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経済・金融に関する論文

Foreign Affairs Update
ヨーロッパの新しいドイツ問題
―― 指導国なきヨーロッパ経済の苦悩

2011年12月号

マティアス・マタイス アメリカン大学准教授
マーク・ブリス ブラウン大学教授

20世紀の多くの時期を通じて、「ドイツ問題」がヨーロッパのエリートたちを苦しめてきた。他のヨーロッパ諸国と比べて、ドイツが余りに強靱で、その経済パワーが大きすぎたからだ。こうして、NATOと欧州統合の枠組みのなかにドイツを取り込んでそのパワーを抑えていくことが戦後ヨーロッパの解決策とされた。だが、現在のドイツ問題とはドイツの弱さに派生している。ユーロ危機を引き起こしている要因は多岐にわたるが、実際には一つのルーツを共有している。それは、ドイツがヨーロッパにおける責任ある経済覇権国としての役割を果たさなかったことだ。かつてアメリカの歴史家C・キンドルバーガーは「1933年の世界経済会議ではさまざまな案が出されたが、リーダーシップを発揮できる立場にあった国の指導者が、国内の懸念に配慮するあまり、状況への傍観を決め込んでしまった」と当時の経済覇権国の姿勢を批判したが、これは、現在のドイツにそのままあてはまる。求められているのは、ルールメーカーではなく、指導者としての役目を果たすことだ。

CFR Interview
アメリカは変化するアジアの戦略環境にどう関わるか
――経済と安全保障のバランス

2011年12月号

エヴァン・フェイゲンバーム  米外交問題評議会アジア担当シニア・フェロー

アジア諸国の経済利益と安全保障利益が次第に衝突しつつある。安全保障領域ではアメリカが依然として重要な役割を果たしているが、経済領域ではいまや中国が地域的中枢を担い始めている。アジアの経済と安全保障の間に生じているこの不均衡が、これまでとは異なる戦略環境を作り出し、これがアメリカとアジア諸国の双方に大きな課題を作り出している。問題は、中国が愚かにもこれらの諸国を往々にして不安にさせる行動をとっていることだ。このために、アジア諸国は、経済的には中国に多くを依存しつつも、安全保障領域ではアメリカへの依存を高め、経済と安全保障のバランスをいかにとっていくかに苦慮している。一方、アメリカにとっての課題は、安全保障の後見役を果たしつつも、アジアにおける経済のゲームの中枢にいかにして身を置くかだ。交渉が続けられている環太平洋パートナーシップ(TPP)のような地域的貿易合意が重視されているのは、まさにこの理由からだ。・・・重要なポイントは、アジアの安全保障が安定していなければ、アメリカがそこから経済利益を引き出すこともできなくなり、そして、アメリカ抜きでは、アジアの安全保障が成立しないことだ。

ユーロゾーンの再構築を
―― インソルベンシーと資金不足を区別した危機対策を

2011年11月号

ヒューゴ・ディクソン ロイター・ブレイキングニュース  エディター

かつてギリシャやイタリアは「競争力が低下している」と感じたときは、自国通貨を切り下げたものだ。その手段を奪われたユーロ導入後も、周辺国はユーロ建て国債の発行を通じて資金を借り入れることで、増税策をとることなく高い歳出レベルを維持した。だが、その結果、周辺国の多くが莫大な債務の山を築き、いまや破綻の危機に直面するリスクは限りなく高まっている。ここからどうユーロゾーンを守り、立て直していくか。財政統合やユーロ共通債では、目の前にある火事は消せない。それよりも、インソルベンシーによる危機と資金不足による危機を区別することだ。インソルベンシー危機に直面しているギリシャ、アイルランド、ポルトガルに管理型ディフォルトを認める一方、資金不足に派生する危機に陥っているイタリアとスペインには改革の意思を確認した上で、資金を供給する。こうすれば、経済のバランスが回復され、ヨーロッパは世界経済において再び大きな役割を果たせるようになる。

ウォール街デモが示す新しい民主主義の可能性
――市民の苦境を無視する政治への反乱

2011年11月号

マイケル・ハート/デューク大学政治学教授
アントニオ・ネグリ/前パリ第8大学政治学教授

ウォール街デモの政治的側面を理解するには、これを2011年に世界で起きた一連の抗議行動の流れのなかに位置づける必要がある。ウォール街での抗議行動は、5月15日以降、マドリードの中央広場で展開された抗議行動、そして、それに先立つカイロのタハリール広場での民衆デモに触発されている。デモの根底にあるのは、自分たちの民意が配慮されない現実に対する人々の不満と反発だ。問われているのは、代議制民主主義の危機に他ならない。「われわれの目の前にある民主主義が大多数の人々の考えと利益を代弁していく力を失っているのなら、現状の民主主義はもはや時代遅れなのではないか」。デモが問いかけ、求めているのは「真の民主主義」の再確立だ。

ブロークン・コントラクト
―― 不平等と格差、そしてアメリカンドリームの終焉

2011年11月号

ジョージ・パッカー
ニューヨーカー誌スタッフライター

第二次世界大戦後のアメリカの経済的繁栄の恩恵は、人類の歴史のいかなる時期と比べても、より広範な社会層へと分配されていた。税制によって、個人が手にできる富には限界があり、多くの資金を次の世代に残せないように制度設計されていたために、極端な富裕階級が誕生することはあり得なかった。だが、1978年を境に流れは変化した。その後の30年にわたって、政治の主流派は、中産階級のための社会保障ツールを解体し、政府の権限を小さくしようと試みた。組織マネーと保守派はこの瞬間をとらえ、アメリカの富裕層への富の移転という流れを作り出した。実際、この30年にわたって、政府は一貫して富裕層を優遇する政策をとってきた。その結果、いまや、あらゆる問題が格差と不平等という病によって引き起こされ、民主主義のメカニズムまでもが抑え込まれつつある。

