば、AI軍事システムを最初に開発した国が、いい加減なテストだけで、システムを一刻も早く導入せざるを得ないと判断すれば、「誰も勝者になれない世界」が創りだされる恐れがある。大国間関係が変化するだけでなく、秩序を支えてきた政治・経済システムが変性し、一方で気候変動問題と人工知能が社会を追い込むことになるのかもしれない。

<目次>
第一章 米外交の衰退と中国の台頭

・中国対外行動の源泉
―― 米中冷戦と米ソ対立の教訓
オッド・アルネ・ウェスタッド

・今回ばかりは違う
―― 米外交の復活はあり得ない
ダニエル・W・ドレズナー

・解体した米欧同盟
―― 新同盟形成の余地は残されているか
フィリップ・ゴードン、ジェレミー・シャピロ

第二章 人口減少、経済、貿易

・人口減少と資本主義の終焉
―― われわれの未来をどうとらえるか
ザチャリー・カラベル

・オートメーションとグローバル経済構造
―― 世界経済の次の勝者は
スーザン・ルンド、ジェームズ・マニュイカ、
マイケル・スペンス

・米中経済のディカップリングの意味合い
―― 解体するグローバル貿易システム
チャッド・P・ボウン、ダグラス・A・アーウィン

第三章 人工知能とデジタル世界

・人工知能の恩恵とリスク
―― 誰も勝者になれない世界を回避するには
ポール・シャーリ

・人工知能への備えはできているか
―― うまく利用できるか、支配されるか
ケネス・クキエル

・「ディープフェイク」とポスト真実の時代
―― 偽情報戦争の政治・外交的インパクト
ロバート・チェズニー、ダニエル・シトロン

第四章 ナショナリズムと社会契約

・福祉国家の崩壊とナショナリズムの台頭
―― ナショナリズムはいかに復活したか

ジャック・スナイダー

・国家を支えるナショナリズム
―― 必要とされる社会契約の再定義

アンドレアス・ウィマー

第五章 進化し、多様化する安全保障

・人口動態と未来の地政学
―― 同盟国の衰退と新パートナーの模索
ニコラス・エバースタット

・形骸化した抑止力
―― 多様化する攻撃の領域と能力
アンドリュー・クレピネビッチ

・アメリカは同盟国を本当に守れるのか
―― 拡大抑止を再強化するには
マイケル・オハンロン

貿易と移民と労働者
―― 保護主義はなぜ間違っているか

2020年1月号

キンバリー・クラウジング  リードカレッジ 教授(経済学)

グローバル市場は素晴らしい恩恵を数多くもたらしてくれるが、一方で、貿易の恩恵をあらゆる市民が感じられるようにするパワフルな国内政策が必要だ。そうした政策なしでは、経済的な不満が高まり、現状を説明する安易なロジックと間違った政策を売り込むデマゴークの政治家が台頭する。現実には、貿易と移民を制限すれば、国内労働者の利益は最終的に傷つけられる。格差を縮小し、労働者を助けたいと考えるのなら、保護主義と外国人排斥が自らの大義を後退させることを認識すべきだろう。中間層の再構築に焦点を合わせる革新主義の政治家は、労働者の必要性を満たすための国内政策を重視する一方で、貿易合意を改善し、移民の受け入れを拡大しなければならない。関税や国境の壁は解決策ではない。

アメリカの危険な対中コンセンサス
―― チャイナスケアを回避せよ

2020年1月号

ファリード・ザカリア CNNファリード・ザカリアGPSホスト

「経済的にも戦略的にも、中国はアメリカの存続にかかわってくる脅威であり、これまでの対中政策はすでに破綻している。ワシントンは中国を封じ込めるためのよりタフな新戦略を必要としている」。これが、民主・共和両党、軍事エスタブリッシュメント、主要メディアをカバーしている新対中コンセンサスだ。しかし、このコンセンサスでは脅威が誇張されている。ソビエトの脅威を誇張したことの帰結がいかに大きかったことを思い出すべきだ。中国が突きつける課題を現状で適切に判断しないことの帰結はさらに大きなものになる。40年にわたる中国へのエンゲージメントを通じてやっと獲得したものを浪費し、中国に対決的政策をとらせ、世界の二大経済大国を経験したことのない規模と範囲の危険な紛争へ向かわせる。この場合、われわれは数十年にわたる不安定化と不安の時代に向き合うことになる。・・・

監視資本主義と暗黒の未来
―― ビッグテックとサーベイランスビジネス

2020年1月号

ポール・スター プリンストン大学 教授(社会学・公共政策)

「監視資本主義=サーベイランス・キャピタリズム」が台頭している。フェイスブックとグーグルが主導するこの産業は、バーチャル世界から現実世界へとサーベイランスの範囲を拡大し、個人の生活の内側に入り込んでいる。ユーザーデータの収集・分析から、ユーザーが「今かすぐ後、あるいはしばらく後にとる行動」を予測することへ流れは移行しつつある。しかも、予測を的中させるもっとも効率的な手法は、予測されている行動をとるように仕向けることだ。すでにフェイスブックは前例のない行動誘導の手法を確立している。中国の「社会信用システム」はインスツルメンタリアンパワー(技術的操作能力)と(政治的画一性を実現したい)国家の組み合わせだが、米企業はインスツルメンタルパワーと市場を抱き合わせるつもりかもしれない。