最終的にヨーロッパの主要銀行が破綻し、ギリシャがディフォルトに陥れば、リーマンブラザーズ破綻後のような状況が再現される。この場合、グローバル経済に大きな衝撃がはしり、堅調な成長を続けている新興国も無傷ではすまない。

経済覇権はアメリカから中国へ
――21世紀に再現されるスエズ危機

2011年10月号

アルビンド・サブラマニアン
ピーターソン国際経済研究所
シニアフェロー

1956年、アメリカはイギリスに対して「スエズ運河から撤退しない限り、金融支援を停止する」と迫り、イギリスはこれに屈して兵を引いた。ここにイギリスの覇権は完全に潰えた。当時のイギリス首相で「最後の、屈辱的な局面」の指揮をとったハロルド・マクミランは後に、「200年もすれば、あの時、われわれがどう感じたかをアメリカも思い知ることになるだろう」と語った。その日が、近い将来やってくるかもしれない。スエズ危機当時のイギリスは交渉上非常に弱い立場にあった。債務を抱え込み、経済が弱体化していただけでなく、そこに新たな経済パワーが台頭していた。現在のアメリカも同じだ。米経済は構造的な弱点を抱え込み、目に余る借金体質ゆえに外国からのファイナンスに依存せざるを得ない状況にあり、成長の見込みは乏しい。そして、侮れない経済ライバルも台頭している。マクミランが予測したよりも早く、そして現在人々が考えるよりも早く、アメリカは覇権の衰退という現実に直面することになるだろう。

パリとベルリンの経済官僚たちは、「この10年にわたって、周辺国は生産性が伸びていないにも関わらず、賃金レベルを引き上げたのが間違いだった」と批判するが、考えるべきは、周辺国がその資金をどこから調達したかだ。資金の出所はフランスとドイツの銀行だ。つまり、(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル)などの周辺国の一つでも債務を履行できなくなれば、危機はEUの主要国へと瞬く間に広がりをみせていく。そして、ヨーロッパの危機はMMFとCDSのエクスポージャーによって、アメリカの銀行にも非常に深刻なダメージを与え、ヨーロッパとアメリカのリセッションはますます深刻になる。ここで、中国は何をするだろうか。のどから手が出るほど欲しがっているあらゆる技術、宇宙工学技術、金融資産をヨーロッパから非常に安い価格で入手するかもしれない。中国が台頭し支配的な影響力を持つようになるのが間近なのか、遠い将来なのかはともかく、欧米はグローバルな金融システムを、自分たちにダメージを与え、中国を大きく利することになる装置へと変貌させてしまっている。

貿易財部門の空洞化は避けられない
―― 雇用なき成長への対策はあるか

2011年7月号

マイケル・スペンス 米外交問題評議会特別客員フェロー

新興市場国が付加価値連鎖の階段を上っていくにつれて、先進諸国の貿易財部門が国内で必要とする労働力は小さくなり、この部門の労働集約型雇用は新興国へと流出していく。事実、米国内での貿易財部門の雇用はほとんど伸びていない。貿易財部門の高付加価値領域における雇用機会と所得レベルは高いが、ローアーエンドへと向かうにつれて、雇用機会も所得レベルも低下している。しかも、アメリカの場合、新規雇用のほとんどが、賃金がほとんど上昇していない非貿易財部門でしか創出されていないために、所得分配の不均衡(所得格差)はさらに顕著になっている。「経済が成長すれば雇用も増大する」と考えられてきたし、実際、これまではその通りだったが、いまや、グローバル経済の構造的進化とそれが国民経済に与える影響によって、経済成長と雇用創出は連動しなくなった。将来に向けた技術・インフラ投資、教育や税制の改革を含む政策の見直しなど、経済の競争力と成長を回復するための長期的で多層的な政策を導入する必要がある。

The Clash of Ideas
ポスト・ワシントンコンセンサス
―― 危機後の展開

2011年4月号

ナンシー・バードサール グローバル開発センター会長
フランシス・フクヤマ スタンフォード大学国際研究センターシニアフェロー

2008―2009年の金融危機の結末とは、「うまく規制されていない国内市場と資本の自由化という組み合わせは、壊滅的な事態を招き入れる」という東アジア諸国が10年前に学んだ教訓を、ついにアメリカ人とイギリス人も学んだということにほかならない。危機によって、アメリカ流資本主義への信用が完全に失墜したとは言えない。だが、少なくとも支配的なモデルではなくなりつつある。「その他の台頭」と呼ばれる現象は、経済、政治領域における新興国のパワー拡大を意味するだけではない。思想とモデルをめぐるグローバルな競争にも、その影響が出ている。欧米世界、特にアメリカは、もはや社会政策上の革新的な思想をめぐる唯一の拠点とはみなされてはいない。アメリカ、ヨーロッパ、日本は今後も豊かな経済的資源とアイディアの集積地であり続けるだろうが、すでに新興市場国もこの領域でのライバルとして台頭してきており、今後その存在感をますます高めていくことになるだろう。

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