CFR Briefing
中国のイスラム教徒収容所
――なぜウイグル人を弾圧するのか

2020年1月号

リンジー・メイズランド www.cfr.org アジア担当ライター

中国政府は、100万以上のイスラム教徒を西部の「再教育施設」に拘束していると言われる。・・・人権団体によれば、多くの場合、彼らにとって唯一の罪はイスラム教徒であることだ。・・・収容所内で何が起きているかについての情報は限られているが、(施設および)中国から脱出した人物の証言によると、CCPへの忠誠とイスラム教の放棄を求められ、共産主義の賛美と標準中国語の学習を強制される。中国政府は、ウイグル人が過激化し、分離主義が高まることを恐れており、収容所は中国の領土保全、政府、広く中国市民に対する脅威をなくすための手段だと考えているようだ。「新疆ウイグルでの出来事は国内問題である」と主張する北京は、外部の調査ミッションを受け入れるように求める国際社会の圧力を退けている。多くのイスラム国家も、中国との経済的絆や戦略的関係を優先し、中国内での人権侵害に目をつむっている。

資本主義の衝突
―― 「民衆の資本主義」か「金権エリート資本主義」か

2020年1月号

ブランコ・ミラノヴィッチ ニューヨーク市立大学大学院 ストーンセンター シニアスカラー

グローバル経済の未来を左右するのは、資本主義と他の経済システムの競争ではなく、資本主義内の二つのモデル、つまり、「リベラルで能力主義的資本主義」と「政治的資本主義」間の競争だろう。リベラルな資本主義が「民衆の資本主義」へ進化し、拡大する格差問題にうまく対処しない限り、欧米のシステムは、社会主義ではなく、中国型の政治的資本主義に近づき、金権政治的になっていくだろう。格差を是正し、民衆の資本主義への進化を実現するには、中間層により大きな金融資産の保有を促す税インセンティブを与え、超富裕層の相続税を引き上げ、公教育の質を改善し、選挙キャンペーンを公的資金でカバーできるようにしなければならない。そうしない限り、政治的資本主義同様に、排他的な少数で構成される特権階級の家庭が、将来に向けて永遠にエリートを再生産していくようになる。

中東における全面戦争のリスク
―― 何が起きても不思議はない

2020年1月号

ロバート・マレー 国際危機グループ(ICG) プレジデント

中東のいかなる地域における衝突も中東全体を紛争に巻き込む引き金になる恐れがある。一つの危機をどうにか封じ込めても、それが無駄な努力になる危険が高まっているのはこのためだ。しかも、国家構造が弱く、非国家アクターが大きな力をもち、数多くの大きな変化が同時多発的に進行している。イスラエルと敵対勢力、イランとサウジ、そしてスンニ派の内部分裂が存在し、これらが交差するだけでなく、ローカルな対立と絡み合っている。「サウジに味方をすることは、(イエメンの)フーシに反対するということであり、それはイランを敵に回すことを意味する」。こうしたリンケージが入り乱れている。ワシントンが中東から撤退するという戦略的選択をしようがしまいが、結局、アメリカはほぼ確実に紛争に巻き込まれていく。

国家とGAFAの攻防
―― 5Gとクラウドをめぐる本当の闘い

2020年1月号

スコット・マルコムソン
戦略インサイトグループ プリンシパル

GAFAに象徴される巨大IT企業に対する各国政府の反発は一時的な現象ではない。トランプ政権がファーウェイに対して、中国がかつてグーグルに対してとった措置を、今後欧州連合(EU)がアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)に対してとるかもしれない。国が動きだしている以上、シリコンバレーを未来の覇者と当然視できた時代は終わりつつある。実際、各社のクラウドネットワークの境界を越えてスムーズに移動できるようにしない限り、車や電話そしてモノのインターネットの複雑な処理はグローバルに機能できなくなる。これを克服するには企業が「コーポレートビザ」を発行する必要が生じるが、国にとって、これはIT企業への主権の委譲に等しく、これを容易に認めるとは考えにくい。すでにこの問題は現実に起きている。・・・

グローバル外交の新しい見取り図
―― アメリカの後退と中国の前進

2020年1月号

ボニー・ブレー
豪ローウィー研究所 リサーチフェロー

かつて鄧小平が諭した「韜光養晦(才能を隠して、力を蓄える)」への関心を失ったかのように、北京はグローバルパワーの行使に前向きになるにつれて、外交への投資に力を入れるようになった。一方、ワシントンは内向きになっている。中国の外交ネットワークは広がりだけでなく、奥行きも深くなっている。北京とワシントンは、大使館の数ではほぼ同等だが、領事館の数でみると、アメリカが88なのに対して、中国のそれは96に達している。大使館が政治力を反映するのに対して、領事館の数は経済力を映し出す。中国に限らず、ブレグジットに揺れるアイルランドであれ、地域環境の変化に対応しようとする日本であれ、ある国がどこに外交ネットワークを拡大するかの選択は明確な意図に導かれている。

温暖化への適応か国の消滅か
―― 気候変動が引き起こす大災害の衝撃に備えよ

2020年1月号

アリス・ヒル 米外交問題評議会 シニアフェロー(気候変動政策担当)
レオナルド・マルティネス=ディアス 世界資源研究所持続可能な金融センターの グローバルディレクター

アメリカの場合、社会・経済インフラは歴史的水準の異常気象に耐えられるように設計されているが、いかに手を尽くしても、今後の気候変動と災害の衝撃が過去のそれを上回るようになるのは避けられない。川や海に近く、住宅地として人気があるとしても、危険地帯での住宅建設を止めさせ、コミュニティ全体の移住にも備えるべきだろう。災害後の復興策もこれまでのやり方では財政がもたない。生き残るには、これまでのインフラ、データシステム、そして災害予算政策を抜本的に刷新する必要がある。復旧コストのほとんどを借入金で賄うやり方は、自然災害の頻度と破壊度が増している以上、深刻な状況にある財政をさらに悪化させる。災害に対するレジリエンス強化に向けた投資が必要だし、気候変動リスクをわれわれはもっと正面から捉えなければならない。

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